巨匠から俊英まで、個性的なプログラムが目白押し! 東京・春・音楽祭2026
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(C)平舘平/東京・春・音楽祭
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すべて見るもう11月というのに、天気予報ではいまだに「夏日」などという単語が飛び交う東京の秋。しかし秋も冬も飛び越えて、春の話題が飛び込んできた。10月30日(木)、「東京・春・音楽祭2026」のプログラム発表会見が行われ、鈴木幸一実行委員長や芦田尚子事務局長らが出席。音楽祭の概要が明らかになった。
毎年、桜とともに春の訪れを告げる「東京・春・音楽祭」。22年目を迎える2026年は3月13日(金)から4月19日(日)まで約40日間にわたって開催される。上野の東京文化会館を主会場に、オペラ、オーケストラから、室内楽、器楽・声楽のソロ・リサイタルまで多様な公演が繰り広げられ、国内外のトップ・アーティストたちが顔を揃える国内最大級のクラシック音楽の祭典。毎年、地元との連携により、上野のあちらこちらの街角でミニ・コンサートなども行われ、街全体が華やぐ様子は、まさに春の音楽まつりだ。

今回の一番の目玉は、巨匠マレク・ヤノフスキが指揮するシェーンベルクの超大作《グレの歌》[3月25日(水)東京文化会館大ホール]。出演はNHK交響楽団と東京オペラシンガーズ。「東京春祭」では2019年にも大野和士指揮で《グレの歌》を取り上げているが、なにしろ編成が超巨大なだけに、滅多に演奏されることがない。20型の弦五部、フルート8人、オーボエ5人、クラリネット7人、ホルン10人、トランペット7人、トロンボーン7人、ハープ4人など破格。オーケストラだけでも150人にはなる。声楽も、語り手と5人の歌手、そして混声8部合唱と3群の男声4部合唱を要するから、こちらも軽く100人は超えるだろう。これが、2月に87歳になるヤノフスキのたっての希望で実現したというのだから恐れ入る。老巨匠のエネルギーは衰えることがない。
そのヤノフスキが過去のシリーズ13回中8回を指揮してきた、NHK交響楽団による「ワーグナー・シリーズ」を、英国の指揮者アレクサンダー・ソディが振る。演目は《さまよえるオランダ人》[4月5日(日)7日(火)大ホール]。ソディは世界の劇場から次々にお呼びがかかる赤丸急上昇中の注目株で、今夏のセイジ・オザワ松本フェスティバルにも登場した。歌手陣も充実。ウィーン国立歌劇場来日公演の《ばらの騎士》元帥夫人でファンを魅了していったばかりのソプラノ、カミラ・ニールンドのゼンタを筆頭に、タレク・ナズミ(バス)のダーラント、ミヒャエル・クプファー=ラデツキー(バリトン)のオランダ人など、世界レベルのワーグナー歌手が揃う。
名ピアニスト、ルドルフ・ブッフビンダーが弾き振りする「ベートーヴェン ピアノ協奏曲全曲演奏会」も聴き逃せまい[4月4日(土)6日(月)大ホール]。「東京春祭」でブッフビンダーは2024年にベートーヴェンのソナタ全曲演奏会(全7回)、2025年にソロと室内楽によるシューベルト・プログラム(全3回)を弾いている。会見には来日中のブッフビンダーも水戸からリモートで参加。「2年続けて弾いた東京文化会館の小ホールは音響がとても素晴らしく、会場全体の一体感を感じました。上野の桜は、信じられない、忘れられない体験です。東京・春・音楽祭はもはや自分の故郷のようで、まるで家族と過ごしているような気がします」と語った。オーケストラは巨匠リッカルド・ムーティも厚い信頼を寄せる日本のスーパー・オーケストラ「東京春祭オーケストラ」。なお、ムーティは今回、音楽祭終了直後に上演される《ドン・ジョヴァンニ》に専念する格好で、「東京春祭」本編はお休み。
東京文化会館小ホールでの公演は、さらに個性的なプログラムが目白押しだ。
音楽祭の開幕を告げるのが、オープニング・ガラ・コンサートが2夜[3月13日(金)14日(土)]。郷古廉や長原幸太ら、「東京春祭」ゆかりのトップ・プレーヤーたちが顔を揃える。
器楽・室内楽系では、スペインの人気ヴァイオリニスト、マリア・ドゥエニャスの日本初リサイタルにも注目が集まりそう[4月2日(木)]。2021年ユーディ・メニューイン国際コンクールで優勝。彼女は作曲家でもあり、今年9月のNHK交響楽団の定期演奏会でベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を弾いた際にも、自作のカデンツァを弾いていた。今回はシューベルト、ドビュッシー、フランクのヴァイオリン・ソナタを聴かせる。
「東京春祭」が現名称になった2009年から脈々と続く名物の「歌曲シリーズ」も人気。今回は5人の歌手たちのリサイタルが開かれる。カミラ・ニールンド(ソプラノ)[3月27日(金)]、アドリアン・エレート(バリトン)[3月28日(土)]、クリストフ・プレガルディエン(テノール)[4月7日(火)]、デイヴィッド・バット・フィリップ(テノール)[4月10日(金)]、アンドレ・シュエン(バリトン)[4月14日(火)]。個人的には、リリックテノールの至宝プレガルディエンは必ず聴きに行きたい。聴くたびにいつも幸せで頬がゆるんでしまう。渡邊順生のフォルテピアノとの共演でシューベルト《白鳥の歌》を軸にしたプログラム。はからずもシュエンのプログラムが《白鳥の歌》対決になっているのにもそそられる。
