黒木華がスマホで挑む『NORA』&内野聖陽の『リア王』 東京芸術劇場が「現代に問う」古典2作を連続上演
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すべて見る東京・東京芸術劇場では、2026年度より岡田利規を芸術監督(舞台芸術部門)に迎え、さまざまなラインナップを展開する。そのひとつとして、古典作品を徹底的に現代に問い直すことに継続的に取り組んでいく。26年度は、イプセンの名作『人形の家』を現代のスマホ中心の生活に移して描く『NORA』と、老齢化社会においてとみに注目を浴びるシェイクスピア傑作悲劇『リア王 -King Lear-』が連続上演される。
『NORA』は、ロシア出身でヨーロッパで活躍する若手演出家ティモフェイ・クリャービンの代表作。1879年にノルウェーで生まれたイプセンの『人形の家』は「父権的な家庭からの脱却」や「女性の自立」を描いた先駆的な作品で、トロフィーワイフ的な扱いを受けるノラがあることをきっかけに夫・ヘルメルのもとから離れていく物語だ。クリャービンは、この“古典”と呼ばれる会話劇を、メッセンジャーやフェイスタイムというSNSでテキストを送り合う“今ならでは”のコミュニケーションで表現することを決めた。セリフの8割は物語の登場人物たちが手元のスマートフォンを用いてやりとりする。登場人物らが打つスマホの画面は、リアルタイムで舞台上にあるスクリーンに映し出される。

クリャービンが演出した『三人姉妹』は全編が手話で演じられ、上演されるやいなや注目を集め、ロシアで最も権威ある演劇賞を受賞し、ヨーロッパ各国の芸術祭で大きな話題となった。東京芸術劇場は2019年に『三人姉妹』を東京芸術祭にてプレイハウスで上演し、そのストイックな演出は見る側に大きな衝撃と感動を与えた。
タイトルロールであり主人公のノラを演じるのは黒木華。さらに、ノラの夫ヘルメルを勝地涼、ノラの友人クリスティーンを瀧内公美、クログスタを鈴木浩介が演じる。
一方、『リア王 -King Lear-』はシェイクスピア四大悲劇の一つで、老境を迎える王が、権力も領土も娘たちの愛も全て失って転落するさまを描く。“老い”、“世代交替”、“相続”等、超高齢化社会の現代日本が抱える切実な諸問題を映し出す傑作ゆえに、近年上演されることが多く、同時代の名優が相次いでリア王役を演じる注目の作品だ。今回本作に挑むのは、日本演劇界を牽引する名演出家の森新太郎。彼がミュージカルから古典劇まで幅広く手がける作品はいずれも現代性、社会性が透徹しており、特にシェイクスピア劇の演出で見せる鮮やかな手腕は高く評価されている。

シェイクスピアのヒーローの中でも最難関のリア王役を演じるのは内野聖陽。演出の森とは、『東海道四谷怪談』『THE BIG FERRAH』に続く3度目のタッグとなる。リアの長女役を川上友里、次女役を内田慈が演じ、三女コーディリアと道化の二役を清水くるみが演じる。リアの重臣グロスター役には山路和弘、最後まで忠義を尽くすケント役には杉本哲太が配され、グロスターの私生児エドマンド役を前田公輝、嫡男エドガー役を井之脇海が演じる。長女と次女の夫役は和田正人、大山真志、従者オズワルド役は永島敬三の演技派が脇を固める。

両作品の上演にあたり、岡田芸術監督は『NORA』について「現在わたしたちの内面・心・魂をなにより映し出しているのは、なんといってもわたしたち自身のスマートフォンの画面。ですから、近代劇の古典中の古典、イプセンの『人形の家』を現代化するために、登場人物たちのスマートフォンを窃視し、画面上のやりとりを見せるという手法を駆使して物語を示していくティモフェイ・クリャービン氏の演出アイデアは、鮮やかであるばかりか、このうえなく真っ当です。古典を、現代を生きる私たちのためのものとして用いる。その最良の例のひとつとなるだろう『NORA』が、みなさまを挑発します」とコメント。
