森山直太朗、“ふたつの世界”を描いた全56公演完走 『あの世でね』ツアーが残したもの
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『森山直太朗 Twojobs Tour2025〜2026 「あの世でね」〜弓弦葉とYeeeehaaaaw!〜』 Photo:鳥居洋介・野口美々
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すべて見るText:谷岡正浩 Photo:鳥居洋介・野口美々
昨年10月より始まった『森山直太朗 Twojobs Tour2025〜2026 「あの世でね」〜弓弦葉とYeeeehaaaaw!〜』が、7月3日東京・NHKホールで全56公演の日程を終えた。一言で表すならば、「普通ではなかった」このツアーについて、特定の公演を取り上げるのではなく、ツアーを通して森山直太朗が表現したかったことは何だったのか、について焦点を当ててレポートする。
どこが普通ではなかったのか。それはタイトルからも読み取れるとおり、ふたつの異なる世界観を表現した空間をひとつのツアーとしてまわっていく、つまり、2本分のツアーを1回でやり切るというものだった。
そもそもの経緯を記せば、まず出発点となったのがツアー初日の10月17日にリリースされた『弓弦葉』と『Yeeeehaaaaw』の2枚のアルバムだ。前者は、自身の心のかたちを丁寧になぞり、その輪郭をスケッチしていくようなアンビエントな世界、そして後者はカントリー&ウェスタンやブルーグラスといったアメリカのルーツミュージックにチンドン屋風の和もの大衆音楽をブレンドした賑やかな世界が展開されている。
この、まったく異なるふたつのアルバムをなぜ同時に制作し、リリースしようと思ったのか、というか、そうせざるを得なかったのか――その問いの答えそのものが『あの世でね』という言葉で表されている今回のツアーだった。


『弓弦葉』公演、『Yeeeehaaaaw!』公演は、舞台づくりもバンドメンバーもセットリストも何もかもが違う。完全に別個の世界だ。『弓弦葉』は森山が店主をつとめる古道具屋で一緒に働くメンバーとそこに訪れる人たちの物語。一方で『Yeeeehaaaaw!』は、森山直太朗率いる、旅する楽団と彼らが立ち寄った街とそこの人たちとの物語が音楽のコンサートとしてそれぞれ描かれるという斬新なものだ。
そのなかで共通しているものが森山直太朗を除いてひとつだけある。それがステージの後方に置かれた扉だ。彼はこの扉を開けて舞台に立ち、そしてこの扉をまた開けて舞台から去って行く。「扉の向こうとこっちを行ったり来たりするだけの男の物語」と森山本人は舞台でも言っていた。ふたつの世界をつなぐもの――そういう意味で、この扉の果たす役割は大きいのだが、どちらの公演にも関わらず、ライブ中にこの扉の存在が消えてしまう瞬間があった。物理的に舞台からなくなるということではなく、心理的に扉のことを忘れてしまうのだ。


それは、観客として『弓弦葉』なら『弓弦葉』の世界に、『Yeeeehaaaaw!』なら『Yeeeehaaaaw!』の世界に没頭している証なのだが、扉があることで――扉が心理的に消えることで――森山直太朗がつくり上げた世界(舞台)の住人であることを自覚できるという重要な側面があるのだ。没頭するという言葉の意味が体感として理解できることがライブへの深い感動につながり、“ひとつになる”といういささか手垢のついた言葉がはじめて自分のものになる瞬間がやって来る。我々は観客であると同時に、この物語のなかの住人なのだという感覚が実体験として得られる。
この観客側の舞台体験こそが森山が『弓弦葉』と『Yeeeehaaaaw』のふたつの作品を同時に制作し、世に放った原体験と共通しているのではないかと思った。
つまり、このふたつの一見全く異なって見える世界は合わせてひとつのもので、本来森山本人のなかでは不可分のものなのだ。では、なぜ分ける必要があったのか? もちろん音楽的な分類としてのわかりやすさという観点はあるにせよ、そのもっと奥には本質的な理由が隠されている。






『弓弦葉』で表現されているアンビエントな世界観は森山が長い時間をかけて自身の音楽で突き詰めてきたものだ。どちらかと言えば、世間的に「森山直太朗の音楽」として認知されているのはこちらの方かもしれない。一方で『Yeeeehaaaaw』で突き詰めようとしているスタイルは、ここ数年のあいだに森山が試行錯誤を繰り返しながらステージを中心に練り上げて来たものだ。『弓弦葉』では店の営業準備や雨、舞台に置かれた時計の針の動きなどを通じて1日、あるいはひとつの季節という時間が描かれているのに対して、『Yeeeehaaaaw!』ではある街を訪れた旅楽団のショーという短い時間が描かれている点からもその違いが明確に区別されている。


