MGFが語る、“どこにも属さない音楽”を作る理由「自分たちのジャンルを限定したくない」
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KSK、1010、Japssyの3MCによるラップクルー・MGFが、3月29日に配信限定で2ndアルバム『Real Estate』をリリースした。
MGFは2016年に1stアルバム『Float in the Dark』で<ROSE RECORDS>からデビューし、「優しくしないで’95 feat. 曽我部恵一」やサニーデイ・サービス「さよならプールボーイ feat. MGF」での曽我部恵一とのコラボが話題を集めた。前アルバムより約2年半ぶりのリリースとなる今作には、Kan Sano、EVISBEATS&MICHEL☆PUNCH、Shin Sakiuraとのコラボを含む全11曲を収録。5月11日にはMGFの主催イベント『Modern Groove Fashion』が開催される。
特定のシーンやジャンルに属したくないと強く語るMGF。それぞれの個性を強く打ち出し、より自由度の高い作品になったという『Real Estate』で感じた手応えから、独自の道を歩む彼らの音楽に対するスタンス、今後のビジョンを聞いた。(編集部)
MGF結成からROSE RECORDSでのデビュー
ーーMGFはリアルサウンド初登場ということもありますので、まずはグループの成り立ちから教えてください。
KSK:元々は僕と1010が小学校からの友達で、中高ぐらいで僕はミクスチャー系のバンド、1010はソロでラップを始めてて。だから、活動は別々だったんだけど、よく遊んではいたんですね。そこに僕の大学の同級生だったJapssyも混ざって遊んでる中で、ちょっと音楽でもやってみる?って感じで、MGFの原型が出来ていったんですよね。それが7年くらい前。僕らが21、22歳のときでしたね。
ーー1010くんはどんなタイプのラップをやってたんですか?
1010:ソロで、暗ーい曲をずっと作ってました(笑)。MEISOさんとか、言葉を重視したラッパーが好きだったので、そういう影響を受けたラップでしたね。
ーー確かにMEISOであったり、THA BLUE HARBのようなスタイルからの影響を、1010くんのラップからは感じました。KSKくんはバンドではどういった活動を?
KSK:構成としては、自分で曲を作って、それをサポートのメンバーに弾いてもらって、自分で歌うみたいな。だから、バンドというよりは、ソロプロジェクトのような感じが強かったですね。曲作りは16歳ぐらいからやっていて。
ーーJapssyくんは二人と出会うまでに音楽はやってたんですか?
Japssy:僕は結構チャラチャラしてて。
ーーふふふ。音楽の話じゃないね(笑)。
Japssy:それでDJをやったりしてましたね。テクノ系とかの。ずっと音楽は愛してて。
KSK:音楽は愛してて(笑)。
Japssy:なので、回りにはDJとかバンドをやってる連中も多かったんですよね。ただ、よく考えたらなんでいま自分がラップやってるのかは、ぶっちゃけ分からない(笑)。でも、楽しいからいいかな、みたいな。
ーーでは、MGFとして動き出したのは?
KSK:2015年半ばぐらいですね。2016年に曽我部恵一さんの<ROSE RECORDS>からリリースしたアルバムとタイトルは同じなんですけど、『Float in the Dark』っていうアルバムを、そのタイミングで完全自主リリースして。その時のグループ名は「Men’s Groove Fashion」。それが長くて、省略してMGFになったんですね。そのアルバムを1010が<ROSE RECORDS>に送ったら、ROSEの人が一緒にやろうよって言ってくれて。それでフルアルバムとして『Float in the Dark』をリリースして。
ーー自主盤とローズ盤は内容は同じもの?
