『いだてん』綾瀬はるかが中村勘九郎に与えた希望 支え合う夫婦の姿が胸を打つ
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『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第17回「いつも2人で」が5月5日に放送された。ベルリンオリンピックの開催中止が決定し、激しく落ち込む四三(中村勘九郎)を元気づけたのは、熊本からやってきたスヤ(綾瀬はるか)だった。明るく朗らかなスヤの支えが、失意のどん底にいた四三に新たな目標を与えた。
参考:『いだてん』森山未來の演技が凄まじい “古今亭志ん生”への一歩を踏み出した『文七元結』
第17回の冒頭、嘉納治五郎(役所広司)からベルリンオリンピックの開催中止を伝えられた四三。四三の表情から強い失望が伝わってくる。ストックホルムオリンピックでの雪辱を晴らすため、日々練習に励んできた四三にとって「オリンピック中止」はあまりにも酷な知らせだ。まばたきもせず、茫然とした四三の表情は、事実を受け入れられないといった様子だ。ガクンと体の力が抜けた四三は、なおも茫然としている。その姿は見ていてつらい。また四三の表情だけでなく、開催中止を伝えた治五郎が耐えきれず涙するシーンでも、四三がどれだけベルリンオリンピックのために力を注いできたかが分かる。
下宿先である播磨屋に戻った四三は、壁に貼られた「ベルリン」の文字を見ると、その紙をグシャグシャにして感情を爆発させる。壁に頭を激しく打ちつけ、むせび泣く四三からやり場のない悔しさが伝わってくる。オリンピックに出場できないのは自分のせいではない。だからこそ、悔しさをどこにもぶつけられない。
そんな失意のどん底にいる四三に希望を与えるのがスヤだ。四三は、励ましに来てくれた仲間たちに対して「おら、もう走れんです!」「(家族に対して)これ以上、迷惑かけられん!」と、家族から援助を受けてここまでやってきたことへの負い目を告白する。その言葉を黙って聞いていたスヤは、四三を外へ引っ張り出し、頭から水を浴びせた。水を浴びせるスヤは凛としていて、とても冷静だ。スヤは熊本で、幾江(大竹しのぶ)から「マラソンとスヤ、どっちが大事か聞いてこい」と言われていた。しかしスヤはこの時点で、四三にとってマラソンが比べるまでもなく大事なものだということに、気づいていたに違いない。
2人きりになった四三とスヤ。第16回で「(練習の)邪魔になる」と熊本からやってきたスヤを追い返した四三だったが、「寂しかった」「きつか練習ばした夜は、必ずスヤさんの夢ば見ました」と本心を告白する。「オリンピックに出場したら終いにするつもりだった」と話す四三の顔を見るスヤの表情は厳しい。しかし一転、明るい表情を見せると「終いだと思ったら帰れますか?」と終いのつもりで四三を讃える。その明るさにつられて四三はフッと笑顔を見せる。だが「終わったと思ってもっと笑え」というスヤに「そりゃ、終わっとらんけん」と四三は力なく発した。四三にとってマラソンがどれだけ大事なものか、スヤは理解している。だが、同時に寂しさも感じている。力ない四三の言葉を聞いたとき、スヤは少し悲しそうな表情を浮かべる。しかし、スヤは四三を励ます。
「そぎゃんたい。始まってもないもんが、終わるわけなか」
四三を見つめるスヤは、四三を支えるために自分がどうすべきか、決意を固めたような表情だった。四三は激励するスヤの手を握り、静かに涙を流す。泣きじゃくる四三をスヤは静かに抱きしめていた。
スヤの支えにより立ち直った四三は、中盤に「駅伝」を設立。「東海道五十三次駅伝」のアンカーとして走る。「駅伝」を見にきたたくさんの人々の中にスヤの姿もある。四三を名ではなく「金栗ー!」と応援したスヤからは、ランナー・金栗四三への敬意を感じる。四三もまた、スヤの姿を見つけると無言で視線を送る。走る四三の表情は自信に満ち溢れていた。
目標に向かってまっすぐ突き進む四三を演じる中村の姿は、演じているというより四三そのものだ。四三演じる中村の純粋すぎる表情は、時折子供っぽく見える。スヤに「熊本へ帰るか」と問われたとき、首を横に振った姿やスヤに抱きついて泣きじゃくる姿など。だが、その純粋すぎる表情が、走ることに一生懸命な彼の闘志を強調する。
綾瀬もまた、四三を支え続けるスヤを真摯に演じている。綾瀬は笑顔にも泣きそうな顔にも見える表情で、スヤの「四三を応援したい」気持ちと「寂しい」気持ちを表現してきた。だが、ハキハキとした綾瀬の話し口から、スヤの意志の強さもしっかりと伝わってくる。
第17回のタイトルは「いつも2人で」。離れて暮らしていたときから、彼らは「いつも2人で」支え合ってきたのだ。2人の支え合う姿が心に強く残る回だった。(片山香帆)