宮本浩次・新作『I AM HERO』インタビュー、「転がり続けないとロックバンドではない」60歳で辿り着いた全方位の挑戦
音楽
インタビュー
宮本浩次 / Photo:小境勝巳
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Text:柴那典 Photo:小境勝巳
宮本浩次が約4年半ぶりとなるアルバム『I AM HERO』を完成させた。
充実したソロキャリアを積み重ねてきた宮本にとって、新作はまさしく「挑戦」の一枚だ。表題曲「I AM HERO」を筆頭に、荒々しいエネルギーを放つ楽曲が並ぶ。胸に染み入るメロディを歌う一方で、ロックンロールの衝動を突き詰めたようなナンバーも印象的だ。エレファントカシマシとソロ活動の両輪を進めていく中で、また新たなクリエイティブの扉が開いたのだと感じる。今年6月で60歳となる宮本。ただし「還暦」という言葉のイメージとは真逆の、とてもフレッシュなアルバムに仕上がっている。
その背景には新たな出会いの数々があったのだという。新作の背景について語ってもらった。
── アルバムが出来上がっての手応えはいかがでしょうか?
ジャケットが象徴的なんだけど、このアルバムはコラージュかなと僕は思っていて。たとえば、小林武史さんと組んで作った「close your eyes」や「Today -胸いっぱいの愛を-」のようなドラマの主題歌や大きなタイアップの曲があって。自分で言うのもなんだけど、それは良質で純度の高いJ-POPの楽曲がある。今聴いても、改めて「いい歌を歌ってきたんだな」って思う。一方で、Jメタルをあえて狙った「over the top」や『爆弾』の主題歌の「I AM HERO」みたいな、テンションの高い曲もある。自分なりのラップの解釈をして新しい仲間と作り上げた「零地点Bomb」もそうだし、新しい扉を開けた曲もある。大きくわけてそのふたつがある。いろんなことに、自分でちゃんと意識してチャレンジできたアルバムなのかなって思っています。
── 宮本さんのソロ活動が始まったときには、歌謡曲にも通じるようなしっとりとした歌心を届けていくというコンセプトやイメージがあったと思うんです。でも、それが受け入れられ、ソロのキャリアが確立したことによって、できることがさらに広がった。そういう変化が前作からの4年半にあったんじゃないかと思うんですが、振り返ってどうですか?
おっしゃる通りで、『ROMANCE』というアルバムがエレカシも含めて私史上初めてのナンバーワンになりまして。お医者さんとか、車の修理屋さんとか、そういった同世代より上の男性の方からも「宮本さんが歌う『あなた』っていいね」と言われることもあって。そういう広がりを感じた『ROMANCE』というアルバムがあった。あれは小林武史さんと作ったもので、エレカシというバンドとは違う面を出したかったから、女性ボーカルの曲に絞ったり、選曲も含めてコンセプチュアルなものにした。そういうものが受け入れられたというのは大きな自信になりました。あえて言えば、エレカシの後のソロの第一期というのは、日本を代表するプロデューサーの小林武史さんとユニットを組んだということだと思うんです。そして「冬の花」や『ROMANCE』の世界を突き詰めていった。で、今はそこから離れつつある。もちろん今も小林武史さんを頼りにしているんですけれど、でも、エレカシ、小林武史という、自分を支える二大チームとはまた別の新しい仲間ともチームを組み直す時期に来ているという。
── セールスや商業的な成功を追い求めるんだとするならば、『ROMANCE』の延長線上にあるものを作るという方向性もあったと思うんです。けれど、今回のアルバムはいい意味で、宮本さんのエゴが突き通されているものになった。そこにきっと必然性もあると思うんです。メタルもオルタナティブもパンクロックもあって、美しい歌心もあるという、全方位的なものになった。統一感はないけれど、宮本さんが歌っているということが軸になっているアルバムだと思います。
