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YOSHIEが明かす、ダンスと振付へのピュアな情熱 「技術だけじゃなくて心が反映される」

音楽

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リアルサウンド

 J-POPシーンの最前線で活躍する振付師にスポットを当て、そのルーツや振付の矜持をインタビューで紐解いていく連載「振付から紐解くJ-POPの現在地」。第4回ではダンサーとして最前線で活躍し続け、振付も手がけるYOSHIEを取材を行なった。ダンスへのピュアな思いや情熱に加え、日本人が“音楽に乗る”にはどうすれば良いのか、さらには年齢を重ねることに対するポジティブなスタンスなどをじっくりと語ってくれた。ダンサー/コレオグラフアァーとしてだけではなく、YOSHIEの人間としての魅力に迫る。(編集部)

(関連:YOSHIEインタビュー写真

■「ダンスを楽しいって思わせたいという気持ちが根本にある」
ーーYOSHIEさんは振付師/コレオグラファーとして活躍されながら、ダンサーとしてもしっかり活動されていますよね。

YOSHIE:はい。私はダンサーであることが一番の自分の仕事だと思っていて。まだまだ現役で踊っていたいという思いが強いです。

ーー舞台の演出やコンテストの審査員のお仕事もされていますが。

YOSHIE:どれもライフワークですね。仕事の幅広さでは日本一だな、と思うほど。これは自分の性格から来ていると思います。でもやっぱり一番はダンサーですね。

ーーそれは自分で体を動かしたいからですか?

YOSHIE:そうです。もちろん、踊ることが好きだからなんですけど、ダンサーズハイみたいなものを感じることがあって。踊ることで、観ている人と交信できたり、強い使命を感じる瞬間があるんです。海外に行くとレッスン生から「どうしてずっと純粋な気持でダンスに向き合えるの?」「やめたくなった時はないの?」と聞かれることがあって。それで初めて「なんでだろう?」と考えるぐらい、もう“好き”が止まらない。自分は体力や身体能力以外の部分が高まっているのをすごく感じるので、ダンスを続けているのかもしれません。

ーー2018年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)でのMISIAさんの「つつみ込むように…」も印象的でした。ストリートダンスのすごく基本的な振りでしたけど、心から楽しそうでカッコよくて。イントロでYOSHIEさんたちが踊りだした瞬間に、私もダンスの初期衝動みたいなものを思い出しました。

YOSHIE:踊りと音楽に身を任せて、本当にハッピーでした。他のアーティストのダンスがすごく凝った振付や構成だったので、シンプルなんだけど大丈夫かな、と思ってたんですけど。シンプルにできるってなかなか無いよな、と。一緒に踊ったSTEZOとTAKUYAの2人はヒップホップというジャンルが日本に入ってきた当初からやっているような人だったので、ワンステップがヒップホップの染み渡り具合を物語っているから、全然大丈夫だ、って思えて。

ーー「つつみ込むように…」はストリートカルチャーをマスに広めた名曲でもあって、そこにレジェンダリーなストリートダンサーお三方が起用されたのにはメッセージ性を感じます。長年ダンスに携わって、自分の中で変化したことはありますか。

YOSHIE:前は自分のことだけしか見ていないような感じだったんですけど、最近は後輩を良いダンサーに育てたいなって。後輩が可愛くなったのもあるけれど、誰かのために、誰かが喜ぶことをしたいなって思うようになってきましたね。だから振付をする時も後輩をアシスタントに付けたりしますし。

ーー振付師として印象に残っているお仕事はありますか。

YOSHIE:どれも印象に残っているので、一番は決められないんですけど……。2016年のミュージカル『JAM TOWN』とか。(原案・演出の)錦織(一清)さんは、元々私の所属してるBE BOP CREWのSEIJIさんと知り合いで、ストリートダンスにとても詳しくて、ダンスが好きで。それで私に話がきたんです。ストーリーや演出がある中で何曲も振付して、ストリートダンスもレペゼンしつつ、ジャズダンスなどの要素も混ぜていきました。私が振付する一部始終を、錦織さんはずっと見てくれていて、「YOSHIEちゃんって振付の仕方面白い」「すごく勉強になるわ」って。こうやってダンスと音楽を本当に愛している人とお仕事できるのがすごく刺激的で面白いな、と。そういう楽しいイメージがあったのと、錦織さんが(ジャニーズ方面に)私を紹介してくれたこともあって、振付の仕事が広がっていきました。

ーーV6やKinKi Kidsなどのグループも手がけられていますよね。

YOSHIE:そうですね。私のダンスの師匠・YOSHIBOWさんが愛していたシーガットソウルや、キャメルウォーク、テンプテーションなどそれぞれの楽曲にステップを取り入れています。あと、MISIAさんのライブでは横浜で生まれた“ハマチャチャ”というフリーチャチャを入れたり。

ーーそういった振付にアーティストからはどんな反応があるんですか。

YOSHIE:私自身がダンスを好きで作っているからか、「YOSHIEさんの振付で踊ったらダンスが好きになった」「ダンスってこんなに楽しかったの?」って言われたことがあります。そういう言葉をもらった時に、私は観ている人にも踊る人にもダンスを楽しいって思わせたいという気持ちが根本にあるかもな、と。

ーー振付はどうやって考えるんでしょうか。

YOSHIE:これまで振付をしたのは格好良いと思う曲ばかりでした。だからまず曲に恋して、あとは歌詞を聴いて、意味を理解して。でもその歌詞を明らかに反映させた振付にはあまりしない。私は即興ダンスも踊るから、パッと曲を聴いて、あまり考えすぎないで身体が反応するものを素直に作っていくんです。英語詞で意味も分からず作った振付が、後でよく歌詞を見ると、シンクロしていることもあって。まさに音楽に呼ばれて、振りが降りてくるような。

ーーYOSHIEさんの振付はステップを重視していて、全身のグルーヴが必要な印象です。

YOSHIE:私が作った振付を気に入ってくれたアーティストが、「顔のアップとか要らないから踊りを映してよ」と言っているのを聞いたことがあります(笑)。テレビやMVの収録に私もついて行くので、その時はスタッフに「ここは踊りが格好良いんですよ」って言ったり。行けない時は海外からリハ映像を見てアドバイスもします。あと撮影の時、仕事だから良いものを撮ろうというのは分かるんですが、淡々と何テイクも撮っていることがあって。だから私は「フー! めっちゃ格好いい!」って盛り上げるんです。そうするとアーティストも「テンションが上がって良いムードになる」って言ってくれて。ダンスは“ギブアンドテイク”。そうじゃないと伝わり方が違う、と私は信じています。だから、たとえモニターにはアップしか映ってなくても良いんです。本人から溢れるものが違うから。アーティスト本人が私を信頼してくれるから、周りからも信頼されるようになったとも感じます。

ーーYOSHIEさんのそういうピュアな衝動にハッとさせられるのかもしれません。

YOSHIE:そうだと嬉しいです。流れ作業みたいになるのが嫌で。ダンスの神様が泣いちゃうと思うから、自分が関わることにはなるべく、魂のようなものを少しでも感じてもらえたらいいな、と思っていて。みんながそれぞれに持っている個性があるので、私が振り付けしたものをそれぞれの感じで踊ってくれて構わないんです。ある程度自由は残して、でも、ここはこういうのが良いんですよね、と熱く伝えるというバランスは取っています。

ーー海外のバトルやコンテストでの日本人ダンサーはどんな印象ですか。

YOSHIE:やっぱり英語が得意じゃない人も多いので静かですね。海外の人がびっくりするのが、そんな彼らが踊り出すと豹変して優勝をかっさらうこと。“能ある鷹は爪を隠す”というか。海外の人からは日本人は勝負師だし、強いって思われているはず。一方でレッスンになると真面目で、「自分が一番格好良い」とはなかなか思わない。私は海外の人のフィーリングの良さを、日本人の生徒に伝えて、海外のダンサーたちには日本人って繰り返し丁寧に練習するからこんなに上手くなるんだよ、と伝える。だから両方に「足して2で割る」という話をよくします。

ーー振付やダンスをする時に意識していることはありますか。

YOSHIE:何年も練習して身に付けたダンスの技術を持っているけど、もしそれを1個も持っていないでこの音楽を聴いたらどんなふうになるんだろう? と考えて踊っています。即興ダンスの時に自分の技術だけで踊ると、音楽を心から楽しめていないような気がしてしまって。0の自分と、技術をしっかり身につけた自分のバランスが取れた時にとても良いダンスが生まれると感じます。それは振付においても大事にしていますね。

ーーYOSHIEさんの振付には、踊っている人と見ている人の感受性を呼び起こすという共通点があると感じます。YOSHIEさんっぽい、特定の振付があるというわけではないんですが。

YOSHIE:私の振付したダンスを見たファンが、「自分は技術がなくて踊れないけど、見るだけで、座ったままで踊れるんだって初めて思いました」って言ってくれて。たぶんその人の“心”が踊ったんだと思うんですよ。人の心を踊らせることができたというのは、自分の中の発見で、嬉しかったです。

ーーたしかに日本人はシャイで、ライブでも音楽に乗ることが苦手と言われています。

YOSHIE:日本では音楽に乗ることがあまり浸透していない。だから、自転車に乗ったり、波に乗るような感じで、音楽に乗ってくれればいいなと思っています。私もそうですが、日本人の性質的に、努力して積み重ねて技術を身につけたら、ようやく自信を持てて楽しくなれる、というところがある。海外に行って改めて感じましたが、それは日本人の気質で美徳だから、大事にした方がいいと思うんですよ。そこを失わずに自分を開放するには、音楽が好きな自分を認める必要がある。

ーーダンサーだけでなく、一般の観客ももっと音楽を好きという気持ちを前に出して良いってことですよね。

YOSHIE:そうですね。音楽を聴いたら自然に身体が動いちゃう、というのがグルーヴだと思います。例えば、いつも観るルーファス・トーマスのライブ映像があるんですけど、ダンサーではない一般のお客さんが本当に自由に踊っていて。向こうでは音楽と踊りがライフ、生活の一部なんだと思います。ステージのアーティストをじっと見つめるんじゃなくて、自由に踊る。これが音楽を聴く、感じるということだと思うので、ライブに行ってこうなるのが、私の理想。アーティストのライブの前にステージで「YOSHIEさんリズムレクチャー」をいつかできないかな、と思いますね(笑)。

ーーそうやって体をほぐしてからライブを観るのはすごく良いと思います。私もダンスをやっていたのですが、リズムの取り方って奥深いですよね。

YOSHIE:グルーヴは人それぞれあるから、皆違っていいんですよね。そういう違いを受け入れることが日本人には必要かもしれないですね。こんな風にダンスから教わることがいっぱいあります。

■「“人を癒やす”ことをダンスで実現している」
ーーYOSHIEさんのダンス人生のターニングポイントはありますか。

YOSHIE:高校3年生の時のBE BOP CREWとの出会いは大きいですね。ダンスを見ただけで涙が出たのはその時が初めてでした。YOSHIBOWさんやSEIJIさんに会っていなかったら今の私はいなかったと思います。それと、レッスンで出会った長谷川三枝子先生。見学した時、雷が落ちたみたいになって。あとは、34歳で初めてバトルに出た時。そこからまた変わりました。自分のソロを踊ることや、人とダンスで勝ち負けを争うことを見つめ直したり。フランスの『JUSTE DEBOUT』にジャッジとして参加したのもカルチャーショックでした。それから海外にも呼ばれるようになって、結果を残して自信も付けて。海外の人との交流で、考え方や踊り方もすごく勉強になって、一方で知れば知るほど日本人の素晴らしさも考えさせられたり。ダンスではないですが、上京して、舞台に出てお芝居の勉強やトレーニングをしたのも表現力の面で役立ちました。

ーー一般的には20代が身体的なピークと言われていますが、30代で初めてバトルに参加されたんですね。

YOSHIE:私は基本的にすごく慎重で、石橋を叩いても渡らないタイプなんですよ。私のダンスは“バトル”とか勝ち負けじゃないし、と思っていたのに、32歳ぐらいの時に東京でバトルが盛り上がり始めて、すごく気になっていたんですよ(笑)。自分の実力がわかるんじゃないかとか、悶々として1年間過ごしてふらっとバトルを見に行った。そこで私と1つ違いのBUTTERの大場(進一)くんが優勝したのを見て、次の日にはバトルに出ていました。「YOSHIEさんがバトルに出るの?」っていう驚きと衝動をバネにするというか、逆手にとって。結果、優勝しました。

ーー考え方がエンターテイナーですよね。将来、どんな活動をしてどういう存在になりたいと考えていますか。

YOSHIE:私は今45歳ですが、この歳まで1回も目標を立てたことがない。毎日「明日死ぬかもしれない」と思って生きていて。基本的には慎重派だから、ちゃんとやらないと良いショーができないと思って、小さいクラブのリハーサルにも行くんですよ。それでステージに立ったら、「明日死ぬかもしれないから、いまフルアウトしたら良い最後じゃん」という考えがいつも頭をよぎっているんです。だから、将来のことを考えても仕方ない、今を大事にしていたら明日に繋がるという考え方はずっと変わらないですね。慎重だけど、毎日が崖っぷちみたいな気持ちで生きています。将来こうなりたいというのはないに等しいけど、60歳、70歳になってもし生きていたら、プロとかじゃなくていいから、ファンキーなおばあちゃんになっていたい。

ーーYOSHIEさんはハッピーなバイブスに溢れていますが、シビアに現実を見る目やファン目線も持ち合わせいて、どこか身近な感じもあります。

YOSHIE:自分の中にも相反する思いがいつもあるから、グレーゾーンが好きで。だから色々な人を受け入れられるし、いつも自分も迷っているから、迷っている人の気持ちもわかる。小さい頃はカウンセラーや心理学者になりたいと言っていたんですが、今は“人を癒やす”ことをダンスで実現している気がします。ダンスは技術だけじゃなくて、心が反映されるから。

 周囲には「良いダンスだった」と思われても、私は自分の最高も知っているから、今日はあんまり……ということもあります。でもそれが自分なんだって受け入れる、そういう良い意味での妥協は歳を取ってできるようになりました。だから、歳を重ねるのは技術や体力が衰えるというわけじゃなくて、面白いことがたくさんあるよ、と若い人たちに伝えたいです。

(取材=鳴田麻未/構成=編集部)