また『リア王』については「東京芸術劇場は、徹底的にヴィヴィッドな現代的問いとして機能させる、というコンセプトのもとで〈古典〉を扱っていきます。森新太郎さん演出、内野聖陽さん主演の、希望のなさに打ちひしがれた果てに残る問いをわたしたちに突きつけてくれるようなヒリヒリした『リア王』が生み出されます」とメッセージを寄せている。
『NORA』は2026年7月15日(水) から26日(日) まで、『リア王 -King Lear-』は9月21日(月) から10月4日(日) までの予定で東京・東京芸術劇場 プレイハウスで上演される。なお両作品とも地方公演が予定されている。
【『NORA』あらすじ】
主人公・ノラは弁護士の夫・ヘルメルと仲睦まじく暮らしていた。献身的に家族と夫を支えるノラと「可愛いわが妻」と優しく妻を扱うヘルメルの間には子どももいて、誰から見ても理想的な生活を送っていた。クリスマスイブ、年明けから信託銀行の頭取として着任予定のヘルメルのもとに彼の古くからの友人であるクログスタが訪れる。ヘルメルの部下になるはずだったクログスタは、実は周りからの評判が悪く、ヘルメルの頭取就任とともに解雇される運命にあった。代わりにクログスタのポジションに就くのはノラの友人で旦那を失ったクリスティーンだった。
【『リア王 -King Lear-』あらすじ】
長年王国に君臨した絶対権力者のリアは、王位と領土を譲渡すべく、娘たちの愛情を試す。甘言を口にする長女・次女をいさめて王に苦言を呈する三女コーディリア。最愛の末娘の不愛想な態度に激怒したリアはコーディリアを勘当し、長女・次女に領土を分割する。しかし頼ったふたりはリアを歓迎しない。その非道な仕打ちにリアは出奔し、道化とともに荒野で狂乱する。一方、臣下のグロスター家では、私生児のエドマンドの策略に嫡男エドガーが陥れられ、逃走。エドマンドはリアの長女と次女それぞれを篭絡して権力の座を目指す。悲惨な境遇の中で狂気に陥るリア、エドマンドの裏切りでとらわれて目をくりぬかれるグロスター。フランス王に嫁いだコーディリアはリアと再会を果たし、ふたりの姉に戦いを挑む。姉ふたりはエドマンドの愛、互いの領土をめぐって対立を深める……血で血を洗う抗争はやがて悲劇の結末を迎える……
■ロマン・ドルジャンスキー(『NORA』ドラマターグ)コメント
演劇の基盤は、俳優が戯曲中のせりふをイントネーションや声のボリューム、表情を変えながら交互にやりとりすることだが、今では急激に古めかしいものになってきている。その答えは簡単で世界が変わっている、もとい、人々がコミュニケーションを取る方法がものすごいスピードで変化しているからである。この15年の間にWhatsApp, Instagram, Viber, TikTok、その他さまざまなメッセージをやりとりするSNSが表れ、そして発展したことが根本的に関連している。コミュニケーションは今では多くのレベルで、しかも全く違うフォーマットで行うことができる。
恐らくこのコミュニケーションツールの発展は個々の国で、それぞれのやり方で広がっていることだけれども、世界的な流行であることは明らかだ。SNSはただのコミュニケーションのツールではなく、世の中の雰囲気を作り上げたり、意図的に操作したり、何かを規制したり、または、政治的な立場を表したりするツールでもある。会話の手段が変わり、言語も変わり、使う言葉も変わった。今は電話をしたり直接会ったりせずに、完全にテキスト上でのやりとりばかりをしている。楽で、双方向のコミュニケーションじゃなく、それゆえに安心だと思うからだ。テキストでのやりとりは日々の生活から切り離せない。
劇場文化は否応なく人生とは切り離せない。だが今日、往々にして劇場が「どんな物語」を上演しているかはさほど重要ではない。最も重要なことは「どんな風」に語られているか、私たちはヘンリック・イプセンによって150年前に書かれたストーリー(『人形の家』)を現代ならではのコミュニケーション言語で上演することを決めた。ヴァーチャルリアリティー(仮想現実)上で繰り広げられる生活は実際の生活と裏表一体で、大抵は完全に一致しなければ、全く相反することもない。最も正確に描かれた「その人の人物画」はスマートフォンの画面に現れる。
