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中国映画の“今”を届ける!ディレクター徐昊辰が見据える現代中国映画祭の未来

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「現代中国映画祭2024」メインビジュアル

日本映画を中国に届け、中国映画を日本に届ける──そんな活動をしているのが中国人ジャーナリスト・徐昊辰だ。上海国際映画祭のプログラマーとして6年間、日本映画の“今”を中国に紹介してきた彼は、中国映画の“今”を日本に届けるべく、2024年に現代中国映画祭を立ち上げた。きっかけの1つは「日本では中国映画のイメージが昔のまま止まっている」と感じたことだったという。

映画ナタリーでは、長年アジアの映画交流に尽力してきた彼に前後編にわたってインタビューを実施。前編では今年の上海国際映画祭について、また今回の後編では現代中国映画祭の手応えや今後の展望を語ってもらった。さらに、去年、そして今年の中国映画市場についても話を聞いている。

中華エンタメを知る Vol. 2(前編)はこちら

取材・文 / 金子恭未子

徐昊辰(じょこうしん)

1988年中国・上海生まれ。2008年から中国の映画雑誌「看电影」などで、日本映画の批評と産業分析を発表。上海国際映画祭の日本映画プログラマーや日本映画プロフェッショナル大賞選考委員のほか、Web番組「活弁シネマ倶楽部」の企画・プロデュースも担当している。2024年には自身が企画した「現代中国映画祭」を初開催した。Weiboのフォロワー数は約270万人。

日本に初めて来たとき、もっといろいろ知りたいと思った

──徐さんはジャーナリストとして活動されているほか、映画配給なども手がけていますが、どんな映画を観て育ったのでしょうか?

映画好きの父の影響を受けて、子供の頃からいろいろな映画を観てきました。「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」で映画の面白さに目覚めて、「スピード」や「タイタニック」も劇場で観ました。

ただ、私が子供の頃は中国の経済がまだまだ発展していない状況で、生きるのに精いっぱいとまではいかないけれど、少しずつみんなの生活に余裕が出てきた時期。地方都市では映画を観るということがぜいたくの1つで、海外の映画が上映される機会も少なかったんです。おそらく当時中国で上映される洋画は年間10本ぐらいしかなかった。だから私世代の人は、海賊版で海外の作品に触れていました。

その後、2000年前後ぐらいからは、中国で公開される洋画の数も倍ぐらいになりました。「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」の中国プレミアにも参加しましたし、上海で「M:i:III」のロケをやっていて、大盛り上がりしていたことを鮮明に覚えています。こんなところでトム・クルーズが撮影するんだと(笑)。

──日本の作品に興味を持ったのは、いつ頃だったんでしょうか?

アニメを中心に日本の作品には子供の頃から触れていました。当時は中国産のアニメが少なかったこともあり、今では考えられないぐらいたくさんの日本のアニメ、例えば「聖闘士星矢」や「北斗の拳」が中国のテレビで放送されていて。「SLAM DUNK」には中国の若者も熱狂していました。

そこから日本の映画にも興味を持ち始めて、最初は新作を観ていたんですが、徐々に旧作も観るようになっていきました。記憶があいまいなんですが、確か海賊版ショップのオーナーに「この日本映画すごいですよ!」と小津安二郎の作品を薦められたことがきっかけだったと思います。2003年は小津監督の生誕100周年記念の年で、海賊版が中国にも流れてきていたんです。そこで初めて、The日本映画的なものに触れました。モノクロ映画にとても興味を持ちましたし、映画の中にある東洋的な部分にも惹かれたんです。そこから学校の休みを使ってたくさん作品を観るようになりました。

──その後、日本に留学されましたが、それは日本映画やアニメに惹かれたことが理由だったんでしょうか?

それもあるんですが、2007年に初めて日本に来たときにとても充実感があって、もっといろいろ知りたいと思ったことが理由です。欧米に行くか日本に行くか迷っていましたが、東アジアの国にはやっぱり親近感が湧くので、日本に留学しようと。

──その時点で、将来は映画関係の仕事をしたいと考えていたんですか?

