台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」配給担当が語る異例のロングラン上映の舞台裏|ヒット作はこうして生まれた! Vol. 12
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台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」ポスタービジュアル(冥界ファンタジーver.)
2023年12月に日本で封切られた台湾映画「赤い糸 輪廻のひみつ」が異例のロングラン上映を続けている。同作は「あの頃、君を追いかけた」「怪怪怪怪物!」などを手がけたギデンズ・コー(九把刀)が贈る純愛冥界ファンタジー。クー・チェンドン(柯震東)、ビビアン・ソン(宋芸樺)、ワン・ジン(王淨)ら台湾のスターが出演し、2021年に台湾で封切られると、2億6000万台湾ドル(約11億7000万円)を超える大ヒットとなった。
なかなか日本で公開されない中、手を挙げたのはこれまでも個人で台湾映画を配給してきた葉山友美と小島あつ子。さまざまな困難にぶつかる中、上映を終わらせたくない一心で約2年間、宣伝活動を続けてきたという。
ヒット作の裏側を関係者に取材する本企画では、そんな2人にインタビューを実施。異例のロングラン上映の舞台裏、“今の台湾映画”への思い、目指す未来を聞いた。
取材・文 / 金子恭未子
台湾映画が日本で配給されにくい事実に気付いた(葉山)
──お二人は、これまでも個人で台湾映画を配給されてきました。台湾映画をお好きになったきっかけを教えてください。
葉山友美 両親が台湾出身なんですが、台湾エンタメにはもともとそんなに興味がなかったんです。「悲情城市」や「カップルズ」などは観ていたけれど、台湾ニューシネマをさほど追うこともなかった。ただ映画は好きだったので、叶井俊太郎さんが社長だったトルネード・フィルムに入社することになったんです。でも半年ぐらいで潰れちゃって(笑)。その後はトランスフォーマーという配給会社に数年いました。ちょうど業界に入った頃に公開されたのが台湾で大ヒットした「海角七号 君想う、国境の南」で、こういうのが新しい台湾映画なんだ、と興味を持ったんです。その後、台湾留学を決めるんですが、渡台直前に観たのが「GF*BF」でした。それで「いつの間に、台湾映画ってこんな最高なことになってるの!?」って(笑)。
一同 (笑)
葉山 それまでは台湾映画ってちょっと荒削りなイメージがあって、自分に刺さるものに出会っていなかったんです。でも「GF*BF」は、粗なんかなくて、完璧だった。そこからさらに台湾映画に興味が湧いて、留学中にも現地の劇場でなるべく新作を観るようにしていました。そこで心をつかまれたのが、のちに自分で配給することになる「台北セブンラブ」。「台湾映画はくるところまできてる! めちゃくちゃすごい映画だ!」と衝撃を受けて。でも帰国して、数年経っても全然日本に入ってこなかったんです。そのときに、台湾映画って日本で配給されにくいんだという事実に気付きました。自分も映画業界にいたのに、そういう認識がなくて、もっと自然に来ると思っていたんです。これは自分で配給するしかないと思いました。
──個人で楽しむのではなく、配給したいと思ったのは映画関係の仕事をしていたのが大きかったんでしょうか?
葉山 というよりも、私の語学力だと理解しきれなかったのが大きいと思います。「台北セブンラブ」は台湾からDVDを取り寄せたんですが、やっぱりちゃんとはわからなくて、プロの字幕付きで観たいと思いました。せっかく字幕を付けるんだったら、皆さんに観てほしいし、ペイもしたい。不純な動機なんです(笑)。だから小島さんは不思議。だって台湾の書籍を翻訳して出版もしている人ですから。
小島あつ子 内容をきちんとわかりたいので、やっぱり日本語字幕で観たいですよ(笑)。そのために立ち上げたのが台湾映画同好会(※)でした。
※編集部注:日本未公開・権利切れ映画の自主上映を行う会
葉山 私がもし、完璧に中国語がわかっていたら、配給しようという考えに至らなかったかも。100%楽しみきれないのが悔しいんです。最新のハリウッド映画を日本の劇場で楽しむのと同じように台湾映画を観て最高!って言いたい。それが私の原動力。でも小島さんみたいに翻訳者として活動していても、日本語字幕付きで台湾映画を楽しみたいって思うんだね。
小島 一生、そういう感覚だと思います。書籍の翻訳も成り行きで、しなきゃいけない状態になったので(笑)。
葉山 そんな成り行きある!?
