ワンダフルボーイズ『We are all』インタビュー Sundayカミデが表現する、人生と音楽の歩み
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ワンダフルボーイズが、メジャーデビューアルバム『We are all』を4月10日に発売した。
ボーカル・Sundayカミデ率いる6人組バンドのワンダフルボーイズ。フリーソウル、ヒップホップ、レゲエなどを和製アレンジしたサウンドや、ハッピーなライブパフォーマンスで人気を博し、多くのアーティストからも熱い支持を得てきた。Sundayカミデは、奇妙礼太郎との天才バンド/TENSAI BAND IIや、やついいちろうとのライトガールズなどでもすでにメジャーデビューを経験しており、ワンダフルボーイズでは結成9年目、本作にてメジャーデビューを果たすこととなった。
同作には、「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」といったバンドを代表する人気曲から、およそ1年前に生まれたというアルバム表題曲「We are all」などを収録。この一枚でSundayカミデの過去と今の思いにふれることができる充実作に仕上がっている。
今回、リアルサウンドではSundayカミデにインタビュー。メジャーデビューに至るまでの道のりを振り返りながら、同作に込めた思いや音楽活動に対するスタンスなどについて改めて話を聞いた。(編集部)
全員がひとつの場所で生きていることを意識しようよって
――結成9年目にしてのメジャーデビューとなりますが、Sundayさんご自身は他のバンドやユニットでメジャーデビューをすでに経験されていますよね。ワンダフルボーイズとしてのメジャーデビューに関しては、どのような感慨をお持ちですか?
Sunday:これまでも何度か、メジャーからリリースする話はあったんですけど、いつも立ち消えになっていて。今回は、やつい(いちろう)さんとやっているライトガールズっていうユニットがメジャーデビューした流れで、ワンダフルボーイズもメジャーでやれることになったんです。いい流れだし、嬉しいんですけど、自分でもびっくりはしています。意外ですね(笑)。
――そもそも、ワンダフルボーイズとして辿り着きたい目標や野心に関しては、どのように考えられていたのでしょう?
Sunday:ワンダフルボーイズだけじゃなく、僕がバンドに向き合うときの基本的な考え方なんですけど、500人くらいのキャパの会場を常に埋めた状態でパーティークリエイトできる……そんな活動が自然でベストだと思っていて。東京でいうなれば、代官山UNITくらいの大きさですね。あのくらいの規模感の場所で年に数回ライブができる。それをずっと続けることが目標と言えば、目標です。
――ドームやアリーナを目指すバンドも多いですよね。でも、Sundayさんの目標はあくまでも500人キャパを「続けていくこと」にある。
Sunday:僕が主催になって、『Love sofa』というイベントをもう19年やっているんです。それは、東京ではUNITでやったりもしているんですけど、基本的には大阪のConpassっていう200人くらいのキャパの会場でやっていて。そういう経験を経て思うのが、僕にとって経費やリスクも加味したうえで、すべてを見通しながらライブができる環境の最大値が500人規模くらいなんですよね。もちろん、これは僕個人の理想であって、関わってくれている人たちが「もっとこういう場所でやろうよ」って提案してくれたら、それには前向きでありたいですけどね。でも、僕ひとりの話で言うと、自分が見渡せるのは500人くらい。そういう規模でできる状態を、ずっと続けていきたいなって思っています。
――Sundayさんにとって、音楽は「続ける」ものという前提がある、ということですよね。
Sunday:そうですね。年齢的なことを考えると「それしかない」と思うし、僕はトレーニングジムでトレーナーもやっていますけど、トレーナーは70歳では厳しいですからね。でも、音楽は70歳になってもできるので。
――これまでのワンダフルボーイズのアルバムは、『ロックロックロックジェネレーション SUPERVERSION!!!』や『Music Music Music レボリューション!!!』といった、言葉を並べることで過剰さを演出するようなタイトルが多かったと思うのですが、今作『We are all』は、ものすごく直球に、スケールの大きな言葉を掲げていますよね。
Sunday:2曲目に入っているタイトル曲の「We are all」が1年ちょっと前くらいにできたんですけど、当時、イベント会場での銃乱射事件があったじゃないですか?
――2017年は、ラスベガスやマンチェスターで、イベントやライブ会場を狙ったテロ事件が起こりましたね。
Sunday:僕もイベントをプロデュースする立場なので、そういう事件を目の当たりにすると自分のイベントのセキュリティについて考えるんですよね。19年間、Comapssで2カ月に1回『Love sofa』をやり続けてきたけど、もし変な事件が起こったら、すべて台無しじゃないですか。今まで、そんなことを考えたこともなかったんです。ちょっと屈強な男の子を連れておけばいいかな、くらいの感覚でいたんだけど、もはやそういうレベルのことでもない……。
――じゃあ、監視システムを強化すればいいのかというと、それも行きすぎると、きっとパーティーの本質からはズレますよね。
Sunday:うん、冷めてしまいますよね。このことについてはまだ答えは出ていないんですけど、それでも、そういう事件を発端にしながらものを考えていく中で、1年かけて書いたのが「We are all」の歌詞だったんです。今の自分の気持ちが言葉になっている曲だと思います。
――結果として、すごく大きな言葉に辿り着いていますよね。「We are all」……「私たちはひとつなんだ」という。
Sunday:ああいうテロ事件って、もはや「隣の人とまずは仲良くしましょう」っていう話でもないじゃないですか。急に違う思想の人がやってきて、銃を乱射するっていうのは……。そういうことを考えたときに思ったのは、とにかく思想が違おうとなんだろうと、今生きている人たちは全員、同じ時代に同じスペースの中で生きているわけじゃないですか。その前提を、サビでしっかり歌いたいなと思ったんですよね。「全員ひとつの場所で生きている」っていうことを、とにかく意識したいなと思って。貧困とか、戦争とか、いろんなことを知っていきながら、全員がひとつの場所で生きているっていうことを意識しようよって。大きすぎるくらい大きなことだけど、まずはそれを歌ってしまって、それから細かいことを考えていこうっていう気持ちで、この歌詞は書いたんです。
――前提や目標をまずは言い切ってしまう。このやり方って、これまでのSundayさんの音楽に触れてきている人間にとっては「Sundayさんっぽいな」と思えますけど、冷静に考えると、かなり特殊な表現方法ですよね。
Sunday:そうだと思います。こうやって大きなことを言い切ってしまうと、ただ理想的なだけの言葉になりがちですもんね。それ故のやりづらさや作りづらさも、もちろんあるんですけど……でも、これができるのは年齢が大きいかもしれないですね。もう40歳を超えていて、理想も現実も、ある程度わかっている。だからこそ、大きく言うことできるというか。20代の頃だったら、この歌詞は歌えないような気がします。
――特に今の若い表現者は、ある種、グランジ的な人たちが多いというか。「We are all」的な価値観とは対極に、自分自身の内面性に向き合って音楽を作っている人たちも多いですよね。
Sunday:うん、自分の身近にあることに目を向ける人たちは多いですよね。でも、そういう表現は、それをやる優れた人たちがすでにいるので。自分でやる必要はないかなって思いますね。
僕とあいみょんが繋がった。それはすごく不思議な縁。
――今作には「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」のような過去曲も収録されていますよね。こうした曲は、「We are all」とは対極の「小さな世界」が描かれている曲だと思うんです。「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」のような曲と、「We are all」のように今のSundayさんから生まれてきた曲は、どこかでつながっていると言えますかね?
Sunday:「君が誰かの彼女になりくさっても」は29歳くらいの頃、すごく恋愛していた頃に作った曲なんですけど、この曲と「We are all」が直接的につながるかといえば、そうではないと思うんです。でも「君が誰かの彼女になりくさっても」から「We are all」までの間になにがあったのか? っていうことを説明する曲も入れたいっていう感覚で、このアルバムのトラックリストは作っているんです。「エビバリスイング」なんかは、「君が誰かの彼女になりくさっても」よりももっと前の、今から20年前くらいに作った曲なんですよ。あと「CULTURE CITY」は、20歳くらいの頃に、女の子のシンガーにトラック提供していた頃のトラックをそのまま使っているんです。そういう曲も入れることで、自分の人生の時系列を、大きく捉えてアルバムを作りたかったんです。そもそも「アルバム」ってそういうことだと思うんですよ。昔のことや今のことが同じ1冊の中で見ることができるっていう。
――今作のジャケットはワンダフルボーイズの前身である、しゃかりきコロンブス。のミニアルバム『君が誰かの彼女になりくさっても』のオマージュになっていますよね。ここにも、Sundayさんの人生の時系列を表現するという意志が垣間見えるのですが。
