『パーフェクトワールド』は王道かつ見応えあるドラマに 松坂桃李が葛藤の末に取り戻した希望とは
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初恋の相手と運命の再会を果たすも、その人は車椅子生活を余儀なくされていた。つい最近映画化もされた有賀リエの同名漫画を原作にした火曜ドラマ『パーフェクトワールド』(カンテレ・フジテレビ系)には、最近のテレビドラマに不足していたような、すごくオーソドックスでストレートなラブストーリーの要素がしっかりと詰め込まれていると感じる。それと同時に、身体的な障がいが恋愛の障壁として描かれながらも、そこに生じるあらゆるファクターに対して、ひとつひとつ丁寧に向き合っていく姿勢も垣間見える。見落とされがちなタイプの作品ではあるが、これは今期の中でも実に見応えのある逸品ではないだろうか。
先週放送された第1話では樹(松坂桃李)への恋心を募らせながらも、彼が車いす生活であることを心のどこか受け入れられないでいる主人公・つぐみ(山本美月)の内側の葛藤が描かれた。褥瘡(じょくそう)で入院した樹に付き添ったつぐみは、彼が心血をそそぐコンペのための描画作業を手伝い急速に距離を縮め、二人が今にも唇を重ねようというところで、“恋をすることを諦めた”樹のためらいが立ちはだかる。そして何とも言えぬ微妙な空気が流れる中で、突然病室に樹と親しそうな女性が現れたところで、第2話へと持ち越されることとなった。
この女性、長沢葵(中村ゆり)が樹の元担当看護師でヘルパーだということが明らかになるところから始まった、23日放送の第2話。必然的に彼女の存在が、恋のライバルと呼べる存在になるフラグが立ったことは言うまでもない。第1話では高校時代につぐみが樹を諦めたきっかけのひとつであった、樹の元恋人・美姫(水沢エレナ)が他の男性と結婚することによって、恋の障壁がひとつ無くなったものの、また新たな障壁が生まれる。そういった点でも、実に王道ラブストーリーの展開を踏襲しているといえよう。しかも今回のライバルは、樹の体のことを誰よりも知っていて、そして支えることができる人物なだけに、なかなか手強そうだ。
さて、そんなライバルの登場に屈することもなく、つぐみは樹をある場所へと誘う。それは車いすバスケットボールの練習場。自身も子供の頃に骨肉腫を患って義足で生活している樹の同僚・晴人(松村北斗)がつぐみに頼みこみ、樹をチームへと引き入れたのだ。高校時代は部活のスター選手だった樹が久々に手にするバスケットボール。「中途障害者はそれまでできていたことができなくなることに傷付く」という言葉の通り、昔の感覚で投げてもゴールに届きさえしないことに、初めは曇った表情を浮かべた樹だったが(車いすバスケでもゴールの高さは健常者用と変わらないのだ)、すぐにチームに溶け込み車椅子バスケにも慣れていく。
第1話がつぐみ個人の中だけで糸口をたどるような物語であったとするなら、この第2話はさらに一歩進み、つぐみや樹も含めた周囲の人々との関係性を通し、樹という存在と向き合ってく姿が描かれたエピソードという印象を受ける。それと同時に樹自身の葛藤にもしっかりと迫る。バスケ、そして恋愛と、障がいを背負ったことによって一度は諦める決心をした様々な事柄を取り戻していく樹。それはすなわち、彼の“生きる”ことの希望につながる。雨の中での告白シーンと、ようやく迎える2人のキスシーン。そして樹がマンションの駐車場で拾った新しい命の存在にもそれが象徴されているように見える。
また、樹の働く建築事務所の代表である剛(木村祐一)が、相手に迷惑をかけられないからと恋愛を諦めていることを語る樹にかける「何で相手が犠牲になるって決めつけてるんだ?」という言葉と、樹の母・文乃(麻生祐未)がつぐみとバウムクーヘンを食べながら「犠牲を強いることになったとしても、樹に幸せになってほしい」と思いの丈を語った言葉。
樹を取り巻く理解ある大人たちが発する“犠牲”という言葉の持つ多くの意味はどれも、樹自身が抱えていた“諦め”と相反しながら共に存在するものなのかもしれない。 (文=久保田和馬)