柿澤勇人の“危うさ”か、佐藤隆紀の“悲哀”か ――演出一新の『ジキル&ハイド』開幕!
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ミュージカル『ジキル&ハイド』より、Wキャストでヘンリー・ジキル/エドワード・ハイドを演じる柿澤勇人(左)と佐藤隆紀(右)
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すべて見るスティーヴンソンの小説「ジキル博士とハイド氏」をもとにしたブロードウェイミュージカル『ジキル&ハイド』が3月15日、東京国際フォーラム ホールCで開幕した。日本では2001年以降上演を重ね、今回で9演目となるヒット作。2026年版は舞台美術と振付含む演出が一新され、さらに主役のジキル&ハイドは、柿澤勇人が2023年から続投するものの佐藤隆紀が新たに加わり、新生『ジキル&ハイド』という装いでの登場だ。

物語の舞台は19世紀ロンドン。若き医師ヘンリー・ジキルは、老いて精神疾患を患う父を元に戻したいという気持ちから「人間の中にある善と悪の人格を分離できれば、悪を制御し、消し去ることができる」と考え研究を重ね、作り上げた薬を人間で試す段階まで到達する。しかし病院の理事会で大反対を受け、自身の身F体でその薬を試すことを決意。だがその結果、ジキルの中に眠っていたもう一つの人格エドワード・ハイドが解き放たれてしまう。時を同じくして、街ではむごたらしい殺人が次々と起こっていて……。サスペンスフルでドラマチックな物語展開に加え、日本でも人気の作曲家フランク・ワイルドホーンの最高傑作と名高い音楽は、1曲だけ切り取ってコンサートで歌われることも多い名曲揃い。物語と音楽がともに“ハイカロリー”で、観客の満足度も高い人気のミュージカルだ。
しかしながらその分、演者にとってはハードルが高い作品とも言える。特にジキル/ハイドを演じる主役は両極端な二つの顔を切り替える演技力と、パワーが必要な楽曲を聴かせる歌唱力が求められる。日本ではこれまで鹿賀丈史、石丸幹二という名優が演じてきたが、今期は柿澤&佐藤と新世代のトップランナー二人がこの難役に挑んでいる。

前回公演もその芝居力の高さで絶賛された柿澤ヘンリー・ジキルは、頑なな正義感を持ち、人付き合いが苦手で周囲と衝突しながら研究に没頭する、孤独な研究者といった風。周囲の無理解に対し怒りと悲しみを持ち、ジキルを生み出す前からギリギリの精神状態にあるような危うさがある一方で、意外なところでチャーミングな顔も混ぜてくるのは、柿澤の俳優としてのバランス感覚のなせる技だ。

またハイドになった時の暴力的などす黒さ、嗜虐的な表情も圧巻で、柿澤勇人という俳優の力に改めて唸らされた。後半のクライマックス『対決』はその柿澤の芝居と歌の凄みが最大限に活かされて聴きごたえのあるナンバーになっている。また、今期はジキルの歌をミュージカル的発声で聞かせ、ハイドをクラシカルな声楽的歌声で聞かせていたというのも面白い演じ分けだった。



今期初挑戦の佐藤は、これまで『レ・ミゼラブル』の主役ジャン・バルジャンなど数々の大作ミュージカルに欠かせない、ミュージカル界が誇る美声の持ち主。

こちらのヘンリー・ジキルは、社交性もある真面目な研究者が信念を貫こうと必死に突き進んだ結果、思わぬ落とし穴にはまってしまったような悲哀がある。これまでの日本のジキルにはいなかったタイプで非常に新鮮だ。また佐藤のハイドはしゃがれ声やかすれ声を混ぜながらも、セリフも歌声も明瞭であるところがさすが。もちろん佐藤の美声で聞く名曲『時が来た』や、ハイド誕生のナンバー『生きている』では、ミュージカルのカタルシスを存分に味わえる。




原点回帰の女性像、そして新鮮なアターソンとストライド
本作のダブルヒロインである娼婦のルーシー、ジキルの婚約者エマもそれぞれダブルキャスト。売春宿の売れっ子で客としてきたジキルに惹かれ、ハイドに執着されるルーシーは前回から続投する真彩希帆と新キャストの和希そら。この役は2018年公演、2023年公演とピュアさ、少女性が強調されてきたように思うが、今期は原点回帰のようなアダルトな魅力の女性像になった印象だ。


真彩は歌声の確かさとコケティッシュな魅力で男たちの視線を釘付けにするルーシー。和希は抜群のスタイルとアンニュイな魅力で危険な香りを漂わせるルーシーだ。そして二人ともその中に、純粋な心を切なく光らせる。エマ役も続投のDream Ami、初参加の唯月ふうかの二人体制で、ともに可憐な中にジキルに寄り添い支える芯の強さをしっかりと表現した。“変わり者”ジキルと婚約したことで色々と言われるエマだが、そんな失礼な人たちをDream Amiは笑顔で退け、唯月は不快感を微妙に表情に出しているような違いも面白い。


そのほかのキャストももれなく安定していたし、重厚な楽曲を素晴らしい歌声で支えていくアンサンブルの力も充実していたが、中でもジキルの親友で顧問弁護士であるジョン・アターソン役の竪山隼太、理事会の秘書官サイモン・ストライド役の章平の存在は特筆したい。