KSK:いや、違いますね。自主盤は曲数も少ないし、音もスーパー・ローファイで。
ーー僕がMGFを最初に知ったのは「優しくしないで’94」のMVだったんだけど、あのバージョンはRoseに加入して以降のバージョンですね。
KSK:そうですね。ROSE側から、この曲をアルバムのリードにして、MVも作ろうという提案をもらって。
Japssy:それをきっかけに『POPEYE』に出させてもらったり、俳優の成田凌さんとか映画監督の大根仁さんが反応してくれたり。リスナーからの反響も大きかったんで、嬉しかったですね。
1010:名刺が出来た感じでしたね。あの曲やアルバムによって、胸を張って『音楽やってます』って言えるようになったし、心境もだいぶ変わりました。
ーーちなみに 「優しくしないで’94」であったり、「優しくしないで ’95 feat.曽我部恵一」のナンバリングは、どういった意味なんですか。
KSK:僕ら89年生まれで、最初は「優しくしないで’89」のつもりだったんですけど、RECやミックスで再構築していく中で、前のバージョンと区別するために、その数字を更新していったんですよね。それで94ぐらいから、このバージョン番号の付け方だと余計にややこしくなると思って、止めたのが「94」だったんでしょうね(笑)。
ヒップホップをやっている自覚はない
ーー根本的な話として、音源をアプローチしたのがヒップホップ系のレーベルではなく、ROSEだったのは何故だったんですか?
KSK:もともと、そんなヒップホップをやってるっていう自覚みたいなのがなかったから……ですね。
1010:どのレーベルに送るかは迷ったんですけど、いまKSKが言った通り、ヒップホップレーベルは違うと思ったんですよね。そこで自分たちのジャンルを限定したくなかったし、「俺らラッパーです!」みたいな感じでもなかったんで。そしたら、アプローチしたいのは、ROSEかなって。
KSK:やっぱり、1010はたくさんのヒップホップ作品を聴いてきたから、MGFのアプローチはそれとは違うって理解してたんだと思いますね。
1010:そうですね。
KSK:僕らのやってることは、音源を聞いてもらえれば分かると思うんですけど、やっぱりコアなヒップホップではないので。
1010:アブストラクトヒップホップではないんだけど、それでも「アブストラクト」っていう言葉がぴったりだと思いますね。抽象的というか。
KSK:それはあるよね。もっと「よくわからないもの」を作りたいっていう願望がある。
ーー今の話はとても重要だと思って。今回の『Real Estate』は『Float in the Dark』よりも抽象性が増していると思うし、よりアブストラクトな感触があると感じたんですけど、それは意思としてあるんですね。
KSK:それはすごく意識して作りましたね。
ーー『Float in the Dark』は、「優しくしないで’94」のようなキャッチがあったし、内容としてもいわゆるシティポップ文脈との連続性も感じさせられる内容でした。だけど、今回のアルバムは、3人のラップの内容が、連携している部分と断絶している部分が同時にあったり、意味を限定しない展開の作り方をしている部分を感じさせられて、それによって非常に抽象度が増していると感じました。
KSK:僕のリリックに関しては、それを意識したし、1010とJapssyのリリックに関しても、より自由にやってもらったんですよね。1010は僕から見たらハードコアなラップ性があるし、Japssyはファンクとかロックとかそういう感じがあるんですよ。だから、その個人個人が持っている部分をもっと強めて、よりバラバラにしたら、これまでよりもさらに面白くなるんじゃないかなと。
ーーバラバラだからこその面白さというか。
KSK:そうですね。全員が違う方向に向いてるからこその一体感、グルーヴが出てきたらいいなと思って。
Japssy:なるほどね。
ーーいま納得したの?(笑)。
Japssy:『Float in the Dark』は、3人で肩組んで一緒にやろうぜみたいな感じだったけど、今回はパッて手を離して遊べた感じでしたね。
1010:僕も今回はかなり自由にやらせてもらいましたね。
KSK:1stはもっとコントロールしてたんですよ。「もう少しわかりやすく」とか「聴いてて気持ちいいフロウでやってよ」とか、すごい言ってたんですよね。でも、今回は1010がオフビートな感じとかポエトリーな感じで来ても、それが格好良ければOK、みたいな。
Japssy:僕も曲ごとにすごいキャラを変えて。最後は歌っちゃったり、もう完全に多重人格ぐらいまで振り切ったんですよね。
