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「時代に抵抗しようという思いはある」無機質なビートと有機的な歌が合わさる新境地。3年ぶりのオリジナルアルバム『時間は止まりたがっている』を携えてLIVE TOURを開催! 植田真梨恵インタビュー

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植田真梨恵

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取材・文:エイミー野中

昨年はメジャーデビュー10周年を迎え、12カ月連続で精力的にライブを展開。その間に温めてきたアイデアを形にするべく制作期間に移行した2025年は5月から新曲「アストロフォーインダストリアル」、「田んぼ・トライアル・パチンコ屋」、「SAD VACATION」と3カ月連続でデジタル配信。さらに3年ぶりとなる待望のオリジナルアルバム『時間は止まりたがっている』が9月24日(水)にリリースされる。CDには新作誕生までの心境や制作秘話が記されたセルフライナーノーツが封入されている。9月には同作のリリースイベントが行われ、10月は愛知・Electric Lady Landを皮切りにLIVE TOUR 2025 [時間は止まりたがっている]がスタートする。今回のインタビューでは新作とツアーにフォーカスした質問をしていく中で植田真梨恵というアーティストの本質が浮き彫りに。10代から音楽活動を始めて30代となった現在、植田真梨恵はどのように自身の音楽と向き合っているのか? 10月に控えるツアーを前に彼女らしい言葉で語られるリアルな音楽観に触れてほしい。

今までやってこなかった領域に踏み込んで、
歌を主軸に置いたアルバムを作ってみたいと思っていた。

――昨年はメジャーデビュー10周年を迎えてライブの方に力を入れていらっしゃったということで。

はい、そうなんです。12カ月かけて12都市をまわるツアーを弾き語りとバンドとでお届けするような1年間でした。東名阪がバンドで、その他の会場は弾き語りでしたね。

――2025年は楽曲作りに集中してこられたんですか。

そうですね。独立してから(※2023年に個人事務所を設立)、早く新曲をお届けしたいなって、ずっと思ってたんですけど、去年はライブでバタバタしてしまって。ずっと頭の中で練っていたものを今年になって大急ぎで形にしたという感じです。5、6、7月と3カ月連続で先行シングルをリリースしたのですが、これに間に合うように曲を作って、レコーディングを進めて、映像も作って、みたいな感じで、毎回締め切りギリギリまで曲を作っていたので、実際にアルバムの曲をガッツリと作ったのは8月ですね。

――え、そうなんですね。(※このインタビューは9月2日に実施)ということは、ついこの前までやっていたんですね。

そうです。本当にもう集中して、8月20日頃を目指して起きてる間はずっと制作してましたね。CDというものが消えつつある中で、CDでリリースすることにしたので、手に取った方がうれしくなるような、なるべく充実したものにしたくて、ライナーノーツを封入しました。

――そのできたてほやほや(笑)の音源を聴かせていただきましたが、プライベートスタジオで録音されたような感触で、手作りの温かみが感じられる作品だなと。なぜそういう方向で制作しようと思ったのですか。

シンガーソングライターとして、ギター持って歌うスタイルで、10年前にメジャーデビューしたときから、いかにもスタジオミュージシャンっていう感じのバンドメンバーでライブをしていくのが、ちょっと嫌だったんですよね。なのであえてデビュー曲のアレンジをリハスタでメンバーと一緒に作ったり、ひとつのバンドとして、ひとつひとつのライブをお届けするようなイメージで10年やってきました。2023年に独立してからは、私が今までやってこなかった領域に踏み込んで、もうちょっと自由に色々なことを捉え直して、もっと整理して、歌を主軸に置いたアルバムにしたいって思ったんです。ロックバンド的な勢いを出す編曲ではなく、MTRに吹き込む段階から精査してデモを作って、編曲を進めていこうという気持ちで取り組みました。

――なるほど。

いざ、ライブで演奏するときに、編曲の中で歌に対してどの音が本当に必要なのか、もっと削ぎ落として必要最低限でやってみたいなと思いました。漠然とやってることへの捉え直しをやってみたかったのかなと思いますんですよ。私はやっぱり歌が好きで。新たに自分のレーベルを立ち上げて発信するとなった時、自己満足的なものにしたくないなと思いまして。どんなことが自己満足的じゃないのかって考えると、人の耳に届いた時に、なるべく面白い楽曲で楽しんでもらえる音楽にしたいなって強く思いました。

――それはご自身のルーツに立ち返ったということでもあるんですか?

