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米津玄師のMVはなぜ再生され続ける? 1億回続々突破の背景を7作品から探る

音楽

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リアルサウンド

 先日、米津玄師の楽曲「orion」のMVが、YouTubeで再生回数1億回を突破したというニュースが話題になった。

 米津が作詞・作曲をした楽曲のMV作品のうち、1億回再生突破は今回で7作目。これは日本人の作詞・作曲者の中では最多記録になっている。昨年の「Lemon」の大ヒットや『NHK紅白歌合戦』での地上波初パフォーマンスで、米津の存在感が一気にお茶の間まで浸透し、過去の作品を調べる人が増えたのも今日の膨大な再生回数に繋がっている大きなトリガーだろう。しかしMV作品の合計再生数=18億回超えという凄まじい数字は、それぞれの作品に何度も繰り返し観たくなる要素があるからこそだと考える。

 米津のMVはなぜこんなにも再生されるのか? この記事では7作品の魅力を改めて振り返り、再生回数が未だに伸び続けている背景について紐解いていきたい。

(関連:米津玄師の求心力はどこから生まれるか? 最新ツアーに見た“変化し続けるカリスマ”の姿

■「打上花火」(2018年1月18日)※以下()内は1億回再生を突破した日付

 2017年8月にDAOKO×米津玄師名義で発表された「打上花火」。アニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の主題歌として作詞・作曲・プロデュースを米津が担当したこの曲は、ビルボードジャパンの年間アニメソング・チャートを制し、MVも「YouTube Rewind 国内トップトレンド音楽動画 2017」で1位に輝くなど、楽曲・MV共に2017年を代表する作品になった。映画本編を感じさせるアニメーションを基調としつつ、歌詞とシンクロするオリジナルシーンもふんだんに組み込まれており、映画を観た人だけに限らず夏の日のノスタルジーが鮮やかに蘇る映像に仕上がっている。

■「アイネクライネ」(2018年3月28日)

 2ndアルバム『YANKEE』の4曲目に収録されている「アイネクライネ」は、シングルカットされていないものの、代表曲のひとつとして認知度が高い。2014年、東京メトロのCMソングとして米津が初めてCM曲の書き下ろしに挑戦し、TVでもオンエアされていた楽曲だ。米津が描いたイラストで構成されているMVは、公開から約4年が経った2018年3月に1億回再生を突破。近いうちに2億回を超えそうな勢いで現在も再生回数を伸ばしている。日々更新され続けているコメント欄には、最近ファンになった人がこのMVで米津の絵の才能を知り、驚いているような投稿も見られる。淡い色合いのイラストはどこか切なさや儚さを感じさせるが、MVを観た後に余韻として残るのは温かい気持ちと前向きな生命力だ。

■「Lemon」(2018年6月12日)

 もはや説明不要の2018年の大ヒットナンバー「Lemon」。ドラマ『アンナチュラル』の主題歌として書き下ろされた同曲は、様々なチャートやランキングで1位を獲得しただけでなく、数々の歴代記録も更新。楽曲は4月12日にシングルとデジタルダウンロード合わせて300万セールスを記録。平成生まれのアーティストとしては初のトリプルミリオンセールスを達成した。MVも米津作品の中では最速の約3カ月半というスピードで1億回再生を突破し、今年2月には日本のMVとしては史上初の3億回再生を記録した。レクイエムをモチーフに教会で撮影されたMVは、シンプルな構成ながら様々な解釈が飛び交うほど奥深い内容で、何度も繰り返し再生せずにはいられない。特に公開当初は、映像の中で米津が「ハイヒール」を履いている謎が話題になったが、のちになって米津は「“二人にしかわからない何か”を表現したかった」とその理由を明かしていた。

■「LOSER」(2018年7月6日)

 2016年9月にリリースされた5thシングル曲「LOSER」。同曲のMVは何と言っても、米津のコンテンポラリーダンスが強烈なインパクトを与える。これが本格的なダンス初挑戦で、しかもレッスン期間はわずか2、3週間だったそうだ。振付を担当した辻本知彦は米津のダンスについて「万人に一人の芸術性」と絶賛していたが、手足の長さが活かされたダンスはまさに特異な魅力を放っている。また、「LOSER」は発売から1年8カ月後にHonda「JADE」のCMソングに起用されたが、それからすぐに1億回再生に達したところを見ると、CMタイアップもMVの再生回数の勢いに拍車をかけたと考えられる。

■「ピースサイン」(2018年9月1日)

 2017年6月リリースの「ピースサイン」は、アニメ『僕のヒーローアカデミア』のオープニングテーマにもなったギターロックナンバー。ほとんどのシーンがフィルムで撮影されているMVは、公開後24時間で再生回数100万回を突破、YouTubeの急上昇ランキングにもランクインしていた。「Lemon」以降、米津の名はもっと幅広い層まで轟いたが、TVなどのメディア出演が少ないこともあり、ライブ以外でパフォーマンス姿を観る機会はほぼなかった。しかしこのMVにはライブ感あるバンド演奏や歌唱シーンが多く含まれており、これも再生回数を伸ばしたひとつの理由なのかもしれない。

■「灰色と青(+菅田将暉)」(2019年3月9日)

 2017年11月リリースの4thアルバム『BOOTLEG』に収録されている「灰色と青(+菅田将暉)」。ゲストボーカルに菅田将暉を迎えたこの曲は、幼少時代を共にした友人同士が大人になり、すれ違う日々の中で奇跡的に重なる瞬間が描かれている。MVでは菅田と米津が登場するものの、映像の中で二人が出会うことはない。しかし、ブランコに乗るシーンから両者の関係性が伝わってくるのが映画チックでもあり、楽曲と映像が合わさることで、米津がフェイバリットにあげている北野武監督の『キッズ・リターン』の影響がくっきりと浮かび上がってくる。今後は、菅田の新曲「まちがいさがし」でも再タッグが組まれるため、再びこのMVの再生回数にも影響が出てきそうだ。

■「orion」(2019年4月3日)

 2017年2月にリリースされた「orion」は、羽海野チカ原作のアニメ『3月のライオン』の第2クールエンディングテーマ。米津がアニメ主題歌を手がけたのはこの時が初めてで、同年はこれを皮切りに『僕のヒーローアカデミア』、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』とアニメ作品のタイアップが続いた。「orion」のMV監督は「灰色と青(+菅田将暉)」と同じく映像作家・山田健人が担当。電球がちりばめられた屋内の世界も幻想的だが、そこから朝焼けをバックにした広大な海のシーンに繋がることで、映像の美しさがより一層際立つMVとなっている。

 ここまでの7作品からもわかるように、米津のMVは作品毎の個性がハッキリしている。それはストーリーやロケーションと言うよりは、米津玄師というアーティストを構成する様々な要素のうち、毎回違う面を「映像作品のテーマ」としてフィーチャーすることで生まれている変化だと感じる。楽曲や映像の素晴らしさはもちろん、そのMVでしか観ることが出来ない魅力のバリエーションもまた、それぞれの作品が長い期間で再生され続けている要因なのだろう。(渡邉満理奈)