咲妃みゆ、小関裕太出演『レッドブック』稽古場レポート 小林香の演出で作り出す日本版の魅力とは
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『レッドブック〜私は私を語るひと〜』稽古場より
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すべて見る2026年5月16日(土)、東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にてミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』が開幕する。脚本のハン・ジョンソク、作曲のイ・ソニョンという黄金コンビにより2018年に誕生、韓国で上演を重ね、大ヒットを記録した作品だ。日本初演にあたり演出・上演台本・訳詞を手がけるのは、小林香。咲妃みゆ、小関裕太をはじめとする出演者、スタッフたちとともに、どのような『レッドブック』日本版を作り上げるのか──。4月中旬に実施された一幕通し稽古を取材した。

19世紀英国の保守的な社会で、官能的な小説を書くことで自分自身を表現し、「私」として生きる道を見出していくヒロインの姿を描くこの物語。主人公が世の常識、偏見と真正面に向き合うという少々重めのテーマを扱いながら、絶妙なバランスで散りばめられたコメディの楽しさで多くの観客の心を捉えてきた。もちろん、韓国発の人気ミュージカル、その音楽の力は絶大だ。冒頭の「私はだあれ?」では、上流階級の紳士淑女でなければ生きづらいと嘆く“その他大勢”の人々の力強い歌声が、観る者をヴィクトリア朝のロンドンへぐいぐいと導いていく。
そんな景色の中、小関演じる新米弁護士・ブラウンが人を探している。なかなか見つからない尋ね人は、優しいけれど、どうやらちょっと変わり者との評判。アンナのことだ。一体どんなヒロイン像? と不安がよぎるも、咲妃は登場の瞬間から、可憐な姿と伸びやかな歌声で客席のハートを鷲掴みにする勢い。処女でないことを理由に婚約を破棄され、ロンドンでひとり生きていく彼女だが、仕事を失い、職探しで苦戦中。面接に訪れたパン屋の店主の偏見たっぷりのセクハラに全力で反撃、警察沙汰になって落ち込んでも、嫌味のない自然体で乗り切るアンナは実にチャーミング。初体験の相手、フクロウとのセクシーなひとときを回想するシーンもナチュラルに魅せる。「私は私を語るひと」をはじめとする数々のナンバーで発揮される歌の力や表現力に加え、咲妃自身の魅力が透けて見えるようなアンナは、小林演出の日本版だからこそのヒロイン像を実現する予感。
アンナを探し当てたブラウンは、亡くなった祖母のもとでメイドとして働いていた彼女をひょんなことからタイピストとして雇うも、価値観がまったく異なる二人のやりとりはとことん噛み合わず、まるでコントのよう。ブラウンは、ジャックとアンディの双子の兄弟を演じる中桐聖弥、加藤大悟とつるんで“紳士三銃士”を名乗る。彼らがハットに傘を携えて歌い踊る「紳士の流儀」は、躍動感に満ちた楽しいナンバー。常に気高く、紳士らしく生きることを声高らかに宣言するが、少し滑稽に見える部分も。中桐と加藤の双子の役らしい息の合った演技にニヤリとさせられる。

ところが、ドラマが進行するに従い、ブラウンの紳士へのこだわりに変化の兆し。きっかけは、アンナとの交流だ。離婚申し立ての裁判のシーン、アンナの言葉に導かれて歌う「愛は天気のように(リプライズ)」は、そんな彼の胸の内が表現される美しいナンバー。愛について、丁寧に心を込めて歌い上げる小関の姿から、ますます目が離せない。ブラウンに過去の恋人フクロウの面影を見出すアンナだが、第2幕で二人の関係はどのように進展していくだろう。客席からしっかり見届けたい。
アンナの人生に影響を与える誰もがすべて、個性的
ドラマの進行とともに次々とアンナの前に現れる人物たちも、それぞれに個性を炸裂させる。皆、各々に苦難を抱えながら、アンナの生き方に影響を与える人々だ。
女性文学会「ローレライの丘」の顧問、女装の男性ローレライは、アンナに小説を書く場を与える。田代万里生は、「ローレライの丘」の女性たちを厳しく導く、温かくて頼もしいローレライを、気品高く、優雅にかつ迫力たっぷりに演じ、さすがの説得力。今回が初の女装役というが、スカートの裾捌きが見事。フルメイクと衣裳付きで舞台に登場したら、その美しさに目が釘付けになるはず。彼がなぜ女装をするようになったのか。深い訳がありそうだが、それは第2幕で明らかに。

「ローレライの丘」会長ドロシーも、アンナに寄り添い、その背中を押す重要人物。夫に息子を奪われ、離れて暮らしているが、聡明かつ一本気な女性を、花乃まりあが朗らかに体現。子を思う気持ち、その切なさを情感たっぷりに表現したと思ったら、アンナとのシーンでの弾けぶりに驚愕、その芝居心とコメディセンスに、目が吸い寄せられる。

エハラマサヒロが演じるのは、ロンドンで最も影響力を持つという文芸評論家、ジョンソン。第1幕終盤ではアンナの小説に興味を持っていることがわかるが、第2幕ではなにやら一波乱ありそう。クセの強い、面倒な人物像を期待。
アンナの回想に登場するブラウンの祖母ヴァイオレットも、アンナの人生に大きなものをもたらした。伊東弘美演じる気難しい老婦人が、アンナが聞かせる話で心を開いていくさま、KENTARO演じる庭師ヘンリーとの“なれそめ”も、じんと心に沁みていく。

さらにドラマに深みを与えるのが、アンサンブルの熱量と、一人ひとりの強烈な個性。街の人々や法廷の判事たち、ローレライの会のメンバーなど、誰もがそれぞれの物語を持つ、かけがえのない存在であることを印象づける。何よりも心を動かされるのは、キャッチーなメロディにぴったりフィットする日本語の歌詞。数々の美しいナンバーで届けられるのは、決してヒロインの人生だけでなく、ブラウンやローレライ、ドロシーをはじめとするさまざまな人物のストーリーでもある。
女性も男性も共感しうる物語は、何かしらの生きづらさを抱える私たち一人ひとりの背中を、きっと優しく押してくれる。舞台は19世紀のロンドン、オリジナルの作り手は韓国のクリエイターたちだが、小林と俳優、スタッフたちが取り組むのは、日本版ならではの魅力が詰まった、新たな『レッドブック』。その誕生の場に、ぜひ居合わせたい。

取材・文/加藤智子
撮影/曳野若菜
〈公演情報〉
『レッドブック〜私は私を語るひと〜』
〈東京公演〉
日程:2026年5月16日(土)~31日(日)
会場:東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
〈大阪公演〉
日程:2026年6月27日(土)~30日(火)
会場:森ノ宮ピロティホール
〈愛知公演〉
日程:2026年7月4日(土)・5日(日)
会場:御園座
[脚本] ハン・ジョンソク
[作曲] イ・ソニョン
[演出・上演台本・訳詞] 小林 香
[音楽監督] 桑原まこ
[出演] 咲妃みゆ 小関裕太 花乃まりあ エハラマサヒロ
中桐聖弥 加藤大悟 伊東弘美 KENTARO 可知寛子 栗山絵美 高井泉名 井上花菜
伊藤広祥 感音 坂元宏旬 シュート・チェン 鈴木大菜 米良まさひろ 池田航汰(Swing) 石田彩夏(Swing)
/田代万里生
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/redbook2026/
公演オフィシャルサイト:
https://redbookjp.com/
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