柿澤勇人×佐藤隆紀、並んで挑む2026年版『ジキル&ハイド』――楽はできない役だから
ステージ
インタビュー
柿澤勇人×佐藤隆紀 (撮影:You Ishii)
続きを読むフォトギャラリー(9件)
すべて見る
19世紀ロンドン。若き医師ヘンリー・ジキルは、老いて精神疾患を患う父を元に戻したいという思いから「人間の中にある善と悪の人格を分離できれば、悪を制御し、消し去ることができる」と考え研究を重ね、作り上げた薬を人体で試す段階まで到達する。しかし病院の理事会で大反対を受け、悩んだ挙句、自身の身体でその薬を試すことに。時を同じくして、街ではむごたらしい殺人が次々と起こっていた……。
スティーヴンソンの小説「ジキル博士とハイド氏」をもとに1990年にアメリカで初演され、日本では2001年以降、上演を重ねる人気ミュージカルが3年ぶりに登場する。これまで鹿賀丈史、石丸幹二、柿澤勇人が演じてきたジキル&ハイド役は、前回評判だった柿澤と、今回新たに佐藤隆紀が演じる。ふたりに意気込みを聞いた。
“いつかやりたい役”が、現実に

――日本でも人気の高い『ジキル&ハイド』ですが、おふたりのこの作品との出会いは。
柿澤 僕は鹿賀丈史さんが主演されているバージョンを、学生時代に観ました。まだ劇団四季に入る前です。その頃の僕は『ライオンキング』のことしか考えていなかったし(笑)、ミュージカルのことも全然詳しくなかった。だから衝撃でしたね。ディズニー作品などは、様々なタイプがあるとはいえ、ハッピーなものが多いじゃないですか。そういう物語がミュージカルになるんだと思っていたから、こういうダークな心を抉り出すミュージカルもあるんだと驚いたのを覚えています。
佐藤 僕はそもそもこの作品の音楽が好きだったのですが、実際にミュージカルとして観たのは、石丸幹二さんが演じたものが最初です。報われない話だな……と思いましたが、同時にやっぱり曲が良いという思いを改めて抱きました。ダイナミックな音楽で綴られる、壮大なミュージカルだな、と。
――劇中歌『時が来た』をコンサートで歌う方も多いですが、佐藤さんも歌ったりしていらした?
佐藤 ずっと歌っていました(笑)。ちょうど『レ・ミゼラブル』でジャン・バルジャンを初めて演じたあとくらいからかな。この先ミュージカルをやっていく中で、どんな役を演じたいかを考えた時に『ジキル&ハイド』をやりたい、いつか出たいと思うようになって。イベントやらコンサートやら、いたるところで歌ってアピールしていましたし、ファンの前では「いつか演じたいのはこの役」と公言していました。だから決まった時は本当に嬉しかったです。
「ヘロッヘロになります」(柿澤)
「いやもう恐怖……(苦笑)」(佐藤)
――佐藤さんのように「いつかやりたい」と言う俳優さんが多い作品、役でもあります。『ジキル&ハイド』という作品は、どこがそんなに魅力なのでしょう。

柿澤 一人二役とは少し違うのですが一人二役みたいなもので、役の振れ幅がとても大きい。まずここが一番です。このある意味でふたつの役を演じるには、当然身体の使い方も、声も変えないといけないので、芝居力が必要になる。俳優としてやりがいがあります。
佐藤 そうですよね。僕もふたつの顔の切り替えを見せられるというところにやっぱり惹かれます。
柿澤 ほんっとに大変で、ヘロッヘロになりますけどね(笑)。『対決』のシーンなんて、毎回僕は袖で倒れていましたもん。袖にいる時間もそんなにはないのですが、ハケたあとは衣裳さんに担がれて移動し(苦笑)、パイプ椅子に倒れこみ、酸素スプレーを吸入し「あと何秒(で次の出番)!」とスタッフさんに叫ばれるという……。
佐藤 うわぁ……。
柿澤 いや、鹿賀さんや石丸さんはそんなことなかったと思うから、単に僕の技術がないだけかもしれません。でもラクはできない役ですよ。

