北山宏光、初のホラー映画『氷血』で魅せる新境地。極寒の地で追求した「自然体なお芝居」と二面性への挑戦
映画
インタビュー
(撮影/二文字琢也)
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すべて見る北山宏光が初めてホラーに挑む「氷血」が7月3日から公開。今作は、「ミスミソウ」を手掛け、ホラー界を牽引する内藤瑛亮が監督を務める新感覚のホラー。物語は、家族の平穏な日常が突如、白い怪異に侵されていく様が描かれる。久しぶりの映画出演で演じた役どころは、家族を思いやる優しい夫という顔の一方で、狂気を覗かせる主人公だ。二面性のある役で新境地を切り開いた北山について監督は「クリエイター、アーティストとして活動していらっしゃるので、二面性のある役を作品全体のバランスを見ながら表現してくれた」と絶賛。自然体なお芝居を心掛けたという北山に本作の魅力を語ってもらった。
7年ぶりの映画出演で初のホラーに挑む。真冬の会津で向き合った“二面性”のある役どころ

映画への出演は7年ぶりとなる北山宏光。今作では初めてのホラー作品に挑んだ。内藤瑛亮監督が小泉八雲の怪談「雪女」を基にして生まれたという今作は、クラシックな怪談とは違い、現代的でまったく新しい物語として誕生した。
「久しぶりに映画出演のお話をいただいて嬉しかったです。今までやったことのないジャンルに飛び込みたいと思いました。僕は、ホラー作品といえば、目を覆いながら恐々と観ていた記憶があるんですよ。試写会で初めて観させていただいた時、撮影現場は寒かったですけど、こんなにも映像で冷たい温度が伝わるんだなぁと思いました。暑い夏に極寒の温度をしっかりお届けできるのが、この作品の面白いところだと思います」
作品の舞台は、東北地方の雪深い町――。絶望的なホワイトアウトの恐ろしさと古くから雪国で語られてきた白い存在が描かれる。主人公の稔は、幼い息子を連れて、雪深い実家に家族で引っ越すことから始まる。しかし、そこで彼らを待ち受けていたのは、謎の怪奇現象と正体不明の白い存在だった……。
「謎の白い存在は、一体何なのか、確かなことは誰も知らないという話なんですよね。なので、僕も詳しくは明かせません(笑)。雪国が舞台ということもあり、真冬の福島・会津で撮影したんですけど、大雪が降っていて、もうめちゃくちゃ寒かったです。屋根の上にも雪が積もって、その下を通るとボンッって雪の塊が落ちて来るので、それに直撃したらと思うと、結構怖かったですよ。実際に稔の一家が実家にたどりついた時、屋根から雪が落ちて来たと地元の人が話すシーンもありましたけど、屋根からの落雪に注意しながら配慮しての撮影になりました」

撮影は2025年の2月。厳冬期の福島会津で行われたという。降雪のシーンは、スノーマシーンで雪を降らせた状態で行っていたシーンもあるというが、クライマックスはすべてが本物の猛吹雪だったそう。幻想的な雪景色が怖さにより拍車をかけている。「とくにクライマックスのシーンの撮影では、めちゃくちゃ大雪の日でヤバかったですね。謎の白い存在との対峙するシーンは、クレーンも出動しての撮影で、幻想的な光景を生み出せました」というから注目だ。吹雪の映像美と、逃げ場のない白の恐怖は、観る者の感覚を刺激するものになっている。
北山が演じた稔は、都会での生活から一変、豪雪地帯にある実家で認知症をわずらう父親の介護をしながら家族と生活することになる。家族を思いやる優しい夫だが、冷酷さを覗かせる一面を持つ、難しい役どころだ。作品全体的なバランスを見て、やりすぎないお芝居が求めたられたという。
「稔は、家庭環境が複雑で、可哀そうな生い立ちがあるんですよ。それでも実家に戻ってきて実の父親と暮らしていて。二面性があるというのは、そういった背景があるからだろうなと思いました。演じるにあたっては、シーンごとに“この段階では裏の顔をどれくらい匂わせていいのか”ということを意識しました。稔のお芝居は、ホラー的に撮っている部分とシーンごとの心情を表現しなくてはいけないので、難しかったですね」

