Night Tempoの“オフィシャルFuture Funk”がもたらす、ポップカルチャーへの批評的な視座
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2010年代のインターネットカルチャーを代表する音楽であるvaporwave。短い歴史のなかでも様々なスタイルが混在するジャンルなのでひとことでまとめてしまうのはやや乱暴だが、70年代末から80年代のポップミュージックを無造作にスローダウン&ループ(ヒップホップの用語を借りてチョップド&スクリュードと呼んだりもする)させた特徴的なサウンドは、ノスタルジーと薄ら寒い空虚さをないまぜにした独特の魅力を放っている。一方、vaporwaveから派生した数々のサブジャンルのなかでもFuture Funkは別格にキャッチーでポップだ。AORやシティポップを主な元ネタとした、カットアップ感覚あふれるフレンチタッチのフィルターハウスのサウンドは、ダンスフロアでもベッドルームでもよく映える。アートワークではしばしば日本のおたくカルチャーが参照され、視覚的にもカラフルで親しみやすく、vaporwaveとは一線を画している。vaporwaveのプロデューサーから出発したSkylar Spence(かつてはSaint Pepsiと名乗っていた)が、Future Funkをスプリングボードにしてポップアクトへ転身をとげたのも納得のいく話だ。
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Future Funkといえば、韓国のDJ兼プロデューサーのNight Tempoの活躍も目覚ましい。彼は日本産シティポップの熱心なディガーとしても知られ、彼による竹内まりや「プラスティック・ラブ」のエディットは、世界的なシティポップ再評価を語る上で欠かせない一作になっている。2017年のデビューフルアルバム『Fantasy』ではTomgggやパソコン音楽クラブなど日本の若手プロデューサーとコラボ。また、モデルのやのあんなが2019年春に開始したAnna Yano名義での活動でも、相互フィーチャリングというかたちでコラボレーションを果たしている。さながら日韓のシーンを盛り上げる台風の目といったところか。
そんなNight Tempoがついに「オフィシャルFuture Funk」を実現してしまった。もともとはアンダーグラウンドなブートレグカルチャーであったこのジャンルとしては異例のことだ。しかも、コラボレーションの相手はWink。四つ打ちのユーロビートのサウンドをアイドルポップスの定番としてある時期の日本に根付かせたユニットであるだけに、Future Funkとの相性の良さはほとんど自明だ。むしろ「まんま」すぎやしないか、とさえ思えたが、実際に届けられたEPは原曲へのリスペクトとFuture Funk的な手触りが共にしっかりと感じられるものだった。
ややマニアックなディテールについて突っ込んで書くと、1曲目の「淋しい熱帯魚(Night Tempo Showa Groove Mix)」はカットアップやフィルターといった加工こそやや控えめに抑えられているものの、存在感のあるキックとぱきぱきにコンプレッサーのかかった音像に「らしさ」がはっきりと出ている。あるいは2曲目、「愛が止まらない~Turn It Into Love~(Night Tempo Showa Groove Mix)」ではサビにかかった大胆なサイドチェインのエフェクトに驚かされる。サイドチェインは主にキックなどのリズム楽器のサウンドに合わせて音量を変化させる(キックが鳴ると、それまで鳴っていた他の音が消える、というような)もので、独特のグルーブ感を醸し出す。Daft Punkをはじめとしたフレンチタッチのハウスを手がけるプロデューサーのお家芸だが、その方法はFuture Funkにもしっかりと受け継がれている。ともあれ、いちばんの聴かせどころにサイドチェインのような大ワザを被せる小粋さはさすが。
こうしたFuture Funkの技巧をもっとも堪能できるのは3曲目、「Get My Love(Night Tempo Showa Groove Mix)」だろう。こちらはサビが原形が不明瞭になる寸前までカットアップされていて、エディットの快楽と原曲へのリスペクトという相反するふたつの要素が同居するFuture Funkのスリリングな醍醐味が味わえる。
いまやFuture Funkはvaporwaveという本流とは異なる道を歩んでいる面が強く、とりわけvaporwaveの特徴とされてきたポップカルチャーへの批評的な距離が、Future Funkにおいてはポップカルチャーへの無邪気な愛や憧憬に置き換わっていることに違和感を覚える愛好家も少なくないだろう。しかし、ポップカルチャーの歴史的な蓄積を現在、ひいては未来へと丁寧に接続してゆくNight Tempoの今回の仕事は、vaporwaveとはまた異なる批評的な視座をもたらしてくれるはずだ。(imdkm)