佐藤 僕はどうしても柔らかいイメージを持たれがちなのですが、意外と演じていて楽しいのは真逆の役。そういう顔を見せられたら、切り替えも最高に楽しいだろうなと思っていたのですが、今、その夢は打ち砕かれました(笑)。「楽しい」はないんですね……。
柿澤 (笑)。いや、楽しくやる方もいると思う。僕はどうしても毎回悩んで反省しちゃうタイプなので、どの作品でも「楽しい」と思うことがあまりないのですが、それは性格なので仕方ない。ごめんなさい、おどしみたいになっちゃって(笑)演じながらどんどんHPが削られていって、そうなると精神的にも追い詰められていっちゃうんです。
佐藤 いやもう恐怖……(苦笑)。
柿澤 ハハハ! でも大きなミュージカルをずっとやられているじゃないですか。今(取材時)は『エリザベート』をやっていて、『レ・ミゼラブル』ではジャン・バルジャンも演じて。バルジャンの方が大変なんじゃないかな? プロローグのところとか、すごいよね。よく倒れないなって思うもん。
佐藤 『レ・ミゼラブル』は冒頭15分くらい出ずっぱりでたしかに体力が削られます。ジャン・バルジャンも正直、朝起きて「あんな大変な思いを今日もするのか、劇場に行きたくない……」と思う時もあるんですよ。でも行かなかったら二度と使ってもらえないと思って、なんとか気持ちを奮い立たせています(笑)。
柿澤 そうだよね。
佐藤 でも『ジキル&ハイド』は出ている時間がとにかく長いし、僕にとってはおそらく今までで一番セリフが多い役。今までは歌で完結するものが多かったので、ここまでセリフが多い役というのもチャレンジなんです。自分には大きな挑戦なので、頑張りたいです!


――そもそも佐藤さんが、人を殺すような役を演じるのは珍しい気がします。
佐藤 間接的にはよく殺していますよ?
柿澤 どういうこと(笑)?
佐藤 たとえばロベスピエール(『スカーレット・ピンパーネル』)は革命の中で人を殺しているだろうし、ルイ16世(『マリー・アントワネット』)やフランツ(『エリザベート』)は部下に命令する中で人民を死に追いやってしまうこともあっただろうし。
柿澤 血のりを浴びたりは?
佐藤 それはないですね(笑)。そういう意味では新境地かも?
柿澤 後半、とても重要な殺人シーンがあるのですが、僕はそこでつい顔とかにも血を塗っちゃうんですよ。「落とすのが大変だからやめてください」とスタッフさんに言われているのですが、やめられなくて。だから今回の新演出版ではいつもやる方向で提案しようかと思ってる(笑)。
佐藤 正式に認めてもらおうと(笑)。
柿澤 そう、怒られない方向にもっていこうと思って(笑)。
佐藤 僕は直接人を手にかけるシーンは初めてなので、ハイドの心情を今からどんなふうに表現し作り上げていくのか。考えたりしています。
二重人格とは違う、善を信じたからこそ生まれた“悪”
――そんなおふたりが演じるヘンリー・ジキルとエドワード・ハイド、どういう人物だと捉えていますか。

柿澤 ヘンリー・ジキルはわかりやすく言うと、研究者で、世のため人のために何かしたい、善と悪を切り分けて悪をコントロールできたら絶対にいいことがあると信じて突っ走っている青年。若く、正義感に溢れている。その思いが高じて自分の身体を使って実験をしたら悲劇が起きてしまうという哀れな人物です。
佐藤 僕はまだ台本を読んだ印象なので、稽古をしてこの先また変わっていくと思いますが、ヘンリーは「とにかく考えが若い」と思いました。自分の中の正義を持っているのはいいけれど、すごく猪突猛進でちょっと危険。しかもその正義は自分にとっての正義であり、世間一般の正義ではない。正義感があるのは悪いことではないけれど、人間はいい面もあれば悪い面もあるから面白いし、大人になればなるほどそれを受け入れられるようになっていくんだけど、ヘンリーはそこまでに至っていない。自分の中にある正義感だけで突っ走っている人だなと思います。
柿澤 ハイドは、別人格というより、ジキルの一部だと思うんです。人間っていくらピュアだろうと正義感があろうと、表には出さない、腹の底に渦巻く暗い考えは何かしらある。それが薬によって出てきてしまった。だからルーシーと出会ったのはヘンリーだけど、その時何か――それは性欲かもしれないけど――を感じ、本来だったらそれは制しているのだけれど、表に出てきてしまった。ハイドが殺すのはジキルの研究を止めようとした権力者たちであり、無差別に殺しているわけじゃない、動機はジキルの側にあるというのが面白いところです。

