サウィーティー、キューバン・ドール、リル・キム……活発な動きを見せるフィメールMCたち
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昨今、さらに活発な動きを見せているのがフィメールMCの皆さまたち。カーディ・Bよろしく、ドラマティックな自分の出自やプライべートを押し出して活躍している新人アーティストもいれば、復活劇を狙うベテランたちの動きも。今年の初旬には、あのミッシー・エリオットが女性ラッパーとして初となるソングライターの殿堂入りを果たすという大きな動きもありました。今回は、ひときわ元気のいい女性ラッパーたちを紹介します。
まずは“Icy Girl”の異名を持つカリフォルニアの女の子、サウィーティー(実際には限りなく“スウィーティー”に近い発音のような気もしますが……)。昨年、デビューEPの『High Maintenance』がスマッシュヒットを記録し、一気にシーンの注目を集めました。
そして同じ昨年から、ラップトリオ、Migosの中心メンバーとも言えるクエイヴォのガールフレンドとしても噂されるようになり、カーディ・B&オフセットに続く、ヒップホップシーンの若手パワーカップルの座にも座っています。そんなサウィーティーがリリースした最新EP『ICY』は、私の趣向をかなりくすぐるバウンシーな出来。デニムのビキニを纏ったアートワークは、かのフォクシー・ブラウンが2001年に放ったアルバム『Broken Silence』を彷彿とさせます。全7曲中、恋人のクエイヴォが2曲で参加。中でも「Emotional」はキレのいいクエイヴォのフロウに、スムーズなサウィーティーのバースが絡み合う佳曲。80年代後半を思い出させるようなオールドスクール調のビートもハマっています。妖艶なバイブスが漂う「Dipped In Ice」も個人的なファイバリットですが、最もテンションが上がったのはやはり「My Type」でしょう。なんと、ピーティー・パブロが2003年にリリースしたヒットシングル「Freek-A-Leek」のビートをほぼそのまま敷いています! もともと、リル・ジョンがプロデュースを手がけ、当時のクランクブームを押し上げたことでも知られる「Freek-A-Leek」ですが、原曲に負けじとサウィーティーが威勢のいいラップを乗せています。「My Type」のプロデュースを手がけたのは、数々のアトランタ・サウンドを手がけてきたロンドン・オン・ダ・トラック。なぜこのネタ使いに踏み切ったのか、その理由も気になるところです。前作EP『High Mentenance』同様、思い切ったビートとアクの強い彼女のラップ魅力的な『ICY』。アルバムの発表も待ち遠しいところです。
そして続いてはキューバン・ドールの最新ミックステープ『Karma』を。最近、ドリーム・ドールやエイジャン・ドールなど、フィメールMC畑では「ドール」をMC名にくっ付けるのがトレンドの一つなのですが、その“ドール系”の中でもひときわ個性を放っているのがキューバン・ドールとも言えそう。
2017年にミックステープ『Aaliyah Keef』でセンセーショナルなデビューを果たした彼女ですが、ポップな可愛さと際どさをミックスさせたスタイルが得意です。本作ではマネーバッグ・ヨー、そしてシングル「Bitch From Da Souf」がYouTube上でバズっている女性ラッパーのムラットー、そしてヒットメイカーとして知られるタイ・ダラー・サインらが参加。舌ったらずのキューバン・ドールのフロウはまだまだ改良の余地あり、とも感じさせられますが、その荒削りさが逆にスリリングにも聴こえるから不思議です。
お次は、少し変わったバックグラウンドを持つフィメールMCをご紹介。
西海岸生まれのラジャ・クマリは、インドの血を引く女性アーティストで、長年アメリカのポップスシーンでヒット曲のソングライティングを行なってきました。グウェン・ステファニーからFall Out Boy、そしてFifth Harmonyらの楽曲制作に携わってきた彼女、自身のルーツとも言えるインドを訪れたこと、そしてインド音楽のプロデューサーであるA・R・ラフマーンとの出会いが、ラッパーとしてキャリアを拡げていくきっかけになったそうです。彼女が得意とするのは、インド音楽のテイストを盛り込んだヒップホップサウンド。自ら、ボリウッドをもじって”Bollyhood”と定義しているようです。彼女のMV「I Did It」を観ると、その魅力が伝わることでしょう。そのラジャ・クマリが2019年2月にリリースしたEP『BLOODLINE』は、リードシングルにもなった「SHOOK」を始め、インドのカルチャーとヒップホップを掛け合わせた斬新な楽曲が並びます。これまで、アジア系の女性がアメリカのヒップホップシーンで注目されることはほぼ皆無と言ってもいい状態だったように思いますが、韓国系のオークワフィーナの躍進だったり、このラジャ・クマリの活躍と挑戦だったり、時代は少しずつ変わっているのかな、と感じます。乱暴に括れば、私もヒップホップカルチャーを愛するアジア系女性であることには間違いありませんので、ラジャ・クマリの今後の活躍が心から楽しみです。
以前にもこちらのコーナーで紹介したティエラ・ワックを覚えておいででしょうか。先日開催された世界最大級の音楽フェス、『コーチェラ・フェスティバル』でも印象的なパフォーマンスを見せてくれたティエラですが、同じコーチェラにおいては、あのジャネル・モネイのステージに参加する、というサプライズ演出でもって我々を喜ばせてくれました。
昨年、ビルボードが主催する『ウィメン・イン・ミュージック』という式典において、革新的な女性アーティストに贈られるトレイルブレイザー賞に輝いたジャネルでしたが、その際にジャネル受賞のスピーチを行ったのも、このティエラ・ワックでした。#whackhistorymonth と題して、毎週新曲をアップしているティエラですが、新曲「Unemployed」ではジャガイモを主役にした摩訶不思議なMVを発表。本作はもともとカートゥーンネットワーク上でプレミア公開されたというエピソードも、彼女ならではという感じがします。猟奇的な雰囲気も漂うMVですが、今年も、彼女の空想の世界がどのようにアートフォームへと落としこまれるのか、楽しみでなりません。
そして最後はブルックリン生まれのレジェンド、リル・キムの新曲を紹介して終わりにしましょう。
2005年にリリースした『The Naked Truth』以来14年ぶり(!)となるアルバム『9』を5月にリリースするとアナウンスしているリル・キム。最新オリジナルシングル「GO AWFF」では貫禄たっぷりの姿を見せつけています。ちなみにべテランフィメールMCといえば、あのイヴ(EVE)も、現在ニューアルバムを製作中であるとApple Musicのラジオ、Beats1内で明かしていました。新人だけではなく、こうしたベテラン勢をも奮い立たせる大きな波がフィメールMC界に押し寄せているのだな、としみじみ感じる次第です。
■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
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