いや、それは全然。中国人はみんなすごく現実主義者なので、あまり夢を持つことってないんです。映画は私にとって趣味で、最初は理系に進む予定でした。でも二転三転して映画の仕事をすることになったんです。

──きっかけは?

日本に来たあと、日本映画の新作を観て、勝手にネットで批評というか感想を書いていたんです。そしたら中国のキネマ旬報みたいな雑誌「看电影(Movie View)」から「日本映画の新作について書いてみませんか?」と声が掛かった。それが2008年のこと。その年は日本映画が豊作の年で、是枝裕和監督の「歩いても 歩いても」も、黒沢清監督の「トウキョウソナタ」も、滝田洋二郎監督の「おくりびと」も劇場で観ました。橋口亮輔監督の「ぐるりのこと。」にもかなり衝撃を受けた。「崖の上のポニョ」が公開されたのも2008年で、あの作品が私にとって初めて劇場で観たジブリ作品になりました。

今では違いますが、当時は中国における日本の新作映画の批評や星取レビューは極めて少なかったんです。もちろん私以外にも中国から日本に来ている留学生はいましたが、多くは生活費を稼ぐためのバイトに精いっぱいで、映画を観る余裕なんてなかった。私もそうだったんですが、どうしても新作映画が観たかったんです。今読むと恥ずかしいんですが、そうやって観た作品の批評みたいなものが仕事につながっていきました。あの頃は雑誌の全盛期で、看电影は月に3冊ぐらい出していたはずですね。

──本業にしようと思ったのはいつ頃だったんですか?

大学に入ってからですね。立命館大学の産業社会学部メディア専攻に入って、映画とは直接つながりはなかったんですが、メディア専攻なので、映画と近い部分があった。そこから本格的に仕事として映画業界で何ができるか少しずつ考え始めました。

2010年からは、東京国際映画祭の取材も頼まれるようになって、日本の監督をインタビューするようになったんです。Weiboを運営している新浪さんと組んで、毎年10人ぐらいに話を聞いていました。それで、当日の夜長文のインタビュー記事を作って、次の日に出す。今では信じられないです(笑)。

──翌日出しですか!? 寝る暇もないですよね。

ないですね。もうどうやっていたか覚えていない(笑)。ただ東京国際映画祭とのつながりもできましたし、日本の監督たちともそこで知り合うことができた。そうやって映画業界の面白さを知っていくうちに、仕事にしてもいいかなと思い始めました。就職活動では映画とは無関係の企業もたくさん受けましたが、結局、映画ジャーナリストとして仕事ができるようになった感じです。

日本では中国映画のイメージが昔のまま止まっている

──徐さんは去年、現代中国映画祭を立ち上げられました。

これまで十数年間、日本に住んで、日本映画を中国に紹介する仕事をしてきたので、作品が国境を越える面白さを感じてきました。だからアジアでどんな交流を生むことができるかということはずっと考えてきたんです。

そんな中で、日本では中国映画のイメージが昔のまま止まっていると感じていました。この10年間に中国ではさまざまなことが起こっていて、そのときどきで映画作家がその時代を反映させた作品を作ってきた。でも、日本で紹介されるのはジャ・ジャンクー(賈樟柯)やロウ・イエ(婁燁)など一部の作家の作品だけ。特に近年は中国映画が日本であまり上映されなかったこともあって、中国映画の全体像が日本に届いていなかったように思うんです。これは中国映画だけではなく、ほかの国の映画も日本では同じような状況にあると感じています。

私は、その1つの理由が、日本の映画宣伝の方法にあると考えているんです。日本では、評論家が作品を深掘りしたり、パンフレットを丁寧に作ったり、ほかの国では考えられないほど1本1本、ものすごくリスペクトして宣伝している。だから日本の映画宣伝はミクロな視点は完璧に近いんです。ただ映画を紹介するうえでは、マクロ的視点も重要。映画には1本1本それぞれの魅力があると同時に、時代性や地域性というものがある。映画祭で賞を受賞した作品や有名作家の作品を中心に紹介するだけだと、そういったものは届かないんです。