一同 (笑)
小島 最初に“成り行きで”翻訳することになったのは、昨年配給した「狼が羊に恋をするとき」のホウ・チーラン(侯季然)監督が2014年に発表した短編ドキュメンタリー映像集に連動したノンフィクションでした。映像は台湾の街の本屋さんを活写した1作品3分×40店分のドキュメンタリーなのですが、書籍と合わせるとより深く、面白い内容だったんです。それで書籍ごと日本に持ってくることにしました。ただ、台湾のコンテンツに最初に触れたのはそれよりもっと前のことで、TOKYO MXでやっていた台湾ドラマなんです。すでにその頃は「流星花園~花より男子~」のブームは終わっていて、レイニー・ヤン(楊丞琳)が主演しているようなアイドルドラマが日本に入ってきている時期だった。子供がまだ幼かったので、家で相手をしながらぼーっと観ていたのが始まりです。
葉山 台湾作品にはこだわってなかったの?
小島 でも、台湾ドラマがよかったかな。韓国ドラマも放送されていたけれど、ハマれなくて。台湾の作品って“人がいい”感じがあるじゃないですか。決定的な悪人を作らない世界に癒やされたんです。当時は台湾の芸能情報を紹介してくれる番組がやっていて、映画の情報も知ることができた。そこで「雞排英雄(ナイトマーケット・ヒーロー)」が2011年の春節に上映されるということを知ったんです。たまたま中華航空の機内上映で観たら、すごく面白くて。同じ年に封切られたのが、ギデンズ・コー監督の「あの頃、君を追いかけた」でした。当時はまだ渋谷の香港王や、新宿の東方糖菓(アジアンドロップス)が営業していたので、直輸入のDVDを買って観ていたんです。「あの頃、君を追いかけた」は主題歌「那些年」のMVがよかったし、これは絶対面白いはず!と思って、娘と一緒に観始めたら、いきなり下ネタで始まって(笑)。
葉山 びっくりするよね(笑)。
小島 結局、夜に1人で観直しました。そんなことをしているうちに台湾映画にハマっていったんですが、日本で観られる作品はすごく限られていた。だからもっと台湾映画のことが知りたくて、本を読み出したんです。そこに必ず登場するのが「台湾ニューシネマ」「ホウ・シャオシェン(侯孝賢)」「エドワード・ヤン(楊德昌)」「海角七号」でした。でも台湾ニューシネマがなんなのかもわからないから、本の内容が全然入ってこなかった。それで、ホウ・シャオシェンとエドワード・ヤンの作品を古い順に観ていこうと。
葉山 すごい!(笑)
小島 ホウ・シャオシェンって誰?という状況だったので、観るしかなかったんです(笑)。それで、ホウ・シャオシェン監督たちが手がけた「坊やの人形」のDVDに入っていた田村志津枝さんの映画解説を読んで、台湾の近現代史を初めて知ることになった。もちろん台湾が日本に統治されていたことは知っていたんですが、その後のことはよくわかっていなかったんです。映画を通して歴史を知っていくのがすごく面白くて、どんどん沼にハマっていきました。ちょうどそのタイミングで「台湾巨匠傑作選」が始まった。シネマート六本木が閉館する前に行われた台湾映画特集も観に行きました。
台湾映画はニューシネマだけじゃなく、いい作品がいっぱいある(小島)
──台湾ニューシネマが好きだからといって、新しい台湾映画にハマるとは限らないですし、その逆もしかりだと思うんですが、小島さんはどちらもお好きになったんですね。
小島 私はどちらも好きですね。ただ、今はどちらも仕事にしているからこそ、その溝の深さを感じます。どうやったら埋められるんだろう?と。
葉山 日本では台湾映画と言えば、いまだに台湾ニューシネマなんですよね。ニューシネマが強すぎる。お客さんもすごい入っていて、いいなーって(笑)。
小島 わかる、わかる。
葉山 「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」のリマスター版をやるとなったら、やっぱりお客さんがめちゃくちゃ入りますよね。ニューシネマは固定のファンがいるから。一方で、“今の台湾映画”を配給することの難しさも、痛感してしまう。お客さんが入らなければ、そりゃ配給会社は買わなくなっちゃうよねと。「言えない秘密」や「あの頃、君を追いかけた」が日本で公開された時期はもうちょっとお客さんが入っていた気がするけれど、ここ何年かは厳しい状況が続いている気がします。最近でこそ「本日公休」や「鯨が消えた入り江」のようにヒット作もありますが。
