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『いだてん』森山未來×松尾スズキの師弟愛が涙を誘う “変化”が刻まれた第2章スタート

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リアルサウンド

 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第2章がはじまった。オリンピックを終え、ストックホルムから帰ってきた四三(中村勘九郎)を待ち受けていたのは、新しい時代と人々の変化だった。

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 第14回で注目したいのは、本作の語り部であり、裏の主役とも言える美濃部孝蔵(森山未來)と師匠・橘屋円喬(松尾スズキ)の関係だ。別の噺家について地方を回ることになった孝蔵は、師匠に見限られたと肩を落としていた。だが、円喬は孝蔵の出発に駆けつけ、ある言葉をかける。

 後の古今亭志ん生(ビートたけし)となる孝蔵と円喬の師弟関係は独特だ。

 「飲む、打つ、買う」の三道楽に金を使い果たす“悪童”だった孝蔵は、円喬の落語と運命的な出会いを果たし、落語家を目指すことになる。森山は、酒とバクチに明け暮れる孝蔵のだらしのない姿を、肩の力の抜けた演技で表現していた。だが円喬と落語に出会ったとき、孝蔵の目は光り輝く。純粋に、落語の魅力に取り憑かれた、という目だ。そんな孝蔵を円喬は静かに受け入れる。

 円喬の師匠としての姿勢は粋だ。孝蔵を車夫として雇っていた時は、孝蔵の背中に向けて落語の演目『富久』を演じ続け「落語は耳で覚えるんじゃない。足で覚えるんだ」と語りかける。孝蔵を弟子として受け入れるときには、決して仰々しく受け入れることなく「明日からおいで」とさらりと言ってのける。そんな円喬の姿を、松尾は凛とした姿勢とも違う、独特な存在感で表現する。

 第13回ではじめて高座にあがった孝蔵。緊張と自信のなさから泥酔し、最後まで『富久』を演じられなかったが、人々の心を捉える“何か”がそこにあった。そんな孝蔵に対する円喬の表情はかなり複雑だ。円喬演じる松尾の表情は感情が読みにくい。だが、それは決してマイナスな演出ではない。芸に厳しく、時には先輩の噺家であっても噺が面白くなければ容赦なく毒づく円喬。そんな彼が見せた、笑っているようにも、怒っているようにも見える表情からは、孝蔵の芸と孝蔵自身に対する深い思慮が伝わってくる。円喬は孝蔵から発せられる“何か”をしっかりと感じとっていたのだ。

 孝蔵は「別の噺家について学べ」という話を、泥酔して高座にあがったことや『富久』を演じきれなかったことが原因で見限られたからだと思い込んでいる。しかし円喬は「美濃部くーん!」と声をあげながら孝蔵の見送りに来る。その声は優しい。決して孝蔵を見限ったわけではないということが、この呼び声だけでも十分伝わる。円喬の心の内は、台詞からも伝わってくる。

「大事な弟子貸すんだからよ、倍にして返してくれよな」
「こいつは大化けするんだからよ。立派に育ててくんないと、あたしゃ承知しないよ」

 師匠の言葉を聞き、じっと目を見開いて円喬を見つめる森山の表情も印象的だ。孝蔵は餞別に高級煙草を3箱渡される。師匠の顔を真正面から見れず、恐れ多いといった表情で遠慮する演技からは、円喬に対する深い尊敬の念が伝わる。「持ってけってんだよ!」と円喬から煙草を投げ渡された孝蔵は思わず涙を流す。そんな孝蔵に対して円喬が発した「泣くやつがあるかい。ちゃんと勉強すんだよ」という台詞は、ぶっきらぼうだがあたたかな響きをしていた。

 円喬を演じる松尾は公式サイトのインタビューで、孝蔵と出会った頃にはすでに肺を患っていた円喬の思いについて「身を持ち崩している孝蔵を何とか自分の後継者にと思いつつも、自分の体が持たないことが分かっていたのでしょう」と推測している。「まな弟子を預けなくてはいけない悔しさが別れのシーンにはあったように思います」と語る松尾。松尾は、別れのシーンで孝蔵を預ける噺家の胸ぐらを思いっきり掴み、「倍にして返せ」と目を見開いて訴えていた。孝蔵の才能を見出していたからこそ決断した別れだということが伝わる。森山と松尾の熱演は、孝蔵と円喬の深い師弟関係を視聴者の心に刻んだことだろう。

 第2章のはじまりを印象づけたのは、この2人の関係だけではない。元号が明治から大正へ移ったことで生じるほろ苦さも印象深い。初のオリンピックで湧いたはずの日本は、オリンピックでの敗北を受け、娯楽スポーツではなく強靭な肉体をつくるための体育の推進を求めていた。ストックホルムオリンピック編で四三が発した「我らの一歩は日本人の一歩たい」という台詞がむなしく空を切るように演出されていたのが苦々しい。(片山香帆)