今までも自分の好きな曲は書いてきましたし。大きな事務所にいるからこそなるべくプライベートのことを曲にしようと心がけていたんですけど、今回、自主レーベルから発信するとなると、むしろなるべく大きく世界を見て作りたいなっていう感覚になったんです。ルーツと言えば歌が真ん中にある。その歌謡性とかそういうところかもしれないですね。

――その歌を際立たせるために、できるだけトラックに入る音を削ぎ落としていったんですね。

そういうつもりでした。絶対に鳴ってなきゃいけない音だけ鳴らすようなイメージで編曲をしていたので。

――その歌というのは、歌詞も含めてですよね。

そうですね。特に今回は全曲デジタルビートの曲ですが、MTRに向かって吹き込んでいる上物に関しては、なるべく人間らしさが残るように、歌に関しても音程のピッチとかタイミングを直さないで収録することを大事にしていて。ちょっと下手なところももちろんあるんですけど、それが残るからいいのかなと思います。

――今の世の中的にはそういう風に作られる歌の方が少ないと思いますし、時代に抵抗しようみたいな思いもあったのですか?

時代に抵抗しようという思いはかなりあるタイプなんだろうなって最近思います。

――そういう植田さんの思いは今作の『時間は止まりたがっている』というタイトルにも現れてますね。このタイトルはどの段階で思いついたのですか。

これは、1年ぐらいずっと考えてて、(昨年の)ツアー中も考えてて。いつの間にか心にあった言葉で。5曲目の「恥ずかしい」というトラックが入るアルバムを作ろうと思い立った時からずっと考えてて、『時間は止まりたがっている』というタイトルに向かって作った部分もあります。

植田真梨恵

――「恥ずかしい」という曲はMVもすごく印象的です。この曲は植田さんにとってどんな曲になりましたか。

やっぱり曲を作っていく上で自分の癖とか、ついついやりがちなやり方で作ることが増えてたので、なるべくそういうのは1回取っ払って、どんな曲が新しく書けるかなって思いながら作った曲なんです。『LAZWARD PIANO』っていうピアノ編成のライブをやってるんですが、2022年のツアーが教会でのライブだったので、教会でピアノ1本で歌うべき曲を、私なりのブルースを歌ってみようと思って書いた曲が「恥ずかしい」なんですよね。

――人間って恥ずかしい部分って隠しがちで、あまり見せたくないですよね。でも、そういう部分もさらけ出すような思いで書いたんですか。

教会っていう場所は懺悔をする場所であり、結婚式とか永遠を誓う場所なので、“永遠とは”っていうところを書きたいなと思って書き始めたら、「恥ずかしい」になってました。

――ということは、最初のテーマは“永遠とは”だったと。

はい、仮タイトルは“永遠とは”でしたね。

――この曲の歌詞は、植田さんのすごくリアルな思いをさらけ出してるような印象を受けます。

どうでしょうね。さらけ出せているかというと、全然まだまだカッコつけてしまってるんでは……とも思いますけどね。昔から脈々と続く人間の営みの中で、いろんな決められた様式とか、当たり前のようにそう思って過ごしていることがいっぱいあるから。そういうことを捉え直すような感じで書いたんですよね。なので、そういう姿勢みたいな、目標みたいなのが、このアルバム全体に通底するテーマなのかなと。

――例えば家族とか夫婦といった枠組みとかを捉え直すということ?

そうですね、結婚とか永遠とか当たり前のように聞く言葉だけど、そういうところですよね。

――このアルバムには今の時間の流れや時代の風潮に対する植田さんなりの抵抗が詰まっているとも言えますか?

