岸井ゆきの×成田凌が語る、『愛がなんだ』の綿密な演技 「リアルさにもちゃんとした意思がある」
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角田光代の同名小説を『サッドティー』『パンとバスと2度目のハツコイ』の今泉力哉監督が映画化した『愛がなんだ』が、4月19日より公開中だ。本作は、28歳のOL・テルコと、彼女が想いを寄せるマモルとの恋模様を描いた恋愛映画だ。
参考:『愛がなんだ』成田凌が憎むに憎めないーー自然体で体現する人間のサガ
今回リアルサウンド映画部では、主人公・テルコ役で主演を務めた岸井ゆきのと、マモルを演じた成田凌にインタビューを行い、今泉監督作品出演への思いから、それぞれの役作りやお互いの印象についてまで語り合ってもらった。
ーーお2人とも今泉監督の作品に出演するのは今回が初めてとなるわけですが、成田さんはもともと今泉監督と親交があったそうですね。
成田凌(以下、成田):そうなんですよ。役者を始めた頃の4年前ぐらいに、今泉監督のワークショップに行ったのがきっかけでした。1日目とか2日目に一緒にお昼ご飯を食べに行って、そのまま飲みに行ったんです。そこからちょこちょこ一緒に飲みに行くようになりました。
ーー飲みに行く中で一緒に仕事をしようという話もあったんですか?
成田:ありましたね。「いつかやろう」「いつかやる」と。何度か具体的なお話もいただいていたんですけど、なかなかスケジュールが合わず、今回満を辞してという感じで。なので、実現して本当に嬉しかったですね。しかもこんなに面白い作品ができるとは。
ーー岸井さんは今泉監督の作品に出演することについて、どのような思いを?
岸井ゆきの(以下、岸井):たぶん今泉監督と私は、すごく近い、かすりそうでかすらない所にお互いいたような気がするんです。だからこのタイミングでご一緒できるというのはすごく嬉しかったですし、ご縁だなと思いました。
ーー今泉監督の作品はキャラクターにある“リアルさ”が一つの特徴だと思うのですが、今回のテルコとマモちゃんもまさにそういうキャラクターでした。
成田:そうなんですよね。過去の作品もリアルでナチュラルなものが多かったので、ある種こちら任せというか、自由にやってそれを切り取られている印象でした。だけど実際は、そのリアルさにもちゃんとした意思があって、ものすごく緻密なんです。だからやっていて楽しかったし、嬉しかったですね。すごく細かい話が通じるというのも面白かったです。
岸井:私は原作をすごく読んでいたので、テルコのキャラクターはその影響が大きかったかもしれません。脚本自体が、原作に寄り添っている部分もあれば、映画でしかできない新しいことにも挑戦しているんですけど、ベースにきちんと角田さん原作のテルコがあって、原作ファンの方にも愛せるような脚本になっていたのがポイントだったような気がします。もし、原作とあまりにもかけ離れていたら、こううまくはいかなかったと思います。私がこうしよう、ああしようというよりかは、ベースがあることによって映画のテルコが生まれた、という感じです。
ーーそれはマモちゃんとの関係性も含めてですか?
岸井:そうですね。「こうだろうな」と自分が計算していくと絶対よくないことになると思ったので、現場の待ち時間とかでも成田さんとは距離が近くなりすぎないように、マモちゃんとして接していました。
成田:僕はそんなこと考えていなかったので、そうだったのか……という感じです(笑)。
岸井:(笑)。いや、別に普通に仲良く話はするし、楽しかったんですけど……テルコって、マモちゃんのことがすごく好きだけど、いつも本音の1~2歩手前で止めているような気がして。そのせいで、マモちゃんが「めんどくさいやつだな」とか「いつも気を遣ってさ」みたいなことになると思うんです。私はそういうところがあまりよく分からなかったので、撮影以外での成田さんとのやりとりにおいても、本音の1~2歩手前で止めるということは意識していました。
ーーお互いの印象はどうでしたか?
岸井:成田さんはすっごい優しいんですよ。気遣いというか……私がメイクさんとチョコレートの話をしていた次の日に、チョコレートを買ってきてくれたりして。覚えてる?
成田:いや、覚えてない……(笑)。ケーキ買ったのは覚えてる。
岸井:そう、最初にケーキを買ってきてくれて。また別の日に、すごい朝早くにチョコレートを買ってきてくれて、「何それ!?」みたいな(笑)。誕生日以外で現場でケーキをいただいたのが初めてだったから、すごくびっくりして。素敵だなと思いました。
成田:いや、たまたまですよ。でも僕は距離を保たれているとは思ってなかったから……(笑)。
岸井:ははは(笑)。
成田:岸井さんはとても話しやすい方ですね。パッと岸井さんのことを考えると、“笑顔”が出てくるんですよ。それが素敵ですよね。笑顔が似合うというか。
ーー“笑顔が似合う”というのはテルコにも言えることだと思いますが、岸井さんはテルコと似ているところはあるんですか?
