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サントリーホール『TEA〜茶は魂の鏡〜』日本人唯一のキャスト石井基幾、凱旋の舞台へ

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サントリーホールが委嘱し世界各地で再演を重ねるタン・ドゥンのホール・オペラ『TEA〜茶は魂の鏡〜』が、今年7月、20年ぶりにサントリーホールに帰ってくる。

日本の茶道の源泉である中国の“茶”をめぐって、対立と普遍的な愛が紡がれていく作品は、2002年の初演以来、ヨーロッパ、アメリカ、中国など世界各国で上演を重ねてきた。今回のプロダクションは、中国を代表する映画監督・舞台演出家であるシャーウッド・フーによる新演出。ホールの開館40周年記念事業でもある本公演で唐の皇子を演じるのは、2023年の『TEA』上海公演で初の日本人キャストとして抜擢されて以来、各地での公演に出演を重ねている石井基幾である。日本国内でも、2024年の東京・春・音楽祭でのリッカルド・ムーティ指揮『アイーダ』に出演するなど、大きな注目を集めている若手テノールだ。

「実は僕はもともとバリトンだったんです。大学の師の勧めで大学院修了を機に声種変更を決意し、サントリーホールオペラ・アカデミーでも教えていただいたジュゼッペ・サッバティーニ先生にお願いをして、アカデミーに第5期生として再度学びの場をいただきました。当初1、2年は発声や発音方法が大きく異なり苦しい時期を経験しましたが、そもそも、“楽譜に書かれた指示を100%守る”というアカデミーでの学び自体が僕にとってはとても大きい財産になっています」

そんな石井と『TEA』との出会いは、2023年6月の上海公演。

「もともとは2003年に上海公演の計画があったのですが、ちょうどSARSが流行ってしまって中止になったんです。そこから20年の時を経て、上海公演ということで、タン・ドゥンさんが新たに若いメンバーでチームを組みたい、特に日本人のキャストを入れたいとお考えになって、声をかけていただきました。僕にとっては初めての海外公演でのソリストです。世界各地から歌手が集まってひとつのプロダクションをつくる、という経験ができたことが、歌い手としての大きな成長に繋がったと思います」

2023年の上海公演の模様

その後、2025年の福州と香港、今年4月のブダペストでの公演にも参加してきた石井。その都度異なる上演形態を経験してきた。

「上海は劇場での公演でオーケストラはピットに入っていましたが、福州は学校のホール、香港はコンサートホールでオーケストラが舞台上にいました。ブダペストがもっともオーソドックスなオペラ劇場でしたね。上海公演で今回のシャーウッド・フーさんが演出に入られ、香港とブダペストはそのシャーウッド版に基づいた別の演出家によるものでした。今回のサントリーホールは、初演の時と同じくステージの周りを客席が囲む〈ホール・オペラ〉のスタイルで行われるのも、とても楽しみな点のひとつです」

多様な『TEA』の世界を経験してきた石井にとって、本作のテーマはどこにあるとかんがえているのだろうか。

「表面的には“お茶”をテーマにした哲学的作品にみえますが、演者としては、普遍的な“家族愛”と“人間ドラマ”が核心だと解釈しています。バスが父皇帝で、姉の皇女がソプラノ、僕が演じる弟皇子がテノールという家族で、そこにはソプラノとテノールの姉弟愛があり、さらに姉を愛するバリトンの日本の高僧と命懸けで戦うというドラマがある。その戦いは『茶経』というお茶の本を巡って起きるわけですが、それも、家族を失う恐怖や大切なものを守るための命がけのぶつかり合いのシンボルだと考えられます。そういう意味では、ドニゼッティやヴェルディなどのイタリア・オペラの延長線上にあるといえるのではないでしょうか」

作曲者のタン・ドゥンは、幼少期を湖南省の村で過ごしており、そこでは自然のものすべてに魂が宿るという道教の教えが息づいていたという。彼は初期の作品から、皮や木、竹、金属、陶器といった自然の素材を取り入れた作曲法を展開しており、彼自身これを「オーガニック・ミュージック」と呼んでいる。

『TEA』も3つの幕それぞれに「火、水」「紙」「陶器、石」というタイトルが付けられており、打楽器奏者がそれぞれの素材をもとにした音響を奏でる。

「ただ水や紙や石が出てくるのではなくて、マウスピースだけで演奏したり、紙をめくる音をさせたりと、オーケストラも一緒に参加するところが特徴的だと思います。音楽だけでも映像美を感じさせるような情景描写なんです。タン・ドゥンさんの書いた楽譜を見た時には、複雑なリズムだなと思ったんですが、実際に演奏していくと美しいメロディで、気づいたら口ずさんでしまうような耳に残る音楽になっていて、そのあたりが絶妙だと感じます。上海公演ではプロジェクターを使って映像を投影していましたが、今回もきっとサントリーホールならではの映像美をつくってくださると思います」

ウォーター・パーカッションなどのここでしか聴けない音や、いつものオーケストラとは違う響きなど、タン・ドゥンならではの様々な仕掛けを「これは何の音だろう」「ここは何を描いているのだろう」と想像しながら音楽を聴くのも楽しいかもしれない。さらに石井は、演じる上でとてもモチベーションの上がる理由として、こんな話を語ってくれた。

「昔のオペラは、歌手のために作曲家が曲を書いていましたが、僕も上海公演の時にタン・ドゥンさんが楽譜にないパッセージを付け加えてくださったんです。だから、みんなが持っている楽譜には今も書かれていない音楽を演奏しているわけで、これはオペラ歌手としては得難い経験だと思います」

公演を重ねるごとに、あふれ出るアイデアを更新していくタン・ドゥン。それはまさに「リアルなドラマを感じてほしい」という彼の思いを反映している。石井はそれを、タン・ドゥンが『TEA』という作品を「ただのオペラではない」と考えているからではないかという。2006年の再演からちょうど20年経って、サントリーホールに「凱旋」する『TEA』。石井基幾という若き才能を得て、また違った新しい貌をみせてくれそうだ。

取材・文:室田尚子

サントリーホール開館40周年記念
Daiwa House Special
ホール・オペラ(R)
タン・ドゥン:『TEA ~茶は魂の鏡~』

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2665823

7月3日(金) 19:00開演
7月4日(土) 17:00開演
サントリーホール大ホール

https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/articles/detail/138830.html

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