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昆夏美×星風まどか、ふたりのマリーが新たな光を放つ ミュージカル『マリー・キュリー』再演が開幕

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ミュージカル『マリー・キュリー』開幕会見より、前列左から)松下優也、昆夏美、星風まどか、葛山信吾 後列左から)鈴木裕美(演出)、水田航生、鈴木瑛美子、石田ニコル、雷太 (撮影:田中亜紀)

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女性科学者のパイオニア的な存在といえる、マリー・キュリー。ミュージカル『マリー・キュリー』は彼女の姿を描き、2018年に韓国で初演、日本では鈴木裕美の演出により2023年に初演し大いに話題を呼んだ。そして2025年、新たなキャストを迎え再演。マリーは昆夏美・星風まどか、パートナーのピエールは松下優也と葛山信吾、友人アンヌには鈴木瑛美子と石田ニコル、ミステリアスな男・ルーベンは水田航生・雷太と、主要キャストはいずれもWキャストでそれぞれの個性が光る座組となった。10月25日の初日前に行われた囲み取材、そして25日の昆・松下・鈴木・水田、26日の星風・葛山・石田・雷太の2チームによるゲネプロの模様をレポートしよう。

史実と創作とが巧みに織り交ぜられて描かれるマリーの姿

19世紀末、マリーはロシアの支配下にあったポーランドからフランス・ソルボンヌ大学に進学。男だけの閉鎖的な世界であった研究の世界に、体当たりで切り込んでいく。そんな彼女にとって、フランスに向かう中で出会い友情を育むこととなったアンヌ、そしてソルボンヌで出会い公私共にパートナーとなった研究者のピエールのふたりはかけがえのない存在となった。ひたむきに研究に打ち込むなかで、新しい元素・ラジウムを発見。ノーベル賞を受賞するまでになるが、彼女の研究を支援していたルーベンが経営するラジウム工場では、工員たちが体調を崩し始め……。

マリー・キュリー=昆夏美

2組のゲネプロを観て、まさに演出・鈴木裕美の「Fact〈歴史的事実〉×Fiction〈虚構〉=ファクション・ミュージカル」「昆ちゃんたちのチームは野心的なキラキラした愛、アンビシャスバージョン。まどかちゃんたちのチームは調和やお互いを思いやる気持ちがより濃い、不器用で誠実な愛バージョン」という言葉通りであると感じた。歴史上の出来事や人物を題材とするフィクションを史実と創作とを織り交ぜて描き出すことは、よく見られる手法だ。そこをあえて“ファクション”と打ち出すのは、そのさじ加減が絶妙だからだろう。実在の人物であるマリーとピエールが史実的側面を多く担い、彼らを取り巻く人物たち・社会的状況などの象徴的な存在としてアンヌとルーベンが虚構的側面を多く担う。そのコントラストがこの戯曲の妙味なのだろうし、とても興味深かった。

マリー・キュリー=星風まどか

そして「アンビシャス」昆チームは、昆・松下・鈴木それぞれの熱さに圧倒される。マリーのひたむきさ・勝気だけれども脆さもある複雑さ、ピエールの懐の深さ・度々垣間見える愛嬌、アンヌの地に足のついたたくましさ・優しさといった見どころがありつつ、実力者揃いだからこそ歌も芝居も自然に、高いレベルで融合している様に魅了された。マリーのソロ曲の素晴らしさは当然ながら、マリーとピエールの「予測不能で未知なるもの」、マリーとアンヌの「あなたは私の星」といったデュエットも圧巻。声の魅力に酔いしれた。

マリー・キュリー=昆夏美、ピエール=松下優也
アンヌ=鈴木瑛美子、マリー・キュリー=昆夏美

対する「不器用で誠実な愛」の星風チームは、もちろん歌唱の素晴らしさもありながら、芝居の細やかさに心惹かれた。マリーの知的で健気な在り様、包容力はもちろんダンディな“大人の男性”感のあるピエール、勝気さと女性らしいかわいらしさの中に優しさが見えるアンヌと、演者の個性による両チームのキャラクター性の違いが楽しい。こちらもソロ曲を情感豊かに聴かせつつ、マリーとアンヌの「すべてのものの地図」やアンヌと工員たちによる「死んだ工員に捧げるボレロ」などの楽曲のドラマ性も素晴らしかった。

マリー・キュリー=星風まどか、ピエール=葛山信吾
マリー・キュリー=星風まどか、アンヌ=石田ニコル

一方、ルーベンはドラマ的にもキャラクター的にも異色な存在と言えるだろう。マリーの支援者かつ工員たちを無情に使い捨てる支配人としての顔と、きらびやかなタキシードを身にまといマリーたちを見つめる超越者的な顔。まさに虚と実を象徴するかのような佇まいで、水田・雷太両者とも圧倒的な存在感でステージ上に君臨していた。印象の違いを言うなら、水田ルーベンはジョーカー、雷太ルーベンはメフィストフェレスといった感じ。各々絶妙に違えている振付も、彼らのダンス巧者としての側面を強調していて大きな見どころのひとつ。そして長身かつスタイル抜群、ビジュアル面でも観客を惹きつけていることも忘れてはいけない。キャストスケジュールではマリー・ピエール・アンヌの組み合わせは固定されている一方、水田は昆チーム、雷太は星風チームが主でありながらもルーベンだけ入れ替わる回があることにも注目したい。昆・雷太、星風・水田でどのように新たなシナジーが生まれるのかが楽しみだ。