岸井:最初に原作を読んだときは、テルコと私は全く違うと思っていたんです。私は何か好きなものを手に入れたいとは思うかもしれないけど、全てを捨てることは絶対にできないから。たぶんそこにとどまってしまう。そういうタイプだと思っていたんですけど、いざ脚本を読んで、自分のセリフになって、主観でテルコを見たら、考え方がちょっと変わったんですよね。
ーー具体的にどのように?
岸井:テルコは誰しもが持っている“人を好きな気持ち”が100%なんだなって。普通の人は、仕事とか友人とか家族とかがあって60%ぐらいなんだけど、テルコはそういうことを捨てて100%になっちゃう。だから、人を好きな気持ちはテルコも私も一緒なんだなと。そう考えてからは、テルコのすごくピュアで純粋な、愚直なまでの行動力は、ある意味とても羨ましいなと思うようになりました。そんなふうに100%の熱量で好きな人に向かっていける人は、すごく強い、そう思いながらテルコを演じていました。
ーーちなみに、岸井さん自身はマモちゃんみたいな男性をどう思いますか?
岸井:えー、いやです(笑)。
成田:(笑)。
岸井:個人的には本当にハッキリしてほしいと思います。それも全て尽くしてしまうテルコが悪いと思うんですけどね。でも、それに甘えてしまうマモちゃんもマモちゃんですよね。「2人ともしっかりして!」って感じ(笑)。
成田:なんなんだろね。2人とも“無理”なんだろうね(笑)。
岸井:でもこういうカップルいそうですよね。
成田:うん。あと、マモちゃんがただのヒモじゃなくて、ちゃんと働いてるっていうのもまた面白いんだよな。
ーーマモちゃんはなかなかクセのある男ですよね。
成田:脚本を読んだ時に、違和感なくスムーズに読めてしまったので、大丈夫かなと思ったぐらいだったんです。存分に甘えても何の害もないテルコのような人と、次は何を話そうかなと緊張感があってちょっとヒリヒリするようなすみれみたいな人、どっちも手にしたい気持ちもわかるなと。でも、いざそれを表現するとなった時は、すごく緻密で難しいなと思って。マモちゃんがどこか憎めない感じにならないと、作品としてどうにもならなくなるというか……。例えば、言い方も表情も何も変わらないんだけど、心持ちとして、今ビールを買いに行くと出て行ったテルコへの思いは、怒りなのか同情なのか、みたいな。怒りだったらただのわがままになっちゃうから、同情の方に気持ちを寄せた方が、どこか憎めないようになるのかな……とかいろいろ考えました。1回でもミスっちゃいけないという緊張感はありましたね。
ーーやっぱり自然体に見える演技もかなり細部まで作り込まれているわけですね。
成田:「これはやりすぎかな?」とか不安もあって、ちょっと怖かったですね。実際、何回か「やりすぎました」とか「落ちる方にいきすぎました」とかあったよね?
岸井:うん。あったあった。
成田:監督や岸井さんの反応も含め、難しい2択が常にあった感じだったので、みんなで最善を求めていった結果が映画にも出ています。勝手な想像でしかないんですけど、今泉監督は、“その時を切り取っている”感じがするんですよね。同じぐらい仲が良くても相手によって話し方とか絶対に違ってくるので、その瞬間瞬間を大事にしているというか。
ーーそういう意味では、本作の見どころのひとつでもある、テルコのラップシーンはまさにそうですよね。
岸井:ビックリしますよね、急で。
成田:まあ、しますよね(笑)。でもよかったですよね。あのシーンがあるのとないのとではまた全然違う。
岸井:嬉しい。すごく不安だったので、よかったです。外でワンカットだし、すごく緊張感があって。
成田:外の長回しってなかなかないもんね。それにしても長いから(笑)。
岸井:原作にはないシーンなので、リリックは監督が書いているんです。ラップの先生に音を入れてもらったデータを事前にいただいて、とにかく聴きこんで撮影に臨みました。撮影の時はビートも流れていたんですけど、結局全部削ぎ落とされて私のラップだけになっていましたね。映画の中でもすごく大事なシーンになっていますし、私にとっても思い入れのあるシーンです。(取材・文=宮川翔)