小島 2017年にエドワード・ヤン監督の「台北ストーリー」の4Kデジタル修復版が公開されるときに、「SNSの運営をしてもらえませんか?」と声を掛けられて、それが私にとって初めての商業映画のお仕事です。ホウ・シャオシェン監督と「風櫃の少年」以降のホウ・シャオシェン監督作品の脚本を手がけたチュー・ティエンウェン(朱天文)さんが来日するから取材に同席させてもらうことになって。台湾ニューシネマに関わっていた映画人の話を紐解いていくと、ニューシネマ以前からニューシネマ以降に続く人と人との関係性がすごく密で魅力的なことに気付かされました。映画人を縦・横に線でつなぎながら台湾映画を追っていってもすごく面白いんですが、日本ではホウ・シャオシェンだから、エドワード・ヤンだからと、有名作家の作品ばかりに注目が集まってしまって、そのほかの監督やスタッフ、俳優を起点につながりで追うことが難しい。日本で一般公開されていない作品の中にもたくさんいいものがあるので、もったいないと思います。
葉山 ちょうど小島さんが台湾映画を好きになった時期の作品は、面白いのに日本で配給されていない作品も多いよね。
小島 そうですね。ハマって、調べていくうちに、台湾でヒットする作品というのは、台湾の人たちにとって自分たちの物語だということがわかっていきました。逆に海外受けのいい作品というのは、実は台湾で全然ヒットしていなかったりする。
葉山 確かに、台湾ニューシネマは台湾では観られていないものもあるからね。
小島 初期作品は観られているんですよね。台湾の人たちにとって自分たちの物語だから。もちろん「悲情城市」もそう。私個人の好みとしては、台湾の土着的なものが描かれている作品が好きなので、台湾でヒットした作品は自分にもフィットする気がしています。だからと言って、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)の作品が好みじゃないかと言われれば、大好きだし。両方フラットに観ています。2018年から、「台湾巨匠傑作選」の“中の人”をやることになったので、特集で扱う作品も観る一方で、今まさに台湾でヒットしている映画も並行して観ることになりました。台湾映画はニューシネマだけじゃなく、いい作品がいっぱいあるのにと思います。
葉山「赤い糸」もようやく日の目を見てきたけれど、映画ファンに届ききってはいないと感じますね。
「赤い糸」は誰かが公開させてくれると信じ切っていた(葉山)
──「赤い糸」の配給でタッグを組むことになるお二人ですが、どういうきっかけで出会ったんですか?
葉山 「台北セブンラブ」を個人で配給しようとしたときに、クラウドファンディングをしたんです。そのときに支援してくれたのが小島さんでした。その直前に小島さんは先ほどお話ししていた書店の本と映像集のクラファンを成功させていて「すごい、こんな人がいるんだ!」と。それで自分も台湾映画で同じようなことができるんじゃないかと思ったのがクラファンを始めたきっかけです。だから、支援者の中に小島さんの名前を見つけて、あの人だ!って。それでお礼をしつつ「困ってます。どうしたら成功させられるんでしょうか?」って会ったこともないのに相談して(笑)。
小島 そこからやり取りするようになってね(笑)。
葉山 小島さんも当時、別の台湾映画を公開させようと動いていたんです。そこから2人で気になる台湾映画の情報を交換するようになりました。「赤い糸」もギデンズの新作だから、2人で注目していたんですが、日本で公開される様子が全然なかった。どうなってるんだろう?と思っていたら、突然、お台場で上映されるらしいという情報が入ってきて。
小島 観光も兼ねたツアーの一環として映画も上映するという企画だったんです。そこに観に行きました。
──最初から、映画はかなり気に入ったんですか?
小島 うーん。要素が多すぎて、1回では消化しきれなかったですね。ギデンズ・コーならではの物語の語り方というか、何回か同じストーリーラインをなぞって、最終的に着地するというのはわかったんですけど、500年前のエピソードとかは全然理解できなかったです。
葉山 字幕が今とは違ったんですよね。話がそもそも入り組んでいる中で、日本人は、牛頭馬頭(ごずめず)とかよく知らない。今はわかりやすくするために「地獄の門番」という字幕を付けているんですが、前提の知識がないとわからない部分も多かった。それでまた観たいなと思って、権利元に連絡したら、上映権以外は他社に売っちゃったけど、上映権はあるよって言われたんです。
小島 その前からギデンズ原作でほかの監督が撮った作品や、ギデンズの過去作の中で気になっているものがいっぱいあって、特集上映ができないかと思っていました。
──確かに「等一個人咖啡」など、日本で観られたらいいなとずっと思っていました。
葉山 そうそう。やっぱりギデンズ・コーの作品は日本でしっかり紹介しないといけないと思っていたんです。ただ新作は高いし、買えないだろうから過去作でと考えて、交渉していた。
小島 それで、結果的に買えたのが大ヒット作「赤い糸」だけでした(笑)。
葉山 正直「赤い糸」は、誰かが公開させてくれると信じ切っていたんですよ(笑)。でも日本では「お台場の上映会で終わり?」みたいな。上映交渉を始めたものの、途中で連絡が途絶えた時期もありました。その頃には劇場も押さえていたので、穴を開けるかもしれないところだったんですが、ギリギリで「OK!」の連絡がきた。
小島 でも実は、特集上映としてシネマートさんに企画書を持っていっていたんです。
葉山 だから、まさか「赤い糸」1本で勝負することになるとは思っていなかった。今、考えれば、特集内の1本という形じゃなく、「赤い糸」をしっかり日本に紹介できてよかったです。
問題はポスタービジュアルとタイトルだった(小島)
──公開に際して、動員数や興行収入など、どういう目標値を設定していたんでしょうか?
葉山 赤字にならなければいいというのが当初の目標でした。とにかく自分たちも楽しめて、この作品を観たいと思っている人に届けられればいいかなって。
小島 「赤い糸」は台湾では大ヒットしたけれど、日本の配給会社が手を挙げなかった作品。なので当時、もしかしたら日本では難しいと判断されたかもしれない?と思っていたんです。
葉山 そうそう。自分たちでわかりやすい字幕を付けたときは、この映画、最高じゃん!と思ったけれど、“日本のみんなが受け入れてくれる最高”なのかどうかははっきり言って自信はなかった。
小島 東京、大阪、そのほか主要都市を回って、終わりというイメージでした。
葉山 結果としてヒット作の「赤い糸」が自分たちのところに回って来たけれど、個人配給だし、自分たちのやれる範囲で上映できればいいかなと思っていました。もちろん、たくさんのお客さんに観てもらいたい気持ちはあったんですが、当時の私たちはこの作品のポテンシャルをよくわかっていなかった。
小島 それもあって、最初にターゲットをしっかり絞り切ることができなかったんですよ。
葉山 そう、台湾映画に興味がある人っていうふわっとしたものだったんですよね。
小島 日本ではミニシアターで上映することになりましたが、本来、この映画は、ミニシアターに来る人をターゲット層とするような映画ではないかもしれないとも思っていました。台湾で、「赤い糸」はそれこそシネコンでかかるような超娯楽大作なので。
葉山 本来は超大衆向け作品だけど、日本ではそういうふうに売っていくことはできない。だから、もうはっきり言ってターゲットはわからん!みたいな(笑)。ただ、初日を迎えて1週間ぐらい経った頃から、「この映画、最高じゃん」「今年のベストが現れました!」という感想をSNSで見かけるようになったんです。そこで、私たちも「やっぱりこの作品って最高だよね?」って。
小島 ようやくそこで、受け入れてもらえるんだと実感しましたね。
葉山 試写会も開かなかったので、封切り後に初めて、一般のお客さんの感想を知ることになったんです。感想はかなり好意的なものが多くて、そのときにようやくこの映画のポテンシャルがわかって、自分たちがやれることは精一杯やらなくてはダメだと思いました。
小島 当時、映画は好評だったんですが問題も抱えていて、それがポスタービジュアルとタイトルだったんです。「このビジュアルとタイトルはなんなんだ?」という感想が多かった。
葉山 おそらく公開されてすぐ観に来てくれた人は台湾映画が好きな人だったと思います。現地のポスタービジュアルも、原題が「月老」だということも知っていた。だから「なんでそれをそのまま使わないの? 悪編だね」と。
小島 そう思わせてしまうことは、私たちとしては一番避けたかったんです。
葉山 でも、一番避けたいところにいってしまって、ガクッときました。もちろん「月老」という原題も大事にしたかったし、台湾のビジュアルをそのまま使う手もあったかもしれないけれど、3人のキャラクターの話でもあるし、犬も出てくるしと、いろいろアピールできるよう考えて最初のポスターを作って、気に入ってくれた人もいるにはいたんですが、総じて厳しかったですね。
小島 最初に作ったものが、あの方向性のデザインになったのは、作品そのものが本来は大衆向けの娯楽作だったからというのも大きな理由の1つなんです。
葉山 だからあのデザインは台湾の方にはウケがよかったんですよ。でも、日本のミニシアターにあのポスターが貼ってあってもスルーされてしまう。
小島 自分が観る作品ではないという判断をされてしまうものだったんですよね。
葉山 ただビジュアルには疑問を持ちつつも、口コミのよさを信じて観に行ってくれた人は「うわさ通り、面白かった」と言ってくれました。その頃には、この映画のためにやれることはなんでもやってみようと思っていましたし、新ビジュアルを作ることも考えていたんです。でも、すでに公開から1カ月ほどが経ってしまっていた。そんなときに声を掛けてくれたのが、下北沢トリウッドさんです。支配人がギデンズの「あの頃、君を追いかけた」が大好きな方で、「うちでロングランしようと思ってるよ」と言ってくれた。2024年の4月から上映していただけることになったんですが、そのタイミングで新しいビジュアルを作ることにしました。
──そういう経緯があったんですね。
葉山 ビジュアルを作るうえで、一番参考になったのは、「この映画はジャンルミックスなのが面白い」というお客さんの感想でした。実は、そこが1番宣伝するうえで困った部分でもあったんです。ジャンルミックスだからこそターゲットを絞り切れなかった。もちろん私たちも、作品の魅力はわかっていたんですが、いかにわかりやすく届けるかというのが宣伝としての正解。そういう方向を目指していかないと、1つのビジュアルに絞り切れないと思ったんです。
小島 そうだね。
葉山 でも、私たちが悩んでいたそのポイントこそが、この作品の1番の魅力だということに改めて気付いた。じゃあ、それを逆手にとって、ジャンルごとにポスタービジュアルを作ろうと思いました。純愛要素、ホラー要素、アクション要素、動物要素、少年マンガ要素すべてを、1枚のポスターで説明するのは難しい。だったら、1つひとつの要素をビジュアルに落とし込んで、それぞれ全然違う映画に見えるようなものをあえて作ったら面白いなと。そんなこと、この映画じゃないとできない。でもデザイナーさんは「せめてロゴは統一したほうが……」って(笑)。
小島 「いやいや、ロゴも変えてください!」ってね(笑)。