寒さを跳ね返す圧倒的な俳優魂、共演者との化学反応

後半には、加藤千尋とのアクションシーンも。監督は「お二人ともアクションが上手で、蹴る、蹴られるなどの場面での振付はタイミングが合っていました。ダンスをやっていらしたこともあると思いますが、見事な動きでした」と称賛している。「アクションシーンでは、いろいろ計算しながら動かなくてはいけないので、結構大変でした。そして、何より寒い……! 気温が低いので、血のりが冷たくて、冷たくて」と、寒さとの戦いだったと話す北山。出演者たちは設定上、薄着のままで家の外を飛び出して行くシーンもあったが、北山は、スタイリングが着崩れるので、厚手の機能性インナーなどを着こまずに現場を乗り切ったというから、その俳優魂には脱帽だ。
稔の妻であるヒロイン・悠希を演じたのは、加藤千尋。北山とは、いずれもグループの活動を経て、アーティスト、俳優として活躍している。ふたりとも映画への出演は、今回が2度目でフレッシュな顔合わせとなった。撮影現場でのエピソードを尋ねると、「家族のシーンでは、子役の子が寒い中でも元気でヤンチャな男のコって感じでした。でも、本番になるとちゃんとお芝居に集中して挑む姿は、しっかり俳優さんでしたね」と話す。加藤は、ホラー好きで内藤監督の作品をリスペクトしているそうで、北山とのシーンもホラーならではの動きや顔の使い方も、ホラーを熟知しているお芝居だったという。加藤と北山、ふたりの化学反応にも期待してほしい。

ホラー作品は、美術や音響でも怖さを引き出される仕掛けが盛りだくさん。「ミスミソウ」でジャパニーズホラーに革新をもたらした内藤監督は、極寒の地のホラーでは、身も心も凍り付くような恐怖を音響で演出している。北山は、「音響や演出など、ホラー作品ならではの技術の数々は、本当に職人技だなぁと思いましたね。お芝居ひとつにしても、ホラーならではの見せ方や撮り方があるんですよ」と、監督やスタッフ陣の職人技を隅々で感じたという。
劇中では、女性の悲鳴なのか、吹雪がとどろく音なのか、怖さを掻き立てる音が聞こえる。じつは、女性の悲鳴があらゆるシーンで吹雪や風の音に紛れ込ませ、配置されているというから、耳をすまして欲しい。苦しそうな声、泣き声、叫び声など、多くの声を3日間かけて収録し、それらが聞こえるか聞こえないかのレベルで使用されている。
いまにも動き出しそうなくらい、インパクトを放つのは、茂の家の廊下に飾られた“白い女”の等身大の絵だ。劇中で何度も登場するが、まるで亡霊のような怖さがある迫力の絵に度肝を抜かれる。茂が描いた絵は、MASAKOさんというアーティストが手掛けたもの。北山にこの画について尋ねると、良い絵を書いていただけたと感謝の言葉を述べていた。ちなみにホラー映画では、本当に怖い体験をすることもあるというが、北山は、「霊感は全くないので、撮影していても何かを感じることはなかったです。今回の撮影だけでなく、人生で心霊体験は一度もないですね。ちょっと場の空気が悪いなとか、そういう感覚も持ち合わせてないんですよ」とキッパリ。
「お芝居していると思わせたくない」からこそ光る怪演

画面の隅に白い女の姿が見えるなど、随処に漂う異物感。恐怖演出では至るところに工夫が施されているが、恐怖のお芝居に挑んだ北山のリアルな迫真のお芝居にも注目だ。心理的に怖さを感じさせるようなお芝居もたくさん。最初と最後ではまったく違う表情を魅せることになるのが稔というキャラクター。平穏な日常が狂っていくと共に、稔としての北山の怪演が光っている。
「謎の存在に対して、驚いたり、怖がったりするシーンは、もうそれはお芝居でやっていることなんで、僕自身が本当に怖いと思っているわけじゃないです。謎の存在と対峙するシーンもドローンに向かってやっているわけですから。そういった恐怖のお芝居では、自分が映像に映った時に違和感がなかったら大丈夫だなと思ってやっていました。そこからはみ出したことをやろうとすると、どうしてもオーバーに芝居しているように見えてしまいますよね。観て下さる方に『お芝居してるなぁ』って絶対思わせたくないじゃないですか。どうナチュラルに見せられるか、みたいなことは、とにかく大切にしていましたね。俳優さんは、自然体に見せるために日々そういった研究をされているんだなと、改めて俳優さんへのリスペクトが生まれました」

今回はホラーという新たなジャンルで新境地を開拓した北山。今後、挑戦してみたいジャンルを問うと、「うーん、やりたいって言って、できる世界じゃないですからね。北山にやらせたいなって思ってもらえるようになりたいです」と、どんな役でも自分に演じて欲しいと思ってもらいたいという。
今回のチャレンジで達成感を感じた瞬間については、「やっぱり作品が出来上がった時に感じますね。いちばん最初に作品を観た時に、やっぱりホラー作品は、ここで音が入るんだなって思いましたし。人を驚かせるのって、エンタメじゃないですか。そのためには、どういう音を使って、どういうタイミングでその音を活かすのか……。どういう風にカットを撮って行くのか、恐怖心を掻き立てるテクニックを感じたので。その辺も含めて、ホラーっていう作品はエンタメだなと思ったっていうのが、この作品に参加して、気づいたことでもあり、良かったことなのかな。映画として出来上がった作品を素直に『ああ、面白かったな』と思いましたから」
多忙な日々の中で切望する“インプットの時間”

