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新制作3本が話題 多彩な魅力届ける新国立劇場オペラ新シーズン

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チケットぴあ

撮影:阿部章仁

1月20日、新国立劇場が2026/27シーズンのオペラ公演ラインアップを発表。同日開かれた説明会見には、ブリュッセル滞在中のオペラ芸術監督・大野和士もオンラインで参加した。シーズンは今年10月から来年7月まで。以下の全10演目(47公演)が上演される。

【新制作公演】

ロッシーニ《イタリアのトルコ人》
2026年10月(5公演)、指揮:アレッサンドロ・ボナート、演出:ロラン・ペリー

テアトロ・レアル2023年公演より © Javier del Real | Teatro Real

ベンジャミン・ブリテン《ピーター・グライムズ》
2026年11月・12月(5公演)、指揮:大野和士、演出:ロバート・カーセン

ミラノ・スカラ座公演より Photo: Brescia and Amisano © Teatro alla Scala

ヴェルディ《マクベス》
2027年6月・7月(6公演)、指揮:カルロ・リッツィ、演出:ロレンツォ・マリアーニ

【レパートリー公演】(既存プロダクションの再演)

モーツァルト《フィガロの結婚》
2026年12月(4公演)、指揮:阪哲朗、演出:アンドレアス・ホモキ

プッチーニ《トスカ》
2027年1月・2月(6公演)、指揮:ドナート・レンツェッティ、演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ

R.シュトラウス《サロメ》
2027年2月(4公演)、指揮:沼尻竜典、演出:アウグスト・エファーディング

ピエトロ・マスカーニ/ルッジェーロ・レオンカヴァッロ《カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師》
2027年3月(5公演)、指揮:大野和士、演出:ジルベール・デフロ

R.シュトラウス《ばらの騎士》
2027年4月(4公演)、指揮:パトリック・ハーン、演出:ジョナサン・ミラー

ヴェルディ《ファルスタッフ》
2027年4月(4公演)、指揮:マウリツィオ・ベニーニ、演出:ジョナサン・ミラー

チャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》
2027年5月(4公演)、指揮:アンドリー・ユルケヴィチ、演出:ドミトリー・ベルトマン

新制作は現シーズンより1本増えて3演目。喜劇の“粋”から心理劇の深淵、そしてシェイクスピア悲劇の濃密な音楽ドラマへ。オペラの多彩さを実感できる新制作ラインアップとなった。

シーズン開幕を飾るロッシーニ《イタリアのトルコ人》は、オペラ・ブッファ(喜劇)の醍醐味が凝縮された一作。気まぐれな女主人公を中心に、思い込みと駆け引きが連鎖する恋愛喜劇。そのドタバタを、ロッシーニは音楽で鮮やかにさばいてみせる。軽やかなアリア、歯切れのよい重唱がスピード感を生み、上演機会の少ない作品ながら、音楽がドラマを転がしていく快感が、初めての人にも伝わりやすい。

演出のロラン・ペリーは、大野が「おしゃれでスパイシーな舞台を届けてくれる」と評する鬼才。新国立劇場での前作の、現代の博物館を舞台に、眠っていた古代が動き出す《ジュリオ・チェーザレ》(2022年新制作)も記憶に新しい。今回は「フォトノベル」(1950~60年代のイタリアで大流行した、絵の代わりに写真を用いたロマンス漫画)がコンセプトの中心になるという。

《イタリアのトルコ人》はもともと、オペラの題材を探す詩人が登場人物たちの騒動を観察し、それを台本へと仕立てる過程を物語に組み込んだ、メタシアター性を持っている。観客は、舞台で起きている出来事と、それが「作品」として形づくられていく視点とを同時に目撃することになる。そのメタシアター性をそのまま視覚化するかのように、舞台上の物語が巨大なフォトノベルとなって出現する模様。喜劇の妙味を洒脱に引き出してくれそうだ。

指揮は、新国立劇場初登場となるイタリアの若手、アレッサンドロ・ボナート。ドンナ・フィオリッラ役にはクラウディア・ムスキオ。2024年上演の《夢遊病の女》で急遽の代役ながら、繊細な歌声でオペラ・ファンを魅了した可憐なソプラノだ。彼女をめぐる3人の男たち、トルコ王子セリム役のジョルジ・マノシュヴィリ(バス)、ドン・ジェローニオ役のパオロ・ボルドーニャ(バス・バリトン)、ドン・ナルチーゾ役のルジル・ガティン(テノール)もロッシーニ巧者が揃い、アンサンブルの華やぎも大きな魅力となりそうだ。

