吉澤嘉代子、佐藤千亜妃、琴音……女性SSW支えるサポート陣から見える現在の音楽シーン
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優れたミュージシャンが表だった自らのアーティスト活動と、裏方としてのサポート/プロデュースの両方を行き来することによって、音楽の歴史は作られてきた。特に、近年はアーティストの表現形態が自由度を増したことによって、「自ら生み出し、他も支える」というタイプのミュージシャンの活躍が目立つ。そこで、本連載では毎月のリリースやライブをサポートの側にスポットを当てながら紹介し、ピープルツリーを広げることによって、現在の音楽シーンの動きを追っていきたい。2019年の序盤では、吉澤嘉代子、佐藤千亜妃、琴音といった女性シンガーソングライターと、彼女たちを支えるサポート陣が印象的だった。
(関連:吉澤嘉代子は、日本のポップス史の先端を行くーー『残ってる』での豊かな表現力)
■吉澤嘉代子
2月から3月に見たライブの中で抜群によかったのは、3月17日に昭和女子大学 人見記念講堂で行われた吉澤嘉代子の『女優ツアー2019』ファイナル公演。昨年発表された『女優姉妹』のリリースツアーであり、吉澤らしい物語性の強いステージを、バンドマスターのゴンドウトモヒコをはじめ、弓木英梨乃、伊澤一葉、伊賀航、伊藤大地という5人のサポートメンバーが見事に支えていた。
ユーフォニウムなど、様々な楽器で楽曲を彩ったゴンドウは高橋幸宏の右腕的な存在でもあり、伊賀と伊藤が細野晴臣のバックを務めていることを思えば、吉澤が日本のポップスをいまに受け継ぐ存在であることが改めて浮かび上がる。ときにポップスと呼ぶにはかなりアグレッシブなドラムを叩く伊藤の存在がバンドにエネルギーを注入しつつ、それを支える伊賀とのコンビは盤石で、そこに弓木と伊澤が巧みなプレイを織り交ぜるという5人のバランスも抜群。もちろん、その軸にあるのは吉澤の歌であり、ラストに弾き語りで披露された「ミューズ」の素晴らしさは、彼女の確かな求心力を印象付けるものだった。
■佐藤千亜妃
もう一人、新たな女性シンガーソングライターの台頭を感じさせたのが、3月4日に渋谷WWW Xで行われたodolの自主企画『O/g-9g』で見た佐藤千亜妃のライブだ。きのこ帝国ではシューゲイザー要素の入ったバンドサウンドを鳴らす一方、昨年発表された初のソロ作『SickSickSickSick』では、共同プロデュースに砂原良徳を迎え、打ち込み寄りの作風を披露。そして、ライブはその中間といった印象で、boboと須藤優(ARDBECKほか)によるリズム隊がバンドを下支えして、藤田顕(PLECTRUM)がギターでオルタナ感を、宗本康兵がピアノやシンセでポップス感を体現していた。
そんなバンドの演奏に乗って、ときにブラックなフィーリングも交えながら歌う佐藤の姿は、さらなるメジャーフィールドでの活躍を期待させるものだった。実際4月に入ると、佐藤はカネボウ化粧品『ALLIE』のwebムービーソングとして「Lovin’ You」を書き下ろしている。踊Foot WorksのTondenheyがアレンジ/トラックプロデュースを手がけ、オルタナR&B風のトラックに、強烈なギターソロが入った作風は、佐藤の趣向ともハマっている。また、昨年あいみょんとNulbarichのJQが担当したZoffの新ビジュアルモデルをビッケブランカとともに務めることも発表された。サポートメンバーの編成含め、さらなる変化を見せるであろう彼女の今後に注目していきたい。
■SIRUP
新人でもう1組面白かったのが、3月28日にEX THEATER ROPPONGIRで開催されたSpotify主催の『Early Noise Special』で観たSIRUP。この日はショーケース的なイベントだったこともあり、2曲のみの演奏だったが、Honda『VEZEL TOURING』のCM曲としてお馴染みの「Do Well」に対しては、やはりかなり大きなリアクションが起こっていた。
そんなSIRUPをギターとマニュピレートでサポートしたのが、Shin Sakiura。彼は80KIDZ擁する<PARK>から作品をリリースしていて、ここで80KIDZのサポートも務め、現在は米津玄師にも関わる、前述の須藤、そして、バルーンこと須田景凪にも関わる堀正輝(ARDBECKほか)らとの接点が浮かび上がる。「生演奏と打ち込みをシームレスにつなぐ」という意味において、エレクトロはボカロや現行のR&Bの先を行っていたわけであり、今後はこの三角形がより接近して、面白い動きを見せるのではないだろうか。
■ORIGINAL LOVE/Yogee New Waves
アルバムに関して言えば、ORIGINAL LOVE『bless You!』と、Yogee New Waves『BLUEHARLEM』から見える、“cero以降”の時代性が面白かった。ORIGINAL LOVEは、小松シゲル(NONA REEVES)、村田シゲ(口ロロ)、木暮晋也(HICKSVILLE)、冨田謙、真城めぐみ(HICKSVILLE)という現在のサポート陣と、佐野康夫、小松秀行、村田陽一という往年のメンバーを軸に、一発録りを多用して生演奏の熱量を閉じ込め、さらには、長岡亮介(ペトロールズ)や渡辺香津美といったギタリストも華を添えていたが、ここにビブラフォンとコンガで参加したのが、ceroのサポートも務める角銅真実。ORIGINAL LOVEは近年主催している『Love Jam』などでceroと共演し、親交を深めていたので、そこでまかれた種がここで花開き、世代を繋いだと言っていいだろう。
また、Yogee New Wavesの『BLUEHARLEM』は、昨年のツアーにも参加していたパーカッションの松井泉が加わり、グルーヴ面の向上に大きく貢献しているが、同じく松井がサポートで参加するYOUR SONG IS GOODはカクバリズムにおけるceroの大先輩。ceroといえば、2月19日に行われた『闘魂2019』において、フィッシュマンズとの共演を果たしたが、サポートメンバーを交えて、音世界をさらに広げて行くという意味では、Yogee New Wavesの今後にも大きく期待したい。いずれは『闘魂』への出演もあり得るかも。
■琴音
最後にもう一人、今後が楽しみな女性シンガーソングライターとして、琴音の名前を挙げておきたい。現役の女子高生で、『今夜、誕生!音楽チャンプ』(テレビ朝日系)でグランドチャンプを獲得と、これまでそのプロフィールが一人歩きしている側面もあったように思うが、3月に発表されたメジャーからの1stEP『明日へ』は、アレンジャーに河野圭や石崎光、リズム隊に玉田豊夢と山口寛雄を迎えるなどして、シンガーとして、そしてソングライターとしての魅力をはっきりと印象付けるものだった。
さらに注目したいのがライブでのサポートメンバーで、岡田拓郎(元・森は生きている)をバンマスに、神谷洵平(赤い靴)、谷口雄(元・森は生きている)、Shigekuni(DadaD)らが集結。岡田はかねてよりはっぴいえんどを影響源に挙げていたが、かつてのはっぴいえんどのメンバーのように、岡田が女性シンガーソングライターのバックを務めるというのは、日本のポップス史における歴史の連なりを感じさせる。残念ながら、僕は3~4月に行われたツアーは見に行けなかったのだが、すでに11月からの2ndツアーが発表されているので、この日のライブ自体はもちろん、今後は琴音と岡田の創作面におけるコラボレーションも楽しみだ。
■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。