泉鏡花の美学が芽吹く初期の結晶、小説「黒百合」初舞台化! 杉原邦生(演出)、木村達成、白石隼也に作品へかける思いを聞く
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(左から)杉原邦生、木村達成、白石隼也
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すべて見る魔所に咲くという幻の花を巡る、泉鏡花の初期の小説「黒百合」を初の舞台化。演出を杉原邦生が手がける。そこで、華族の血を引きながらも裏の顔も抱えている千破矢滝太郎役の木村達成と、盲目の青年・若山拓(ひらく)役の白石隼也を加えた3人に、現在の胸の内を聞かせてもらった。
――今回が泉鏡花の作品を手掛けるのは初とのことですが、作品世界は杉原さんにぴったりだと思いました。
杉原 それは嬉しいです! 僕も演劇や歌舞伎で観ていて、面白そうだなと興味をそそられる反面、演出するのはとても難しそうだなと長年思っていました。それだけに(世田谷パブリックシアター芸術監督の)白井晃さんからお話があった時は、ゲッ! と思って(笑)。ただ藤本有紀さんの脚本の構成が素晴らしく、自分の中で強く興奮するものがあったので、ぜひやらせていただきたいと思いました。
――これまでに映像化も舞台化もされていない、それだけ難しい作品ということなのでしょうね。
木村 アンタッチャブルだったのかな(笑)。
杉原 そうかも。でも逆に初めてだからこそ、やりがいもあると思うんだよね。
木村 確かに!
――滝太郎役に木村さんをキャスティングされた理由は?
杉原 『血の婚礼』(22年)でご一緒した時、共に高みを目指して創作できる俳優だなと思いました。今時の若者っぽさと同時に古風なところもあり、粗野な感じと美しさを併せ持っている。滝太郎にぴったりだと思いました。
木村 まずは杉原さんがこのスペクタクルな作品をどう演出するのか、非常に気になりました。杉原さんのように自分にはないものを持っている方と一緒にやることで、またなにか新たに掴めるものがあるとしたら……。それは最高な瞬間だと思ったので、ぜひお願いします! とお返事しました。
――拓役の白石さんはオーディションだったそうですね。
杉原 オーディションの時の第一声が、僕が想像していた拓の声とまったく違っていて、逆に印象に残ったんです。やっぱり演劇って演出家の脳みそひとつで作るものではないですから、同じ発想の人を集めても面白くならない。そういう意味でこれは面白くなるんじゃないかという直感から、白石さんにお願いすることにしました。
白石 実はオーディションの日までにあまり時間がなかったのですが、結構な長台詞を必死で覚え、原作も読んだんです。だからこれは意地でも受かりたいなと思って(笑)。
杉原 そういう熱量って大事ですよね。ただ、台詞を覚えてきてほしいとお願いしたわけではないんですが……(笑)。
木村 でも役者としてはそこまで見られているんじゃないかと思っちゃうんですよ!
白石 ですよね! なので出演が決まって本当に嬉しかったです。
――ご自身の役どころについて、現状ではどんな人物として捉えていますか?
木村 本当に欲しいものはなにかと探している、その姿は自分が役者として生きている中でかなり被る部分があるのではないかと思いました。あとは、実は心に大きな穴が開いているというのも、人間って完璧じゃないんだ、ということを改めて気づかせてくれるというか……。
白石 そしてそれを肯定してくれるのが泉鏡花なんですよね。
木村 そうそう!
白石 拓は盲目なのですが、僕の周りにも大事なものを失った友達がいて、拓のことを思う度に彼のことが浮かんでいました。僕自身はそういう喪失体験はまだありませんが、彼を思うと拓という役に対しても共感できますし、彼のためにも大切に演じたいと思っています。
――幻想的で壮大な世界観は泉鏡花作品が持つ魅力の一つでもありますが、その表現方法としてどんなことを考えていますか?
杉原 まず脚本の藤本さんが、勇美子という役に、僕が泉鏡花作品の一番の魅力だと感じていた“俯瞰の目”を託してくれました。そこはきちんと空間として表現していきたいなと。あと今回美術を務めていただく堀尾幸男さんが、非常に発想力豊かな方で、演出的にこれどうやって使ったらいいんだろう? と思うようなアイデアも飛び出しています(笑)。まだ打ち合わせを重ねている最中ですが、かなりダイナミックな空間になるんじゃないかと思います。また音楽の宮川彬良さんも天才的な発想の持ち主ですし、振付・ステージングの下島礼紗さんも素晴らしい身体感覚と感性を持った振付家です。特に下島さんは、あの世代には珍しいアングラな匂いのある方なので、泉鏡花の世界にめちゃくちゃ合うと思うんです。
――最後に杉原さんに、この『黒百合』という作品から、お客様にどんな体験をお届けできたらと思いますか?
杉原 やっぱり僕は、劇場って興奮する場所であってほしいと思うんです。この『黒百合』はそういうスケールの大きさを持った作品だと思いますし、それを体現できる俳優、スタッフがそろってくださいました。ぜひ劇場へその大きな興奮を味わいに来て欲しいなと思っています。
取材・文:野上瑠美子
撮影:源 賀津己
スタイリスト
木村達成:部坂尚吾(江東衣裳)
白石隼也:岡部俊輔
杉原邦生:岡村春輝
ヘアメイク
国府田圭、沖山吾一(白石隼也のみ)
衣裳(木村達成)
ニット(eleventy / 三喜商事)、リング、ブレスレット (共にTANAKA PRECIOUS METALS / 田中貴金属)/トラウザーズ(:colon / M co.,ltd)/シューズ (RENDO)/ベルト(BEORMA LEATHER COMPANY / GRIFFIN INTERNATIONAL Ltd.)
〈公演情報〉
舞台『黒百合』
日程:2026年2月4日(水)~22日(日)
会場:世田谷パブリックシアター
[原作]泉鏡花
[脚本]藤本有紀
[演出]杉原邦生
[音楽]宮川彬良
[美術]堀尾幸男
[照明]北澤真
[音響]稲住祐平
[衣裳]西原梨恵
[ヘアメイク]国府田圭
[振付・ステージング]下島礼紗
[所作指導]藤間貴雅
[演出助手]山下茜
[舞台監督]南部丈
[世田谷パブリックシアター芸術監督]白井晃
[出演]
木村達成 土居志央梨 岡本夏美 白石隼也
村岡希美 田中佑弥 新名基浩 猪俣三四郎
内田靖子 鈴木菜々 佐藤俊彦
大西多摩恵 外山誠二 白石加代子
スウィング:小林宏樹 松本祐華
チケットURL
https://w.pia.jp/t/kuroyuri/
公演オフィシャルサイト
https://setagaya-pt.jp/stage/25221/
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