テアトロ・レアル、リヨン歌劇場との共同制作。

ブリテン《ピーター・グライムズ》は芸術監督の大野自身が指揮する。昨年11月に新制作上演されたベルク《ヴォツェック》と並ぶ、20世紀オペラの金字塔だ。漁村社会で孤立する主人公の悲劇を通して、集団と個の緊張関係が描かれる。海を思わせる管弦楽のうねりが、物語と人物の内面を雄弁に語る。大野は「時代が巡っても変わらない人間普遍のテーマ」と捉え、会見でも「このオペラを通じて、人間性とは何かを自分たちに問いかける機会になれば」と思いを語った。

演出は新国立劇場には初登場のロバート・カーセン。2023年10月にミラノ・スカラ座で初演されて話題を呼んだプロダクションだ。海外評によれば、映像や照明を効果的に用いながら、主人公ピーター・グライムズの内面と、エスカレートする集団心理の暴力性を心理劇として現代的に浮かび上がらせたという。ブリテンの音楽が象徴する〈海〉のイメージについて、カーセン自身も「海はグライムズの内側で起きている出来事の反映」と語っている(スカラ座公式インタビュー)。

グライムズ役には、スカラ座初演でも同役を歌ったテノール、ブランドン・ジョヴァノヴィッチ。この役は、初演者ピーター・ピアーズに代表される英国テノールの伝統と結びついてきた。内省的でいくぶんくぐもった響きが、社会から孤立する男の姿を浮かび上がらせてきたと言えるだろう。ワーグナーも歌う力強い声と同時に心理的な深い人物表現で評価の高いジョヴァノヴィッチが、どのようなグライムズ像を提示するのか興味深い。グライムズの数少ない理解者であるエレン役も、やはり繊細な抒情性と内省的な演技に定評のあるソプラノ、サリー・マシューズが演じる。重要なウェイトを占める新国立劇場合唱団の圧倒的な存在感にも注目したい。

そして2027年6~7月、シーズンのフィナーレを、3本目の新制作、ヴェルディの《マクベス》が飾る。シェイクスピア劇を初めて本格的にオペラ化した、ヴェルディ前期の重要作。権力への野心に取り憑かれ、罪の意識と疑念に追い詰められていくマクベス夫妻の転落を、濃密な音楽で描き出す。暗い色調の管弦楽、切迫した重唱や合唱が、内面的なドラマを強烈に推進する。

演出を委ねられたのは、新国立劇場初演出のロレンツォ・マリアーニ。2005年から2013年までパレルモ・マッシモ劇場の芸術監督を務めたベテラン。ちょうど本稿執筆中に、今年6月の兵庫県立芸術文化センターの佐渡裕プロデュースの《カルメン》新制作を手がけるというニュースも飛び込んできた。マリアーニの演出はしばしば、作品の核を壊さずに現代的な視点を差し込むバランス感覚で語られている。予言、暗殺、錯乱、そして破滅。《マクベス》の重厚な音楽にふさわしい、冷たい緊迫感と劇場的カタルシスの出現に期待が募る。

指揮は大野が「私の長い友人。オペラの真髄を披露してくれる」と信頼を置くカルロ・リッツィ。「完璧な人選」と言い切る。

作品の核となるふたりの主役に注目したい。題名役マクベスを歌うのは、エルネスト・ペッティ(バリトン)。予言と欲望に突き動かされて破滅へ向かう英雄。その「揺らぎ」と「崩壊」を描く難役を、ヴェルディのスペシャリストが演じる。マクベス以上に重要な存在感を放つのがマクベス夫人。「歌の中に声が深く込もる歌手」と大野が高く評価するカレン・ガルデアサバル(ソプラノ)が、権力への執念と精神の破綻を鮮烈に刻む。

なお、新シーズンからチケット料金が値上げされることも発表された。席種にもよるが、S席、A席でおよそ2,000円前後の上昇となる。足繁く通うファンほど悩ましい悲報ではあるが、現実的な判断として受け止めざるを得ない面もあるだろう。そのぶん、観る者を楽しませてくれる舞台が続くことを信じたい。

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