86歳・柳澤愼一&76歳・高橋長英主演の『兄消える』、老人ホームで超高齢上映会
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『兄消える』上映会の様子
戦後から活躍する伝説の俳優、柳澤愼一と高橋長英がダブル主演したシニア世代の“青春”映画『兄消える』(監督・西川信廣)の特別上映会が5日、東京・渋谷区特別養護老人ホーム「渋谷区つばめの里・本町東」で行われた。
同映画は、信州上田を舞台に、家業の鉄工所を地道に営む弟(高橋)のもとに、放蕩の限りを尽くした兄(柳澤)が40年ぶりに帰ってきたことから起こる騒動、兄弟の絆を描く。70歳以上限定の上映会のトークイベントには、86歳の柳澤、76歳の高橋らが登壇した。
『ザ・マジックアワー』(2008)では主演の佐藤浩市が憧れる往年のスター俳優を演じた柳澤だが、主演は『酔いどれ幽霊』(1958)以来。「60年ぶりの主演なんて、考えたこともなかった。果たして台詞が暗記できるか、監督の演出に合わせて、芝居のせりふとして活かせるか。そんなことは絶対に無理だし、生き恥をさらすから、お断りをしなきゃ、と思ったのですが、生き恥をさらしても、1年か2年(の命)ならば、赤っ恥をさらしてもいいかなと考えを変えました」とユーモアたっぷりに話した。
「本作を遺作に」という覚悟だったといい、「私のような世捨て人を必死に探し出してくれたプロデューサーに報いたかった。人生の最後にいいことをすれば、いいお迎えが来るんじゃないかな、と欲をかきましたが、全編アフレコで、難行苦行でした。知らない人は、柳澤は『奥様は魔女』のダーリンの声をやっているから簡単と思うかもしれないが、横文字のアテレコとはまったく違うんです」と明かした。
一方の高橋は「楽しいひとときでした。ロケ地は千曲川が流れている土手の下にある町工場。工場の匂い、油の感覚、雰囲気に助けられ、芝居をさせていただいた。長回しも結構したので、アフレコには苦労しました。アフレコは反射神経を使うものですが、柳澤さんはよくやって、すごいなと思った」と振り返った。
70歳にして映画監督デビューとなった文学座の演出家、西川氏は「初めての映画で、難しいかなと思ったら、とても楽しかった。上田はとてもいい街で、すっかり好きになりました。プロデューサーとは文学座の同期生。『芝居を演出してくれないか』と言われたが、スケジュールが合わなくて、断ったら、今度は『映画撮らない?』と言われた。人生、何が起こるか、わかりませんね」と笑っていた。
また、輝けるシニアの代表としてゲスト登壇した84歳のプログラマーの若宮正子さんは「映画に感動しました。常識で考えたら、地道に鉄工所を経営している弟さんが共感できる生き方ですが、人工知能がいろんな仕事をやってくれるようになると、地味な仕事はなくなっていく。これから注目を浴びるのは変わり者や何か外れた人。私はお兄さんの生き方に共鳴しちゃいました」と話していた。
『兄消える』5月25日(土)よりユーロスペースほか全国公開
取材・文・写真:平辻哲也
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