異色というか、「東京春祭」ならではの企画が、「東京春祭ディスカヴァリー・シリーズvol.12」として行われる、作曲家ミカロユス・チュルリョーニス(1875~1911)の演奏会[3月26日(木)]。祖国リトアニアでは画家としても高名で、わずか35年余りの短い生涯に約300点の絵画と約200点の楽曲を残した。どちらも余技ではなく、その証拠に、このコンサートのあと3月28日(土)から6月14日(日)まで、約3ヶ月間にわたり、国立西洋美術館で大回顧展「チュルリョーニス展 内なる星図」が開催される。“二刀流”の芸術家だ。
現代音楽ファンにはまず、アンサンブル・アンテルコンタンポランの2夜[4月4日(土)5日(日)]と、ディオティマ弦楽四重奏団の再登場[4月11日(土)]がうれしい。アンテルコンタンポランは、ジョージ・ベンジャミンの、二人の歌手による室内オペラ《小さい丘》(2006)を日本初演する。ベンジャミンはメシアンの愛弟子にして藤倉大の師。ディオティマは、彼らの団体名の由来の一つであるルイジ・ノーノの《断章ー静寂、ディオティマへ》とベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番というしびれるプログラム。
没後30年の武満徹を偲んで、ギターの荘村清志がオール武満プログラムを弾く[3月15日(日)]。プログラムのほとんどが荘村のために書かれた作品だ。武満にとって最初のギター曲だった《フォリオス》、デビュー25周年リサイタルのための《エキノクス》、そして荘村へのプレゼントだった《ギターのための12の歌》。荘村との交流がなければ、武満のギター曲はもっと少なかったかもしれない。武満関連では、4月4日(土)には旧東京音楽学校奏楽堂で、カウンターテナー村松稔之によるソングの公演もある。
没後50年のブリテンの《カンティクル》全5曲を、テノールの望月哲也らが一挙に演奏するのも興味深い[4月6日(月)]。ブリテンのパートナーだったテノールのピーター・ピアーズのために書かれた作品群。第3番のホルン・ソロは名手・福川伸陽。
ちょっと面白かったのがピアニスト務川慧悟の公演「日曜日の朝のフランシス・プーランク」[3月22日(日)]にまつわる話。本人から主催者に「日曜日の午前中にコンサートできませんか?」と打診があった。聞けばこの公演と同名の村上春樹のエッセイにインスパイアされたコンサートをやりたいということだったのだそう。村上の音楽論集『意味がなければスイングはない』に収録されている一編で、ロンドンで日曜日の朝にジャン・フィリップ・コラールが弾くオール・プーランク・プログラムのコンサートを聴いた体験を元に書かれている。したがって務川の公演もオール・プーランク。ちなみにエッセイでは、プーランクが朝の光の中でしか作曲をしなかったことを知った村上が、自分がプーランク好きなのは、自分も彼と同じ朝型人間だからなんだと得心している。コンサートは、もちろん夜型のプーランク・ファンも入場可。

会見時点で公表されている有料公演は56本だったが、調整中の公演もあり、今後さらに増えていくようだ。もちろん、上野公園内の美術館・博物館での「ミュージアム・コンサート」や、子供向けプログラム「東京春祭 for Kids」など、恒例の企画も例年どおり行われる。悩ましいのが、土日を中心に、魅力的な公演が同時刻に重なって開催されること。身体はひとつ。決断が迫られる。
なお、来年5月からホームグラウンドの東京文化会館が大規模改修のための長期休館に入る。2027年以降の開催が気になるところだが、この日、鈴木実行委員長は「けっしてしぼまないように発展させ続けたい」と述べ、上野でも東京文化会館以外で行われている公演は続けつつ、都内のいくつかのホールを利用して対応する目算を語った。一時休止や大幅縮小の心配は無用なようで、まずは安心。その間は変則開催を楽しむとして、来春は「東京春祭@東京文化会館」を、いつもより余計にチャージしておこう。
取材・文:宮本明
【チケット情報】
https://w.pia.jp/t/harusai/
●先行発売
11月22日(土)10:00~25日(火)23:59
【対象公演】
・東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.13 シェーンベルク《グレの歌》 S~B席
・ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ) ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲演奏会 I&II S/A席
・東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.17 《さまよえるオランダ人》(演奏会形式) S~B席
●一般発売
東京文化会館 大ホール公演:11月30日(日)10:00~
東京文化会館 小ホール公演、東京藝術大学奏楽堂公演、 旧東京音楽学校奏楽堂公演:12月14日(日) 10:00 ~
その他公演:2月1日(日)10:00~
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