そうかもしれないですね。うん、抵抗かもしれないですね。

――今の世の中はタイパ重視で、どんどん加速してますよね。そんな時代の流れに対する抵抗であり、AIが進化して人間の仕事を奪っていってしまうことへの抵抗かもしれないし。そのへんも意識してましたか?

そうですね、やっぱり一生懸命良いもの作ろうと思っていると、真面目になりすぎちゃったり、精密に整えすぎちゃったりして、それをやってるうちに何を目指してたんだっけ……?ってなるのが私は怖くて。歌は流れるものなので、そんなに精密なものでもなければ、音の波形を見ながら聴くわけでもないので、なるべく耳で聴いて、心で感じてみたいな。なんとなく頭に浮かぶな、なんかわかるな、みたいな、そういう感覚的なものを大事にしたいなって。そう思いながら作ってました。

――人間が体で感じることを大切にしたと?

そうです。緻密になればなるほど、機械的でAIにもできるようなものになっていってしまうし、逆に言うと、私たちの生きるタイム感で、呼吸で吹き込んだ歌っていうのは、多分AIには真似しづらいし。人間同士の歌っていうものを作りたくて、そういうものがあってもいいのかなと思いながら、真面目になりすぎないようにと選択していきました。弱々しくて、恥ずかしくて、もろくて、そんな曲でいいのかなと思って作ったんです。

――それが人間味があるということなんですかね。

と思います。このアルバムを作りながら、人間の力でエネルギッシュに音楽を作っていきたいなと思っていました。

“寄り添う”歌じゃなくても、私の歌を聴いて
何か見つけてもらえるならいいなと思います

――よく耳にするような、“聴き手に寄り添う”歌も必要だと思いますが、今回の植田さんの作品を聴いて、“寄り添う”というのとはまた違うなと思って。植田真梨恵さんの音楽、歌の中に入っていって、その中で共感するものとかシンクロすることがあるかもしれないし、それを聴く人が見つけるような作品だなと思いました。

ありがとうございます。素敵だと思います。うん、それを願ってるかもしれないですね。やっぱり意識と無意識の中でわかんない部分が自分にも多分あるんですけど、30代になって、なるべく自分のために生きなきゃなって思う部分が最近けっこうあって、自分の心が喜ぶことをしようって思ってるんですけど、ついつい人を喜ばすようなことを言おうとしてしまったりするので、そういうのやめようと思ってて。ひとつひとつの生活みたいなものが、自分の人生っていう枠組みの中で、ようやく自分に馴染んできたというか、やっと自分でコントロールして生活をできるようになってきてる気がしてるんです。日々どんな風に過ごすかとか、何を買って何を買わずにいるかとか、やっとわかるようになってきたんですよ。自分が本当に好きなものとか、今まではあんまりわかってなかったのかもなって……。

――そうなんですね。

とはいえ、今でも行き場のなさみたいなものはあって。音楽好きな人たちの中にも行き場の無さが、もしかしたらあるのかなって。そういう意味では、“寄り添う”じゃなくて、私の歌を聴いて、何かを見つけてもらえるならいいなと思います。

――歌詞に関しては、一貫したテーマはありましたか。

歌詞はもう正直、書いてみないと何が出るかわかんないなっていうところがありまして。「恥ずかしい」に関しては、歌詞から書いたんですけど、その他の曲は、メロディーと一緒になって出てくる歌詞が多かったので。でも、どちらかというと楽しい曲はないですね。

――個人的に「百獣の王」(M-8)にドキッとさせられました。曲調とは裏腹に凶暴なところもあり、本能的な欲望を描写してるようで。なぜこの曲を書こうと思ったのですか。

これはゲームの曲としてご依頼を受けて作った曲で、カニバリズムがテーマでした。ちょっと残酷なイメージだったんですけど、どうやってそれを書こうかなと思って。頭に浮かんだのがライオンでした。このアルバムではこの曲と「Lady Frappuccino,」(M-6)がお題を元に書いた曲ではありますが。「Lady Frappuccino,」にしても自分の好きに書いてる部分も大きいので。(全体のテーマとしては)“時間は止まりたがっている”っていうのは念頭にあったと思うんですけど。行き場がなかったりする歌詞が多いですね。

――行き場がない歌詞というのは?