たしかに、こうやって60歳になった今、どういうことをやっていくかというのは本当難しいところで。歌の世界を突き詰めるというのをわかりやすく表現したのが「冬の花」や『ROMANCE』だったと思うんです。で、『ROMANCE』はカバーアルバムだったけれど、ああいう曲をオリジナルで作るという目標もある。わかりやすく言っちゃうと、当時の歌謡曲の現代版のような、歌心のあるヒット曲を狙うべきだという挑戦もあると思う。でも一方で、ロックバンドが大好きな宮本浩次がいて。ロックバンドって、これまた難しくて、淀んでいるとロックバンドでも何でもないのよ。転がってないとロックバンドではないでしょう? たとえば今回の「かなりニュールネッサンスなnew dayよ!」ではジャズミュージシャンの石若駿さんがドラムを叩いていて。それがロックに聴こえるんです。「I AM HERO」は日本を代表するドラマーの玉田豊夢さんと抜群のテクニックを持つベースの須藤優さん、そこに名越由貴夫さんと私のギターで構成されている。これはロックバンドだと思ったんです。個として素晴らしいミュージシャンたち、職人たちが集まって、でも完全にロックバンドの音になった。このマジックを経験しました。これは私が次の目標に行くためのスタートとしてのアルバムになっていると思う。
── そうやってロックバンドの音を求めるようになったことが、このアルバムに至る着火点のようなものになったのではないかと思うんですが。そのあたりはどうでしょうか。
2024年に『今、俺の行きたい場所』というタイトルで小林武史、名越由貴夫、玉田豊夢、須藤優をはじめとする、一番信頼している仲間たちとツアーを回りました。神戸のアリーナで最終日を迎えて、そのときに「ロックが足りない」って僕は思ったんですね。そこから「over the top」という曲ができて。あれはJメタルの曲なんだけれど、玉田豊夢のスーパードラムと、須藤優のテクニカルだけどハートのあるベースがあって。あの辺からスタートしているんですね。
── なるほど。プレイヤーとしての信頼だけでなく、メンバーが集まったときにバンドになったという実感があった。それが今回のアルバム制作につながった、と。
そう。だからスタートはやっぱりロックバンドというもので。一方で女性の優しいテイストの歌を全力で解釈して歌った『ROMANCE』というアルバムがあって。一方でエレファントカシマシというバンドをずっとやってきて。エレカシはひとつの完成形なんですよ。「これ以上ない」という状態まで進化している。そしてエレカシではないところの宮本浩次の歌心を表現するという小林武史さんとのユニットも2021年から2022年の『縦横無尽』のツアーでひとつの頂点を迎えていたんですね。それに気付いて、そこからロックバンドとしての自分を取り戻す方に移行していったんです。そういう今の宮本浩次のロック心を直接的に理解する感受性と技術を持っている仲間とロックバンドをやりたい。それが『俺と、友だち』というシリーズにもなって。そこから「零地点Bomb」で詩人でラッパーのGiorgio Blaise Givvnさんとやったりして。ロックバンドって、「転がり続ける」っていうものなんですよ。
── だからこそ『I AM HERO』というアルバムは、歌心だけでなく、ロックバンドとしての面も、さらにラップやシャウトの要素も含めた、宮本浩次というボーカリストのポテンシャルを全方位に発揮するものとしてソロが進化したような印象があります。
ありがとうございます。もうひとつあるのが、今回のアルバムは『I AM HERO』というタイトルだし、「出かけるぜ」というフレーズを多用しているんです。ライブでも口癖みたいになっちゃっていて。
── たしかに0曲目のタイトルも「さあ、出かけよう!」ですね。
それは宮本浩次のエゴからスタートしている言葉でもあるんだけど、「I AM HERO」って、これは生命賛辞の言葉なんですよ。快・不快だったら絶対、快を求める。喜びを求めて生きていく。それを目指すのが「I AM HERO」ということだと思う。僕は転がり続けるのが格好いいと思うし、生きていくって、何でも「出かけていく」っていう風に言える。だからライブでも「さあ、出かけるぜ」ってみんなに言っているんです。
── たしかに、還暦というタイミングでリリースされるアルバムですけれど、これまでを懐かしんだり振り返ったりするようなムードはないですよね。「さあ、出かけよう!」と、未来の喜びにフォーカスしている。そこがとても痛快な感じがしました。
ありがとうございます。
── 0曲目の「さあ、出かけよう!」とラストに収録された「愛を抱きしめろ」は同じモチーフからなるリプライズのような構成になっていますよね。スワンプ・ロックというか、ブルージーな土臭さのあるナンバーですが、これはどのように作っていったんでしょうか?
