『ハンターキラー 潜航せよ』成功のカギはブチギレ俳優2人のキャスティング!? その頑強な魅力に迫る
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想像してみてほしい。息が詰まりそうな潜水艦の中で、あのジェラルド・バトラーがアメリカ×ロシアの全面戦争のキーマンとなり、地上ではゲイリー・オールドマンが演じるアメリカ政府の要人がロシアと戦争をやるぞとキレ散らかしている状況を。この状況を実現した時点で、『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年)の成功は約束されたといえるだろう。
参考:米海軍も全面協力! ジェラルド・バトラー主演『ハンターキラー 潜航せよ』特別映像公開
今の30代にとって、オールドマンは怪優の代名詞だ。悪役を演じた『レオン』(1994年)で、ベートーヴェンを語りながら一家を皆殺しにするシーンは今なお語り継がれている。片やジェラルド・バトラーといえば、『300<スリーハンドレッド>』(2007年)でスパルタ王レオニダスを演じた男。「This is Sparta !! 」とペルシア帝国からの使者を蹴り落とす快シーンで大ブレイク、以後も『エンド・オブ・ホワイトハウス』(2013年)、『ザ・アウトロー』(2018年)といった映画で、異様な行動力と天井を知らずの豪胆さを併せ持つ、狂気じみたタフガイを演じてきた。何はさておき、この2人の偉大な狂気系英国俳優をブッキングしたのが偉い。
本作はノンストップで突き進む。いきなりロシアの原子力潜水艦が沈没、それを尾行していたアメリカの潜水艦も何者かの攻撃で撃沈。幕が上がって3分で米露開戦前夜状態に(※体感時間です。実際の時間とは異なる場合があります)。事態を収拾するため、とりあえずアメリカは攻撃型原子力潜水艦(ハンターキラー)を現地へ調査に向かわせる。海よりもデカい心を持つ豪胆野郎ジョー・グラス(ジェラルド・バトラー)を艦長に、ハンターキラーはさっそく海へ繰り出すが、そこで待っていたのはロシアのクーデターというデカすぎる陰謀だった。事態を把握したアメリカの統合参謀本部議長チャールズ・ドネガン(ゲイリー・オールドマン)は、これはもうロシアと全面戦争だとキレ散らかすが、そこはノーと言えるアメリカ。さすがに即開戦はどうなんだと健全な議論がなされ、4人の精鋭特殊部隊が監禁されたロシア大統領の奪還に動く。一方のジョーは、沈んでいたロシアの潜水艦から奇跡的に生存者を発見する。生存者は超ベテランのロシア軍人、アンドロポフ艦長(ミカエル・ニクヴィスト)だった……かくして役者は揃った! 米露決戦に向けて動く悪のロシア軍人! 無謀すぎる作戦を頑張る特殊部隊! 妙にタフガイなロシア大統領! 凄いカリスマ性で部下を引っ張るジェラルド・バトラー! キレちらかすゲイリー・オールドマン! 陸と海で、今、男たちのスリリングな熱血ドラマが爆走する!
……と、ついついあらすじ説明で「!」を多用してしまったが、それくらい本作のテンションは高い。最初に書いたように、この映画ではジェラルド・バトラーが米露戦争のキーマンとなり、ゲイリー・オールドマンが常にブチギレているのだ。緊張感は嫌でも高まり、画面に釘付けになってしまう。もちろん2人以外の登場人物たちも素晴らしい熱血ぶりを見せてくれる。アクションシーンも満載で、陸上での戦闘は『エクスペンダブルズ』(2010年)ばりに撃ち合うし、海中の潜水艦は魚雷・機雷・ソナーを避ける命がけの鬼ごっこを展開。危機また危機とは使い古された言葉だが、そんなどこか懐かしい言葉が本作には相応しい。これは「ハリウッドのアクション映画」と聞いて、観客が思いつくことを全てやってくれるからでもある。
本作では、良くも悪くもテンプレのようなシーンが頻出する。休暇中の主人公を政府のヘリが迎えにきたときは思わずガッツポーズしたし、「良いニュースと悪いニュースがある」を久しぶりに生(?)で聞けた。調べてみると監督のドノヴァン・マーシュは本作が長編2作目という新鋭だが、脚本・製作総指揮を担当しているアーン・シュミットは70年代からアクション映画畑で働いている超ベテランだ。本作の独特の空気は彼の働きによる部分が大きいのではないか。あと本当に個人の感想なのですが、日本語タイトルの副題「潜航せよ」のフォントが90年代後半から2000年代初期のアクション映画っぽくないですか?
そんなわけで稀代のブチギレ俳優2人と、アクション映画のツボをおさえた作りによって、本作はお好きな人にはタマらない作品に仕上がっている。ベタすぎる、雑すぎる、といった批判すら「でも、そこが好きなんだ」と開き直れるような、頑強な魅力を持つ1本だ。(加藤よしき)