ただし、どちらもが彼のルーツなのである。 前者はすでに言及しているとおり、彼がキャリアを通じて築き上げてきたものとして、そして後者は彼の音楽的バックボーンとして。つまり、カントリー&ウェスタンやブルーグラスといったアメリカの音楽は彼が幼少の頃から両親の影響で親しんできたものとして自然と彼のなかにあったものなのだ。この、ふたつのルーツをめぐる旅が『弓弦葉』と『Yeeeehaaaaw』なのであり、だからそれらはいったん別のものとして表現されなければならなかった。そして同時に、ひとつのものとして辿り直す必要があった。なぜならそれは森山直太朗というひとりの人間のなかにあるものだからだ。それこそが今回の『あの世でね』と題されたツアーだったのだ。

7月3日、NHKホールでの千秋楽は『Yeeeehaaaaw!』だった。そのダブル・アンコールで森山が語った言葉にこのツアーで試みたことのすべてが詰まっていた。 「この舞台に立って客席を見ると、そこが逆に舞台に見えることがあるんですよね。それはたぶん、皆さんの原風景と私の歌う理由が重なり合ったときなんだなと思います。僕はいつもそういう瞬間を求めてものをつくったり舞台をつくったりしています。自分のなかにある言葉とか心とか思想とか概念とか何人とか性別とか、そういうものをぶち破りたくて、この舞台という空間をつくっています」






『弓弦葉』のなかで披露される「森の小さなレストラン」では、ゲストシンガーのphokaが赤い傘を差し客席から歩いてステージに向かう場面がある。カフェも併設している古道具屋に訪れた客という設定が、舞台上だけではなく客席にも広がることで、誰しもが「観客」から「赤い傘を差して店を訪れた私」として舞台の住人になる瞬間だ。また、本編最後の「僕と自由と」では、事前に用意されたQRコードを読み込んでスマートフォンに表示された歌詞(言葉)を見ながら歌を聴くというシーンがあった。ステージではなくスマホを見るという、ライブにおいては掟破りとも言える演出が、ステージと客席の境界を壊してひとつにするという逆転的な効果を生み出し、森山の声で紡がれる言葉がスマホに即時印字されているようなライブ感は鳥肌が立つくらいのつながりを感じられた。
『Yeeeehaaaaw!』では「さりとて商店街」のパフォーマンスが印象的だった。バンドメンバー全員がそれぞれの立ち位置から解放されて、まさにチンドン屋風に演奏する姿は、デヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』を想起させるものでもあり、ステージと客席の境界、社会的分断へのユーモアを込めた警鐘、コミュニティの尊さ、そういったものを純粋に音楽で表現してみせた。




ふたつの世界に共通する楽曲として、ツアータイトルにもなっている『あの世でね』がある。もちろんそれぞれでアレンジは異なるため、その味わいはよほど違うのだが、そこに含まれる永い時間と瞬間とも言える時間が交錯していく様は、『弓弦葉』『Yeeeehaaaaw!』を行ったり来たりするあわいにあるもの――まさにふたつの世界をつなぐ扉としての役割を果たしている。


そして、ふたつの世界を行ったり来たりしていた男が次に進むべき世界と対峙する一歩までがこのツアーでは描かれる(実際、千秋楽の最後に森山は扉から出て行くことを初めてしなかった)。それがツアーの途中からアンコールで披露されるようになった「愛々」だ。TBS系金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』の主題歌として書き下ろされたこの曲が描くのは、人生という旅を続ける誰しもにある原風景だ。
<さあ どこへ行こうか
いわんや失うものなんて何もないさ>



ここまでの森山直太朗の物語への「祈り」と「祝福」がそれぞれ『弓弦葉』と『Yeeeehaaaaw!』であるなら、そのふたつの道がひとつに重なり、歩き始めた一歩一歩を「愛々」と呼ぶのだろう。そして視線をあげれば、さらにその先へ彼の旅路は続いていく。まずは、千秋楽で発表された10月から始まる新たなツアー『Zepp de Rolling DOSA 〜すべからく愛々〜』へ向かう。大いなる過去を引き連れて、まだ見ぬ未来へ賑やかに繰り出そうとする森山直太朗が、すでに恋しい。



<ライブ情報>
『NAOTARO MORIYAMA Zepp TOURS 2026「Zepp de Rolling DOSA ~すべからく愛々~」』

10月22日(木) 愛知・Zepp Nagoya
10月29日(木) 神奈川・KT Zepp Yokohama
11月2日(月) 北海道・Zepp Sapporo
11月12日(木) 福岡・Zepp Fukuoka
12月4日(金) 大阪・Zepp Namba(OSAKA)
12月10日(木) 東京・Zepp Haneda(TOKYO)
▼特設サイト
https://naotaro-tour.com/zeppderollingdosa/
<配信情報>
「愛々」
配信リンク:https://naotaromoriyama.lnk.to/aiai

▼森山直太朗が語る新曲「愛々」誕生秘話インタビュー
https://lp.p.pia.jp/article/news/462745/index.html
森山直太朗 オフィシャルサイト
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