やっぱり私は悲しい歌が好きなんですよね。で、悲しいけど面白い曲が好きなんです(笑)。なので、この曲も歌詞に関しては特に自分の好きに書いているかもしれないですね。

――なぜ悲しい歌が好きなのですか。

心に残るからかな……、なんででしょうね。その悲しさみたいなのをユーモラスに書いてる曲とかもすごい感動しますけど、やっぱ悲しいですよね、歌って。ただの好みと思いますけど……。

――そういう悲しい感情を歌にして昇華したいんですかね。悲しい気持ちに蓋をしたりするんではなくて。悲しい気持ちを露わにして触れてもらえるように。

うん、だって生きてたら、みんな悲しいですよね。生きてくのは大変だからね。でも歌は3、4分で終わるものなんでね。悲しいこと歌ってても終わりますから。

――余韻は残りますよね、その余韻に浸りたい時もありますし。

そうですね。それをいかに楽しく歌えるかなって思いながら書いてましたね。

――そんなアルバム『時間は止まりたがっている』が完成して、今作は植田さんにとってはどんな作品になりましたか。

私、歌手になりたかったんで。ちっちゃい時から夢だった歌手像みたいな人が歌う、その歌を大切に作った2025年なりの懐かしい1枚になってると思います。私の個人的なこととしては、音楽に対して、歌に対して、世の中に対して、時代観に対して、ファッションに対しても捉え直しと思って作ったものです。なので、最近好きな曲が無いなっていう方にこそ、聴いてみてほしいアルバムだなって思います。

植田真梨恵

メンバー一新したバンドと一緒にツアーへ
手作りの時計を持って

――そして、このアルバムを携えてツアーが始まります。

今回はドラム、ベース、ピアノ、ギターの4人と私で、バンドメンバーも一新してまわります。これまでメジャーデビューの時から割と変わらずに固定のメンバーで来たんですけれど。アルバムの楽曲は雰囲気も変わるので、バンドもあえてちょっと新たな感じにしてみようかなと思って。今回は愛知のElectric Lady Landというライブハウスから始めて、2つ目は福岡・久留米シティプラザ久留米座という歌舞伎座みたいな作りのホールで商店街の中にあるんです。3つ目は東京・恵比寿 LIQUIDROOMでまたライブハウスですね。そして、4つ目が大阪の新しくできたBrillia HALL 箕面小ホールです。

――ステージセットなどはどのように?

(CDのジャケットにも写っている)時計は持っていきます。ハンドメイドシンガーソングライターでもあるので(笑)、毎回自作のセットなんですけど、今回の時計は今までで1番大きいとは思います。直径180センチぐらいあるんで折り畳み式になってます。

――それをDIYで植田さんが作られたんですね。

そうなんです。ベニヤ板を自分で切って塗って、時計の針はベルトなんですよ。そういうのを作るのが好きなので、それを持って行きます。

――『時間は止まりたがっている』の曲たちをライブでどんなふうに聴かせてくれるのか、楽しみですね。

それぞれ会場の雰囲気も違いますし、その会場ごとの、その日にしか出せない雰囲気が4つの夜、それぞれにあると思います。アップテンポの曲はこうしなきゃとかライブの楽しみ方を決め込まずに、ぜひ自由に音楽に身を委ねて楽しんでもらえたらうれしいです。

植田真梨恵

<公演情報>
植田真梨恵 LIVE TOUR 2025[時間は止まりたがっている]
愛知公演:10月19日(日) エレクトリック・レディ・ランド
福岡公演:10月25日(土) 久留米シティプラザ 久留米座
東京公演:10月30日(木) LIQUIDROOM
大阪公演:11月1日(土) 東京建物 Brillia HALL 箕面 小ホール

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2532085

公式サイト:
https://uedamarie.net/