さらなる飛躍の予感! 木竜麻生「去年ですべての運を使い果たした(笑)。今年が勝負」
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木竜麻生
昨年、話題を集めたインディペンデント映画の1本『菊とギロチン』。『64−ロクヨン−』や『8年越しの花嫁 奇跡の実話』などを手掛ける瀬々敬久監督が構想期間30年という長らく温めてきたオリジナル企画である同作で、木竜麻生は女相撲に生きる道を見い出した大正時代の女性を文字通り、体当たりで演じた。ソフトリリースを前に、本人に話を訊く。
約300名の中からオーディションで見事に主人公の花菊役を射止めた木竜。当時をこう振り返る。「オーディションは最終的に4次選考まであって、1か月ぐらいの期間を経て、出演が決まりました。人数が絞られればられるほど、心の中で思いました。『ここまできたら落ちたくない!』と。オーディションの期間は緊張のしっぱなし。ほかの役者さんがどう花菊を演じるかは敢えて見ないようにしていました。見たらもうあれこれ考えて、何もできなくなるんじゃないかと思って(笑)。今の自分のすべてを注いでも花菊になれるかわからないのに、そこに雑音が入ったらさらにクオリティが下がるのは目に見えている。だから、もう周りをシャットアウトして、ほかの方が演じているときはずっと下を向いて床を見ていました(笑)。とにかく花菊を演じることに集中しました」
この難関のオーディションを見事勝ち抜き、木竜は花菊役に。瀬々監督は木竜を「いまどきあまりいない昭和っぽい顔だち。どこかあか抜けない泥臭さが花菊とリンクする」といった主旨で抜擢したことを明かしている。「よくおばあちゃんに『懐かしい顔だねぇ』と言われるんですよ(苦笑)。『菊とギロチン』のときも、上京して3年ぐらい経ってたんですけど、なんでこんなに私ってあか抜けないのか悩みだったんです。正直、コンプレックスでした。いまどきっぽい雰囲気のある子を見るとうらやましくて。でも、瀬々監督にそう言っていただいてからは、田舎っぽいところがあまり嫌じゃなくなったというか。今は自分の個性だと思っています」
花菊役決定の報告を正式に受けた時は素直にうれしかったとのこと。だが同時にこんな感情もわいてきたと明かす。「これからとんでもない日々が始まることは容易に想像できたので。気を引き締めて、心して挑まないとと思いました」
その困難はクランクイン前、相撲の稽古を積み始めたときからすでに始まった。
「私は2か月半ほど稽古を積んだんですけど、2回目に、倒れたら起きて、また相手にむかっていくことを繰り返す、ぶつかり稽古があって。これはほんとうに苦しかった。ほんとうに人間って、声を出さないと足が出ていかないんだという体験を生まれて初めて味わいました。相手に『こい!』と言われても、叫んで気力を振り絞らないと足が出ないんですよ(苦笑)。この時は『自分は花菊役をまっとうできるのだろうか』と不安になりましたね。全身筋肉痛で壁とか伝わないと歩けないぐらいで、最初はほんとうに辛かったです。ただ、当時は気づかなかったんですけど、振り返るとこの2か月半の稽古の日々がすごく大きかった気がします。実際にほかの出演者のみなさんと一緒に泥だらけになりながら稽古することで、女相撲の一座としての結束が確実に深まりました。クランクイン前に、このようにみんなで心をひとつにできたのは大きかったと思います。あと、私自身も稽古を通して花菊になっていったというか。花菊は夫の暴力から逃れて、女相撲の一座に飛び込む。ずぶの素人から一歩一歩、鍛錬を積んで力士として成長していく。私も相撲はもちろん未経験。ある意味、花菊の辿ったであろう同じ稽古の行程を踏むことで、花菊としての心と身体が自然と養われていった気がします。これはまだまだ未熟な私への瀬々監督の親心だったのかなぁと思っています。監督には確認してませんけど(笑)。それから余談ですけど、力士役ということで、特に指示が出ていたわけではないのですが、みんな体重を増やさないといけないとなったんです。はじめはみんな“好きなものが気兼ねなく食べれる!”と大喜び。でも途中からはもうみんな苦痛で。こんなに食べることがしんどいと思ったのは人生初でした(笑)」
