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加耒徹・上村文乃・川口成彦が紡ぐ、ノスタルジックな午後のショパン

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加耒徹

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“ピアノの詩人“ショパンがテーマのコンサートについて声楽家に聞く取材を想像したことはなかった。このユニークな機会自体が公演の魅力を物語っていると言えそうだ。11月19日(水)午後、東京オペラシティ・コンサートホールで開催される「ノスタルジック・ショパン」は、フォルテピアノの川口成彦、チェロの上村文乃、バリトンの加耒徹の三人が顔を揃える、注目のコンサート。加耒(かく)徹に聞いた。

「ショパンは大好きで、ピアノ曲も協奏曲もよく聴きます。弾くほうは、美しく弾く自分を妄想しながら、《バラード第1番》の1ページ目だけ、“ドーミラシドラミシ……”と触ってみる程度ですけれども(笑)。

ショパンの声楽曲は、現存する作品としては歌曲が20曲あるだけです。興味があって楽譜は持っていました。ただ原調だとバリトンの私には高くて、なかなか歌う機会がなくて……。今回、新たなチャレンジです」

39年の短い生涯に、ほぼピアノ曲だけを書き続けたショパン。しかし今回は、歌曲やチェロ・ソナタも含め、ショパン作品を広く紹介しつつ、同時代の作曲家たちにも視野を広げる。

「3人でプランを練っているところですが、ショパンの生涯をたどりながら、彼の世界観の中で、さまざまな作曲家の名曲も聴いていただくコンサートになります。マニアックすぎず、でも熱心なショパン・ファンのみなさんにも、『なるほど、こういうつながりがあったんだ!』と、新たな発見を楽しんでいただけると思います」

第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール(2018年)で第2位入賞の川口が、1843年製のプレイエルのピアノを弾く。ショパンが生きた時代の楽器だ。加耒も、そしてチェロの上村も、モダンと古楽の世界を自在に行き来する“二刀流”の音楽家だけに、この共演には興味津々だ。

「川口さんとは初共演です。現代のピアノを聴き慣れた方は、19世紀のフォルテピアノの響きに最初はちょっととまどうかもしれません。でも、聴き進めるうちに、耳が時代を飛び越えていく感覚を楽しんでいただけると思います。

東京オペラシティのような大ホールでフォルテピアノと歌うのは、私にとっても貴重な機会です。モダンピアノに比べると響きのまろやかなフォルテピアノですが、言葉に重きを置き、息づかいに意識して表現したいと思います。リハーサルの中で変化していく音楽を私自身とても楽しみにしています」

川口成彦、上村文乃、加耒徹、たぬ~ん

今回歌う歌曲〈乙女の願い〉は、ショパンが十代の終わりに作曲し、没後に《17のポーランドの歌》として出版された作品。乙女の恋心をマズルカのリズムにのせて歌う。

「ショパンの作品の多くは繊細でロマンティック。今回上村さんが演奏するチェロ・ソナタも、起伏に富んだ、涙を誘う旋律です。でも彼の歌曲は、むしろ素朴で、ポーランドの田園風景が目に浮かぶような曲調です。ブラームスが壮大なシンフォニーの一方で民謡を愛したように、ショパンも歌では素朴さを表現したかったのだと思います。

歌詞のポーランド語の響き自体が、土の香りのする牧歌的な言葉だと感じます。音楽的にも、ふんわりとしたセピア色の響きが現れるでしょう。天井が高くキラキラした音響の東京オペラシティでどう響くのか、とても楽しみです。オペラシティは私が最も多く歌っているホールのひとつで、発した言葉の一つひとつが自分にも見事に返って聞こえてくる、素晴らしい空間です」

ショパン以外で歌うのは、まずシューマンの《詩人の恋》。同い年のショパンについてシューマンが、「諸君、帽子を脱ぎたまえ!天才の出現だ」と絶賛する記事を書いたエピソードは有名だ。加耒は4月にシューマン歌曲集のCDをリリースしたばかり。

「シューマンは非常にメロディックで、ある意味でショパンと近いと思います。レガートを極めた旋律。とくに“歌の年”1840年の作品はそうです。《詩人の恋》はずっと昔から大好きで、必ずCDを作りたいと思っていました。今回歌うのは歌曲集の1曲目だけなのですが、つい続けて2曲目も歌い出してしまいそうで、心配です(笑)」

続きはぜひCDで! 加耒の甘く清々しいバリトンが、颯爽と、深く、美しいシューマンを彫琢する。丁寧なドイツ語のディクションを聴いているだけでもうっとりと耳を奪われる一枚だ。ショパンの人生はベルカント・オペラの黄金時代に重なっている。プログラムには、その主役だったベッリーニやドニゼッティのアリアも並ぶ。

「ベッリーニやドニゼッティをフォルテピアノと歌うのは初めてです。歌い方、音楽的アプローチは自然に変わると思います。

じつはあまり歌ってこなかったレパートリーなんです。まだ若かった大学生の頃の私は、譜面づらがシンプルで物足りないと感じてしまい、ベルクや現代音楽など、いかにも譜読みしました!という曲に取り組みがちでした。

でも向き合ってみると、彼らがいかに声を深く理解してそれを曲に反映していたかに気付かされます。発声さえしっかりしていれば、楽譜どおりに歌うだけでもドラマティックな表現になる。歌い続けるため、声を育てるために欠かせないレパートリーだと実感しています」

公演は、東京オペラシティを会場とする「アフタヌーン・コンサート・シリーズ」の一環。おだやかな午後のひととき、心に余裕をもってゆったりと音楽に浸れると人気のシリーズだ。

「『ノスタルジック・ショパン』というタイトルは選曲にぴったり。“エキサイティング・ショパン”だと全然違いますから(笑)。ぜひ秋らしいノスタルジーを感じてください。夢を見るような雰囲気の中で、ショパンの人生や友情、チェロの作品や声楽作品など、多彩な世界を知っていただける2時間になると思います」

取材・文:宮本明

アフタヌーン・コンサート・シリーズ2025-2026
ノスタルジック・ショパン
~フレデリックが愛したプレイエル~

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558686

11月19日(水) 13:30開演
東京オペラシティ コンサートホール

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