ルーベン=水田航生
ルーベン=雷太

また本作で心に残ることのひとつとして、歌・ダンス・芝居と三拍子そろったアンサンブルの素晴らしさがある。すさまじい早変わりでさまざまな役柄をこなす彼らだが、イレーヌ・キュリーの能條愛未以外は、本役は工員になるのだろう。ラジウムによる健康被害の犠牲者となる彼らが、けっして“その他大勢”に終わらず、それぞれの命の重さをしっかりと伝えきっている。それは演出の巧みさはもちろん、何よりも彼らの芝居力によるものであることは間違いない。随所でルーベンと共にすさまじい身体能力とダンス力を見せる、山口将太朗の存在感も特筆しておきたい。

マリーに対する差別をはじめ、さまざまな現実の苦さや重さを描きながらも、マリーとアンヌ、マリーとピエールなど人々の愛や絆の素晴らしさを際立たせる本作。確かな見ごたえで観劇の喜びを実感させてくれる、傑作ミュージカルだ。

科学オタクな女性がさまざまな人間関係を、そして愛を知っていく物語

25日のゲネプロ前に行われた囲み取材には、昆、星風、松下、葛山、鈴木、石田、水田、雷太、そして演出の鈴木裕美が登壇。マリー役のふたりは演じるうえで一番大切にしていることは「マリーは自分に対する愛はそんなになかったかもしれないけれど、ラジウムを見つけた時の探究心が実った自分への愛、科学に対する愛、この世を良くしたいと思う愛とか(を通して)、自分だけではない、ひとりだけでは生きていけなかったんだと稽古を重ねていくうちに感じるようになった」(昆)、「自分もそうで、初めは科学への愛。それから稽古を進めながら、いろいろな方に出会うことによって夫婦愛とか友情とか、そういう愛の原動力が増えていく感覚があった。私自身も芝居するにあたって相手の方とのキャッチボールに心踊りますし、それによって助けられる部分を毎回感じる。最後の場面でも周りの方々に助けていただいて心が浄化できる」(星風)という。

またピエール役のふたりは「マリーのよき理解者であり、そして生涯にわたり寄り添いサポートするという役どころはあまり多くはやってこなかったので」(松下)、「ミュージカル界で活躍してらっしゃる30代半ばの方が多い中に入り、53歳の自分、なんとか頑張る!」(葛山)とそれぞれに今回の挑戦を語る。

アンヌ役のふたりは「昆ちゃんと私のマリーとアンヌは、たぶん自己主張があってこそのシスターフッド。自分が核にあって、そこが共通点となって相手を受け入れ、愛し、信じる」(鈴木)、「マリーの背中を押していけるような感じにできたらいいなと思うので、毎日ずっとまどかちゃんを見つめてきた。公演中もずっと見つめ続けたい」(石田)、ルーベン役のふたりは「フィクションを担っているような出方をするので、そこをどうお客さんが感じ取るかによって作品の見え方も変わっていく。思いのほか踊っているので、ダンスシーンも見どころ」(水田)、「ルーベンははかりしれない信念の持ち主というか、ある種の野望、本当にすごい自分の核をもっているので、演じるのはすごくワクワクする。舞台上で自分の良さを生かせたらいいし、踊りのシーンで水田さんと表現方法が違うところも見どころ」(雷太)と、各々の思いを語っていた。

そして鈴木裕美が「マリーはIQは非常に高いけどEQはものすごい低いというか、科学オタク。科学オタクが女性差別などいろいろな差別を受けながらがんばる、オタクがいろいろな人との人間関係の中で EQが少し高くなって人間関係がちょっと上手になる物語なので、共感していただけるところが多いと思う」と本作の芯となる魅力を語り、「ぜひお越しください」と締めくくった。

取材・文:金井まゆみ 撮影:田中亜紀


<公演情報>
ミュージカル『マリー・キュリー』

脚本:チョン・セウン
作曲:チェ・ジョンユン
演出:鈴木裕美
翻訳・訳詞:高橋亜子

出演:
昆夏美/星風まどか(Wキャスト)
松下優也/葛山信吾(Wキャスト) 鈴木瑛美子/石田ニコル(Wキャスト) 水田航生/雷太(Wキャスト)
能條愛未 可知寛子 清水彩花 石川新太
坂元宏旬 藤浦功一 山口将太朗 石井咲 石井亜早実
飯田汐音(スウィング)

【東京公演】
2025年10月25日(土)~11月9日(日)
会場:天王洲 銀河劇場

【大阪公演】
2025年11月28日(金)~30日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/mariecurie/

公式サイト:
https://mariecurie-musical.jp/

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