──確かに有名な作家や俳優が出演しているなどのフックがないと、なかなか観たい中国映画の配給が付かず、一ファンとして悔しい思いをした経験が多々あります。

やっぱり一般公開のハードルは高いんですよね。また、日本では映画会社が権利を獲得しても、一般公開のためにあえて映画祭に出品しないという作品も多いので、本国公開と同じ年に観られない場合もある。1年後に封切られると、どうしても時代性がズレてしまいますし、同じ年に公開された映画との比較もできなくなってしまうんです。そうなると1本1本の分析になってしまって、すごくもったいない。

私は上海国際映画祭のプログラマーとして日本映画のセレクトを担当しているんですが、例えば濱口竜介監督や三宅唱監督など注目の映画作家の作品を1本1本紹介するとともに、同じ年に日本で大ヒットした作品も一緒に紹介するようにしているんです。そうすることで、日本映画の全体像をお客さんに伝えることができますし、そこからまた新しい作家を観客が知ることができる。

去年を例に挙げると、キネマ旬報のベスト10のうち8本は去年のうちに中国で上映されています。だから中国の映画関係者やジャーナリストと話すと、みんな“今の日本映画”についてなんだかんだ語ることができる。逆に日本では中国映画はそういった状況にないんです。

お客さんも、中国の場合は海外の映画を観ることにとても積極的です。特に日本と韓国の作品に関してはハリウッドの次に興味を持っている。だから日本の新作を知るために日本のニュースサイトを日々チェックしている人もいるんです。日本語がわかる人が記事を翻訳して、中国のSNSで話題になった作品が、映画祭の上映作に選ばれるという循環もできています。日本でも中国映画を取り巻く環境がそれに近いものになっていけばと思っているんです。

──そういったことが、現代中国映画祭を立ち上げるきっかけの1つになったんですね。

そうですね。この10年間の中国映画業界はものすごく激変しているので、そこでいったい何が起こっているのかをもっと系統的に紹介する場があればいいと思って企画したんです。ビジネス的に日本で一般配給するハードルはすごく高いので、映画祭という形にしようと。

──初回から充実の15本がラインナップに並びました。

いろいろと経緯があるんですが、まず日本で紹介される機会が少なかったチュウ・ジョンジョン(邱炯炯)監督のミニ特集をやろうと決めました。彼が手がけた「椒麻堂会」を観たとき、ここ10年で1、2位を争うぐらいのインパクトを受けたんです。でも残念ながら日本では上映される機会がなかった。どうにか紹介できないかと思って、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭に相談したら2023年に上映することができたんです。

平日の午前中にもかかわらず100名以上のお客さんが来てくれて大盛況だった。そのときにやっぱり、こういう中国映画を観たいお客さんが日本にもいるんだと思ったんです。だから現代中国映画祭でチュウ・ジョンジョン監督の作品をまとめて紹介することにしました。

そして、やはりマクロ視点で中国映画を語ることも大切。だからこの10年間の新人監督の作品をまとめて紹介するChinese New Wave部門も作ることにしたんです。海外の映画祭で評価された作品や、中国国内で社会的反響を呼んだ作品を選びました。

そのほか、中国の一般のお客さんがどんなものを好んで観ているかを感じてもらえるよう、大衆向けの作品を紹介するChinese Now Hits部門も作りました。作家主義的な部門、新人監督を紹介する部門、メジャー作品を紹介する部門の3つでかなり、充実したものになるなと。

──実際はさらにPlay Back部門も追加されていますね。

そうなんです。長くお付き合いしているPlay Backさんから、今活躍している中国の映画監督の作品をもっと日本の観客に紹介したいという話があって、Play Back部門も追加しました。だから初回なのにまさかの15本というボリュームになったんです。

