4期生が踏み出した“乃木坂46”としての一歩 演技に特化した『3人のプリシンパル』を振り返る
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乃木坂46の4期生初公演『3人のプリンシパル』が4月9日から21日まで、池袋・サンシャイン劇場で開催された。
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『16人のプリンシパル』と銘打たれて2012年に始まった乃木坂46の演劇公演『プリンシパル』シリーズは、演技に重点を置く乃木坂46にとって草創期の活動方針を象徴するイベントだった。2012年から2014年までグループ全体の催しとして行なわれたのちの2017年、当時まだグループ本体に合流する以前の段階にいた3期生単独公演として『プリンシパル』は復活する。今回の公演はそれを引き継ぎ、やはりまだグループに完全合流していない4期生のみでの開催となった。
『プリンシパル』シリーズの特徴は、二幕構成の第一幕をメンバーたちのオーディションにあて、幕間で観客が投票し、その投票結果を受けて直後の第二幕に上演される芝居のキャストが決められるという、独特の上演形式にある。
第一幕のオーディションは、文字通り二幕目のための演技試験の場であると同時に、舞台後方で他のメンバーの演技を見守っている際の各々の姿まで含めてすべてが「見られる」対象となり、そのメンバーたちの息遣いまでもがコンテンツとして機能する、特有のドキュメンタリー性を帯びている。さらにこの第一幕は、架空の稽古場や演出家、受験者という舞台設定を背負って上演されるため、その設定自体が虚構、すなわち演劇性を帯びてもいる。『プリンシパル』シリーズが継続的に作り上げてきたのは、そのような虚構とドキュメンタリーをないまぜにする構造である。
その中で、4期生によって行なわれた今回の『3人のプリンシパル』に特徴的だったのは、第一幕における「演じる」ことの重層性だった。上述のような「架空の受験者たち」という役柄設定のうえで、4期生メンバーたちはまず第二幕で上演する作品『ロミオとジュリエット』の配役に立候補し、各配役のセリフの一部を演じてみせる。ここまでは従来の『プリンシパル』を踏襲している。その後、メンバー各人に自己PRの時間が与えられる。自己PRもこれまでの『プリンシパル』に存在していたものだが、今回ここで一人一人行なわれたPRは、個人としてのフリーなアピールというよりは、あえて「切羽詰まった感情」を作り込んで表現してみせるような趣きがあった。メンバーそれぞれ、自らのパーソナリティに引きつけた言葉を語りながらも、どこか共通するトーンで感情を昂ぶらせるさまを上演する。それは「乃木坂46の4期生としてこの舞台に立つ自分」を、半ば演技的に表現しているようでもある。
これはいわば、第一幕前半で立候補た配役のセリフをパフォーマンスしてみせるのとは、また異なる位相の「演じる」である。パーソナルな心情の吐露までが、あらかじめパブリックに開かれたコンテンツとなって上演されることは、2010年代のグループアイドルの営みにうかがえる大きな特徴である。その意味で、個々人のパーソナリティ(のようなもの)を虚構の水準で演じてみせるこの自己PRは、今日のグループアイドルという存在をユニークな仕方で比喩的にあらわす時間でもあった。
第二幕は、第一幕で選出された三人のメンバーがキャストになっての『ロミオとジュリエット』である。ウィリアム・シェイクスピアの古典を簡潔に整理した今回の演出では、「ロミオ」役と「ジュリエット」役に加え、残りの一役は「それ以外ぜんぶ」役と設定されている。すなわちロミオとジュリエットの二人の悲恋を展開させるうえで必要な役柄を、「それ以外ぜんぶ役」のキャストが一人で担い、そのつど早替わりで演じることになる。
早替わりの際に垣間見えるふるまいやキャスト間のやりとり自体がメンバーのチャームを引き出す、いわばスターシステムと相性の良い効果ももたらす。同時にこの「それ以外ぜんぶ」役は、ロミオとジュリエットの二人がたどる経緯を簡潔に示す役目を一手に引き受けることで、第二幕の芝居の骨格を浮かび上がらせる機能も果たしている。
『プリンシパル』シリーズの構造上、そもそも第二幕の演劇はひとつの作品として練り上げていくことが難しい。このとき、「それ以外ぜんぶ」役という存在によって、第二幕のキャストたちの立ち回りに常に見どころが生まれたことは、今回の『3人のプリンシパル』にオリジナルの成果だった。また、上演時間的にもある程度シンプルに展開する必要がある第二幕に関して、広く人口に膾炙しているクラシックな演目が選定されたことも、今後の『プリンシパル』への指針になりうるものだろう。
毎回、異なる演出家によってディレクションされる『プリンシパル』シリーズは、その公演ごとに性格を大きく変える。谷賢一が構成・演出を手がけた2019年の『3人のプリンシパル』は、第一幕のオーディションで複数の位相を「演じる」仕立てや、「それ以外ぜんぶ」役を効果的に用いながらの第二幕の簡潔なつくりに特徴がある。総じて、従来のプリンシパルに比して寄り道や脱線が少なく、演技に奉仕するストイックな『プリンシパル』として仕上げられていた。
あるいは、結成当初から乃木坂46が「演技する集団」としてあったことを思えば、そのねらいに最もストレートにアプローチしたのが今回の『プリンシパル』だったといえるかもしれない。いまや乃木坂46のメンバーは、東宝製作の大劇場ミュージカルをはじめ、舞台演劇で多くの成果を積み重ねる存在としてある。複数の位相を体現しながらあくまで虚構を「演じる」ことに注力した今年の『3人のプリンシパル』は、その偉大な先輩たちにつづくための第一歩に似つかわしい、タイトな性格の公演だったといえるだろう。(香月孝史)