Sunday:しゃかりきコロンブス。のアルバムの、少年がロバを持って笑っていて背景が燃えている絵が、僕にとってはすごく衝撃的だったんですよね。描いてくれたのは、しゃかりきコロンブス。~ワンダフルボーイズの全てのビジュアルを担当してくれている阿野(義知)くんだったんですけど、あの頃、阿野くんが「この絵はアルバムのジャケットには向いていないと思うけど、もう二度と描けない絵なんです」と言っていて。「なら、それを使おう」っていう話になったんですけど、その時、「この先、お互いが『もう二度とできない』ことをもう一度やれる時がきたら、その時もう一度、ロバの絵を描いてください」っていう話をしたんです。
――それが、このタイミングだったんですね。
Sunday:そうですね、僕にとってはこのメジャーデビューが、もう一度世に出ていくタイミングでもあるので。今回、僕は「君が誰かの彼女になりくさっても」を再録音して、阿野くんはもう一度ロバの絵を描いてくれたんですけど、お互い、あの頃に比べてトゲトゲしさはなくなったなって思います。今回の「君が誰かの彼女になりくさっても」は、いい意味でデコボコのない、しっかりとした楽曲に仕上げることができたと思うんです。それに阿野くんが描いてくれた絵も、今回は、背景が燃えていないんですよね。今の阿野くんは、背景を燃やすことが「できなかった」のか、あえて「やらなかった」のか……それはわからないんですけど、僕にも年齢を経ることで音楽的にできなくなったことや、あえてやろうと思わなくなったことはあるので。お互いそういう変化がある中で組み合わさったのが、このアルバムなのかなって思います。
――話を聞いていると、このアルバムは「大人になること」を肯定し祝福するようなアルバムなのかな、と思えてきました。
Sunday:そうですね。大人になって成熟することは、嬉しいことでもあるし、受け入れざるを得ないことでもあるし、「もう20代の頃のようにはできないんだな」っていう感覚もあるし……。若い頃の、昔の自分を追いかけたくなる気持ちもあるんですけど、でも、「やっぱり追いかける必要はないな」と思えたり……そうやって迷いながら受け入れていく感じですよね。
――ただ、そうして迷いながらも大人になることを受け入れていく中で、「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」は、ずっと歌い続け、作品に収録され続ける曲になっている。Sundayさんを見ていると、「ひとつの曲を作り続けるということは、どういうことなんだろう?」と思うんです。何故、Sundayさんは「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」を作り続けるのでしょか?
Sunday:なんだろう……やっぱり、〈なりくさっても〉の部分じゃないですかね。違和感のある言葉遣い。「天王寺ガール」だったら、〈友達にも嘘をついて/君は踊り狂うのさ〉っていう部分とか、こういう言葉の違和感があるからこそ、この2曲はずっと新鮮に向き合えるんじゃないかと思います。あまり言ってはダメな言葉じゃないですか、〈なりくさっても〉なんて。でも、それをサビでバッチリ歌い切ってしまっている、この違和感にずっと向き合える。他の言葉はすべて綺麗なんだけど、〈なりくさっても〉の一言ですべてを汚してしまえる、この違和感。これによって曲の生命力が増している……って、以前、『関ジャム 完全燃SHOW』でいしわたり淳治さんが言ってくれたことの受け売りなんですけど(笑)。
――ははは(笑)。でも、きっと本質ですよね。
Sunday:テレビを見ながら「そう、それ!」って気づきました(笑)。言葉にしてはいけないような感情が、〈なりくさっても〉の一言によって言い表せているのかもしれない。今でもこの曲を歌うときは悩むんですよ。〈なりくさっても〉なんて歌っていいのかな? って。この一言があることによって、この曲を不快に思う人だって絶対にいるじゃないですか。でも、そうやって思いながら向き合うことができる曲って、そうないんですよね。「君が誰かの彼女になりくさっても」は「何回アルバムに入れるんだよ」って突っ込まれたりもするんですけど(笑)、でも曲って、一生かかって完成させていくようなものでもある気がしていて。特に「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」は、自分にとってそういう曲なんだろうと思います。
――「なりくさっても」という言葉に象徴されるような、人の心の中に芽吹く苛立ちや悲しみ、怒りの感情もちゃんと内包しているからこそ、「We are all」というスケールが大きくポジティブなステートメントが説得力を持って響くアルバムですよね。先にも言ったように、このアルバムは子供が大人になっていくことを肯定するアルバムでもあり、同時に「人は変わらないよ」と言ってくれる優しさにも満ちたアルバムだと思います。
Sunday:「We are all」って言っていますけど、僕だって生活している中で、いろんなことにイラっとしたりされたりしながら生きていますからね。……この話はいろんな場所で言いすぎて新鮮味がないんですけど、新幹線の椅子のポケットの中に弁当のゴミを残したまま下りていく人が、僕は大嫌いなんですよ。時間が許すなら、その人を追跡して、あらゆる罰ゲームを与えたいくらい嫌いなんです。
――……相当嫌いですね。
Sunday:でもまぁ、そういうことって誰にでもあるじゃないですか。僕も誰かに同じように嫌われているだろうし。人間は、ある場所ではいい人でも、他の場所ではいい人じゃない……それの繰り返しだから。それならとにかく「僕らは同じ自転の中で生きている」っていうことを理解しようよっていうことですね。全てを求めなくていいから。
――嫌いな人を「好きになれ」と言われると厳しいけど、「とりあえず同じ空間にいるんだからさ」と言われると「まぁ仕方がないのか……」となったりしますもんね。でも、改めて思うのは、ワンダフルボーイズが結成されたのは2010年ですけど、2010年代って、ポップミュージックの歴史的観点から見ても、絶対的なスターが簡単に生まれてこなかった時代ですよね。ネットの影響もあって、非常に細分化が進んだ時代でもあった。でもそんな時代において、ワンダフルボーイズは異様にスケールが大きな音楽を作り続けてきたんですよね。「大きなこと歌う」「大きなメロディを鳴らす」ということを、臆面もなくやってきたバンドだなって。
Sunday:「平和 to the people!!!」とかね。初期の僕の曲を聴いた人たちからは、よく「牧歌的だね」って言われたりしていました。まぁ、それとは別に、昔はテクノミュージックを作ったりもしていたので、そういう音楽では、ある程度時代のことを考えたりもしていたんですけどね。でも、しゃかりきコロンブス。~ワンダフルボーイズでは、そういうことは一切隅に置いておこうと思ったんですよね。最新の何かではなくて、自分から出てくる自然な歌を、自然に録音しようって思っていました。20歳くらいの頃に見つけた、僕が3歳の頃に作曲した曲のカセットテープがあるんですけど、それを聴くと、今とほとんど同じメロディなんですよね。「泥棒さんこんにちは」っていう曲で、ピアノの弾き語りで作った曲なんですけど(笑)。3歳の頃から変わっていないんですよね。その頃から、優しいメロディというか、穏やかで口ずさみやすいメロディを作っていて。
――そういった普遍的な音楽が求められる日がいつかくるという確信が、Sundayさんにはあったのでしょうか?
Sunday:いや、そういうことではなかったです。むしろ新しい機材で新しい音を作った方がいいと思っています。でも、それをやる人はいっぱいいるし、それ以上に僕が重心を置いているのは、「その人にしか鳴らせない」と思えるものを作ることなんだろうと思うんですよね。それが求められるのであれば、幸せだろうし。
――さっきも言ったように、この10年間は非常に細分化が進んだ時代でしたけど、最近は逆に、あいみょんさんのようなメガスターが再び登場する世の中になっていて。そんなあいみょんさんの作品にSundayさんが関わられていたというのも、何かをすごく象徴しているような気はするんですよね。
Sunday:是非、その「何か」を言語化してほしいですね(笑)。でも、本当にそうだと思います。今や『NHK紅白歌合戦』に出るような人と自分が繋がっていた……そのストーリーの間には、数多のアーティストの存在があったような気もするんですよ。それは奇妙(礼太郎)くんであったり、KING BROTHERSであったり。あいみょんが好きだと言って聴いてきた、そういう人たちの存在が間にあった上で、僕とあいみょんが繋がった……それは偶然なのか必然なのか、わからないですけど、すごく不思議な縁ですよね。
(取材・文=天野史彬/写真=はぎひさこ)
■ライブ情報
『Love sofa Tokyo』
5月19日(日)代官山UNIT・UNICE
OPEN14:00/START14:30
<LIVE>
ワンダフルボーイズ
奇妙礼太郎
DENIMS
空きっ腹に酒
ライトガールズ
浜崎貴司
TENDRE
有馬和樹(おとぎ話)
浜田一平
PARIS on the City!
◎プレイガイドにてチケット発売中
■リリース情報
『We are all』
4月10日(水)発売
価格¥2,500+税
<収録曲>
1. CULURE CITY
2. We are all
3. 君が誰かの彼女になりくさっても
4. LOUVRE
5. 天王寺ガール
6. エビバリスウィング
7. サンセット通り
8. TOUR
9. Somewhere
10.A special song
■配信情報
iTunes Store、レコチョク他、各配信サイト また LINE MUSIC、Apple Music、Spotifyなど主要定額制音楽ストリーミングサービスにて配信中。