竪山のジョンは少しライトでお茶目、歴代のアターソンとはまったく違う新鮮さ。その中にもジキルを心配する優しさをしっかり見せる。一方で憎まれ役のイメージが強かったストライドを、章平は堅実な役作りでその奥にある人間関係も想像させるようなリアリティある人間として造形した。

これはジキル役含めた役者の実年齢からくる同世代感が醸し出す影響もあると思うが、この二役を芝居力のある二人が演じたことで、ジキルを取り巻く環境に深みが出て、それは新演出版の大きな特徴になっていると思う。
ほか、演出面では本火を使ったりする派手さは残っているものの、劇中の殺人シーンの見せ方などは抑え目になり、新演出版は総合的に、より芝居を深掘りし、じっくり物語を味わうものになった。とはいえもちろん畳みかけてくる名曲たち、ハラハラする物語展開で、エンターテインメント性の高いミュージカルでもある。終演後の高揚感、満足感は自信を持って保証しよう。
公演は3月29日(日)まで同劇場にて。その後4月には大阪、福岡、愛知、山形でも上演される。
取材・文・撮影:平野祥恵
メインキャスト6名から開幕コメントが到着!
■柿澤勇人

新演出のミュージカル『ジキル&ハイド』が開幕致しました。前回、3年前の公演とは大きく変わっておりますが、先輩方から引き継ぎました財産を糧に、大事に、大切に、リスペクトしながら新たなカンパニーでエネルギッシュなパッション溢れる作品にしていきたいと思います。最後まで駆け抜けます。劇場でお待ちしております。
■佐藤隆紀(LE VELVETS)

挑戦したいと願い続けてきた『ジキル&ハイド』。ついに初日を迎えます。稽古期間は、とても大きな発見や気づきの多い濃い時間となりました。演出の山田和也さんはじめ、演出助手、音楽監督、歌唱指導、振り付け、アクション殺陣、それぞれの先生方から沢山の助言をいただき、それを形にするために試行錯誤する日々でした。なかなか思う様に出来ず悩む毎日でしたが、ひとつずつ壁を乗り越え、今は公演をお届けするのが待ち遠しく、楽しみに思えています。皆様の記憶に残る舞台を全力でお届けしたいと思います!
■真彩希帆

ミュージカル『ジキル&ハイド』がいよいよ開幕します。善と悪という、人の中にある二面性を描いたこの作品の世界に、ルーシー・ハリスとして生きられることをとても幸せに感じています。過酷な環境の中でジキルと出会い、愛を知り、光を求めて生きようとするルーシー。その魂の美しさを精一杯お届けしたいです。エネルギッシュな音楽と共に、この作品が皆さまの心に強く残る時間になりますように。劇場でお待ちしています。
■和希そら

2026年『ジキル&ハイド』いよいよ開幕です。今回からの新演出版ということで、歴史ある作品の新たな幕開きに胸が高鳴ります。そしてあっという間の公演期間。きっと一瞬で過ぎ去ってしまうことでしょう。一回一回を大切に、全身全霊でルーシーを生き抜きたいと思います。皆様、ぜひ楽しみにいらしてください。
■Dream Ami

長いようで短かった稽古は、それはそれは学びしかない全集中な期間でした‼作品にかける皆さんの熱い想いと情熱を私も感じながら、エマへの理解を深めてまいりました。愛の深さ、信じ抜く力、誰にも惑わされないヘンリーへの愛を、舞台上でも存分に発揮できればと思います。まるでアトラクションのような、臨場感溢れるジキルの実験を、皆さんにも劇場で体験していただけたら嬉しいです!
■唯月ふうか

いよいよ開幕します。新演出ということで、カンパニー全員で様々な演出を"実験"してきて、そんな日々がとても濃く充実していました。今まで以上に、自分の声と向き合ったと思います。先輩方が繋いで下さったエマを受け継ぎつつ、少しでも自分らしいエマを見つけて届けられるように、誠心誠意努めます。誰よりも深い愛で包み込みます。楽しんで頂けますように。
<公演情報>
ミュージカル『ジキル&ハイド』
原作:R.L.スティーヴンソン
音楽:フランク・ワイルドホーン
脚本・詞:レスリー・ブリカッス
演出:山田和也
上演台本・詞:髙平哲郎
【キャスト】
ヘンリー・ジキル/エドワード・ハイド:柿澤勇人/佐藤隆紀(LE VELVETS)(Wキャスト)
ルーシー・ハリス:真彩希帆/和希そら(Wキャスト)
エマ・カルー:Dream Ami/唯月ふうか(Wキャスト)
ジョン・アターソン:竪山隼太
サイモン・ストライド:章平
執事 プール:佐藤誓
ダンヴァース・カルー卿:栗原英雄
川口竜也 百々義則(劇団四季) 鎌田誠樹 三木麻衣子 川島大典
彩橋みゆ 池谷祐子 岡施孜 上條駿 川口大地 木村つかさ
熊野義貴(※) 藤田宏樹 藤本真凜(※) 真記子 町屋美咲 松永トモカ(五十音順)
※=スウィング
【東京公演】
2026年3月15日(日)~29日(日)
会場:東京国際フォーラム ホールC
【大阪公演】
2026年4月3日(金)~6日(月)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】
2026年4月11日(土)・12日(日)
会場:福岡市民ホール 大ホール
【愛知公演】
2026年4月18日(土)・19日(日)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
【山形公演】
2026年4月25日(土)・26日(日)
会場:やまぎん県民ホール
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