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『未来のミライ』星野源が演じるのは“現代のおとうさん像” 音楽活動にも通じる家族を巡るテーマ性

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リアルサウンド

 冒頭、多くの家が立ち並ぶ街の俯瞰から、ひとつの一軒家にフォーカスされていく画が象徴するように、細田守監督作『未来のミライ』は、ひとつの家族と、その家族のルーツをめぐるため、時空を超えた冒険に出る物語。甘えん坊な4歳の男の子くんちゃんを上白石萌歌、未来からやってきた妹ミライちゃんを黒木華、2人のおとうさんを星野源、おかあさんを麻生久美子が声を担当する。

 星野源が声優として参加している劇場アニメ作品は、『聖☆おにいさん』(2013年)、『ちえりとチェリー』(2016年)、『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)に続き、『未来のミライ』が4作目。細田守といえば日本を代表するアニメーション映画監督で、本作は今夏に公開されるいくつもの劇場アニメのなかでも注目作。星野源が、今回おとうさん役を務めるのは、まさに大抜擢と呼べるだろう。

 星野源演じるおとうさんは、独立したばかりのフリーの建築家。平日はおかあさんが働きに出ている間、自宅で仕事をしながら、くんちゃんと生まれたばかりの妹・ミライちゃんの育児をひとりでやっている。建築家という職業柄か、家の構造も少々複雑。しかし、その家の作りからは、子供たちが遊ぶための部屋や、日の差し込む中庭があったりと、くんちゃんとミライちゃんをとても大切に思っていることが伝わってくる。

 おとうさんは、決して器用になんでもこなせるタイプではなく、抱っこが苦手で家事も失敗が多い。また、くんちゃんが生まれた時から育児に熱心だったわけではない。当初はおかあさんに頼りっぱなしだったのだろう。しかし独立を機に平日の育児をひとりで担うようになる。ごはんを作り掃除をして、くんちゃんを保育園に送り届け、ミライちゃんを寝かしつけ、くんちゃんを迎えに行く。自分の昼食は掻っ込むように食べ、気づけば夕方。仕事をしようとしても、パソコンの画面で建築図を書こうとしても気づけば寝てしまっている……旧来的な家族像で”母親のやるべきこと”とされてきた家の中での営みが、『未来のミライ』では父親が行っている。そういった現代的な家族の形も、本作では丁寧に描かれている。

 『未来のミライ』では、生まれたばかりのミライちゃんばかりが可愛がられ、くんちゃんが嫉妬をするところから物語が駆動する。注意をひこうと、泣き喚いたり癇癪を起こしたりするくんちゃんを、おとうさんは戸惑いながらも優しく諭す。星野源の声は優しく穏やかで、愛情が滲み出ているような印象だ。当然、全編を通して、主人公であるくんちゃんの子供らしい甘く舌ったらずな台詞が多いながらも、星野源の声が物語全体に落ち着きをもたらしている。

 細田監督は、劇場パンフレットのインタビューで「血やDNAの力で家族と家族として『つながる』んじゃなく、ちゃんと努力して、要するにアイデンティティを自分の中で確かめた上で関係性が生まれるはず」と語っている。血がつながっているからといって、簡単に“家族”になれるわけではない。歩み寄り、互いに違いや欠点を認めたうえで理解しようとする努力が必要なのだ。これは、星野源がドラマ『過保護のカホコ』(日本テレビ系)の主題歌「Family Song」で歌っていたことでもある。「Family Song」で、星野源は自身の視点から今の時代に適した新しい家族の形を歌い上げた。細田守と星野源は、『未来のミライ』を通して、“家族”というテーマの深いところでも共鳴していたのかもしれない。(文=若田悠希)