『ミュージカル「ajabu(アジャブ)」~歌詞検討会の影猛者達~』 福田転球×原田優一インタビュー
ステージ
インタビュー
(左から)原田優一、福田転球
ミュージカル作品では行われることが多いが、観客にはあまり馴染みのない「歌詞検討会」を題材に、福田転球が書き下ろした新作『ミュージカル「ajabu(アジャブ)」~歌詞検討会の影猛者達~』。一幕はオリジナルミュージカル「ajabu」の歌詞検討会の様子、二幕は「ajabu」の本編という二部構成で、制作の裏側や作品を支えるアンサンブルの力を描いていくという本作が目指すのは本格的なミュージカル、それとも……。 作・演出の福田転球と、歌詞検討会チームとして出演する原田優一に、このまったく新しい挑戦の全貌を語ってもらった。
歌詞検討会ってなに?
――まずは上演にむけた意気込み、出演のお話を受けられた時の思いを教えてください。
福田 一幕は「歌詞検討会はこんなことが行われているんだろう」という想像で書いた話、二幕は1本の作品になっています。僕の意気込みとしては、初めて作ったミュージカルを、お客さまにミュージカルコメディとしてうまく届けられたらいいなというところです。
原田 高木稟さんや可知寛子さんから、転球さんが作る作品はすごくアットホームで心がこもっていて、アナログな人間味があると聞いていました。最初は「転球さんが作るプチミュージカル」というお話をいただいていて、蓋を開けたらこのキャスト陣。「あ、ちゃんとやるんだ(笑)」という印象を受けました。歌詞検討会という題材も面白いなと思いつつ、自分は歌詞検討会に参加した経験がないので、「こういう感じかな?」と想像しながら作っています。
――福田さんはミュージカルを手がけるのは初めてということですが、脚本におけるこだわりなどはいかがですか?
福田 正直、ミュージカル“風”です(笑)。昔から「ミュージカルはなんで前を向いてセリフを言うんだ」とか「歌になると急に人が変わる」とか言われていますが、今は一般の方にもそれが面白さとして捉えられてきている。その面白さをベースに作っています。(ミュージカルを)手がけたことがありませんので、優一さんをはじめ皆さんに相談し、アドバイスをいただきながら作っています。最初はミュージカル部分をダイジェストにしようかと思っていましたが、このキャスティングならせっかくだから1本作ってみようということでチャレンジしています。
――ネタバレにならない範囲で、一幕の歌詞討論会と二幕のミュージカル、それぞれの注目ポイントを教えてください。
原田 ネタバレした方が面白いんじゃないですか?
福田 そうかもしれない。歌詞検討会については、香月彩里さんから伺って面白いなと思ったのがはじまりです。さきほど名前があがった可知寛子さんなどに取材をして脚本を書きました。一幕は歌詞検討会の裏側みたいなものが見どころですね。その上で、二幕でアンサンブルとして出演する人たちの歌声が響いたらいいなと。
原田 歌詞検討会は、海外の作品を日本語にするときに行うことが多いイメージですね。これは日本で作られたオリジナルミュージカルの歌詞検討会なので、その時点で面白いんですよね(笑)。 もちろん日本の作品で歌詞検討会をすることもありますが、二幕で行う『ミュージカル「ajabu」』は、恐らく浅草九劇くらいの規模で上演されているんだろうなと想像がつくんです。日本オリジナルの、日本人が作った「これはなんだ?」っていう作品で歌詞検討会をしているのが面白い。しかも、「そこどうでもよくない?」ってところでつまずいている滑稽さがある……このまま続けても大丈夫ですか?
福田 もちろん!
原田 転球さんはミュージカルを知らないとおっしゃるんですが、モチーフにしているのは誰もが知っているような古典ミュージカルなんです。稽古の時も「これはあの作品をモチーフにしているのかも」と話したら「まさに!」と言われて。知らないと言いつつちゃんと古典をさらっている転球さんが作る、なんちゃってミュージカルの面白さがあります。 歌詞検討会チーム(原田優一、中井智彦、谷口ゆうな、大和田美帆)はミュージカル作品で活躍されている方が多いですが、その方たちがミュージカルあるあるみたいなものを盛り込み、それを転球さんテイストにしてもらう。そして二幕では多シャンルの役者さんたち(寶珠山駿、北川雅、守谷日和、家納ジュンコ)がメインキャストを演じる。逆転の発想的な面白さがあります。かなりブラックですが、それが皮肉にならないのが転球さんの良さですね。
福田 稽古が始まったら正直ちょっと嫌がる人もいるかもと思っていました。でも、初日からみなさん受け取ってくださっています。
原田 棘のあることを言うけど悪気があるわけじゃない、地雷の上でスキップとか縄跳びしちゃう人たちの集まりみたいな。まったく悪気なく、ピュアな感じで行けるのが面白い世界観です。
刺激しあう演出とキャスト陣
――お稽古の手応えは?
福田 もう120点を出してくださっています。向かうところに対して躊躇しないすごさがありますね。もちろん楽しみつつ、「生温いところで仕事してないぞ」っていう空気がある。刺激を受けられるし、圧倒されます。それに、ちゃんと面白い。こんなに笑うか? というくらい笑っています。
原田 僕も演出をやることがありますが、0を1にするってものすごいエネルギーが必要です。転球さんは今回も今までもそれをやっているので尊敬します。そして、役者さんでもあるのに、稽古場での役者のパフォーマンスを「すげー!」と思えるところも好き。おこがましいけど、転球さんと僕は似ているのかなと思います。 今回は僕がパフォーマー、転球さんが演出。普段は演出の方に「なるほどね、いいね」と言われるのが嬉しいんですが、転球さんには「その手があったか!」と言われるのが喜びなんです。あと、脚本って、頭の中にあるイメージを文字にしているわけなので、我々は転球さんのイメージに添いたい、“望みを叶え隊”だと思っていますし、同時に「その手があったか、くそ!」と思わせたい。
福田 泣きそうになります。
――オリジナル楽曲についても、魅力や聴きどころなど教えてください。
福田 歌詞を作った段階で、音楽の久米さんに「こんな感じで」とお願いしました。久米さんがどんな意図で作ってくれたかわからないから笑っちゃ悪いと思いつつ、想像と違う角度の曲なので笑ってしまいました(笑)。でも、多分面白いと思って作ってくださっているので、「じゃあもっとおもろくしましょうよ!」と言えるようになりました。歌い手さんからは難しいと聞いているので、歌が重なってきたらどうなるのだろうと思っています。今の段階ではすごく良い形で曲が出来上がった印象です。
――原田さんは歌ってみていかがですか?
原田 六拍子だったり、急に変拍子に変わったり、物理的に難しい曲もあります。よく、すごく難しいのに難しそうに感じない曲ってありますよね。でも久米さんが今回書いてくださった曲は、本当に難しく聞こえる(笑)。久米さんとは今回が初めましてですが、「面白ければ変えてOK」というスタンスで、現場に寄り添ってくださる方だと感じます。もちろん一音一音を大切にされていると思いますが、「こっちの方が面白いね、いいよ」と言ってくださるのがありがたいです。 ミュージカルって基本的に曲の中に時間経過があって、キャラクターの心情が必ず変わる。告白しだしてイントロが始まったら、曲終わりで相手が承諾しているみたいな。でも、この作品は曲が始まってから終わるまで誰の心情も変わらない。「僕はアジャブ!」だけで終わるみたいなのも面白い。久米さんもそれを汲み取って、曲を面白く展開していると思います。
――歌詞検討会チームと二幕のメインキャストチーム、それぞれの印象も教えてください。
福田 検討会チームの中でも、杉田さんは音楽監督としても活躍されているので、アドリブで日常会話をする場面はちょっと手こずるかと思っていましたが、逆でした。本当に自然に、井戸端会議みたいな会話が続くんです。歌詞検討会チームが本当にミュージカルの楽屋にありそうな空気感を出してくれていて、もう任せますという感じ。一幕に少し伏線を張って二幕に繋げたいので、みんなと探っていけたらと思っています。 二幕のメインキャストは、はちゃめちゃすぎて面白いです。当初はメインキャストがめちゃくちゃ歌が下手で、アンサンブルを演じるメンバーがきっちり支える様子がお客さまに伝わったらいいなと思っていたんです。果たしてどうなるのか(笑)。歌詞検討会に参加しているメンバーと二幕メインキャストの温度差も理解して演じてくれているので、合体した二幕が本当に楽しみです。一幕と二幕にわかれてはいますが、全員で作ったほうが面白くなる気がしています。いろいろ共有していけたらと思っています。
――最後に、楽しみにしている皆さん、気になっている方へのメッセージをお願いします。
福田 俳優さんの底力をぜひ観にきてください。コメディではありますが、自分も含めて生半可には作っていません。本当に一生懸命ものを作り、みんなでミュージカルに向かっています。とにかく面白い作品になっているので、大いに笑いに来てください。 また、検討会チームの素晴らしい歌声を小劇場で堪能できるという贅沢も、ぜひ楽しんでいただきたいです。
原田 ミュージカルは海外作品の上演が多く、たくさんのお客さまがいらっしゃいますが、オリジナルを作ることは本当に大切だと思います。いろいろな技術を総動員しないといけないので、エネルギーがいるしカロリーも高い。大変なことに挑戦している作品です。多くの人のアイデアが集結していますし、いろんなジャンルのキャストがあつまっているので、それぞれの引き出しをひっくり返したらとても面白いことになるはず。オリジナルを作れる、しかも初演に参加できるのは大きな喜びですから、ひとつのピースになれたら嬉しいです。

取材・文/吉田沙奈
<公演情報>
『ミュージカル「ajabu(アジャブ)」~歌詞検討会の影猛者達~』
日程2025年11月27日(木)~12月14日(日)
会場:浅草九劇
[作・演出] 福田転球
[音楽] 久米大作
[出演] 原田優一、高木稟、中井智彦、谷口ゆうな、杉田未央、大和田美帆
寶珠山 駿、北川 雅、守谷日和、家納ジュンコ ほか
チケットURL:
https://w.pia.jp/t/ajabu/
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