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泉澤祐希、『わたし、定時で帰ります。』でも「ベテラン」感を発揮 現代の若者役で新たな扉を開く

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 働き方改革が掲げられるなか、「会社」を舞台に、労働問題や女性差別、世代間ギャップなどの問題をリアルに描く、吉高由里子主演のドラマ『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)が話題だ。

 ヒロイン・結衣(吉高)は、とある事情から「効率よく仕事し、絶対残業しない」ことをモットーとしている。そんな彼女の周りには、真面目で一生懸命で融通が利かず、体調が悪くても帰ろうとしない同僚(シシド・カフカ)や、出産を経て早々に職場復帰し、遅れを取り戻そうと必死で空回りする先輩(内田有紀)など、様々な人がいる。

 そして、第2話までそんな彼女らの姿を冷ややかに見ては、効率の悪さをサラリと指摘したり、やる気ゼロで二言目には「辞めたい」と言ったりしていたのが、泉澤祐希演じるwebディレクター見習いで、新人の来栖泰斗だ。

【写真】結衣(吉高由里子)の後輩・来栖(泉澤祐希)

 基本的には世代間ギャップを描く上で「ダメ新人」として配置されている泉澤。しかし、仕事に非効率的に全精力を注ぐ先輩たちの背景や脇にうつりこむ彼の冷ややかな視線や脱力した様、ボソッと呟く冷静な「正論」のほうに、世代は遠いはずなのに、むしろ共感してしまうことがある。それは泉澤の芝居があまりに細やかかつナチュラルで、俯瞰的だからだろうか。

 脇や背景にいるだけで、場面に抜群の安定感や説得力をもたらす泉澤祐希の「ベテラン」感。それもそのはず、朝ドラ『ひよっこ』(NHK総合)のヒロイン・みね子(有村架純)の幼なじみ・三男を演じたのは記憶に新しいが、演技経験のスタートは5歳から。『白夜行』(2006年・TBS系)で、主人公(山田孝之)の幼少期で「父親殺し」の少年を演じた天才子役を忘れられない人は多いのではないか。

 子役時代から演技力が高く評価され、特に「NHKの秘蔵っ子」的存在として、多数のドラマに出演してきた。朝ドラ『すずらん』に子役で出演したほか、『マッサン』ではシベリア抑留による悪夢に悩まされる岡崎悟役を熱演。大河ドラマ『功名が辻』では山内一豊夫婦に養育される捨て子役を、『花燃ゆ』では吉田寅次郎に心酔する金子重輔を演じ、悲しすぎる真っすぐさと悲劇的運命で視聴者の涙を誘った。

 他にも、NHKドラマ10『はつ恋』や『実験刑事トトリ2』『ロング・グッドバイ』、NHK BSプレミアム『京都人の密かな愉しみ』『戦艦武蔵』、音楽的センスを生かして『ちゃんぽん食べたか』などに出演。主演を務めたNHKスペシャルの『東京が戦場になった日』は非常に高い評価を受け、モンテカルロ・テレビ祭の「モナコ赤十字賞」や、ニューヨークフェスティバルの金賞を受賞している。

 このようにNHKでの活躍は数多いが、世間が『白夜行』の少年が大きくなったことに驚かされたのは、芳根京子、志尊淳、高杉真宙など、後のスターを多数輩出した『表参道高校合唱部!』(2015年・TBS系、以下『オモコー』)の部長役ではないだろうか。秀才で責任感が強く、廃部寸前の合唱部をまとめようとするリーダーながら、個性的なメンバーたちに振り回されて泣き言を言ったり、口をとがらせて不機嫌になったり、声を裏返して怒ったりする空回りぶりが実にうまかった。

 演技スタート時から高く評価されてきた「泣き」の演技は、今も求められることが多い。しかし、それに加えて、実はちょっと嫌味を言ったり文句を言ったりする“小物”ぶりや、憎たらしい役も上手いということは、この『オモコー』や、『仰げば尊し』(TBS系)のライバル校の悪役ぶりからの「発見」だった。

 さらに朝ドラ『ひよっこ』の三男は、そのいいヤツぶりが、茶の間から愛されたが、いかんせん「昭和」感がハマりすぎて、芝居が達者であまりにナチュラルであるために、作品に完全に溶け込んでいて、いわゆる「朝ドラブレイク俳優」状態にはならなかった。

 豊かな表情と、上ずらせたり詰まらせたり裏返したりする繊細な「声」の表現は実に達者だが、実は個人的に勝手に心配していたのは、彼の柴犬的な童顔ぶりと「昭和」感であった。

 ノスタルジックな空気・佇まいはNHKなどの「昭和モノ」「戦争モノ」「歴史モノ」などにしっくりハマり、芝居の巧さから悲劇的な役で重宝される。そこは若手俳優の中では彼の独擅場といって良いだろう。

 しかし、今も普通に高校生役を演じられる童顔具合もあって、現代劇や大人の役にどのように活躍の場を広げ、シフトチェンジしていくかは気になるところだった。

 そこで次のステージへの進化を見せてくれたのが、ゲスト出演として、耳が聴こえないろうあ者の夫婦の難役を演じた『コウノドリ』(TBS系)だ。何もできない自分の無力さに対する苛立ち・焦りをにじませつつも、ふとした時に見せる安堵の表情には、穏やかな「父性」が感じられた。また、同じくゲスト出演した『アンナチュラル』(TBS系)では、溺死した妻の解剖を依頼する夫役をナイーブに演じた。愛する妻の命を奪った女を刺す最後の場面では、湧きおこる憎悪の感情が視聴者の胸を鋭く突き、息苦しさすら与えたのだった。

 そして、今回『わたし、定時で帰ります。』で演じているのは、いかにも現代的な感覚の新入社員役。4月30日放送分では、彼が面白半分で撮影した動画が大変なトラブルを引き起こすことになる。

 彼がすでに確固たる地位を確立している、昭和モノでも戦争モノでもなく、哀愁もノスタルジーも悲劇もない、現代の若者役をどう演じるか。おそらくまた新たな扉を開く予感がする本作での表現が、実に楽しみだ。

(田幸和歌子)