K DUB SHINEが語る、ヒップホップの歴史と今のシーンに足りないもの
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過去から現在に至るまでのラップ界のトップアーティストたちに、ギャングスタ・ラップの”ゴッドファーザー”ICE-Tがインタビューしたドキュメント映画『アート・オブ・ラップ』が7月27日に公開される。
それに先立ち、「JamesBrownから聞け」(「公開処刑」/ KING GIDDRA)と、先人たちの歴史を知るべきだと投げかけてきたK DUB SHINE(K DUB)氏に、『アート・オブ・ラップ』の魅力、そして日本の音楽シーンの現状について訊いた。
――『アート・オブ・ラップ』には、K DUBさんがヒップホップにのめり込むきっかけとなったアーティストが多数出演していますが、見どころはどこでしょう?
K DUB あらゆる世代のMCが出てきて、自分の作品に対する取り組み方とか、こだわりについて、自分の口から発するっていうのが一番の見どころじゃないかな。たとえば、Naughty by NatureのTREACHが言ったような「その場のフリースタイルで曲を作ると、ろくなものができない」っていうのは共感したし、DANA DANEがアメリカの学校で習う作文の書き方、「イントロダクション→ボディ→コンクルージョン」っていう”起承転結”で曲を作るのもそう。そうしないと、理路整然としなくなるから。あとは、Rakimがそれまでのドラムやパーカッションのようなラップを、譜割にして、より音楽的にサックスのように変えたこと。俺もRakimのファンだから、彼がどうやって曲を作っているのかというのは、ガキの頃から研究しながら聞いて、だんだんと身につけた。
――K DUBさんの二拍で韻を踏んだり、一小節ごとに合わせたりというスタイルは、KING GIDDRAやBUDDHA BRANDやMICROPHONE PAGERがデビューするまで日本にはなかった。試行錯誤されましたか?
K DUB というよりも、アメリカのラップの基本中の基本、Run-DMCを聞いてた頃から、それが醍醐味だと思ってた。なのに、俺らより前に日本でヒップホップをやっていた人たちは、そこを薄めちゃってて。誰のどの部分を盗んだとかではなく、アメリカの全体的なラップを見て、こういうルールでやっているんだなというのを頭に入れて、それを日本語に置き換えただけ。あとは、アティチュード、気合いの入り方にも物足りなさを感じた。「俺を見ろ!」くらいに強気でラップしている感じがしなかった。
――気合いの入り方っていうのが、当時のポイントなのかなと思います。というのも、”さんぴんcamp”以降、街の不良っぽい、格好いい若い子が、ヒップホップに流れていった。それまでの日本のヒップホップに、ストリートが好むような要素はなかったと思います。K DUBさんの言う「気合いの入り方」「強気で」って、どういう部分なのでしょうか?
K DUB ヒップホップは、MC同士が自分のほうが上だと競い合う文化で、自分のラップやスキルを、自信を持って聞かせるという強気さも必要。ストリートで強がったこと言うんだから、舐められないような考え方を持たなければいけないし、タフさとかもだな。そういう部分に、ストリートにいる奴らが惹かれたんじゃないかな。
――なるほど。それって、まさに『アート・オブ・ラップ』で語られているようなことですね。日本にも、”さんぴんcamp”以降、『アート・オブ・ラップ』的な世界観が入ってきた。
K DUB それ以前のラッパーたちは、どこまでヒップホップをわかっているのかが疑問だった。いまいちヒップホップらしさがもの足りない、と感じてた。細かい話をすると、向こうのラッパーが聞いてもヤバイと思うサンプルネタだったり、アルバム作りをちゃんとした上で、ヒップホップのオーソドックスなスタイルを、日本語に変換できているラッパーが少なかった。
――今のラッパーでは?
K DUB これは賛否両論だけど、KREVAの曲にはストリートを感じない。ラップはうまいし、J-Popの中でのラップミュージックとしては昇華できてるけど、ヒップホップのソウルは感じない。っていうと、宇多丸とかが「なんであのよさが分からないんだ?」ってすげぇ言ってきて、ケンカになるんだけど。まあ好き嫌いだろうね。
――けど、KREVAさんはK DUBさんの曲を聞いていると思いますよ。フリースタイルでも「まだ見たこともない動き編み出す これはK DUB SHINE」とかラインも使っていましたし。
K DUB 昔、KICK THE CAN CREWは、KING GIDDRAを聞いて韻の踏み方を学んだって言っていた。LITTLEは直接会って「リスペクトしてる」と。作風見ていれば、ライミングの原則を守っているのもわかる。KREVAもスキルはあるし、フリースタイルバトルから出てきているからね。でも、普段の立ち振る舞いにヒップホップっぽさを感じない。俺が偏っているのかもしれないけど、ファンクな部分や、黒さ。あとは、コミュニティー全体で勝ち上がっていこうという気持ちが足りない気がする。
――フックアップが足りない?
