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【ライブレポート】sadd、Nikoんを迎えた『Vaporlamp』東京編で浮かび上がったロックの現在地と衝動

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Text:横堀つばさ Photo:稲垣ルリコ 

エモって何だ。オルタナティブって何だ。ロックって何だ。こんな複雑に絡まった難問に対して、さも当然のように明朗快活なアンサーが返された夜だった。2026年5月23日、三重県発の4人組・saddが東京・新宿NINE SPICESにて開催したツアー『Vaporlamp』東京編。レーベル・Oaikoから3月にリリースした2nd EP『EP-1』を携え、全国8カ所を巡るバンド初となる全国ツアーの3本目。ここでは、Nikoんを迎えたライブの様子をレポートする。

Nikoん

初めての共演となるsaddへ「観るのもやるのも初めてだけど、ライブで分かる気がする」と言葉を送ったNikoん。連日連夜ライブを積み上げてきたふたりは、そもそも内省的だった作品世界を徐々に外へと開いていくプロセスを示してみせた。

オオスカ(g,vo)がおもむろにギターを唸らせると、マナミオーガキ(b,vo)の淡々とした和音が重なっていく。1曲目は「Vision-2」である。中指を立て、乱暴に激情を叩きつけるオオスカは、次の瞬間にはウィスパーボイスを添えて穏やかなボーカルへ変身。不安定にも思えるこうした浮き沈みは、それだけ自身の核に存在する無垢な感情に触れていることの裏付けであろう。それはオオスカに限った話ではなく、マナミにも共通していること。彼女が主体となった2ndアルバムに『fragile Report』なんて名前が付与されたのも、迂闊に触れればボロボロに崩れ去ってしまいそうな悔恨が毎行に溢れ返っていたからなのだ。

こうした無加工の怒りや虚無感を見事に発散していったナンバーが、階段状の旋律から「ハイッ!」というマナミの一声が弾けた「Tokey-Dokey」を経た「step by step」。「こっちはロックンロールバンド!」と名乗りを上げれば、オオスカは客席へ飛び込み、ファイティングポーズさながらに両腕を掲げていく。ここで忘れてはならないのは、Nikoんの言う「ロックンロール」が肉体同士のコミュニケーションと不可分であることだ。汗が、皺が、ふと浮かべた不敵な笑みが、一切の曇りなく伝播するほどの距離感を保ち続けること。還元すれば、いつでも手に取れる位置に陣取り続けることをふたりはロックンロールと呼んでいるのである。要するに、彼らのロックスピリットとは、自己のフラストレーションを発端にしながらも、それを開かれた場所へ設置することではないか。

その証明に、エンディングを彩った「グバマイ!!」や「(^。^)// ハイ」は、どこまでも晴れやか。心の奥底へダイブしていく音楽を身上とするsaddとの共通項を提示しながらも、広大な地平への目配りを忘れないステージングは、saddにとってもひとつの進路として映ったはずだ。

sadd

「三重県、sadd始めます」。生井裕樹(b,vo)の挨拶を合図に、田畑榛洸(g)が細やかな音の粒を立て始める。オープニングナンバーは「Come With Me」。中音域の甘美な響きと所々で掠れる発声、前へ押し出していく推進力を備えたロングトーンが、加速していく瀧野颯太(ds)のビートに乗って、代わる代わる先頭を担っていく。中村洋平(g)のアップピッキングが生み出すアクセントが弾む「Greenhorn」に見られた、こぶしがかった処理からも受け取れる通り、生井の歌声は聴くものの琴線に触れる。そして、そのパワーの源泉となっているのが、多様なアプローチを切り替えることによって、喜怒哀楽を余すことなく反映し、わずかな動揺や高揚までを喉に託していく手法なのだろう。

こうした機微を具象化する技術を保持しているゆえに、4人がその視界に捉えているのは決してドラマチックな光景ではない。低音をズンズンと踏み鳴らす田畑が舵を取る「Blank」然り、スパイシーな乾いたカッティングから突入する「Youth」然り、saddは目と鼻の先で広がる世界を淡々と記述しようと試みている。誰かの声を代弁するわけでもなく、ひとえに魂の悲鳴と歓喜を音符に託している。だからこそ逆説的に、突如として放られるシャウトや制御不能のアンサンブルが切実なものとして轟いていくわけで、オーディエンスも個々の生を叫ぶみたいに拳を握るのだ。