葉山 そう。あえて違う映画に見えるようにロゴも変えてもらいました。それぞれのビジュアルを見たときには、本当に同じ映画なの?って戸惑うけれど、観終わったら、本当だ!と思ってもらえるものを目指しました。お客さんにどのビジュアルが好きかをXの投票で選んでもらったんです。1位を獲得したのが、冥界っぽさがよく出ている今のポスターです。全種類ポスターを刷るのは印刷費のことを考えると難しいけれど、ポストカードなら作れるので、来場者特典にすることにしました。結果として、私たちが1番困っていた部分が1番の売りになっていったんです。
小島 台湾映画好きな人って、青春映画的要素を期待してる人が多かったり、基本的にホラーは苦手という傾向がわりとある気がして。だから、そういう要素を掛け合わせた説明が当初はとにかく難しくて、悩みの種だったんです。
葉山 予告編も最初はもうちょっとホラー要素が長く入っていたんですよ。
小島 アクション要素もね。
葉山 でもいろいろ入れると、この映画ってどういう映画なの?ってわけがわからなくなっちゃう。
小島 ファンタジー要素もあって、牛頭馬頭はいかにもコスプレ受けしそうなキャラクターなんですが、予告編でいきなり見せられるとある一定層はもう絶対来てくれないと思っていました。
葉山 結局公式でどう説明すればいいか、正解がわからなかった。そんな中で、お客さんが「ジャンルミックスが面白い」ということを発信してくれたおかげで、この作品の魅力が広がっていったんです。
小島 公式が同じように言っても、お客さんには響かなかったと思います。
葉山 「赤い糸」はうまく魅力を表現するのが難しい。だからこそ、お客さんが「とにかく説明できないけど、最高だから観に行って!」と熱く語ってくれました。それを受け取った方が、劇場に観に行ってくれる流れができた。ただそれでもトリウッドの40席を埋めるのは大変でした。
小咪(シャオミー)は長澤まさみさんにやってもらおう!(葉山)
──そこからもトークショーなどいろいろと施策を展開されていますね。
葉山 トリウッドの支配人の方が「君たちがトークしてみたら?」と提案して下さったんです。どこに需要あるんですか?と思ったんですが、自分たちだったらギャラも必要ないしなと(笑)。
小島 お客さんが来てくれるなら、いくらでもやります!という感じだったよね。
葉山 2人でいろいろとぶっちゃけ話をしたりしましたが、その後ギデンズ・コー監督にオンライン登壇もしてもらいました。ちょうどその頃、「ゴジラ-1.0」がアカデミー賞の視覚効果賞を獲って、山崎貴監督がいろんな媒体やYouTubeに出演されていたんです。そこで「あの頃、君を追いかけた」が好きだとおっしゃっているのを見て、「『赤い糸 輪廻のひみつ』というギデンズ・コー監督の新作を今日本で公開しています。観てください!」とお願いしたら観てくださって、コメントも寄せてくださった。劇場での山崎監督とギデンズ・コー監督のオンライン対談まで実現できて、本当に貴重な体験でした。 そんなこんなで、3カ月粘ったんですが、2024年7月には上映が終了することになった。これで本当に終わっちゃうのかなと。
小島 2024年の夏から上映館がガクッと減っていたんです。映画って公開して半年ぐらいが限界なんだなと思いました。我々がそこから先できることはなかった。
葉山 劇場に売り込んでも、「もう半年も前に東京で公開されてるんでしょ? 今からはちょっと……」という反応でしたね。
小島 もともと最初のファーストランのときにもいろんな劇場に声は掛けていたんです。でも「台湾映画はお客さんが入らないから」と、門前払いだった。
葉山 結局、アジア映画や台湾映画、ギデンズ・コー監督の作品に思い入れがある映画館のみの展開だったんです。「ギデンズ・コー監督の新作なら上映したい」と言ってくれる劇場さんのおかげで、半年間上映できました。
小島 「あの頃、君を追いかけた」を上映していた劇場にも当たっていったんですが、あの作品ですら地方ではあまり入っていなかったようで……。薄々わかってはいたんですが、台湾映画ってあまり認知されていなくて、上映するのが難しいんだなと思いました。