現代中国映画祭2024 ラインナップ

Director in Deep Focus部門:鬼才 チュウ・ジョンジョン 傑作セレクション

  • マダム / 姑奶奶
  • 椒麻堂会

Chinese Now Hits部門

  • 無名(監督:チェン・アル)
  • 家出の決意 / 出走的決心(監督:イン・リーチュエン)※インターナショナルプレミア / 日本初上映
  • いいひと / #保你平安(監督:ダー・ポン)※日本初上映

Chinese New Wave部門

  • 彼女 / 寻她(監督:チン・シジョン)※日本初上映
  • 鉄西区に生きる / 逍遥・游(監督:リャン・ミン)※日本初上映
  • 失った時間 / 人海同遊(監督:ツァイ・ジエ)

「Play Back」Selection部門

  • アートカレッジ1994 / 艺术学院(監督:リウ・ジエン)
  • 船に乗って逝く / 乘船而去(監督:チェン・シャオユー)
  • 永安鎮の物語集 / 永安鎮故事集(監督:ウェイ・シュージュン)
  • 春江水暖~しゅんこうすいだん(監督:グー・シャオガン)
  • 郊外の鳥たち / 郊区的鸟(監督:チウ・ション)
  • 宇宙探索編集部 / 宇宙探索编辑部(監督:コン・ダーシャン)

多方面に中国映画を紹介していく映画祭にしていきたい

──上映だけでなく、トークイベントも充実の内容でした。

この10年間、中国の映画界で何か起こっているのかを日本の皆さんと共有したかったんです。だから、冒頭解説や舞台挨拶に積極的に登壇しました。

日本の方はおそらくマスコミを通して今の中国や中国社会の変化に触れることが多いと思うんですが、映画はマスコミとはまた違った視点で中国を切り取っている。例えば「家出の決意」(原題「出走的決心」)は一般庶民の目線から中国の社会問題を捉えています。

今回映画祭を通して、日本の観客の皆さんは中国の庶民がどんなことに悩んでいるのか、興味を持ってくれているんだなと感じました。だから、映画を通して、もっと中国を知ってもらう機会を作るべきだし、もっと早く映画祭をやるべきだったなと感じましたね。時期的には東京フィルメックスとちょっと被っていたので集客が難しい部分もありましたが、あちらでは第6世代のジャ・ジャンクーやロウ・イエの新作をやっていて、こちらでは中国映画の全貌を体験していただけた。本当にたくさんのお客さんが来てくれて、とても満足でした。

──すでに2回目、3回目に向けて動き出していると聞いています。今後、どんな映画祭に育てていきたいですか?

日本はアジアの中でもとても早い時期から映画というものが浸透していて、幅広い世代の皆さんが映画を楽しんでいる国。中国映画に関しても、40代以上の方の中にはチャン・イーモウ(張芸謀)やチェン・カイコー(陳凱歌)といった中国映画の第5世代の作品に触れてきたという方も少なくないと思うんです。だから、新しい世代の中国映画にも面白いものがたくさんあるということを映画祭を通して紹介していきたいと思っているんです。愛国映画も多いですが、それ以外の良作も中国では毎年たくさん作られています。

また近年、中国ドラマの人気が日本で非常に高くなってきていますよね。それはWOWOWさんなどの放送局や、各配信プラットフォームの努力のたまものだと思うんです。中国ドラマの人気の高まりによって、中国文化に興味を持ってくれる人も増えた。だからドラマ同様、中国は映画も良作がたくさんあると伝えていきたいなと。今後は東京、大阪以外の都市でも開催できるようがんばっていきたいです。

中国映画の注目度が上がったのは中国ドラマの人気上昇が理由

──映画ナタリーでニュースを配信していると、近年中国映画の記事がアクセスランキングで上位になることもあって、注目度が上がってきていると感じます。

それは私も実感しますね。でも日本でここ5年ぐらいの間にヒットしたと言える中国映画は、トニー・レオン(梁朝偉)とワン・イーボー(王一博)が共演した「無名」ぐらいだと思うんです。そう考えると、中国映画の注目度が上がっているのも、やっぱり中国ドラマの人気上昇が理由の1つにあると思います。ドラマの影響で、中国スターのファンがこの5年ぐらいで一気に10倍ぐらい増えた。そこから映画もチェックする流れができたと思います。実際、去年の東京国際映画祭のために、チャオ・リーイン(趙麗穎)や、イー・ヤンチェンシー(易烊千璽)、ホアン・シャオミン(黄暁明)が来日してとても盛り上がりましたが、それはやっぱりドラマ人気の影響もあると思います。

