ReNが語る、「HURRICANE」に込めた衝動「カタルシスを描きたかった」
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シンガーソングライターのReNが、初の海外制作により完成させた新曲「HURRICANE」をデジタルリリースする。
音楽の聖地、ナッシュビルのスタジオにて「チームによるコーライティング」を行い作り上げた本作は、静と動を行き来するようなドラマティックかつダイナミックなバンドアンサンブルと、ReNの突き抜けるような歌声が胸を打つ。誰もが心に感じる漠然とした不安を、ハリケーンが洗い流してくれるような、そんなカタルシスも聞きどころのひとつだ。
10代で単身イギリスに渡り、ラジオから流れるUKミュージックに衝撃を受け、20歳の頃から本格的に音楽活動をスタートさせたReN。今回のコーライティングセッションは、彼にどのような影響をもたらしたのだろうか。楽曲制作のエピソードはもちろん、4月20日から始まるワンマンツアー『衝動』への意気込みについても聞いた。(黒田隆憲)
初の海外制作でコーライティングに挑戦した理由
ーーまずは今回、海外で楽曲制作をすることになった経緯を教えてもらえますか?
ReN:僕は昔から洋楽がものすごく好きで。「いつか海外の空気の中で、自分の音楽を奏でてみたい。そうしたらどんな音が出るんだろう?」ということにずっと興味があったんです。ただ、それって思っていてもそう簡単に機会が訪れるわけでもなくて。今回やっとタイミングが合ったのと、あまり気負わずに「まずは音を出しに行ってみようか」くらいのノリというか。いつも自分の部屋で行なっているソングライティングのスタイルを、そのまま海外へ持って行ったらどうなるかを試してみようということになったんです。
ーー「ベッドルームから海外へ」という感じですね。ナッシュビルを選んだ理由は?
ReN:実は、メインはロサンゼルスでの作業だったんです。今のチャートを作り上げているのはやはりLAですし、そこでどんなことが起きているのかを見てみたかったので。ただ、やっぱり僕はフォークやカントリーミュージックがルーツで、音楽の聖地と言われるナッシュビルにも一度は行ってみたいなと思っていて。そうしたら、LA滞在の後にうまくスケジュールの調整がついて。ナッシュビルの現地ミュージシャンたちと、スタジオでセッションする機会に恵まれました。
ーー行く前に何かアイデアの断片とか、そういうマテリアルは準備しておいたのですか?
ReN:いや、ほとんどゼロの状態からみんなで作っていきました。せっかくナッシュビルへ行くなら、ちょっとカントリータッチの楽曲になるといいな……と思っていたんですけど、結果的にもう全然違う曲調になりましたね(笑)。でも、それも含めてその場のノリというか。何も決まりごとを作らずに行った結果だなと。
ーー複数の人たちとセッションする「コーライティング」という方法を取った理由は?
ReN:やっぱり1人で作っていると、どうしても「自分っぽさ」みたいなものが強く出てきますよね。それはいい部分でもあるんだけど、自分の中で引き出しを増やしたり、「自分だったらいつもこう行く道を、こんなふうに遠回りしたら意外にいいんだな」ということに気づかせてもらったりするには、セッションをしてみるのが一番かなと思ったんです。
最初に言ったように、今回は「よし、シングルを作るぞ!」みたいな気負いは全く持たず、とりあえず現地へ行ってみて、「どんなものができるのかを楽しもう」と思ったんです。結果的に、それが良かったのだなと思いますね。
ーーナッシュビルにはどのくらい滞在していたのですか?
ReN:2日間です。ほとんど観光めいたことはできず(笑)、着いたらすぐスタジオに入って。夜ご飯を食べたらホテルに戻って歌詞を書いて……という感じでしたね。
ーー制作したはのはこの1曲だったんですか?
ReN:ナッシュビルではそうですが、LAでは他にも色々なデモを作ってきました。滞在中の10日間で、できるだけたくさんのものを作ってこようと思っていたので、勢いに乗って1日に必ず2、3曲はカタチにしてきましたね。
ーーじゃあ、それらの楽曲は今後なんらかの形で聴けるかもしれないわけですね?
ReN:そう願っていますね(笑)。まだ完成したわけではないので、今後の進捗次第になると思います。
ーー今回の「HURRICANE」もそうですが、同じギターリフやコード進行の繰り返しの中でメロディラインが発展していくReNさんの楽曲スタイルからは、フェイバリットアーティストであるエド・シーランや、エド自身も影響を受けているヒップホップからの影響を強く感じます。
ReN:「同じコード進行の中でメロディを発展させていく」というスタイルは、エドと同じくらい昔から大好きだったColdplayからの影響も強いと思いますね。
僕が好きな洋楽のアーティストって、すごく映像的というか。景色を音で表しているような人たちが多くて。ループの中で徐々に景色が変わっていったり、フレーズの抜き差しによって同じ景色でも見え方が変わったり、そういう表現に長けているというか。構造的にはすごくシンプルだけど、だからこそ豊かな音楽というのがずっと好きで。レッチリ(Red Hot Chilli Peppers)とかもそうかもしれない。何か一箇所だけ、例えばギターのリフやサビのメロディ、シンセのリード音などがパッと耳に入ってくるような、そんな楽曲に惹かれるし、自分も目指すところです。
ーーセッションというのは、具体的にどう進めていったのですか?
