HIROOMI TOSAKA、満月からスーパームーンへ 野心作『SUPERMOON』の先鋭的サウンド
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満月からスーパームーンへ。2018年のアルバム『FULL MOON』に続き、HIROOMI TOSAKA(登坂広臣)がシングル『SUPERMOON』を届けてくれた。
『FULL MOON』では、ヒップホップからキャッチアップした最新のトレンドをサウンドに落としこんでいた登坂広臣。そうした姿勢は『SUPERMOON』でより尖鋭的になっている。
タイトル曲「SUPERMOON」は、『FULL MOON』にも参加していた音楽プロデューサーのSUNNY BOYとHIROOMI TOSAKAが作曲したもの。繊細な響きのイントロで幕を開け、HIROOMI TOSAKAが静かに歌いだすと、瞬く間にサウンドは熱を帯びていく。楽曲の開始からビルドアップまでは、わずか約1分。怒涛のような展開だ。
その盛りあがりはEDMマナーであるものの、ビルドアップの先に待っているのは大胆なダブステップのリズム。ビルドアップからはトラップも鳴り響く。コーラスワークはオートチューンが施されたボーカルによるものだ。
静謐さとビルドアップとダブステップが渦を巻くかのようなサウンド。情報量が多いのに、楽曲自体は4分に満たない簡潔さもHIROOMI TOSAKAらしい。
そして、HIROOMI TOSAKAのボーカルの持つ色気とサウンドは絶妙なブレンドを感じさせる。これだけ客観的に自身をプロデュースできるのも彼の才能だろう。
カップリングの「BLUE SAPPHIRE」は、トライバルなリズムを導入したサウンド。アコースティックギターの弦の響きが哀愁を生みだしているのも見逃せない。アコースティックギターのスパニッシュな香りに、HIROOMI TOSAKAのボーカルもまた情熱的だ。そして、こうしたサウンドでもしっかりとビルドアップで熱を上げていく。生音とエレクトロニックなサウンドのバランスも絶妙だ。
そして、最後に衝撃を受けたのが「UNDER THE MOONLIGHT」。HIROOMI TOSAKA自身が作曲した楽曲だ。「BLUE SAPPHIRE」以上にトライバルなビートに乗せて、オルタナティブR&Bのようなボイスが入り乱れ、そのなかで登坂広臣のボーカルが生々しく響き続ける。その交錯ぶりは攻撃的なほどだ。この楽曲にもビルドアップが用意されている。
HIROOMI TOSAKAは『FULL MOON』のリリース時、筆者のインタビューに対してこう語った。
「僕がUSの音楽を聴いていて向こうのトレンドを考えると、日本でやっていることって一歩も二歩も三歩も遅かったりするから、それをオンタイムでやりたいんです。」(参考:登坂広臣が語る、ソロ活動で目指すビジョン「USのトレンドをオンタイムで表現したい」)
そもそも、HIROOMI TOSAKAが所属する三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのように、本格的なEDMマナーを聴かせるアーティストは、日本のメインストリームにおいてまだまだ多いとは言えない。それなのに、さらにアメリカのヒップホップのサウンドを吸収して反映しようとしているのがHIROOMI TOSAKAのソロプロジェクトなのだ。
その姿は清々しいまでに貪欲だ。この野心とストイックさをあわせもつサウンドがJ-POPのメインストリームで鳴る意義は大きい。『SUPERMOON』は、まさにスーパームーンを見あげているかのような3曲が収録されているシングルである。
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter