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音楽プロデューサー 近藤ひさしが明かす、今チームワークでアーティストを育てるメリット

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 音楽プロデューサー・近藤ひさしが、代々木アニメーション学院とコラボレーションしたプロジェクト『YOANI PRODUCTION×HISASHI KONDO ROCK&IDOL UNIT「MISS ME」メンバー募集全国オーディション』が現在開催されている。

 YUI、ステレオポニー、Chelsyなど、J-POPシーンで活躍する多くの女性シンガーソングライターやバンドの楽曲を手がけてきた同氏が初めて女性アイドルグループのプロデュースを手がけることになったという同オーディションをきっかけに、今回リアルサウンドでは、近藤ひさしにインタビューを行った。自身のプロデュースの手法から近年のアーティストに感じる変化まで、長年音楽制作に携わってきた近藤氏ならではの視点で語ってもらった。(編集部)

(関連:つんく♂は海外からJ-POPシーンをどう見ている? ハワイ移住後の音楽との関わり方の変化

■プロデュースワークの難しさと面白さ

ーーどのようなきっかけで音楽プロデューサーの道に進まれたのでしょうか。

近藤:もともと僕は原宿歩行者天国(ホコ天)でライブをしていたバンドマンだったんですが、当時、大阪城公園野外ストリートライブ(城天)ですっぽんファミリーというバンド集団を仕切っていたつんく♂さんと一緒に路上ライブをやらせてもらう機会があり、そこからつんく♂さんとのお付き合いが始まりました。それがすべての始まりでしたね。

 1992年シャ乱Qがデビューして、それから3年遅れで僕らもメジャーデビューしまして、それぞれ別の活動をしていたんですけど、つんく♂さんがモーニング娘。のプロデュースワークを始めるようになった頃、「ディレクターとして手伝いにこないか?」と声をかけてもらいました。裏方をやるつもりは全くなかったから、どんな仕事かもわからなかったけど、とりあえずスタジオに行ってみたんです。そうしたら、当時のバンド仲間がみんなつんく♂さんのもとに集まっていて。そこでプロデュースワークを学んでいくことになります。

 それまで音楽プロデューサーとは小室哲哉さんしか知らなかったけれど、直々の先輩のつんく♂さんがプロデューサーとして活躍する姿を間近で見て、僕自身も多くのことを学ばせてもらいました。その後、メジャーデビューしていたソニーミュージックに今度はディレクターとして入社することになって、担当するアーティストをプロデュースするようになっていきました。いよいよ自分でプロデュースするようになってからも、つんく♂さんにはよく相談に乗ってもらってましたね。

ーーこれまでプロデューサーとして携わってきたアーティストのなかで、特に印象深い方は?

近藤:皆さんの中で特に印象にあると思うのは、毎日毎日ずっと一緒になって本気でケンカしながらやってきたYUIだと思います。デビューはもちろん、プロダクションが決まる前から四六時中のやりとりで、初めてのインディーズ盤を作るところから、彼女自身のバンドを始めるまで、YUIとしての全楽曲を制作しました。彼女が歌えば、どんなカバーであってもオリジナルに聴こえるほどのボーカリストしての説得力がありましたし、とにかくあの頃は続けていくために音楽へ向き合う姿勢も本当にストイックでした。僕自身の音楽人生としてもかなりの時間を共に歩んできました。当時、レーベルの代表だった村松ボス(現在はソニーミュージックグループの代表取締役社長 村松俊亮氏)が、僕らの喧嘩を止めに入るくらいでしたから。

ーーYUIさん以外にもこれまでステレオポニー、Chelsy、FTISLAND、新山詩織など、バンドやソングライターの方の楽曲を数多くプロデュースされてきました。アーティストが作り上げようとするものをより良い方向に導くという役割の時もありますよね。

近藤:ボーカリストが歌を書くときは、ディレクションが本当に難しい。慎重に話さないと自分が生み出したものを否定されたと捉えられてしまうこともありますから。特に歌詞は曲と違って誰でも書こうと思えば書けてしまうものと勘違いされることも多く、周囲から意見も言われやすいみたいですから、僕とのやりとりはより慎重になります。本気で楽曲プロデュースをしていくなら、プロデューサー自身のスキルや、引き出しの多さもかなり重要になってくると思っています。

ーープロデューサーとして苦労したことはありましたか。

近藤:さきほどお話したように、プロデューサーという仕事について師匠のつんく♂さんから学んだことがすべての始まりなので、アーティストに関わるすべての出来事を必ず最後までチェックして自身でOKを出すように心がけていました。YUIとは始まりからが特殊だったので、そのやり方が日々普通で全体を把握しながらクオリティコントロール、楽曲のメッセージもブレずに発信することが出来ました。ところが、その後、いろいろな会社やアーティストさんと仕事をするようになってからは、マネージメントが決めること、レコード会社が仕切ること、プロデューサーの役割とが各現場で違うことに戸惑うこともたまにありました。「それはこちらでやっておきます」と送られてきたジャケットのイメージが楽曲とかけ離れていたり。つんく♂現場で学んだことはやはりトータルで魅せていくことでしたが、それはいま思えば、本当にアーティストはもちろん、スタッフとの信頼関係で成り立っていることや、ちゃんと任せてもらえるようなプランを説明するところからプロデュースワークは始まっているんだと思います。トータルのプロデュース、サウンドプロデュース、マネジメント的なプロデュースなど、つんく♂現場ではすべてやっていたので、僕もそれを見習って一貫性のある作品を出し続けられるようになっていたんだと思います。

ーーそんな近藤さんが初めて女性アイドルグループのプロデュースを手がけることになった『YOANI PRODUCTION×HISASHI KONDO ROCK&IDOL UNIT「MISS ME」メンバー募集全国オーディション』が現在開催されています。近藤さんと代々木アニメーション学院(代アニ)のコラボレーションプロジェクトですが、立ち上げの背景を教えてください。

近藤:3年前、秋元康さんが、指原莉乃さん、小室哲哉さん、つんく♂さんに声をかけ、4名が代アニさんの共同プロデューサーに就任されました。そして去年からつんく♂師匠が監修したカリキュラムが始まり、そこで僕も講師をさせて頂くことになりました。それをきっかけに師匠から今回のアイドルグループをプロデュースしてみないかというお話をいただきました。これまで、ガールズバンドやソングライター系が多く、声優さんへの楽曲提供などはありますが、アイドルグループだけに携わるというのは、つんく♂プロデュースでのハロー!プロジェクト、モーニング娘。のアシスタント時代以来になります。当時、現場で一流のクリエイターやミュージシャン、それぞれのプロフェッショナルがアイドルの曲やパフォーマンスを作り上げているところを見てきました。アイドルがいかにプロ集団によって生み出されているものなのかを実感してきたので、自分が関わらせていただくことになって、また僕らしさも入れ込みながら、制作していくことを今からとても楽しみにしています。もちろん引き続き師匠にはアドバイスをもらいながら、大きく丁寧に育てていきたいと考えています。

ーーYOANI PRODUCTIONからは、指原莉乃さんプロデュースによる=LOVEと≠ME、YOANI 1年C組といったアイドルグループが誕生している中で、今回のMISS MEはロック×アイドルがコンセプトに据えられているそうですね。

近藤:自分がこれまで手がけてきたアーティストから周囲に求められ印象も“女性シンガーソングライター”や“ガールズバンド”が多かったと思います。今でもライブハウスからそういった新人のデモ音源をもらうこともあります。そんな僕がせっかくアイドルをプロデュースさせてもらえるなら、バンドサウンドを取り入れて野外フェスに出ることを目標にするのもいいのではないかと思いました。わかりやすいフレーズとして“ロックアイドル”とキャッチコピーが付いていますが、実際にオーディションを行なって会ってみて決めていこうと思っています。

ーーこれまでのロックアイドルというと、音楽性でいえばメタルやラウドが主流のイメージがありますが、MISS MEではどんなイメージのサウンドを想定していますか?

近藤:今考えているのはオルタナティブなサウンドですね。野外フェスのようなステージに立ったり、生バンドをバックに従えるアイドルであれば、僕がこれまでやってきたものともうまく合致するのではないかと思っています。

■写真1枚の大切さを考えることができる人が成功していく

ーー現在近藤さんは講師として代アニで授業もしていますが、どういった学生が多いですか?

