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塩野瑛久「感謝の気持ちが人を変えると思う」台本に描かれない人生まで想像した役づくり

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塩野瑛久 (撮影/梁瀬玉実)

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NHK大河ドラマ「光る君へ」で気品あふれる一条天皇役を演じてあらゆる世代から注目を集めた塩野瑛久。現在公開中の「SAKAMOTO DAYS」ではハードアクションに挑むなど、話題作への出演が相次ぐ。そして、6月19日(金)公開の『マジカル・シークレット・ツアー』では、会社の資金を横領して、借金を抱えたことから妻が金塊密輸に手を染めてしまい戸惑う夫という役どころを演じている。役の人物像を深めるために台本に描かれない部分もとことん考えたという。その結果、人間味あふれるリアルなキャラクターとして存在する今作での緻密な役作りの裏側に迫った。

人間物語もありつつ、クスリと笑える部分もあるエンタメ作品

今作は社会的に弱い立場にある登場人物たちが金の密輸を通して人生をリベンジするエンタテイメント作品。2017年に中部国際空港で金塊を密輸して逮捕された主婦たちのニュースを目にしたことが監督の天野千尋の発想の発端になったという。犯罪に無縁そうな主婦の和歌子(有村架純)と研究員の清恵(黒木華)、キャバクラで働く未婚の妊婦の麻由(南沙良)が金の密輸の闇バイトに巻き込まれていくストーリーだ。

「実話から着想を得たという金密輸事件が描かれますが、とても楽しんで読める台本でした。3人の女性は生活苦の中で色々と抑圧されていたけれど、金の密輸をきっかけに心が解放されていって、ハツラツとしていく姿がすごく印象に残りました。犯罪に手を染めているのにどこかカラッとしていて青春が垣間見えるのが面白いところ。人間物語もありつつ、エンタメとして描かれていて、クスリと笑える部分もたくさんあるので、そのバランスがとても素晴らしいなと思いました」

塩野が演じたのは、幼い子供を二人育てる和歌子の夫の高志。会社の資金を横領して解雇されていたことを妻に隠していたところ、病気で倒れてしまうという踏んだり蹴ったりな役どころだ。
「高志は、見た目は至って真面目そうなところがポイントかなと個人的には思っています。一見、横領しそうにない人物なんですが、言っていることとやっていることが矛盾していて、アンバランスな人間なんですよね。そこはとても人間らしいところだと思いました。横領をしてしまって倒れたことで、自分の愚かさを思い知り、今ある環境のありがたみを改めて感じているんじゃないかと想像しました。妻の和歌子が高志の借金のせいで大変な思いをしているけど、入院中の夫を見たら、怒りをぶつけることができないという弱々しさも考えて。ちょっと無精ヒゲを生やしているなどビジュアル面も細かいディテールを作りました」

台本に描かれる高志の人物像の描写から、台本で描かれていない部分についてもイメージを膨らませて演じる部分も多かったという。自分が横領したことを棚に上げ、密輸をした和歌子に説教をする場面もある。受け手によっては、正論のように思えたり、嫌なやつに見えたり、見え方に幅があるキャラクターだが、塩野には嫌なやつには見えてないようで役に理解を示す。横領の理由はどう捉えたのだろうか。

「僕が想像するに高志の人生って、順風満帆だったと思うんです。奥さんもいて二人の子供もいて、会社員として働く中で何かフラストレーションが溜まっていたというよりは、毎日に飽き飽きしていたところがあるのかもしれない。それでギャンブルにハマって大きな理由もなく、軽い気持ちで会社のお金を横領してしまったんじゃないかなと思いました」

高志の本音と建前が見え隠れする場面もある。自分が何をしたいのか分からない和歌子というキャラクターから高志の性格をこう分析する。

「高志が亭主関白なのは、和歌子が自分の意見を言えないタイプだからこそだと思いました。例えば、高志が言い出したことに対して、反対意見があったとしても、和歌子はそれを飲み込んで、『分かった』と言って、夫についてきた人物だと思うんですよね。和歌子のことを、自分を持っていなくて、自分が先導して何かを誘導してあげないと、何も決められない子だって勝手に思っていて、知らず知らずのうちに、亭主関白な毎日を過ごしていたのかなと、個人的に解釈しました。ちゃんと愛はあるけれど、挑戦させることもせず、可能性を潰してしまっている。そのことを、本人は意識していないし、悪気もないみたいな人物かなと捉えました」

有村さんとふたりで行った役の深掘り

台本に描かれない部分まで突き詰めた塩野。想像力を働かせて演じた高志という人物の変化については、実際に目の当たりにした人間を参考に演じたと語る。

「高志は病気で倒れるまでは、厳しかったり、横暴なところがあったりするんですけど。病気をして生死を彷徨った人は、周りに対しての感謝の気持ちが芽生えてきて、丸くなるんだなぁと思いました。僕の周りにもそういった人がいて、変わったのを目の当たりにしたことがあるので、その経験をヒントにしました。ピンチに陥ったからこそ、これからは家族を大事にするという気持ちが芽生えたと思うんです。
それで、和歌子の気持ちは考えないで自分が働いて何とかするという発言が出たり、和歌子を抱きしめたり。そこも死の淵を見た人間がしそうな行動だなという風に僕は思ってやったので、僕の中で腑に落ちた部分ではありました。人間って、多分そういう経験をしたら、感謝の気持ちが強くなったり、それまでと何か変わるんじゃないかなと思います」

撮影前にはリハーサルを重ねたという。和歌子役の有村と塩野のふたりは役になりきって、質問に答えるエチュードを行い、共にキャラクターを深掘りできたそうだ。その作業を経た塩野の役への解像度はさらに深いものに。

「今回、初めてエチュードというものをやってみたんですが、役を深めるヒントがすごくたくさんありました。有村さんは和歌子として、僕は高志として監督の質問に答えていきました。例えば、『和歌子はどんな人物だと思っていますか』や、『お互いどんな人物だと思って普段、過ごしてますか』など。僕らの視点で考えるのではなく、役本人として語るというやり方でした。高志が和歌子をどう見ていたかという質問には、『あまり前に出なくて内気なんだけど、明るくていい子だよ』って答えたりして。役を理解するのにとてもいい方法だなと思いました。自分がまだまだ役を掘り下げられていなかったんだなという部分に気づくことができましたから」

制作陣が有村架純以外、考えられなかったという和歌子役。流れのままに生きてきた和歌子が仲間と出会って変化していく過程を説得力たっぷりに演じている。塩野は、有村と対峙することで、高志という人間像がリアルになっていったという。

「有村さんの出演作品を拝見していて、持っている空気感が素敵だなと思っていたので、ご一緒できて嬉しかったです。有村さんと向き合うとすごく自然体でお芝居ができるなと感じました。入院して高志と和歌子が対峙する場面では、僕がいないシーンでの撮影現場の雰囲気などをお伺いしたり、他愛もない話をしたりして、和歌子と高志の空気感を作っていきました」

リベンジしたいことは「クラスメイトと青春を謳歌してみたい」

天野監督は、密輸のサスペンスを中心に描くのではなく、主人公がどう変わっていくのか人間ドラマを描きたかったという。監督とのやりとりで印象的なエピソードは?

「ワンシーンワンシーン、天野さんに細かいこだわりがあったので、すり合わせることを大切にしました。そこから細かい芝居のニュアンスを作っていくということが結構ありました。そのすり合わせ作業はありましたが、監督から僕にオーダーがあるというよりは、こちらから高志だったらどうするかということを質問して、役の解釈を合わせていったという感じでした。僕が監督に確認したのは、本当に横領しそうな旦那として描いたのかということ。元々、優しい性格なんだけど、横領してしまったところだけぶっ飛んでいるのか、それとも横領しそうなキャラクターを作っていて、倒れた段階で優しくなったのか。役への疑問や分からない部分は都度確認をして、細かい部分を作り上げていきました」

金の密輸という出来事をきっかけに人生をやり直して、リベンジを狙う3人の女性を描く今作にかけて、「リベンジしたいこと」を質問すると、「うーん……ガチなやつしか思いつかないなぁ(笑)」と真剣に考えてくれる姿から真面目な人柄が垣間見える。