──それにしても来日ゲストが本当に豪華でした。

東京国際映画祭は中国の映画人にとって特別な思い入れがある映画祭なんです。いわゆる世界三大映画祭に次いで重要な映画祭として評価されている。それは、ベルリンやカンヌ、ヴェネツィアが欧米視点、もしくはグローバル視点で作品を選ぶことが多いことに比べて、東京国際映画祭が東洋寄りな部分があるからです。西洋ではそこまで話題にならない作品も、アジアで上映されれば、観客の心を揺さぶる場合がある。そういった意味で、中国の映画業界から見ても、東京国際映画祭は自分たちの作品のワールドプレミアをする場所としてとてもいい場所だと認識しているんです。実際、昨年は中華圏の映画が5本もコンペに入選した。これはすごいことです。

日本に住んでいる中国人がチケット争奪戦に積極的に参加したこともあって、日本のお客さんがチケットを取りづらいという状況もありましたが、とはいえ、やはりああいう熱量は映画祭に必要なものだと思います。

──本当にすごい熱気で、「小さな私」の舞台挨拶後は、劇場前が人で埋め尽くされていました。イー・ヤンチェンシーの来日なので、もっと警備を増やしたほうがいいのではないかと余計な心配をしてしまうほどで。

やっぱりまだ中国のスターが知られていないということなんですよね。トム・クルーズだったらああいう警備にはならないじゃないですか。だからもっとお互いの国のスターをお互いが知っているような状況を作っていけたらと思っているんです。それは日中だけじゃなく、ほかの国も巻き込んでやっていけたらなと。

十数年間、私が映画業界で働いてきて一番感じるのは、アジアの映画人同士の交流が少ないということなんですよね。アジアは昔から多くの名作映画を生み出してきて、世界からリスペクトされている監督もとても多いんですが、相互のコミュニケーションが足りていない。

ヨーロッパはそれぞれの国がローカルな作品を作りつつも、一緒に映画を作ることがもう当たり前になっている。一方、アジアは共同制作の作品が徐々に増えているものの、まだまだ全然交流は足りていない。だから文化交流の力になるような取り組みを、自分ができる範囲で今後もやっていきたいなと考えています。

「ナタ 魔童の大暴れ」は映画というジャンルを超えたものになった

──最後に昨年、また今年の中国映画市場についても少しお伺いしたいです。

去年はほとんどマイナスのニュースしかなかったですね(笑)。一番ヒットしたのは、旧正月に公開された「百円の恋」の中国リメイク作「YOLO 百元の恋」で、私のところにまで「何かリメイクできる日本の作品はないか?」と連絡が来た。日中交流の可能性を感じたのはいいことでした。

ただそのほかヒットしたのは「抓娃娃(じゅあわわ)-後継者養成計画-」ぐらい。「百元の恋」も興行収入は日本円で700億円を超えていますが、監督・主演のジャー・リン(賈玲)さんの前作「こんにちは、私のお母さん」の興収は50億元、日本円で1000億円を超えていましたから、ちょっと物足りない数字だったと思います。

実際データで見ると去年の興行収入は一昨年と比べると2割減だったので、かなり深刻な状況だなと。中でも特に厳しいのは洋画の興収ですね。ハリウッド映画に全然お客さんが入らない。中国国内でどんどんヒット作を生み出してもハリウッド映画の不振を補填するのはやっぱり難しいんです。

そんな中で、日本映画は大健闘でした。すべてアニメではありましたが、1億元を超えた映画が7本もあった。日本のアニメは中国でもハリウッドに次ぐブランド力を持っています。ただ、洋画の不調を埋めるようなところまではきていない。洋画の不振が響いて中国映画市場もよくない状況で、さらに中国の経済成長も少し止まっていたので、みんな映画業界の今後について悲観的になっていました。でも、今年の「ナタ2(ナタ 魔童の大暴れ)」の大ヒットでちょっと状況がわからなくなったんです。

──とんでもない興収を積み上げています。

150億元(約3000億円)を突破して、ちょっと恐ろしい状況ですね(笑)。2024年の日本映画市場の年間興行収入が約2069億円ですから、「ナタ2」1本だけでそれを超えてしまっている。もうここまでのヒットになると、映画というジャンルをはるかに超えたものになっていると思います。

これは「ナタ1(ナタ転生)」がヒットした際に、中国アニメへの信頼度が高まって、アニメは大人も観るもの、と意識が変わったことが原因の1つだと思います。それまではアニメに抵抗がある人もいました。また中国のCGレベルが世界トップレベルまで成長したことも要因の1つ。だから今後、中国ではアニメ映画がどんどん増えていくと思います。実際、「ナタ2」は技術面だけではなく、物語やテーマ性も本当に素晴らしく、個人的に今年必見の1本だと思っています。

ただ1つ不安な要素もあって、そもそも「ナタ2」は80億元ぐらいまでは興収を伸ばすだろうと予想されていた作品なんです。出来もいいですし、旧正月映画はそのほかにライバルが「唐探1900」ぐらいしかなかった。だから、かなりお客さんも入るだろうなと。

ところが、実際は予想をはるかに超えて150億元まで伸びた。これは実は「アメリカ映画の興収を超えようぜ!」といった、違う要素が加わったからなんです。まず全米歴代興収記録を持つ「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」を超えようという流れになって、すぐにバーっと超えて。そして世界興収ベストを狙っていこうという話になった。これは今の中国社会を反映するような出来事とも言えると思います。

映画の興行収入どうこうより「アメリカを超えようぜ!」みたいな雰囲気で、かなり変な状況。中国国内でも批判的な声が上がっているんです。とはいえ「ナタ2」が興収全体の何%を占めるのか、そしてそれがどう中国で評価されるか? 結論が出るのは、まだ先のことです。

ただ現時点では、「ナタ2」がなければ今年の中国映画市場は決していい状況ではないと言えると思います。ほかの国と変わらず映画市場に元気がない。どうやって観客を映画館に呼び戻すかが課題です。中国の人は映画を観ることに、もう飽きちゃっている。だから、映画を観るという行為以外に、観客が楽しめるものがないと中国の映画市場はうまくやっていけないのではないかと思います。そういう意味では日本の映画会社はとても上手。何十年も前から入場者特典を始めている。この体験型の映画鑑賞が今でも効果を発揮しているのはすごいことです。

──飽きているというのは、映画鑑賞が一時的な流行りのようなものだったんでしょうか?

そうです。中国の映画文化は若いんですよ。僕はいつも言っているんですが、中国では「スター・ウォーズ」はヒットしないんです。2008年、2009年から映画市場が成長を始めたので、みんな「スター・ウォーズ」をリアルタイムで体験していないんです。これまでヒットしたハリウッド映画はマーベルだけ。

映画鑑賞というものを新鮮に思う感覚が十何年続いていたんですが、それがコロナで壊されてしまった。実は配信プラットフォームの台頭は中国では大きな影響はないんです。もともと海賊版で観るという文化があったからあまり関係ない。映画鑑賞そのものに飽きてしまって、今は体験型のエンタテインメントに気持ちが向いているんだと思います。

──なるほど。

中国はやっぱり変化が早くて激しいんですよね。日本のように毎年「ドラえもん」の映画をやって、興行収入もしっかりあるというような状況を中国で作るのは極めて難しい。

例えば映画祭ではそのとき、その瞬間でしか体験できないという魅力を提供できますが、一般公開の映画ではそういったものを観客に提供するのはハードルが高い。それをどう作っていくかが中国映画市場の大きな課題だと思います。