ーーテーマに対する切り口自体も、3人がそれぞれのアプローチで表現してますね。
KSK:でも曲の中にはそうじゃない曲もあったりするので。そこはちゃんと聴き分けて欲しいというか。3人でちゃんと計画してこういう感じにしようっていう曲もあったりするので。全部が全部、支離滅裂なグルーヴを求めてるわけじゃない。
「Bling Bling Woman」はサザンへのオマージュ
ーートラックに関してはKSKくんがメインで制作されていますが、感触としてはA Tribe Called QuestやThe Ummahに近いマナーを感じるんですが、影響元というのはどういったアーティストになりますか。
KSK:海外で言ったらJurassic 5であったり、日本だったらSteady&Co.とか。
ーーSteady&Co.か、なるほど。
KSK:あの感じだったり雰囲気を持ったラップクルーって、日本にあんまりいないと思うし、本人たちもそんなに“ヒップホップ”って部分を強調してなかったと思うんですよね。その格好良さみたいな部分にも影響を受けてますね。それから最近だと、Kan Sanoさんやmabanuaさんだったり、origami productionsのサウンドにもスゴく影響を受けてますね。ただ、制作に関しては、あまり考えすぎないようにしてます。制作が辛いって思ったら、その瞬間にもう違う作業になっちゃうから、初期衝動の楽しさを保ったまま、遊びながら作れたらいいなってずっと思ってて。だからイズムみたいな部分は、そこまで深くは考えてないですね。逆にそれもあって、「こういう曲を作った方がみんなにこう思われるだろうな」みたいな、(打算的な)考え方は絶対しないです。
Japssy:『Float in the Dark』は若干(打算的に)狙いにいっちゃってた部分があったからなのか、ちょっと恥ずかしい部分があって。
ーー1010さんは「こういうトラックが欲しい」みたいな話はしますか?
1010:全くしないです、トラックに関しては。個人的にやりたいものっていうのは、ソロでやれればいいと思ってるので、そういう(エゴからくる欲求は)のはMGFには求めてないですね。
ーーJapssyくんはいかがですか?
Japssy:普段からしている音楽の話だったり、一緒に車に乗ってる時に聴いてる音楽とか、そういう部分で無意識に擦り合わせていると思いますね。個人的にも、例えば「断固としてTRAPがやりたい」みたいな気持ちよりも、自然にMGFにフィットする音楽が作れればなって。
ーー『Real Estate』を完成させた手ごたえはいかがでしょうか?
Japssy:僕はめっちゃ好きですね。車の中で自然に流したり、生活しながら普通に聴いてます。
KSK:1stは100%やりたいことが出来たかっていうと、ちょっと違う部分もあったし、実験みたいな作品だったんですね。でも、今回はコラボ曲以外のトラックは全部僕が作ってるという部分も含めて、全体的に「こういうものが作りたい」っていう目標に向かってしっかり進むことが出来た手応えがあるので、スゴく気に入ってますね。
ーー意図通りに構成できたと言うか。
KSK:そうですね。流れの作り方もそうですし、「こういうのが聴きたいな」っていうイメージを、そのまま形にできたんじゃないかなって。
ーー1010くんはどうですか?
1010:曲のバリエーションが滅茶苦茶広いと思うんですよね。それでいて、バシッとタイトに纏められたから、スゴく聴きやすい作品になったんじゃないかなって。
ーータイトな作品ですよね。曲数は決して少なくはないけど、ダレないように綺麗に構成されているなって。
KSK:初夏には次のアルバム『Landlord』を出そうと思ってるんですよ。だから、今回のアルバムと次回作で、前後編っていうイメージなんですよね。
ーーその2つではカラーは違うのか、それとも地続きですか? というのも、今回のラスト「Bling Bling Woman」は、アルバムの中でも派手な印象があるので、それが次の作品のトーンになるのかな、とも感じて。
KSK:作品的には今作の全体のトーンと地続きになると思いますね。
Japssy:地続きではありつつもも、微妙に感触は違うのかなって。なんというか、ファッションで言ったら、SSとAWみたいな。
KSK:MGF2019コレクション(笑)。
ーー作ってる側の意思は同じだけど、対応する状況が変わるというか。
Japssy:それはありえますね。
1010:僕は完全に『Real Estate』の第二弾のつもりで作ってますね。同じバイブスの、同じようなバラエティ感のある作品にしたいと思ってます。
ーーMGFがいま見ている目標地点みたいなものってありますか?