葉山 「赤い糸」は大ヒット作で、台湾の大作なのに、それでもダメなのか……とあきらめモードになりました。でも映画パーソナリティの伊藤さとりさんが「面白かった」と発信してくださったり、お客さんも「最高なのにもう観れないんだ……」って残念がってくれて、やっぱり終わらせたくないと思ったんです。だから当時は血迷って、もうこれは吹替版を作るしかない!って。
小島 ある日突然、「今から怖いこと言うんだけど。吹替版を作らない?」って言われて(笑)。
葉山 「小咪(シャオミー)は長澤まさみさんにやってもらおう! そしたらお客さん来るはず!」なんてね。
小島 ただそこはさすがに私がストップを掛けてしまったんです。吹替版の制作期間と上映権利切れの時間を考えるとペイできないと思った。
葉山 私が長澤まさみさんがいいって言ってるしね(笑)。
一同 (笑)
葉山 ただやっぱり「赤い糸」は絶対日の目を見るべき映画だし、なんとかしたい。台湾にゆかりのあるスターに吹替してもらって、舞台挨拶にも登壇してもらって、全国にアピールするしかない!と最後の手として、もうそれしか思い浮かばなかった。
小島 確かに、「赤い糸」の少年マンガ要素とか、ファンタジー要素を考えると、アニメ好きにアピールするというのは1つの正攻法ではあったと思うんです。ただいかんせん時間がなかった。
葉山 実際お金もないしね……。
小島 すでに新作ではないから、スターの稼働がないとなかなか劇場も決まらないと思います。
葉山 吹替案も消えて、これで終わるんだなと。復活させる案が浮かばないまま年を越すことになりました。
小島 ただその頃にドリパス(※)が動き出したんです。東京での上映が終わってしまって、観る術がない中で、もう1回観たいと思ったお客さんが声を上げてくれた。
※編集部注:ドリパスは、リクエストの多い映画を映画館で上映できるオンデマンドサービス
葉山 年末だったこともあって「2024年のベスト映画」に挙げてくれる人がいっぱいいたことも追い風になりました。ドリパスで900位くらいだったところから突然30位くらいに上がって。そこから「公式も投票しています!」ってお客さんに呼びかけるようになりました。そんなことをしながら、東京の名画座にも営業をかけたんですが、上映する機会には恵まれなかった。だからカフェを借りて上映会をしようという案も出ていました。
小島 実際にそういう企画で声は掛けていただいていたんだよね。
葉山 そうしたら、ある日、「赤い糸」をずっと推してくれている映画評論家のくれい響さんから「池袋の新文芸坐が上映してくれそうだよ」という電話が掛かってきたんです。くれいさんから電話が掛かってくることも初めてだったのでびっくりしたんですが、「この映画が大好きだから、支配人に話していたんだ。ドリパスが盛り上がっているのも後押しになって、上映してくれそうだよ」って。もちろん名画座は当たっていたんですが、新文芸坐はキャパが大きすぎて無理だろうと思い、営業には行っていなかったんです。
小島 だからお話をいただいても、席が埋まるのか不安だったんです。まったく入らなかったら私たちもつらいし、劇場さんもつらい。何より怖かったのは、「赤い糸」はこんなにすごい作品なのに、日本で上映するのは難しかったと証明されてしまうことでした。そうなればこれから先、台湾映画は今まで以上に日本で配給が付かなくなってしまう。私たちも買えなくなるし、ここが限界なのかというのを知ることになったらと、不安だったんです。
葉山 2025年3月の時点で東京では半年以上ぶりの上映だったし、お客さんがどういうテンションで待っていてくれているのかもわからなかったんです。だから一か八かみたいな感じでした。
小島 でもふたを開けてみたら、チケットはすぐに完売だったんです。
葉山 まじか!?って思ったよね。
──そこでこの作品は来る!という手応えをはっきり感じたんでしょうか?