ReN:今回は、プロデューサーやコンポーザーの方とみんなでスタジオに入って、まず僕が思いついたギターフレーズを弾いてみたんです。そしたら、そこにいた1人が「あ、これループさせたらカッコいいじゃん」って言い出して、「だったらこういうアフリカンなビートがいいよね」「ベースはこんな感じでどう?」みたいな。そうやってみんなでああでもないこうでもないとディスカッションして。そこでできた大枠の中で、僕が鼻歌というか、デタラメ英語みたいなものでメロディを歌ってみて。そうしたら無意識の中からふわっと出てきたのが、「hurricane」や「rain」という言葉だったんですよね。
ーー「HURRICANE」という曲名はそこで出てきたのですね。
ReN:はい。なんていうか……激しい雨や嵐が、このメチャクチャな世の中を洗い流し浄化してくれるというのかな。なので、結果的にスタジオでのセッションは「HURRICANE」という言葉を引き出すための作業であり、そこから先は「この、無意識から出てきた言葉にはどんな意味があるんだろう?」ということを探るため、ホテルに戻って自分自身と向き合う作業をひたすらしました。自分自身の内面だけではなく、例えば僕と同世代の人たちが何となく抱えている不安や葛藤……「その正体は何なんだろう」「なぜ僕らはこんなに生きづらいんだろう?」ということも考えましたね。
もちろん、その「答え」はまだ見つかっていないんですけど、とにかく衝動みたいなものは常にあって。そこでもがき苦しんでいる自分を、状況ごと「HURRICANE」が取っ払ってくれるというか。そういう、音楽の中だからこそ得られるカタルシスを描きたかったんです。
ーー〈夢を見れば見るほど 虚しくなっていく〉〈「自分らしく生きなさい」でもそんな簡単じゃないぜ〉というラインがありますが、どんな時にそう感じますか?
ReN:きっと、こんな風に思っているのは僕だけじゃないと思うんですよね。同世代の仲間たちと「こうなりたい」「ああなりたい」と夢を語れば語るほど虚しくなることもありましたし。だから、僕1人のパーソナルな心情を、そのまま吐露するというよりは、もう少し普遍的な言葉として落とし込みたかったんです。
現代社会の中に感じている矛盾を、未来の自分自身に照らし合わせてみたときに、自分が本来夢だと思っていたものが、口に出すのを恥ずかしく思ってしまったりして。果たして何がそうさせているのか、具体的な答えはまだ見えていないんだけど、答えがないならないなりに、今のこの感情を歌にしたかったんですよね。
ーーとっかかりはパーソナルな心情からスタートしていても、作品に昇華したときにはより普遍的なものにしたかったと。
ReN:そうなんです。それをどう受け止めてもらうかは、聴いた人それぞれのフィルターによって違ってくると思うし。もちろん、具体的な言葉で直接言いたいことっていうのも山ほどあるんですけど(笑)、そこはあえて見せないようにしています。それに、この「HURRICANE」を聴いたらきっと、頭で考えるよりもまず体が先に反応すると思うんですよ。それによって、心の奥底にあった怒りや不安、フラストレーションなどを解放させることができたらいいなと思っていて。
ーー歌詞は、そのためのトリガーだからこそ、シンプルかつ普遍的な言葉が必要だったのですね。
ReN:そう思います。
ーー日本語と英語の歌詞がミックスされていますよね。
ReN:いつもそこは悩むところで、英語と日本語で、メロディとの相性みたいなものがあって。それはたぶん、人によって見解が違うかもしれないんですけど、僕の中では日本語がハマるべき場所というのが、すごく明確にあるんですよね。そこを当てはめる作業というのは、パパッとできるものではないから、日本語にフォーカスを当てて歌詞を書くときは、スタジオではなく自分の持ち場に戻ってじっくりと考える必要がありましたね。
新木場は今までの音楽人生に「句点」を打つべき場所に
ーーReNさんは10代の頃、海外生活を経験しているんですよね。それによって、自国への想いは変わりましたか?
ReN:僕は日本にいるよりも海外に出た方が、日本のことをより深く知ることができるんじゃないかと思いますね。ただ、僕がそれを偉そうに語ることは違うのかなって(笑)。それでも個人的に思うのは、結構僕たちは最先端だと思っていたし、いろんなものが揃っていて。でも、実はそういう恵まれた環境の中にいながら、世の中のことを何も知らない人も多いんだなということです。もっと貧しいところに住んでいる人の方が、世界を広く見ていることもあるなと。
僕はイギリスに住んでいたのは今から10年前で、SNSがどんどん普及していく最初の時期だったんですよね。Facebookも爆発的にはやり始めて。僕もちょうどその年にアカウントを作った記憶があります。そこからどんどん、SNSの役割が増えていきましたよね。最先端のようで、実はコントロールされているなということは感じました。
ーー「HURRICANE」というカタルシスを使わなければならないくらい、日本が窮屈だと感じることもありますか?