Japssy:例えば何万枚売りたいみたいな、そういう目標設定とかはしてないですね、そう言われてみると。それより、もっと面白いやつでいたい、クリエイティブでいたいっていうことの方が重要ですね。結成した頃の気持ちだったり、その時のモチベーションをずっと保っていければなと。
KSK:個人的にモチベーションになってるのが、「好きな人に会える」ってことなんですよね。例えば、DJ WATARAIさんとか、Kan Sanoさん、EVISBEATSさん、mabanuaさんとか、ずっと聴いてた人と会ったり、一緒に音楽を作れるのが、とにかく楽しいんですよね。それが自分で音楽を作るモチベーションにも跳ね返ってきていて。目標で言うんだとしたら、サザンオールスターズと一緒に作ってみたい。サザンと一緒に作ったヒップホップの人っていままでにいます?
ーーReal Fish featuring 桑田佳祐/いとうせいこうの「ジャンクビート東京」っていう曲があるけど、もう30年以上前の曲ですね。
KSK:じゃあせいこうさん以来として、桑田さんとコラボしてみたい。今回の「Bling Bling Woman」も完全にサザンへのオマージュなんですよね。コーラスも原由子さん風にJapssyに歌ってもらったり(笑)。そもそも、僕の本名自体が、桑田佳祐さんから取ってるんですよね、親父がサザンが好きで。そういった希望も含めて、面白いこと、面白いと思ってもらえることをやっていきたいですね。
ーー1010くんはいかがですか?
1010:ソロでは色々目標は考えているんですけど、MGFは楽しくやってる感じなので、確かに目標は考えてないですね。でも、いまの時代は誰でも音楽が出来るし、スターが生まれにくいと思うから、そこで俺らは、あえてスターを狙ってもいいんじゃないかなって。
よくわからないところにいるのがMGF
ーーもう一つ、自分たちの存在を音楽シーンの中ではどう捉えていますか?
KSK:嫌われてるんじゃないかな……なんとなく。どういう風に思ってます? って聞きたいですよ本当に。どうなんだろうな。
Japssy:全然わからないな。
1010:わかんなすぎだよね。
ーー前作だとシティポップの文脈で語られることが多かったと思うんだけど、『Real Estate』は先ほども話に出たとおり、キャッチーでありつつもアブストラクトな感触があって、いわゆるシティポップ文脈とはまた違う方向性で捉えられると思うし、もっと言えば、ジャンルで捉えにくい方向性になってる。その意味では、本人たち的にはどういう自認性があるのかなって。
KSK:でも、そう思ってもらえると嬉しいですね。よくわからないところにいるのがMGFだよねみたいなのがやっぱり嬉しい。そこを無意識に目指しているかもしれないし。やっぱり同じとか似てるとか言われるのは、全然好きじゃないので。
ーー5月11日にはMGFの主催イベント『Modern Groove Fashion』が渋谷HARLEMにて開催されますね。
KSK:僕らが好きな、みんなに聞いてもらいたいアーティストを招いた、僕らの趣味嗜好が反映されたイべントですね。こういう音楽を聴いてるから、今回のアルバムが出来たんだよっていう表明にもしたいので、イベントに来てもらうのはもちろん、アルバムを聴いてから遊びに来てくれると嬉しいですね。
Japssy:昔から自主企画でやってたイベントの拡大版みたいな感じなので、緊張感はあるけど、変な気負いみたいな部分は無いし、とにかく楽しもうって感じですね。僕らのライブも、ホームだからこその雰囲気で出来ればなって。
1010:どのアーティストもそうだと思うんですけど、自主イベントのライブが、一番見て欲しいライブだと思うんですよね。とにかく自分たちの見せたいライブを、しっかりアピールできればなって。
(取材・文=高木“JET”晋一郎/写真=林直幸)
■イベント情報
『Modern Groove Fashion』
日時:5月11日(土) Open 17:00 / Close 21:00
会場:渋谷HARLEM
チケット:DOOR 3000+1D / ADVANCE 2000+1D
<出演者>
<LIVE>MGF, HUNGER(GAGLE), Shin Sakiura
<DJ>DORIAN, LOCAS, Tiffany Cadillac
チケット購入はこちら
■リリース情報
アルバム『Real Estate』
価格:¥2,500(ライブ会場限定販売)
配信はこちら