7月3日公開の映画ということで、この夏はどんな風に過ごしたいかという質問には、「やりたいこと……プライベートで海外に行きたいですね。あとはバーベキューもしたいし、山も海も行きたいし」と、アクティブなアウトドアなプランが次々と飛び出す。
「海外に行きたいっていうのは、ちょっと携帯を置いて、デジタルデトックスできるところへ行けたら、いいなと思うから。もう携帯がつながらないところに行けば、それも可能じゃないですか。僕はブルガリア共和国友好親善大使でもあるので、まずはブルガリアへ行って、その後にエジプト行って、みたいなプランが理想です。海外に行ったら、何かが変わるっていうことを期待してるわけではなく、経験として行きたいんですよね。町並みひとつにしても、使われている色彩も違うし、日本とは違う光景が繰り広げられているから面白いじゃん」とニッコリ。
昨年は舞台「醉いどれ天使」で主演を務め、今年はドラマ「AKIBA LOST」で活躍。意欲的にお芝居の仕事に取り組んでいる。
「ドラマの撮影が続いてアウトプットが続いたので、ちょっとそろそろインプットする時間を作らないといけないな、と(笑)。もちろんお芝居のお仕事は楽しいですけど、アーティスト活動のほうで歌詞を書いたりするので、いろんなものを見て、いろんなことを感じたいなという気持ちです。僕の場合、何でもかんでもゼロから生産できているわけじゃないから、何かしら頭の中に入れておかないとなって感じです。映画も観たいけど、時間がなくて、全然観られてないなぁ。面白そうな話題作は、観たいんですけど、全く手を付けられてなくて……。以前はもっと時間があったら、映画もたくさん観ていたんですけどね。小説もそう。どのタイミングで読んでいたっけという感じで、時間の作り方が分からなくなっているかもしれません」
取材の現在は、7月9日から始まる、ライブツアーの準備の真っ只中と多忙。映画の宣伝も佳境を迎えており、慌ただしい日々を送っている。
「最近は映画の取材やリハーサルもあって、なかなかリフレッシュする時間がないです。忙しいと時間の感覚がなくなる。それだけ集中しているんでしょうね。やっぱりエンターテインメントをみなさんにお届けできることが喜びなので、頑張れますね。そういった気持ちでこの映画にも挑んだので、この夏は、映画で極寒のエンターテインメントを味わってほしいです」
北山が語る通り、暑い夏を一瞬でも忘れて、ヒンヤリ極寒の感覚を味わえる作品。寒さと戦いながら北山が挑んだ会津ロケの凍りつきそうな雪景色は、リアルなもの。五感で味わえる新感覚のエンターテインメントをぜひ劇場で体感してほしい。

<作品情報>
『氷血』
全国公開中
配給:ショウゲート
Ⓒ2026映画 「氷血」 製作委員会

【ストーリー】
幼い息子・晶を連れて、豪雪地帯にある夫の実家に移住した稔(北山宏光)と悠希(加藤千尋)の夫妻。穏やかな日常を願った二人だったが、認知症の父・茂は、なぜか悠希にだけ激しく怯え、亡き妻の名を叫ぶ。ある朝、茂は異常な姿で怪死する――その瞬間を境に、家族は疑念と恐怖に苛まれ、やがて、家の中には不気味な“白い女”が次々と現れ、日常を侵していく―稔は気が触れたかのように、“白い女”の絵を描き続け、幼い晶の目には母の姿が次第に“別の何か”へと映りはじめ、家族は一人、また一人と壊れていく――。
雪の結晶に魅入られ、理性を失った稔、侵蝕される悠希、そして危険にさらされる晶。これは、呪いか、幻想か、それとも現実なのか。雪原が鮮血に染まるとき、未知の“白い恐怖”が姿を現し、残虐に暴走するー
出演:北山宏光、 加藤千尋、山谷碧都、佐津川愛美、福島リラ、渡辺哲/佐野史郎
監督:内藤瑛亮
脚本:片桐絵梨子
2026 年/日本/カラー/1:2/DCP5.1ch/98 分/PG12 配給:ショウゲート
Ⓒ2026映画 「氷血」 製作委員会
公式HP https://hyoketsu movie.jp/
撮影/二文字琢也、取材・文/福田恵子
スタイリスト/柴田 圭
ヘアメイク/大島智恵美(Chiemi Ohshima)
フォトギャラリー(11件)
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