ライブ中盤、生井は本ツアーのモチーフであるVaporlampが「水銀灯」を意味する言葉だと明かした。それでは、彼らがこのイメージを掲げた理由は何なのか。それを紐解く重要なエレメントは、この光源がLEDというテクノロジーに取って代わられた、いわば旧時代の事物であることに隠れていたように思う。インタビューにて「全曲でしっかりとリファレンスの楽曲を用意した」と語っている通り、saddの楽曲群はMineralやAmerican Football、The Get Up Kidsといった先達からの影響を多大に受けている。

一方、「格好良い奴らがやってたら、格好良い音楽になるので」「あなたたちが格好良いと思ったものがすべてだと思ってます」と断言する豪胆さや区分を跳ね除ける強さを携えているのも事実。参照元を明確に設定しながらも再生産に陥らない、絶妙な均衡の上で成立しているのがsaddの音楽なのだ。こう考えると、今や遺産になりつつあるものの、確かに我々を導いてきた水銀灯との関係性も自ずと見えてくる。つまり、本ツアーにおける水銀灯とは、バンドワゴンで全国を駆け回っていくことを宣言する狼煙であると同時に、古典的な枠組みを欠くことなく、君の一寸先を照らすロックバンドであると表明するためのメタファーでもあったのではないか。

ただ、ここで灯される光は、決して大仰なものではない。「誰かの人生を変えることはできないかもしれない」と今作にコメントを寄せているように、この楽団は決して革命歌を鳴らそうとしているわけではないのである。「4人とも根暗なので」と冗談混じりに溢していたように、あくまでも彼らがフォーカスしているのは半径数センチの暮らしのこと。こうしたsaddのリアリズムと仄暗さを象徴していた1曲が、「Vaporlamp」だ。<環状線はただ 静かに揺れて>とどこかやるせなさを滲ませたローな歌い出しから、<大人になった様に 振る舞うのさ>と無力感を記せば、2本のギターに乗せて、澱んでいたオレンジが段々と明度を増していく。そこから放たれる濁音混じりの咆哮は、一見穏やかに見える日常の裏面に潜んだ不和と不平と不幸を振り払わんとしていた。

こうした日々の歪みは、saddにとって過去の記憶と密接に連動しているもの。先ほどの<大人になった様に 振る舞うのさ>の1節だって、社会の歯車に組み込まれない子どもの頃を思い返しているみたいだし、続く「Shape」のカチカチとしたブリッジミュートだって時計の針を示唆しているようだ。ラストを飾った「Dawn」も、根底に据えられた命題は同様。内臓の奥底を引っ張り出す様を彷彿とさせるほどに生々しいスクリームと跪いてかき鳴らすギターによって、4人は遠い日を追憶し、その悲壮と対峙していたのだ。

<公演概要>
sadd tour 2026『Vaporlamp』
2026年5月23日 新宿NINE SPICES

【Nikoん / Setlist】

1, Vision-2
2, ghost
3, bend
4, public melodies
5, Tokey-Dokey
6, step by step
7, sleepwell
8, さまpake
9, とぅ〜ばっど
10, (^。^)// ハイ
11, グバマイ!!

【sadd / Setlist】

1, Come With Me
2, Greenhorn
3, Gentouki
4, Blank
5, Blow Minds
6, Youth
7, Vaporlamp
8, Shape
9, Forrest
10, Dawn

<リリース情報>
sadd『EP-1』
配信リンク:https://friendship.lnk.to/EP-1_sadd

<公演情報>
『sadd tour 2026 "Vaporlamp"』
7月4日(土) 静岡・三島ROJI
7月18日(土)岡山・CRAZY MAMA 2nd Room
8月23日(日)京都・nano
9月20日(日)三重・鈴鹿ANSWER
9月26日(土)東京・下北沢ERA -TOUR FINAL-

sadd X

https://x.com/sadd_mie

Nikoん オフィシャルサイト

https://niko-n.jimdofree.com/

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