「芸能活動をする今の人生でなかったら、ちゃんと高校に通いたかったですね。クラスメイトと青春を謳歌したり、その時にしか見られない景色をたくさん体験してみたかったです。思春期に出会う友人によって、いろいろ影響を受けることもあったでしょうし。学校行事も楽しみたかったです。同級生の文化祭にはよく行ってたんですが、自分の学校の文化祭だともっと気合が入ったんだろうな。催し物ではバンド演奏をして、ちょっとモテてみたかったです(笑)」

役者として学園もので青春を謳歌できる機会がありそうと伝えると、「僕もそう思っていたんですよ。高校生の役を演じることで自分が経験できなかったことを疑似体験したいなって。それが、『HiGH&LOW』シリーズで不良は演じましたが、いわゆる王道の学園ものみたいな役にあまりご縁がなくて……。今までやってきてないんですよね。『高校生の役をやりたいです』と言ってた時期もあったんですが、そういう役に縁があまりなかったんです。……えっ、高校生役を今からリベンジしたいか、ですか? いやいや、もう無理かと。できないですよ(笑)」

体験してみたい未知のツアーは?

今作では大金を掴むことができる魔法のようなシンガポールへの海外旅が描かれる。塩野が体験してみたい未知のツアーとは?
「シンガポール、行きたいですね。僕の役では行けなかったので、今回のロケでシンガポールに行っていたことが、すごくうらやましかったです。ただプライベートで旅行に行くとなると、プランを考えることがものすごく苦手なタイプなので……。どこへ行って、何をするかっていう計画を立てるのが難しい。だから、海外ロケで、コーディネーターさんが全部仕切ってくれるみたいな旅がいちばん理想的(笑)。でも、シンガポールやバリとか、時間の流れが日本にいるときとは違う場所へ行って、ゆったりと時間を気にせず過ごしてみたいなという気持ちはあります」

これまで一瞬だけ現実を忘れた旅の思い出を問うと、連続ドラマ「天狗の台所」(2023年、2024年)シリーズのロケ地とのこと。天狗の里で俗世を離れて暮らす生活が描かれる作品のため、山あいの大自然に囲まれての撮影だったそうだ。

「撮影の進行スピード感は速かったんですが、作品の空気感やロケ地の雰囲気は、すごくゆったりした時間が流れていて。日本家屋での撮影も自然溢れる場所ですし、すごく癒される環境にあるロケ地でした。それも日本ですし、プライベートでもなかなか海外へ旅する機会がなくて……。写真集で南のロケに行くとか、作品で海外ロケに行けたら嬉しいです」

お金と自由を手にした3人の女性が初めて自分らしく生きることに喜びを感じていく姿は、犯罪を手に染めていながらも、どこか爽快感さえ感じる今作。塩野が作品から受け取ったメッセージとは――?

「金の密輸というやってはいけない罪にふれることによって、社会で抑圧され、自分が今まで押し殺していた気持ちを解放できた3人の姿が描かれます。手段は間違っていると思いますが、生き生きした瞬間を取り戻す姿は、いいなって。犯罪ではなく、別の形で自分らしさを見つけていけたら、豊かな人生になるだろうなという希望をもらいました」

撮影/梁瀬玉実、取材・文/福田恵子

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<作品情報>
『マジカル・シークレット・ツアー』

6月19日(金)公開

【ストーリー】
罪という秘密が3人を仲間にした、魔法のような半年間。 あの旅が、私たちを変えた──生きることに夢中になった。
平穏な日常を送る二児の母が、突然知らされた夫の借金と、解雇。返済のため行きついたのは、シンガポールでの闇バイト【金の密輸】だった。
そこで偶然出会った、非正規雇用の研究員と、未婚で妊婦のキャバ嬢。密輸の成功に味をしめた3人は、自分たちで密輸を始めることに。初めて手に入れた、お金と自由、そして“自分らしく生きる喜び”。それは魔法のような時間だったが……。
岐路に立たされた3人の、それぞれの人生の行方は──。

出演: 有村架純
黒木華/南沙良
塩野瑛久 青木柚/斎藤工
監督:天野千尋
脚本:天野千尋 熊谷まどか
製作幹事:murmur 日本映画放送
企画:カラーバード
制作プロダクション:エピスコープ
配給:アスミック・エース

公式サイト:
https://magicalsecrettour.asmik-ace.co.jp/

(C)2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

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