ミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』5〜6月上演、小林香(演出・上演台本・訳詞)にきく作品にかける思い
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インタビュー
小林 香(ミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』 演出・上演台本・訳詞)
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すべて見る韓国の大ヒットミュージカル『レッドブック』(ハン・ジョンソク脚本、イ・ソニョン作曲)が、ついに日本に初上陸する。物語の舞台は19世紀のロンドン。女性は淑女であることが求められる保守的な社会で、主人公アンナは周囲から“変わっている”と問題視されていた。官能的な小説を綴ることで自分らしさを表現する彼女は、その刺激的な“レッドブック”で世の中の偏見に立ち向かい、「私らしく」生きる道を見つけ出そうとする――。2018年の初演から再演を重ね、数々の賞に輝いた韓国創作ミュージカルの傑作だ。日本版の演出・上演台本を担うのは、話題の海外ミュージカルを多く手掛け、その手腕に定評のある小林香。韓国ミュージカルファンが注視する話題作の再構築に向けて、熱い思いを語った。
――本作の演出にあたって、韓国にオリジナルの公演を観に行かれたそうですね。
小林 はい。今回の演出についてはだいぶ前にオファーをいただきまして、その頃はあまり韓国ミュージカルについて詳しくなかったんですね。それから韓国を行き来して向こうの作品をたくさん観るようになり、現地の演劇関係のいろんな方にも出会わせていただいて、韓国におけるオリジナルミュージカルの作られ方や国の支援の仕方などを知って、今ようやく目覚めているという感じです。
この『レッドブック』は創られた時からこれまで10年もの月日が経ち、上演するその時代に合わせて改訂され、どんどん進化していった作品で、そうした作品を手掛けさせていただくことは凄く光栄です。“なぜ今なのか、なぜその時にやるのか”がミュージカルでは大事じゃないですか。私もそこが一番考え抜くところで、この作品自体がつねにアップデートされているので、そういった意味でも取り組みやすく、非常に楽しみにしています。
――ソウルで観た時の印象はいかがでしたか?
小林 このミュージカルがジャンルとしてどういう位置づけなのか、まったくわからない状態で台本を読んだ時に、コメディではあるけれど、それ以上に作品の持つ「私らしく生きる」というテーマが強く伝わって来たんです。韓国では、原作のハン・ジョンソクさんが、ジャンルはロマンティック・コメディと仰っていましたが、舞台もだいぶコメディ要素の強い上演がされていました。それを韓国のお客様がものすごく楽しんでいました。
韓国の方って笑うことが好きですよね。笑うことによるカタルシスが大きな演劇の土壌なんだな、というふうに感じました。私もコメディの軽やかさはキープしたいと思っていて、それとやっぱりときめきですね。ときめいていただいて、心が軽くなっているところに、伝えたいことがしっかり心に残るように演出したいと思っています。

