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Lizzoはなぜ万人に支持される存在へ? “ボディポジティブ”の決定的アイコンになった背景に迫る

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 自分の体型にコンプレックスが一つもない、という人にはこのコラムは必要ないかもしれない。ただ実際には、そんな人はほとんどいないのではないだろうか。であるならば、この誇り高き“ビッグ・ガール”=Lizzo(リゾ)の活躍を見過ごすわけにいかないだろう。先ごろ開催された今年の米『コーチェラ・フェスティバル』に出演を果たしただけでなく、ニューアルバム『Cuz I Love You』が『Billboard 200』初登場6位(2019年5月4日付)をマークするなど、チャートアクション上でも確かな存在感を示している。本コラムでは、彼女のその躍進の背景に迫っていこう。

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 デトロイト生まれ、ヒューストン育ちのリゾは、2013年にアルバム『Lizzobangers』でデビュー。ケシャやFifth Harmonyを手がけたプロデューサーであるリッキー・リードが2016年のEP『Coconut Oil』をプロデュースしたことをきっかけに、『Cuz I Love You』を<ワーナー/アトランティック・レコード>からリリースするまでに至ったラッパー/シンガーだ。トラップを意識したサウンドプロダクションを指向しながらも、曲調としてはディスコ~ソウル調の楽曲も多く、どこか懐かしさを感じさせる。一方でカーディ・Bにも肩を並べられるような切れ味の鋭いラップや、ゴスペルを聴いて育ったというだけあり、アレサ・フランクリンやチャカ・カーンを思わせるソウルフルな歌声もその魅力の1つだ。

 1988年生まれということだから、昨今のヒップホップアーティストとしては遅咲きと言える部類かもしれない。そのリゾに今、脚光が当たっているのはやはり彼女が元来持っていたメッセージにあろう。念のため触れておくと、彼女は決して、現代の多くのアーティストや有名人、モデルのようなスレンダーな体型……というわけではない。いわゆる“プラスサイズ”の女性である。そんな彼女は『Cuz I Love You』のジャケットや「Boys」のMVではヌードで登場。ステージでもレオタードを着てボディラインを強調していることが多い。そう、リゾは、2012~3年ごろから見られるようになった“ボディポジティブムーブメント”における、決定的なアイコンなのだ。

 ボディポジティブムーブメントとは、「自分のありのままの体型を受け入れ、肯定し、愛そう」という一連のムーブメントのこと。その代表的な例が、レディ・ガガが立ち上げた『Body Revolution 2013』というプロジェクトだ。これは、拒食症と過食症を告白したガガが、自ら立ち上げたページに自分の身体のセルフィーをアップ、それに勇気づけられた彼女のファンたちも自分の身体の写真を続けざまにアップする……といったプロジェクトだった。また、ファッション業界に目を向けてみると“カーヴィー”や“プラスサイズ”と呼ばれるモデルも増えてきており、その代表格であるアシュリー・グラハムは、フォロワー840万人を誇り、自らのインスタグラムでセルライトのついた身体の写真を投稿するなど、スレンダーであることだけを唯一の美とする価値観に一石を投じている。ただし留意すべきは、このムーブメントは「ふっくらしていることが本当の美」だとする運動ではないということだ。例えばメーガン・トレイナーの楽曲「All About That Bass」(2014年)は、自分の体型を肯定しながらも他方で“skinny bitches”という痩せ体型を揶揄するようなリリックを含んでいたことで批判を浴びた。“ボディポジティブ”とは、自分の体型を愛すること。ふっくらしていようが、痩せていようが、関係ないのである。

 リゾの話に戻ろう。プラスサイズのダンサーを引き連れ、常に明るく楽しげなステージを見せる彼女。しかしその内側に宿るのは、「自己愛」を持つことの難しさを乗り越え、その意識を社会にも育もうとする覚悟だろう。彼女は単にポジティブさを振りまいているだけではない。常にどうすれば自分を愛することができるかを自分自身に問いただしているのだ。「セルフ・ケアについての議論をさらに進めることこそが自分の役目」(参照:http://www.mtv.com/news/1694397/lady-gaga-body-revolution-2013/)と語っていることからもそれがわかるだろう。実際、自身も鏡の前で「これが自分だ」と鼓舞しているそうで(参照:http://www.mtv.com/news/1694397/lady-gaga-body-revolution-2013/)、そうした赤裸々な告白もまた、彼女が支持を集める理由の1つだと言える。

 赤裸々といえば、『Cuz I Love You』のリリックもそうだ。リード曲「Juice」では、それこそ鏡を見てそこに写る自分を公表することを歌っている。一方で、自らの孤独を投影した「Soulmate」、また本人曰く、最後には傷ついてボロボロになるような、自分の恋愛感情の移り変わりをなぞったという「Heaven Help Me」などもアルバムに一緒に収められるなど、身体のみならず自分の内面をもリスナーにさらけ出している。弱さとそれに打ち克つ強さを兼ね備えたリゾにならば、自分がどんな体型であれ、誰しもが共感を寄せることができるはず。その意味で彼女は、ボディポジティブムーブメントが待ち望んでいた“真打”たるアイコンなのだ。

 一般的には、「自己評価は、それを他者にあずければあずけるほど、低く不安定なものになりやすい」とされている(参照:http://www.mtv.com/news/1694397/lady-gaga-body-revolution-2013/)。にもかかわらず、リゾはなぜこんなにも自分自身を受け手にあずけることができるのだろう? 前出のレディ・ガガの『Body Revolution 2013』ではファンからこんなコメントが投稿されたというーー「いつも私たちを信じて、パーソナルな生活や苦悩を共有してくれてありがとう」(参照:http://www.mtv.com/news/1694397/lady-gaga-body-revolution-2013/)。SNS上でQ&Aタイムを設けたりと、ファンとのコミュニケーションを大切にしているリゾもまた、受け手である私たちを信頼することで、自分に誇りを持つことができているのかもしれない。そして私たちもまた、そんな彼女の存在に勇気づけれらている。確かに、リゾの音楽やメッセージは誇りとパワーに満ちている。けれどその誇りは、彼女ひとりから発せられているものではない。彼女を肯定する私たちもその一部なのだ。だからこそ私たちは、この“ボディポジティブアイコン”を愛さずにはいられないのだ。(井草七海)