こうした過程を経ての撮影は、ほとんど記憶がないという。「もういっぱいいっぱいで、あまり当時の記憶がないんですよ。今回のソフトの特典についているメイキングを見てもらえればわかると思うんですけど、周りを見る余裕なんてない。はじめから主演として立つことなんてできないと思っていたので、そこはもうスタッフ、キャストのみなさんに甘えさせていただいて、とにかく自分のできることを精一杯やろうと。それしか私にはできないと思っていました。それでもいっぱい迷惑かけたと思うんですけどね」
演じ切った花菊役にはこんな思いを抱いている。「台本を読んだ時点で、花菊にはちょっと憧れがありました。抑圧された現実がある中で、彼女はそれを打破しようと行動を起こす。家を飛び出て、女相撲で自らの人生を切り拓こうとする。劇中で、彼女は自分のことを弱い人間と嘆いていますけど、私はむしろ強いんじゃないかと思いました。自分の弱さを認めながら、それでもなお立ち上がる。そこがかっこいいなと今でも思っています。公開時、観てくださった方から『花菊が何度倒されてもたちあがってぶつかっていくところに勇気をもらいました』と言われたりすると、少しでも彼女の強さを表現できたのかなと思ってうれしかったですね」
物語は、家出娘、元遊女など訳アリの事情を持つ娘があつまった女相撲一座と、格差のない平等な社会の実現を目指すアナキスト・グループ「ギロチン社」の男たちを通して、大正末期に漂った不穏な時代の空気を描き出す。その物語にはこんなことを感じたという。「瀬々監督からこう言われていたんです。『当時のことをあまり勉強しすぎないように。大正時代の話ではあるけど、今現在の若者であるあなたたちがどう見るのかを感じたい』と。だからあえて深く勉強はしなかったんですけど、それでもいろいろと感じるところはありました。たとえば、女相撲の面々は真剣勝負を見てほしいのに、勧進元に胸がはだけたりといったハプニングのある見世物的なものが求められたり、夫の暴力に妻が抗えなかったり。今、日本で起きている社会問題とそう変わらないことがこの時代にもあった。そういう意味で、今に通じる物語でもあると私自身は思っています」
瀬々監督にはあえて感謝の言葉は口にしないという。「言葉にした瞬間から、なんか嘘っぽくなるというか。自分の真意が伝わらない気がして。だから、言葉じゃなくて、今から自分がきちんとやるべきことをやって態度で示すしかないかなと。監督に「木竜、ちゃんとやってるな」と見ていただけるように努力を重ねないといけないなと思っています」
昨年は、本作『菊とギロチン』もさることながら『鈴木家の嘘』での演技でも高い評価を受けた。本人はどう振り返るのだろう? 「実は年女だったんですけど、これまで貯めていた運を全部使い果たしたんじゃないかなと(笑)。でも、それぐらい実りのある年になりました。ただ、もうラッキーは望めませんから、ここからは自力で頑張るしかない。これからがほんとうの勝負かなと。しんどいことも厭わず、いろいろと経験して着実に成長していけたらと思っています」
『菊とギロチン』
発売中
Blu-ray 6200円+税
DVD 5200円+税
【封入特典】特製アウターケース/特製ステッカー/特製解説ブックレット(96P)<幻の「初稿脚本&第二期プロット」完全収録>
【特典映像】メイキング/ヒット祈願法要/初日舞台挨拶/予告編・特報
発売元:トランスフォーマー
販売元:ポニーキャニオン
取材・文:水上賢治
スタイリスト:TAKAFUMI KAWASAKI (MILD)
ヘアメイク:主代美樹(GUILD MANAGEMANT)
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