K DUB フックアップというか、ソウルを感じない。って言っちゃうとそこまでだし、感じない俺に問題があるかもしれない。ひとことで言うと、表現的な社会に対するコミット。
――一緒に音源を作りたいアーティストいますか? たとえば、KREVAさんはどうですか?
K DUB 基本的に、今までやったことがない人で、面白い化学反応が生まれるなら誰とでもやってみたい。ただ、もしKREVAとやるなら、俺のことをどこまで理解しているか話し合うね。もちろん俺も相手のことを理解するべきだし、わだかまりなくね。別に人間的なわだかまりはもともとないよ。アーティストとしては立派だと思っている。
――SKY-HIはどうですか? 彼もKING GIDDRAとか好きだと思いますよ。
K DUB それは技術面でしょ? 精神面は全然受け継いでないよ。精神はエイベックスのアイドルでしょ? どうしても。たとえば、山本太郎みたいにね、表現するためにキャリアも捨てると。そういった気概があれば。それにさ、地方に「俺たちで盛り上げていこうぜ」って奴ら、いくらでもいるでしょ? そういう奴らのほうがヒップホップだと思う。下品な部分を出さずに、上品にやっているようじゃダメだよ。
――それ、映画で言っていましたね。BUN Bが「人生のBサイド、人に話せないような側面が音楽から見えてこないのは偽者」だと。
K DUB ハングリーさを出すために、飯食わないで書くってラッパーもいた。ヒップホップがここまで盛り上がってきた背景には、人種差別への反対運動とか、自分たちの失われた歴史を取り戻そうとか、アイデンティティ的な要素を大切にしている。映画でも言っていたよね。そういったものに対して一石を投じる、声なき声の代弁者になることで、周囲の環境や社会的地位を向上させていくことをしなければいけない。それは、なにもヒップホップから始まったことではなく、ソウルやゴスペルもそうだし、ブルースにジャズやファンクも、ずっと差別を受けてきた黒人たちが自分たちへのメッセージを発信するために音楽で表現していった伝統があって、ヒップホップにつながる。日本のヒップホップだけ、「そういうのとは関係なく音楽だけやるよ」とは言えない。日本人だからといって、そういった部分を切り離しては、ヒップホップじゃないと思う。
――意外だったのは、そういったヒップホップの歴史をたどる映画かと思ったら、切り口的には、さまざまなスタイルがあるという内容だったと思います。Commonのように哲学的な観点で曲を作る人もいれば、Eminemのような作り方もある。ICE-Tは何を伝えたかったのでしょうか?
K DUB そういう映画はまた別にあるからね。一言でいうと、アイスはヒップホップに還元したかったんだろうと思う。ヒップホップは、こんなに深いし、簡単にやってるわけではなく、誰もが試行錯誤をして創っている。そして、昔だったら箸にも棒にもかからなかった若い黒人の声が、ヒップホップが存在することで、ここ日本にも届くわけだ。 アイスは、それを再確認させ、ヒップホップがアメリカという国を、どのように変えてきたのかを表現した。この映画を見た後、誰か、ラッパーが「背筋伸びました」っていうコメント出していたけど、アイスの気持ちが通じたんじゃないかな。
(後編「『ショー・ビジネスが、ビジネス・ショーになった』K DUB SHINEが日本の音楽シーンを斬る!」に続く/取材・文=石井紘人[hiphopjournal])
● 『アート・オブ・ラップ』
監督/アイス-T 出演/エミネム、ドクター・ドレー、スヌープ・ドッグ、カニエ・ウェスト、Run DMC、ナズほか 配給/角川書店
7月27日よりシネマライズほか全国順次公開
(映画『スヌープ・ドッグ/ロード・トゥ・ライオン』と同日公開)
2012(c)The Art Of Rap Films Ltd