これは、ベックが『Hyperspace』というアルバムでブルースハープを吹いている「Saw Lightning」っていう曲があって、それがめちゃくちゃ格好いいなと思ったんです。本場の人がやっているのもいいんだけれど、尊敬しているベックのような学者肌のミュージシャンがブルース・ロックをやっているのがいいなと思って。あと、『Beggars Banquet』の頃のローリング・ストーンズも最高じゃないですか。ミック・ジャガーもブルースハープの達人だし。J-POPもあるし男っぽいロックバンドもあるという今回のアルバムをまとめるにあたって、導入にああいうブルースの勢いがある曲があるといいなと思って、それで口ハーモニカでやって作ってみたんです。歌詞もいらないし、「さあ、出かけよう!」って言っているだけで。そうやって作った曲を小林さんにアレンジを依頼したらすごく豪華になったんです。もともと1曲目のつもりで作っていたんだけど、そこに小林武史さんの彩り鮮やかなアレンジが加わって、愛のかたまりのようなサウンドになったのが「愛を抱きしめろ」なんです。
──「さあ、出かけよう!」のほうが先にあったんですね。
そう。「さあ、出かけよう!」の方がデモテープに近いというか、もともとの姿なんですよ。でも、「愛を抱きしめろ」のサウンドがあまりにも素晴らしくて。だから、これでアルバムを終えようと思った。幸せな結末を迎えることができました。
──「生きているから」は宅録っぽい、異質なサウンドになっているように感じました。これはどういう風に作っていたものなんですか?
これは、実は13年くらい前に作った曲なんです。昔、左耳が聞こえなくなって入院したことがあって。手術して治ったんだけど、デカい音を聞くことが怖くなっちゃって、音楽も何も聞かない時期が2カ月くらいあったんですよ。その後に自分の作業場で歌を作るようになったときにできた曲で。全然歌ってなかった時期もあったけれど、宅録で、ようやく自分で希望を持って曲を作れるようになった。その当時のモチーフが復活して「生きているから」という曲になった。だから、この曲は当時のデモほとんどそのままなんです。宅録で、歌とギターとベースは入っていて、ドラムだけ打ち込みだった。最初は玉田さんにお願いしようと思ったんだけれど、小林さんに「自分でやったらいいんじゃない?」って言われて、小林さんのドラムを借りて自分で叩いた。だから、結局全部自分で演奏しているんですよ。宅録のムードと、13年前の当時の気持ちがこもっている音になっているんです。
──「風と私の物語」はAdoさんに提供した楽曲のセルフカバーですが、これは作ってみてどうですか。
まず一番感激したのが、自分の作った歌をAdoさんが心を込めて、自分のものにして歌っているということで。本当にうれしかったですね。映画の主題歌で、潜水艦の話なんですよ。だから「風を感じる歌がいい」というのをスタッフから聞いて。「宮本さんの歌でかまわない、むしろそれがいいんです」というんです。で、私も散歩が好きなんですけれど、彼女も散歩が大好きなんだって。だから、等身大の彼女がツアーの合間にふらっと散歩に行ったときに感じた気持ちはこうかなって思って作った歌なのね。それを彼女がちゃんと自分のものにして、しっかりと歌ったのを聴いて本当に感動した。すごくうれしかったし、そこから自分でも歌いたくなった。それに、この曲は小林武史さんとのユニットを一区切りにしようと思ってからの第一歩だったんです。そういう意味でも自分にとってもすごく印象深い曲になっていて。宮本浩次にロックをもう一度取り戻すという作業をしようというスタートが「I AM HERO」と「風と私の物語」だったから。
── 昨年にはRADWIMPSのトリビュートアルバムで「おしゃかしゃま」をカバーしていましたよね。下の世代のバンドの、しかも非常に難易度の高い曲をやったということは、この曲のレコーディングメンバーのヒイズミマサユ機さん、石若駿さんとの出会いも含めて、宮本さんにとって得ることの多い体験だったんじゃないかと思います。