■『NORA』主演:黒木華 コメント
1879年に書かれた『人形の家』に、現代欠かすことのできないスマホが取り入れられることによって、ノラや他の登場人物たちの孤独や葛藤、欲求がより見えてくるのではないかと今からとても楽しみでなりません。
これまでのティモフェイのワークショップを拝見し、これからどのように『NORA』が作り上げられていくのか大変興味深く、面白い作品になるに違いないと感じています。
東京芸術劇場へ観劇によく行きますが、舞台に立つのは2011年の『南へ』以来になるので、久々の広大な空間をしっかりと味わいたいと思います。
■『リア王 -King Lear-』演出:森新太郎 コメント
リアというひとりの王の破滅だけでなく、ひとつの世界秩序がいとも簡単に、凄まじいスピードで崩壊する様を描けたらと考えています。人間をこうまで無知無力、虫けら同然だと感じさせるシェイクスピア作品を私は他に知りません。新時代への希望などほとんど……あるいはまったく謳われていない終幕だからこそ、この劇がいま必要なのだと思う次第です。魂の俳優・内野聖陽さんと共に、“リア王の荒野”に力強く分け入っていきたい。
■『リア王 -King Lear-』主演:内野聖陽 コメント
なぜいま『リア王』を演じるか? それは、自分が納得いくリアという作品を観てみたいからです。17世紀のシェイクスピアの時代も21世紀の現在も、人間ってのは大して成長してないなということ。そして、非常事態の中で見せる人間の本音の絡み合いは、やはりワクワクするものがあること。そういう作り手のワクワク感をお届けしたいのと、やはり、創作過程で自分たちが思いもよらなかった景色が見えて来たら最高だなと思っています。何よりリアという作品を、今、初老の段階に入っている自分なら、どう演じるのかを観てみたいという感覚があります。
この企画を立ち上げた時はこんなにも『リア王』ラッシュが続くとは思いもよりませんでした。『リア王』には現代に生きる我々が直面している問題が多いからなのではと思ってます。国のトップの覇権争い、親子・血縁・側近のディスコミュニケーション、そして、老いや健康寿命の問題などなど……またリアかよと思われるかもしれませんが、森新太郎演出のリアは、絶対に面白くなる予感がします。
まずはテキストを深く掘り下げて内野ならではの感性でリアを自由に羽ばたかせたい。そして才能ある共演者の皆様とのセッションで面白い景色をたくさん発見したいです。森新太郎さんという現代演劇の気鋭の才能に、演者としてたくさん提示して創造的なセッションがたくさんできれば、きっといい結果が生まれると信じてます。
ご期待ください。
<公演情報>
『NORA』
原作:『人形の家』ヘンリック・イプセン
演出:ティモフェイ・クリャービン
出演:黒木華 勝地涼 瀧内公美 鈴木浩介 ほか
2026年7月15日(水)~26日(日)(予定)
会場:東京・東京芸術劇場 プレイハウス
※宮城、愛知ほかにて公演予定
『リア王 -King Lear-』
作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:松岡和子
演出:森新太郎
出演:
内野聖陽
前田公輝 井之脇海 清水くるみ 川上友里 内田慈
大山真志 永島敬三 和田正人 杉本哲太 山路和弘 ほか
2026年9月21日(月)~10月4日(日) (予定)
会場:東京・東京芸術劇場 プレイハウス
※新潟、愛知、兵庫、岡山、福岡公演あり
関連リンク
『NORA』特設サイト:
https://nora.geigeki-classics.jp
『リア王 -King Lear-』特設サイト:
https://kinglear.geigeki-classics.jp
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