佐藤 おっしゃるとおりで、僕も「二重人格ではない」という考えに共感します。ルーシーに会った時に感じ、でもヘンリーは抑えていたものが、ジキルとして噴出してしまった。人間は善悪併せ持つ存在なのに、彼は正義感が強いゆえに善の方だけを向いて生きてきた。だからこそ反発する悪が、薬によって大きく出てしまったのかな、と感じます。
――すでに話題に上がっていますが、フランク・ワイルドホーンさんの手がけた音楽も非常に魅力的な作品です。名曲『時が来た』を歌う時の心境は?
柿澤 芝居中に歌うと、すごく(気持ちが)アガりますよ! 冒頭で精神病棟にいる父親の無残な姿を見て、でも自分なら彼を救えるかもしれないと思い、さまざまな壁にぶち当たりながらも「自分で人体実験をしよう」と決意し歌う曲。心の旅路を芝居の中で構築していくと、自然と高揚した気持ちになります。ただ、この曲のあと、ハイドが生まれ、街を徘徊し、暴れるまでがノンストップなので、体力的にはめちゃくちゃ大変(笑)。とはいえテンションは上がるし、僕はそうなるとどんどん飛ばしちゃうから、いつも指揮の塩田明弘さんに「カッキー、抑えて!」と指示される(笑)。
佐藤 演者も客席もどんどんノセて、むしろ煽っていくタイプの塩田先生がジョッキーみたいに「落ち着け!」と(笑)。
柿澤 そうなんだよ(笑)。
佐藤 僕はまだ(芝居の中で歌っていないため)明るい『時が来た』しか歌っていないから、自分の中での感情が変化していくことを楽しみにしたいです。たしかに芝居を追うと、ただただ明るい希望だけではない。でもあくまでも希望はある。冒頭から演じてあそこにたどり着いた時、初めて出てくる気持ちがあるだろうから、それを自分でも大事にしたいです。
“今の自分”で向き合う『ジキル&ハイド』
――柿澤さんは本作で第31回読売演劇大賞 優秀男優賞を受賞していますが、柿澤さんにとって『ジキル&ハイド』はどんな作品になっていますか。
柿澤 すごく大切な作品ですし、技術的にも高度なことが要求されるので、いくらでもレベルアップして挑戦していける役です。僕の初日(2023年公演時)に鹿賀さんが観にいらしてくださったのですが「いいなあ、俺も30代でやりたかったな」とおっしゃっていました。鹿賀さんは50代で演じられているんですよね。体力的なことと蓄積が必要な経験値を考えたら、30・40代でやるのがベストだと思います。その意味でも、今の年代で挑戦できたのは本当に幸せなことだと思います。技術面では世界を見渡すとすごい方はたくさんいらっしゃいますし、今回はシュガー(佐藤の愛称)さんにも色々と教わりながら、さらに高みを目指していきたいです。
――最後に2026年版『ジキル&ハイド』への意気込みをお願いします。チラシには「柿澤ハイド、闇の境地へ/佐藤ジキル、狂気覚醒」とありますが……。
柿澤 キャッチコピーは、僕らがつくったわけではない(笑)!
佐藤 自分たちで言ってたらちょっと恥ずかしいですよね(笑)。でもキャッチフレーズをつけていただいたように、狂気が覚醒できるようにしたいです。「シュガーのままじゃないか? 狂気覚醒してる?」と思われないように(笑)。ワイルドホーンさんの曲が持つエネルギーに身を任せ、思い切り演じます!
柿澤 キャストも一新して、セットや演出も新しくなるとのこと。どう変わるかはまだわかりませんが、新鮮な気持ちで僕も挑めると思います。魅力的な作品だと思ってもらえるよう頑張りますし、僕自身も楽しみにしています。劇場でお待ちしております。

取材・文:平野祥恵 撮影:You Ishii
★柿澤勇人さん×佐藤隆紀さんのサイン入りポラを抽選で2名様にプレゼント!

【応募方法】
①ぴあ ステージ編集部(@PiaStage)のXアカウントをフォロー。
②該当ポストを応募締め切りまでにリポストしてください。
【応募締め切り】
2026年2月18日(水) 23:59まで
【注意事項】
※当選者の方には2月19日(木) 以降にXアカウントよりDMにてご連絡いたします。やむを得ない事情によりご連絡や発送が遅れる場合もございますのであらかじめご了承ください。
※当選後、お送り先メールアドレスについてご連絡頂ける方のみご応募ください。個人情報につきましては、プレゼントの発送以外には使用いたしません。
<公演情報>
ミュージカル『ジキル&ハイド』
原作:R.L.スティーヴンソン
音楽:フランク・ワイルドホーン
脚本・詞:レスリー・ブリカッス
演出:山田和也
上演台本・詞:髙平哲郎
【キャスト】
ヘンリー・ジキル/エドワード・ハイド:柿澤勇人/佐藤隆紀(LE VELVETS)(Wキャスト)
ルーシー・ハリス:真彩希帆/和希そら(Wキャスト)
エマ・カルー:Dream Ami/唯月ふうか(Wキャスト)
ジョン・アターソン:竪山隼太
サイモン・ストライド:章平
執事 プール:佐藤誓
ダンヴァース・カルー卿:栗原英雄
川口竜也 百々義則(劇団四季) 鎌田誠樹 三木麻衣子 川島大典
彩橋みゆ 池谷祐子 岡施孜 上條駿 川口大地 木村つかさ
熊野義貴(※) 藤田宏樹 藤本真凜(※) 真記子 町屋美咲 松永トモカ(五十音順)
※=スウィング
【東京公演】
2026年3月15日(日)~29日(日)
会場:東京国際フォーラム ホールC
【大阪公演】
2026年4月3日(金)~6日(月)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】
2026年4月11日(土)・12日(日)
会場:福岡市民ホール 大ホール
【愛知公演】
2026年4月18日(土)・19日(日)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
【山形公演】
2026年4月25日(土)・26日(日)
会場:やまぎん県民ホール
関連リンク
フォトギャラリー(9件)
すべて見る