おっしゃる通りです。もともとRADWIMPSもすごく好きで、あの曲の入ったアルバムが出た当時のライブにも行っていたんです。本当に素晴らしかった。「おしゃかしゃま」も何回聴いたかわからないくらい聴いているわけ。歌詞にも共感したし、最高な歌だと思っていたんだけど、難易度が高いとは思ってなくて。でも歌ってみたらめちゃくちゃ難しくて。まいったな!って思って何十回もやり直したけど、本当に楽しくて。そこからヒイズミマサユ機さんと石若駿さんと一緒にレコーディングをしたんです。去年の『RISING SUN ROCK FESTIVAL』で椎名林檎さんのステージで「獣ゆく細道」をやったときに石若さんがいたんだけど、名前はもともと知っていて、絶対やりたいと思っていたからお願いしたんです。そういうダイナミックな経験でした。小林武史さんとのユニットじゃないあり方を探しているときに、新しい仲間と出会うことができた。レコーディングもめちゃくちゃ楽しかったです。
── そこでの石若駿さんとの出会いが、このアルバムの「かなりニュールネッサンスなnew dayよ!」につながっているわけですね。ジャズドラマーの石若駿さんがこういうパンクロックの楽曲でドラムを叩いて最高なグルーヴになるという、そのアイデアは「おしゃかしゃま」での経験があったからこそ形になったのではないかと思います。
ありがとうございます。そうなんです。あの人はジャズの人だから理論も完璧に頭に入っていて。だから、そこから逸脱したものに対する興味もあるんだと思います。この曲は俺のギターと歌に対して石若駿がドラムを叩くという形で作っていって。宮本浩次のリズムというものにはたぶん想定外なものがあって、その楽しさをジャズ的に解釈していたんじゃないかと思います。
── いろんなお話をお伺いして、わかってきました。新作はこれまでの4年半の制作過程でのいろんなチャレンジが入っているということなんですね。もちろん小林武史さんの力を借りた楽曲もありつつ、小林武史プロデュースワークの枠組みを離れてロックバンドの方向に向かった曲、そして宮本浩次というボーカリストのポテンシャルを、いろんな出会いによって、いろんな方向から引き出すことにトライしてきた。それが結実した13曲という感じがします。
おっしゃるとおり。だからコラージュのジャケットがすごく大事なんです。ジャケットは河村康輔さんという素晴らしい人に作っていただいたんですけど、彼はストリートから出てきた方で。Giorgio Blaise Givvnさんも彼に紹介していただいたんです。ジャケットのデザインについても、彼にいろいろ考えてもらって、力を発揮してもらった。歌詞カードについても、CDを買った人が、手にとって楽しんでもらえるようなものになっていると思いますね。
<リリース情報>
『I AM HERO』
6月10日(水) リリース
【収録曲】
0.さあ、出かけよう!
1.over the top
2.I love 人生!
3.かなりニュールネッサンスなnew dayよ!
4.零地点Bomb
5.風と私の物語
6.close your eyes
7.feel so fine
8.Today -胸いっぱいの愛を-
9.哀愁につつまれて
10.生きているから
11.I AM HERO
12.愛を抱きしめろ
【発売形態】
◼︎初回限定「Birthday Concert 最高の日、最高の時」盤
CD+Blu-ray
9,000円(税抜)

◼︎初回限定「俺と、友だち」盤
CD+Blu-ray
9,000円(税抜)

◼︎通常盤
CD
3,300円(税抜)

▼アルバム購入リンク
https://hirojimiyamoto.lnk.to/2026_album_cd
▼アルバム特設サイト
https://sp.universal-music.co.jp/miyamotohiroji/i-am-hero
宮本浩次 オフィシャルサイト
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