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坂口拓、恐るべし! 『キングダム』“大ボス”左慈役で見せた圧倒的なアクションと説得力

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リアルサウンド

 速すぎて動きが見えん! 恐るべし、坂口拓……! 劇中で坂口拓が演じる左慈が初めて剣を振るったとき、私は思わず前のめりになった。このシーンで坂口拓は3人を斬殺するのだが、それを一呼吸でやってのけるのだ。身震いがする思いだった。

参考:『キングダム』長澤まさみが魅せた凛とした強さ “アクション女優”に本格参入も?

 『キングダム』(2019年)は同名漫画を実写化した作品だ。古代中国を舞台に、天下の大将軍を目指す信(山崎賢人)と、後に秦の始皇帝になるえい政(吉沢亮)の活躍を描く大河アクションである。原作は今の時点で50巻を超える長期連載であり、しかも現在も連載中だ。今回の映画版では、信が戦いに身を投じる決意を固め、えい政が反乱を起こした義弟と対決する初期部分に焦点を当てている。そして今回の主な悪役として登場するのが、坂口拓が演じる左慈だ。誰もが認める剣の達人だが、息を吐くように人を斬る危険人物である。この役に坂口拓はバッチリはまっていたし、何より、この映画の大ボスとして坂口拓を見ることができたことが本当に嬉しい。

 ここからは完全な1坂口拓ファンの感想になってしまうが、彼の経歴は決して平坦ではない。主演デビュー作『VERSUS ヴァーサス』(2001年)は、低予算ながら壮絶なアクションが話題となった。同作の監督を務めた北村龍平はハリウッドに進出し、アクション監督を担当した下村勇二も、今や日本のアクション映画界に欠かせない人物となっている。そもそも『キングダム』のアクション監督も下村勇二だ。その一方、坂口拓はアクション・スターとして確かなポテンシャルを持ちながら、ちょうど時代的に国産のアクション映画があまり活発でなかったせいか、一時期は俳優を引退してしまった。そんな彼が旧友も携わる映画で堂々の“大ボス”役を演じたのである。『VERSUS』時代からのファンとしては、この事実だけでも嬉しい。ちなみに坂口拓は、私が街中で見かけた2人の芸能人のうちの1人でもある。完全なプライベートの時間だっただろうに、浮かれる私に笑顔で接してくれたのをシッカリ覚えている(もう1人は小沢仁志さんだが、あまりに怖くて話しかけられなかった)。

 『キングダム』の監督である佐藤信介は、人体が吹っ飛びまくる『アイアムアヒーロー』(2016年)、新宿で空中戦を繰り広げた『いぬやしき』(2018年)、駅前の街を破壊した『BLEACH』(2018年)といった、「このシーンに有り金を全部突っ込みます!」という一点突破型の映画を作るタイプだ。今回もアクション的にはクライマックスの城攻めに全てを賭けている。長澤まさみはアクロバットなアクションで大暴れ、吉沢亮も流れるような動きで人を斬りまくる。当然、主演の山崎賢人も絶叫しながら剣を手に大暴れするのだが……。坂口拓は剣を持って現れるなり、観客を一気に素へ戻すほどの強さを見せつける。他の出演者たちも全員奮闘しているのだが、それでも明らかに坂口拓の動きが頭一つ抜けているのだ。まさにアクション・スターの面目躍如である。

 そして同時に、坂口拓という圧倒的なアクションの技量を持つ俳優が、左慈という悪役を演じているのが映画的にも功を奏している。左慈は天下の大将軍を目指す信に対して「夢を見てんじゃねぇよ」と言い放つ。これはそのまま現実とリンクしていると言っていいだろう。山崎賢人と坂口拓なら、当たり前だがアクションに関しては坂口拓の方が遥かに上である。映画の中でも演出の意図以上に、山崎賢人と坂口拓との間に実在する技量の差が滲み出てしまっている。現実に圧倒的な技量の差があるからこそ、左慈の台詞は説得力を持つし、その左慈を命がけで否定し、逆転を挑む信の熱さも際立つのだ。坂口拓をこの役に置いたのは大正解だといえるだろう。

 坂口拓は旧友である下村勇二と共に、大役を見事に演じ切った。これから彼がどこまで飛躍するのか? 1ファンとして見守っていきたい。(加藤よしき)

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記。