――小林さんが伝えたいこととは?
小林 フェミニズムっぽい作品と思われるでしょうけど、確かにそれもありますが、誰にでも、すべての人に関係しているお話です。記録されることも語られることもない存在だったアンナが、自分のことを自分の言葉で語り出すように変化していく作品なので。自分のことを語るためには代償がついてくるけれども、それでもやっぱり語ることは素晴らしい、むしろ語っていかなければいけないのでは、といったことが軽やかに伝わればいいなと思います。
このタイトルの『レッドブック』、赤い本に、禁書だとか焚書、それか艶っぽい本などといろんなイメージを持たれると思うんですが、私はこのレッドブックの中に、とくに女性たちの血や肉が込められているような気がして。自分のレッドブックってなんだろう?
まだ開けていないものがあるんじゃないか、“らしさ”にとらわれて言えないこと、言わないことが美徳とされ、言わずにいることが正しいと思い込んでいることがきっとある。でもレッドブックにそれが語られているとしたら、その本はいったい自分にとって何だろう?
そんなふうに思っていただけたらいいですね。
自分たちの物語として伝わるように
――物語の背景は19世紀ビクトリア朝の英国で、その抑圧の時代に生きた女性の物語ではあるけれど、時代も国も超え、今を生きる誰にでも響くテーマですね。
小林 そうですね。最初に台本を読んだ時に、韓国のことよりも圧倒的にビクトリア朝のほうが自分にとって親しみがあると思ったんです。幼き頃から英米文学や映画などに接して、仕事の中でも勉強しますし、ビクトリア朝が何なのか、その時代の女性たちがどんな生活をしていたのかはそれなりに理解しています。
ただ、この作品の背景はビクトリア朝だけれど、その中身には、現代の韓国クリエイターたちのスピリットをすごく感じるんです。今度はそれを、日本に地続きの物語として伝わるようにしなければいけない。ビクトリア朝&韓国を日本にランディングさせなきゃいけないんですけど(笑)、「自分たちの物語だな」とわかりやすく伝わってきましたし、喜びを持って向き合える台本だなと思っています。
――主人公アンナを演じる咲妃みゆさんには、どんな期待を持っていらっしゃいますか?
小林 咲妃さんが宝塚を退団して3年目の2020年にミュージカル『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』でご一緒していまして、それから今日まで多岐にわたる舞台に出演されていますよね。ミュージカルだけじゃなくストレートプレイ、映画もテレビも、あらゆるジャンルに果敢に挑戦し、非常に高い評価を受けていらっしゃいます。
ご一緒した時も素晴らしかったけど、最近の作品を見るとさらに俳優として進化を遂げていらっしゃる。確かな実力とともにいい意味での危うさも持っていて、繊細だけど大胆でもあり、いたいけな感じもありながら強さもある。とても幅広い魅力を持った人です。あと、ちょっとヘンテコリンなところが私はとても好きで(笑)。そういったところでもアンナを存分に体現してくださると思います。

――そして、アンナと惹かれ合う真面目な新米弁護士ブラウンを、小関裕太さんが演じます。
小林 ブラウンという人は、誰もが共感できるキャラクターだと思うんです。社会の常識をちゃんと守りながら生活している人で、大概の人はそうではないかなと。優しくて社会性があって、恋に落ちる相手となったらもう小関君にピッタリ(笑)。ブラウンの勇気や誠実さを素敵に演じてくださると思います。
あと、お客様にキュンキュンしていただくことは絶対必要ですよね。公演の宣伝ビジュアルの小関君がキラキラしていて、あのチラシを見るとなんだか小関君に見つめられている気がするんですよ(笑)。彼はきっと女性たちを真っ直ぐに見つめ返してくれる人だと思うので、そういう意味でもいい仕事を一緒にできるだろうなと楽しみにしていますね。
――韓国で観劇を楽しむ日本人も増えています。『レッドブック』日本版、『レッドブック〜私は私を語るひと〜』を待っていたファンの方々、もちろん初めて観る方にも「私らしく生きる」テーマがどのように刺さってくるか、開幕が楽しみです。
小林 この作品を日本で上演するにあたり、コメディの部分をしっかり表すことによってメッセージが伝わるのでそこはしっかりやると同時に、ここには今の私たち、とくに女性や子供、貧しい人など立場の弱い側の人たちの問題が横たわっています。それをコメディのノリの中で終わらせてはいけないと思っていますね。その苦さや、「まだまだ考え続けなければいけないよね」といった問題意識を確かに手渡したい。
軽々しくないことを朗らかに、しっかり伝える。この両立をずっと考え続けています。「皆のことだから、皆で考えよう!」というふうに投げかけられたらいいなと思います。

取材・文/上野紀子
撮影/石阪大輔
〈公演情報〉
ミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』
〈東京公演〉
日程:2026年5月16日(土)~31日(日)
会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
〈大阪公演〉
日程:2026年6月27日(土)~30日(火)
会場:森ノ宮ピロティホール
〈愛知公演〉
日程:2026年7月4日(土)~5日(日)
会場:御園座
[脚本]ハン・ジョンソク
[作曲]イ・ソニョン
[演出・上演台本・訳詞]小林 香
[音楽監督]桑原まこ
[出演]
咲妃みゆ 小関裕太 花乃まりあ エハラマサヒロ
中桐聖弥 加藤大悟 伊東弘美 KENTARO
可知寛子 栗山絵美 高井泉名 井上花菜
伊藤広祥 感音 坂元宏旬 シュート・チェン
鈴木大菜 米良まさひろ 池田航汰(Swing) 石田彩夏(Swing)
/田代万里生
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/redbook2026/
公演オフィシャルサイト:
https://redbookjp.com/
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