ReN:僕らの世代の人たちって、大きな夢を追いかけるよりも「身近な幸せ」を求める傾向にあるって言われていますよね。でも、どこかでは「何者かになりたい」という気持ちもあって、そういう屈折した感情の交差というのが、SNSによって様々なカタチで「可視化」されたのは大きいと思うんですよね。SNSが発展した結果、選択肢が多くなる一方で情報に縛られる人もものすごく増えて。
僕自身、10年前から「良かれ」と思って始めたSNSが、思ってもいなかった方向へ進んでいることに戸惑いを感じていますね。おそらく、多くの人が同じように思っているんじゃないかな。「でも、どうすることもできないよね」っていう諦めの感情もあるし。何か大きな声で叫んだとしても、あっという間に情報の渦に飲み込まれて「全く届かないよな……」という思いを抱いている人は多い気がします。……この曲とは全然関係ない話になってしまったけど(笑)。
ーーでも、すごく興味深いです。
ReN:そのことに対して、自分なりの答えを曲にして歌うことももちろん大事だと思うんだけど、その現場をそのまま歌うことにも意義はあると思っていますね。
ーー「そこで何が起きているのか?」をありのままスケッチするということですね。「HURRICANE」もそういう楽曲だと。
ReN:「自分が生きるこの世界は、この先どうなっていくんだろう?」という漠然とした不安……それを今回は歌にしてみたいなと思ったわけです。繰り返しになるけど、そこでパーソナルな言葉をどれだけ使うのか、普遍的な言葉に置き換える場合、そのバランスはどうすべきかなど、すごく考えながら作っていきました。
もちろん、曲によっては自分なりの「答え」を示す時もあるけど、自分が「痛い」と思ったことを、他の誰かも「痛い」と思ってくれているんだなというところで繋がっていくことの方が、大切な時もあるのかなって。誰かに何か相談する時も、答えを投げられるより「わかるよ」っていう共感がほしいだけの時が多いじゃないですか。「俺も分かんないけど、だけど同じ気持ちだよ」っていう言葉でひとつになれることもあると信じているんですよね。それもひとつの繋がりなんじゃないかなって。
ーーそんなReNさんは、同世代の日本人アーティストのことをどんなふうに見ていますか?
ReN:借り物の感情や言葉ではなく、自発的な叫びを「音楽」で表現しているアーティストが、最近は多くなってきた気がしますね。もちろん、昔からそういう人たちはたくさんいましたけど、昔より外に出てきやすくなったんじゃないかな。というのも、何かカタチになれば今ならすぐ自分で発信できるようになったじゃないですか。音源をリリースするまでに、いくつものプロセスを経なければならなかった時代と比べると、本当に気軽に発信できるようになった。
リスナーにとっても「このお店でしか買えません」「これだけしか置いていません」というマーケットはどんどん無くなって、古今東西あらゆる音楽がいっぺんに並べられて、リスニングの手段もダウンロードからアナログまで様々な選択肢が増えた。音楽を聴く環境が広がったことで、音楽の受け止められ方もどんどん変わってきているかもしれない。そこは、SNSの良い部分なのかなって思います。
ーー物事には必ずポジティブな部分とネガティブな部分が存在していますからね。そんな中で、どうやって表現をし続けていくのかが今後の課題なのかなと。
ReN: そう思います。
ーー4月20日に大阪BIGCAT、5月30日に新木場でワンマンツアー『衝動』を行なうとのことですが、その意気込みを聞かせてください。
ReN:「今しかできない場所」だと思っているんですよね、強気な発言と思われるかもしれないですけど(笑)。自分にとって、このイベントには特別な思い入れがあって。というのも、自分が「音楽ってヤバイね!」って心から思ったのが、新木場で2014年に観たエド・シーランなんです。ちょうど精神的にもいろんな葛藤があった時期に、彼の音楽に触れたことは本当に大きくて。そのステージに自分も立つというのは、ある意味では「節目」というか。「いつか、あのステージに立つためにこの会場に戻ってこよう」という、自分自身の約束を果たす意味もあるんです。
それと、僕は今でもエド・シーランが大好きだし目標ではあるんだけど、どこかで「自分だけの音楽をやる」っていうシフトにしなければならなくて。
ーーある意味では「エド・シーランからの卒業の日」になるのかもしれないですね。
ReN:今までの自分の音楽人生に、ある意味では「句点」を打つべき場所が新木場なのかなって。ここから先を見据えるためにマストな場所だったんですよね。これからは、自分にルールを課せず、「シンガーソングライター」という中心軸はブレないまま色んな音楽を試してみたい。ロック、フォーク、R&Bに絞ったとても、まだまだ世の中には知らない音楽がたくさんあるから、それをリアルタイムでインプットしながら、自分の表現にしていくことに、今からワクワクしています。
(取材・文=黒田隆憲/写真=中村ナリコ)
■リリース情報
『HURRICANE』
2019年4月17日配信
■ライブ情報
『ONE MAN TOUR 2019『衝動』』
4月20日(土) 大阪 BIGCAT
5月30日(木) 新木場Studio Coast