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ブルース・スプリングスティーンの若き日を映画で描いた監督「ここに出てくるのは、もろい姿のブルース。だから世界はこの人を愛する」

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スコット・クーパー監督 (C)2025 20th Century Studios

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世界中に熱狂的なファンをもつ大スター、ブルース・スプリングスティーンの若き日の物語を描く映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』が11月14日(金)から公開になる。

これまでにスターの半生や実話をベースにした映画が数多く作られてきたが、ブルースはまだ最前線で活動する現役の音楽家で、その人気は圧倒的だ。ところが、ブルースは映画化の打診をしたスコット・クーパー監督にこう告げたという。

「私についての真実は、必ずしも美しくなかったりする」

人々から羨望され、歓声を浴び続けてきたブルースは、なぜそんなことを言ったのか?

ニューヨーク映画祭での本作のプレミア上映に登場、ギター1本で「LAND OF HOPE AND DREAMS」を熱唱したスプリングスティーン本人

クーパー監督は俳優としてキャリアを積んだ後、監督もするようになり、ジェフ・ブリッジズ主演の『クレイジー・ハート』や、『ファーナス/訣別の朝』などの作品で高評価を得ている。以前からブルースの大ファンだった彼は、プロデューサー陣から本作のプロジェクトを持ち込まれて参加を決意。しかし、ブルースは大規模ツアーを敢行中の現役のシンガーソングライターだ。映画化の許可が降りるのか? 降りたとして脚本や配役に“物言い”がつくのか? すべては未知の状態だったという。

「ブルースは僕に“私についての真実は、必ずしも美しくなかったりする”と言いました。僕はブルースにこの映画を“聖人伝”にしたくないと強調しました。彼は、欠点も含め、自分の人生を誇りに思っています。自分の欠点をよく知っていて、自分自身で正そうと努力してきたのですから。

ブルースは僕に妥協することなく、彼の弱い部分をさらす映画を作ることを許してくれました。彼は正直に真実を見せたかったのです。今生きているアーティストでそれをやりたがる人は、あまりいないと思います。ブルースとのコラボレーションは、僕が過去に経験したことがない体験でした。彼は最初から僕を彼の世界に招き入れてくれました。彼は偽物を求めていませんでした。この映画は、彼のマネをするのではなく、彼自身の人生を正直に解釈するものです」

本作に登場する1980年代初頭のブルース・スプリングスティーンは、巨大なアリーナでライトを浴びている男ではない。ニュージャージーの部屋で、ひとりぼっちでギターを抱えて、自身の過去や襲いかかってくる重圧に苦しんでいる“小さな男”だ。しかし、それこそがクーパー監督が描きたい人物だった。

「ミーティングで僕はブルースに“あなたの人生のこの時期こそ、語られるべきだと僕は思っています。これは、ある男性に起きたことを語る映画。その男性がたまたまブルース・スプリングスティーンだったというだけ。僕はこれをあなたのアルバム『ネブラスカ (Nebraska)』のように、生々しくさらけだしつつ、だからこその妥協のない美しさがある作品にしたいのです”と言いました」

このとき、ブルースが苦闘しながら部屋でひとりで作曲し、録音までした楽曲たちは後に名盤『ネブラスカ』に結実した。クーパー監督もこのアルバムを愛し続けている。

1982年9月20日(日本発売は10月9日)に発売された6th Album『ネブラスカ(NEBRASKA)』

「ここで描かれるのは彼のターニングポイント。自分自身を見つめている彼の姿で、『ボーン・イン・ザ・U.S.A. (Born in the U.S.A.)』がリリースされてビッグなコンサートをやる前の彼についての映画です。僕が“この映画で、ブルース・スプリングスティーンの有名人としての部分を全部削ぎ落としたい。ニュージャージーの寝室でギターを抱えて座っている男性についての話を語りたい。その男性は、僕たちがみんな自分自身に問いかけることを心の中で問いかけています”とブルースに言うと、彼は“スコット、それこそ僕が作りたい映画だよ”と答えてくれました。

僕はブルースがアルバムを作るようにこの映画を作りました。派手なものは入れません。多くのセレブの伝記映画は、キラキラしていますよね。ここに出てくるのは、もろい姿のブルース。だからアメリカは、いや、世界は、この人を愛するのです」

モノマネではなく、静けさと炎のようなエネルギーをつかむ

スコット・クーパー監督とジェレミー・アレン・ホワイト

自分が主人公の映画を打診され、弱い部分を描くことを受け入れたブルース、その想いに真正面から応えたクーパー監督。ふたりの想いはブルース役を演じたジェレミー・アレン・ホワイトにも受け継がれた。

「ブルース・スプリングスティーンは、世の中にひとりしかいません。僕はそのモノマネを求めてはいません。ブルースが兼ね備える静かな存在感、歌うときに見せる燃え上がる炎を表現してほしかったのです。

僕はジェレミーに“僕たちが作ろうとしているのは世界的に有名なスター、ブルース・スプリングスティーンについての映画ではない。そこは忘れよう”と言い、人間としてのブルースの繊細な部分、精神について話し合いました。モノマネをすることではなく、彼が持つ静けさ、演奏するときの炎のようなエネルギーをつかむことが目的なのだと強調しました」

撮影中のスコット・クーパー監督とジェレミー・アレン・ホワイト

ブルースは映画制作に全面的に協力し、時には当時の想いを監督や俳優たちに語ることもあったようだ。

「この映画にはブルースが過去に話したことがないディテールが出てきます。ドキュメンタリーにも、本にも、ブロードウェイのショーにも出てこないことが。彼は自分の人生で最も辛かった時期について飾らずに、リアルに語りたいと言いました。そんな映画を作らせてくれた彼に拍手を送ります。そんなことを許すセレブリティはあまりいません。彼らは自分に都合の悪い部分を避けた華やかな作品を望みます。でも、僕は、彼が『ネブラスカ』を作ったのと同じように、妥協のない、生のままの作品を求めたのです」

本作に登場する“大スター”は観る者の想像以上に、弱くて、繊細で、苦しんでいる。しかし、彼は必死に生きようとしている。クーパー監督とブルース本人が求めた“生のままの作品”は、日本でも多く観客から共感と支持を集めるだろう。

<作品情報>
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』

11月14日(金)公開

(C)2025 20th Century Studios

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