近藤:代アニさんなのでやはり声優を目指している方が多いです。ただ、今の声優さんってオーディションの中には、「歌」を出すこと前提で選ばれることもあるようで、生徒さんたちもそれをわかっているからなのか、声優だけでなく歌もできた方がいいと感じている方も多いです。年齢層もいろいろな方々が授業を受けにきていてやる気に満ちていますよ。

ーーこれまで携わってきたアーティストと比べて、近年のアーティストから感じる変化はありますか?

近藤:とあるコンテストの決勝大会に優勝したバンドが、デビューに向けたミーティングで「高校を卒業したら就職するのでデビューは考えてないです」と言っていたというところに遭遇したことがあります。一昔前には大きな賞をもらったら“音楽で食べていこう”とする考えるバンドが多かったと思うけれど、最近はそういったコンテストに出場して優勝するようなバンドでも“趣味でいい”と思っていることが多いと聞きました。

 今は、音楽業界の中でも、ほんの一部の現場以外、新人アーティストはもちろん、”スタッフたち”のほうこそ、「売れる」ということを味わったことのないまま仕事をしている人が増え続けている業界になっています。大きな夢を現実に見れない現状があるようですね。みんなが知っている流行歌になるものも数曲程度。ここ数年でレコード会社に入社した人たちはさらに現実味はないものになっているかもしれません。でもそれは、音楽が売れなくなって寂しいという話よりもリスナーの趣味嗜好が細分化されて、その分野に強い人が自ら作品を発表できるようになってきている流れでもあるわけですし、どう向き合うかだとは思います。

 代アニさんのように強いジャンルを持つ会社がマネージメントやレーベル機能を持ったり、バンドやアーティストも自分で自分のことをマネージメントしていく時代になっていくのかなと思いますね。

ーー個人でも活動することができる一方で、プロデューサーをはじめノウハウを持った一流の人たちと手を組んで活動するメリットもありますよね。

近藤:アイドルは特にその必要が大きいですよね。ビジュアルイメージを含めたアーティスト像/アイドル像って、それぞれのプロフェッショナルが揃って作られていくもの。振付、デザイナー、様々なクリエイターとチームワークでいいものを作っていけるものだと思いますから。

 昔は、街で鳴っている音楽を聴いてその楽曲やアーティストに興味を持つことも多かった。でも今は、もしかしたら音楽よりもイメージが先。スマホの画面に流れてくる写真や映像のムードや、キャッチコピーを読んで、そこから初めて興味を持たれる。音楽はその奥にあるんですよね。かつては、“曲は知っているけど顔は知らない”ということがよくあったけど、今は逆。そう考えると、写真1枚、映像1本がより大切になってきているんです。

 「今、どんなアーティストが求められていますか?」という問いに対して、「これからは自分で発信できる人」と言っている方もいます。もちろんそれを否定もしませんが、本人発の配信番組などを見て、せっかくチームで質感にまでこだわったアーティスト写真のイメージと全然違うことってあるじゃないですか。チームで作り上げたイメージを本人が簡単に壊してしまっている……僕自身、そういうのを見てガッカリすることがあります。自分で簡単に発信することができるからこそ、写真1枚、映像1本の大切さを俯瞰して考えることができる人がアーティストでも、アイドルでも、これからの時代には成功していくんじゃないかなと思います。

ーーMISS MEのメンバーはどういう人に集まってほしいですか?

近藤:アイドルに興味はあっても、自信がなくて“私なんかダメだ”って感じている人はたくさんいると思うんです。でも、そういう人のいいところ得意なことを見つけたいと思っています。たまに「“なんでもやります”というのはダメだ」という人もいるけど、僕は「なんでもやります」を「任せます」だと受け取って、その人に向いていることを見つけたい。もちろん、やりたいことが明確にある人も歓迎ですが、やりたいことが見つけられない人こそ、会いに来てくれたらアドバイスできるんじゃないかなって思っています。そういう可能性のある方々にたくさん出会いたいです。グループの中でもいろいろな役割があります。このチーム全体で100点を目指します。とにかくまずは会いに来てください。待っています。(久蔵千恵)