葉山 この作品いけるかも?と2023年の冬に思いましたが、我々の力不足で、映画のポテンシャルを生かせないまま1年強という時間が過ぎてしまった。でもようやく、あのタイミングで皆さんの口コミの力が弾けて、実を結んだんだと思います。配信もソフト化の予定もない作品なので、どうにか劇場で観るしかないと、お客さんも盛り上がってくれた。新文芸坐が完売したから、各地で上映しましょうかという流れにもつながっていきました。その頃には、私たちもお客さんの前でトークすることに、躊躇しなくなっていたんです。劇場に営業をかけるときに、「1人でもお客さんが来てくれるなら私たちが行きます!」とアピールしたら「来てくれるんだったら上映しましょう」と言ってくれる劇場さんもあった。
小島 ファーストランで上映してくれた京阪神の劇場がもう一度上映したいと言ってくれたほかに、新たに上映してくれる劇場さんもあった。「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」が日本でヒットしていたことも追い風になったと思います。
葉山 「赤い糸」を観ている人が、「トワウォ」のエモさと通じるものがあると、SNSで薦めてくれたんです。「トワウォ」のファンの方が「赤い糸」も観てくれました。
小島 「トワウォ」だけでなく、インド映画のファンにも刺さってくれたと思います。物語の中で描かれる輪廻転生だったり、ジャンルミックスという部分との親和性が高かった。
葉山 今年の春から、今まで、ずっと途切れることなく上映できているのは本当にお客さんの口コミのおかげなんです。ただ、きっかけ待ちではあったと思います。最初から「赤い糸」は皆さんに愛される力があったのに、かわいそうな思いをさせてしまったんです。
小島 私たちでは、魅力を十分に引き出すことができなかったんですよね。
葉山 多くの劇場に上映してもらう配給力というのが大事だと痛感しています。ファーストランから多くの方に観てもらうことができれば、そこからもっと速く、作品の魅力が広がっていたと思います。
──この作品の一ファンとしては、お二人が配給されたからこそという部分も非常に大きいのではないかと感じています。どんな人が配給しているのか顔が見えて、お二人の作品への強い思いに触れることができたことで、より「赤い糸」を応援したいなという気持ちが増していったように思います。
葉山 “顔の見える配給”ではありますよね(笑)。ひたすらSNSをがんばったり、積極的に登壇したり、必死だったんですが、そこに響いてくれた方がいたのなら本当によかったと思いますね。
小島 でも難しいところで、あくまでも作品は作品としてあるべきで、私たちの色を付けてはいけないと思っているんです。黒子に徹することができるのであれば、そうするべき。ただ何より「赤い糸」に興味を持ってもらいたくて。もし私たちの話を聞きたい人がいるのであれば、登壇しようとやってきました。
葉山 「赤い糸 輪廻のひみつ」は観たあと、誰かと気持ちを共有したくなる映画だと思います。我々がこの映画のファンとして、率先してお客さんと気持ちを共有することで、作品が盛り上がればいいなと。「赤い糸」、ギデンズ・コー監督、そして台湾映画がこれで少しでも盛り上がればうれしいです。
小島 監督にも日本での状況は報告していて、ロングランを喜んでくれています。こうやって盛り上がれば絶対に次の作品へとつながっていく。台湾映画の魅力が、今まで広まらなかったのは、日本に作品が入ってきても、作品同士がつながっていかなかったからだと思います。ある監督の新作が日本で上映されて、そこで興味を持っても、過去作が日本では権利切れで観られないということも多い。その人の作家性を知っていくことができないんです。
葉山 「あの頃、君を追いかけた」ですら、今は日本で観られない。台湾映画ファンの1人として、そういう状況を変えていきたいと思っています。もっと日本で台湾映画が観られるような環境を作っていきたい。ギデンズ・コー監督の新作が2月に台湾で公開されるんですが、この流れの中で、日本でもドーンと公開されてほしいです。
──しかもすぐに日本に来てほしいですよね。
小島 そうなんです! 時間を開けずに来てほしい。
葉山 結局我々の目標というのは、とにかく台湾映画を盛り上げて、1本でも多く台湾映画が日本で公開される状況を作ることです。「赤い糸」を公開させたことで、少しでもその土壌作りができているといいのですが……。
小島 実際、「赤い糸」を観てワン・ジンを好きになった人が、「鬼才の道」にもワン・ジンが出ているからと劇場に足を運んでくれているんです。確実につながっている。
葉山 それがすごくうれしいんだよね。「赤い糸」を観て、ワン・ジンを知った人が「鬼才の道」も観て、そこから今度は「返校 言葉が消えた日」を振り返るという流れもできている。お客さんが、台湾映画には面白いものがたくさんあるんだと知ってくれれば、日本の配給会社だって買おうと手を上げてくれるかもしれない。
小島 我々の観たいものが、しっかり入ってくるという状況を作っていきたいですね。
──11月末で上映が終わってしまうのは本当に寂しいですが、また劇場に足を運びたいと思います。
葉山 ラストスパートで、“怒涛の上映ラッシュ”が始まっているので、私たちも最後までできることはやろうと思っています。「赤い糸」を私たちが配給することになったのはミラクル。この作品を愛して下さった方々の気持ちだけでここまでやってこれました。私たちはお礼を言うだけです。
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