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劇団普通『季節』 どこにでもありそうな親戚の会話のリアリティが観る者の感情を揺さぶる!

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第33回読売演劇大賞の中間選考会で演出家賞のベスト5に選出されるなど、いま注目を集める石黒麻衣が主宰する劇団普通の最新作『季節』が12月5日よりシアタートラムにて上演される。年に一度の集まりで顔を合わせた親戚たちの会話を全編、茨城弁で紡ぎ出す本作。初日に向けて稽古が進められている都内の稽古場に足を運んだ。

登場人物は全部で8名。実家を継ぎ、年老いた両親の面倒を見ながら茨城で暮らす男とその妻、既に成人し、東京で暮らす娘と息子。男の兄、いとこ、そして叔父と叔母という、以前から互いをよく知る極めて近い親戚である。

この日、稽古が行われたのは、とある会話のシーン。男と娘と息子、兄、いとこ、叔父が部屋でくつろぎながら何気ない会話を繰り広げる。ああしたかった、こうしたかったと当時の進学希望を語るいとこ。それを一蹴する兄。意見を求められ、ふと本音を漏らす息子。何気ない、本当にどこの田舎でも繰り広げられているような会話が展開する。

やがて叔母と妻がやってきて、会話に加わる。ここでも、叔母が外での作業中に蚊に刺されたという話に始まり、窓を開けるか閉めるか? 近所に暮らすある一家の息子が東京で就いた職業についてのウワサ話、さらには、この日の集まりを欠席した、いとこの父親であり、叔父にとっては弟である“アツシ”についてなど、次々と話題は移っていく。

どこにでもありそうな、他愛のない田舎の親戚同士の会話……なのだが、聞いていて、なぜか思わず笑いがこみ上げてくる。

例えば、いとこの父(つまり男にとっては叔父)であるアツシが親戚の集まりに顔を出さないのは体の具合が悪いからなのか? 男が軽い気持ちでそう尋ねると、いとこは「そんなことはない」「元気だ」と明確に否定する。にもかかわらず、周りは即座に「え? 具合が悪いの?」、「医者に診てもらったら?」と反応し「アツシは体の調子が悪い」という前提で会話が進んでいってしまう。

それなりの大声で話しているにもかかわらず、なぜか「え? なに?」と何度も聞き返し、そのうえ、返ってきた答えと正反対の事実を認識する……。傍から客観的に見ていると、思わずツッコミを入れたくなるような滑稽なやりとりだが、単にコミカルなディスコミュニケーションとして笑えるというより、心のどこかで「あるある!こういう感じ」、「あぁ、うちの実家と同じ……」と自分事として突き刺さってくる絶妙なリアリティがある。不毛とも思えるような、噛み合わない会話のキャッチボールによって、ホコリが積もるように少しずつ心の中に重なっていくあきらめの思いや徒労感、怒り……。それぞれの言葉の端々から見え隠れするニュアンス、ちょっとしたリアクションや表情から、必ずしも全員が望んでここにいるわけではないという空気感がひしひしと伝わってくる。

登場人物たちがそれぞれ醸し出す、日常の中にある“リアリティ”こそ、まさに演出の石黒が俳優陣に求めているもの。この日の稽古の中で、そんな石黒の狙いが感じられたのが、野間口が演じる叔父が発するセリフに対する、他の面々のリアクションについての演出。

叔父が近所の家の息子に感嘆し、発したある台詞に対する、残り7人のリアクションについて、石黒は「同じようにならずに、キレイにバラけてほしい」と要望を口にする。かといって細かくひとりひとりの反応について「こういう方向性で」などと指示をすることはない。叔父の言葉に同意して深くうなずくのか? 軽く受け流すのか? それとも眉をひそめるのか…? 何度か同じシーンの稽古を繰り返しつつも、ハッキリとした“正解”を明快な言葉で提示することなく、石黒は「ひとりひとりのアイデンティティが確立されたら自然とバラけると思います」と語り、あくまでも個々に委ねていく。

ひとつひとつのシーン、ひいては物語全体がどこに着地し、どういう結末を迎えるか? という“結果”以上に、その場のリアルな会話、空気感を重視し、細かいリアクションやセリフのトーン、感情の流れをじっくりと丁寧に詰めていく。そうすることによって、それぞれの登場人物(特に男たち!)が内面に抱えている鬱屈した感情や苦悩、怒り、やるせなさなど様々な感情がじわじわと浮かび上がってくる。

実際、この日、見学した約2時間の稽古で行なわれたのはほぼ、上記のシーンだけで、どのようにこの物語が始まり、どんな結末を迎えるのかは、明らかにされることはなく、作品の全体像がいまだに見えてこないのだが、にもかかわらず、このわずか十数分のやりとりからだけでも、この作品の持つ“色”や“湿度”がハッキリと伝わってきて、いったいどんな物語ができあがるのか? という期待を抱かされた。

本格的な稽古が始まったのが10月の下旬。約6週間の丁寧な積み重ねを経て、どのようなやりとりが茨城弁によって舞台上で繰り広げられるのか? 楽しみに待ちたい。

取材・文・撮影/黒豆直樹

<公演情報>
世田谷パブリックシアター フィーチャード・シアター
劇団普通『季節』

日程:2025年12月5日(金)〜14日(日)
会場:シアタートラム

[作・演出] 石黒麻衣
[出演]野間口 徹 / 川島潤哉 / 中島亜梨沙 / 金谷真由美
岩瀬 亮 / 細井じゅん / 安川まり / 用松 亮

チケットURL:
https://w.pia.jp/t/gekidanfutsu/

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