GRASAM ANIMAL、『GOLDEN BAD』で辿り着いた“解析不能”なロックンロールの魅力を語る
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The Beatles~XTCの流れを汲むポップセンスにファンク、ソウル、ブラジル音楽、90年代マンチェスターなどを混ぜ合わせた音楽性によって、少しずつ、確実に注目度を上げているGRASAM ANIMALが、デビューアルバム『ANIMAL PYRAMID』に続くニューアルバム『GOLDEN BAD』をリリース。シングル「LOVE OIL」、彼らが主催するパーティーのテーマ曲ともいえる「Bali High」を含む本作は、メンバーの体に刻まれたルーツミュージックを現代的なポップミュージック/ロックンロールへと昇華させた作品となった。「基本的にはすべての人に向けています」「でも、わからない人にはわからないでしょうね」と不敵に笑う木屋和人(Gt/Vo)に、バンドの基本姿勢とアルバム『GOLDEN BAD』の制作について語ってもらった。(森朋之)
(関連:メル、3年ぶりアルバム『Funeral』から醸し出される90年代ロック愛とその真意)
■“不幸”より“不運”くらいの人にはわかってもらえる気がする
ーーGRASAM ANIMALの音楽は様々なルーツミュージックが絡み合って生まれていると思います。木屋さん自身の音楽の入り口はどこだったんですか?
木屋和人(以下、木屋):1996年生まれなんですけど、高校2年くらいまでは周りの人たちとあまり変わらないような音楽を聴いていましたね。ゆずとか、BUMP OF CHICKENとか、RADWIMPSとか。高校3年のときに「もっと音楽を聴きたい」と思い始めて、いろいろ探しているうちにJERRY LEE PHANTOMを知って、カッコいいなと思って。同時にフジファブリックも聴くようになって、その二つのバンドを中心にルーツを掘っていったんです。JERRY LEE PHANTOMのヒサシ(the KID)さんが好きな70年代のファンクからリズム音楽を掘って、フジファブリックの志村正彦さんが影響されていたというブラジル音楽を掘って。
ーーJERRY LEE PHANTOMはパンクロックやダンスミュージック、フジファブリックはビートルズやニューウェイブにもつながっているので、そういう音楽も自然と聴くようになるだろうし。
木屋:はい。あと、渋谷系にハマっていた時期もあったんですよ、通っていた大学がお茶の水だったので、ジャニス(2018年に閉店した老舗レンタルレコード店)にも通ってました。CDを5枚借りるために、何時間も試聴して。
ーーアルバムをじっくり聴き込むタイプ?
木屋:そうですね。ちゃんと音楽を好きになっていく感覚が気持ちよかったし、しっかりハマりたいとうか、好きな音楽をDNAレベルにまで落とし込みたくて。そういうアルバムが1年に3枚あればいいという感じですね。最近だと、BeckとかPrimal Screamとか。その影響は今回のアルバム(2ndアルバム『GOLDEN BAD』)にも出ていると思います。いろんな音楽を聴いていくなかで、つながりが見つかるのも楽しいんですよね。たとえば「はっぴいえんどのドラムの音がすごくいいな」と思って、同じような音を探しているうちに、ブラジルのトロピカリアのなかに似た感じのドラムが見つかったり。そういうことって、あまり教えてもらえないじゃないですか(笑)。自分で研究して、発見して、それを繰り返していると言いますか。
ーー木屋さんは19才のときにGRASAM ANIMALを結成。バンドのメンバーも同じようなルーツミュージックを共有しているんですか?
木屋:いや、それぞれが勝手に動いている感じもあるんですよ。たとえばギターの熊谷拓人は、俺とは違う遍歴で名盤と呼ばれているアルバムを聴いていたり。曲を書いているのは俺ですけど、それぞれ少しずつルーツが違うメンバーが集まっているから、一緒にやると「ぜんぜん噛み合ってねえな」ということもあったり。それはバンドの強さでもあり、弱さでもあると思うんですけど、それを調整するのも自分の役割なのかなと。
ーーワンマンバンドではなく、メンバーそれぞれの個性も出してほしいと。
木屋:自然に出てきますからね、音に。どんな音にフェティシズムを感じているか? ということもあるし、一緒に音を出すと散らばることもあるんだけど、それをどう落とし込むかという実験をずっとやってる感じです。バンドが解散したらソロアルバムを作ると思うんですけど、そのときのために技術を貯めているところもありますね。
ーーいまはバンドというスタイルで活動したい、ということですか?
木屋:うーん……。人の上に音楽があるというか、音楽至上主義みたいなところはあるんだけど、バンドという組織もおもしろいんですよね。この4人じゃないと生まれない空間があるし、そこに興味があって。たまにギスギスしたり、不穏な空気になることもあるけど、良い部分、悪い部分を含めて、バンドじゃないとやれないことがあると思うので。
ーーバンドのあり方を俯瞰してるというか、かなり冷静に見てますね。
木屋:結果的には(笑)。メンバーとも今は仲がいいし、楽しくやってます。以前はライブでバスドラを蹴ったりしてましたけどね。「もたってんじゃねえ!」って。
ーー1stアルバム『ANIMAL PYRAMID』は、「ルーツミュージックをどうやってGRASAM ANIMALの音楽にするか?」という実験の最初の結果みたいなものなんですか?
木屋:そうですね。とりあえず曲を作ったから、まずはやってみようっていう。みんなで合わせるとどうなるか、やってみないとわからなかったし。ノリでやってた部分もあるし、理想とは違っていましたけど、そのときのバンドの空気を入れようと思って。爆音で聴けば、どういう人たちがやっているのかわかるんじゃないかな。
ーーその場の空気感、メンバーのキャラクターや個性はしっかり込められたと。
木屋:はい。いろいろと能力が追いついてない部分もあるけど、自分で聴いていてもイヤじゃないし、親しみを持てるというか。もちろんマニアックなところもあるし……。わかんない人はわかんないだろうなとも思いますけどね。
ーー音楽的にマニアックすぎるから?
木屋:音楽的なことというより……たとえば、すごい嫌煙家の人っているじゃないですか。そういうタイプの人は、たぶん僕らの音楽はわからないんじゃないかな。“Back to the ground”というか、人間も地球の生き物だし、そういう人が鳴らしている音なので。
ーー確かにGRASAM ANIMALのサウンドはきれいに整えられていなくて、めちゃくちゃ生々しいですよね。土くさいというか。
木屋:そういう音は好きですね。1stアルバムの音は“泥”という感じですけど(笑)。
ーー混沌としたイメージもありますからね。現在のバンドシーンのなかでも異質な存在と思いますが、同世代のバンドとの交流はありますか?
木屋:あまりないですね。対バンしても、話しかけてもらえないので(笑)。音楽性が近かったり、相手のバンドが(GRASAM ANIMALの音を)好きだったら、話しかけてくると思うんだけど。音楽の話をするのは、ちょっと上の世代の人が多いです。
ーーでは、リスナーの層は想定していますか?
木屋:どういう人に向けてるか? ということですよね。みんなが聴ける音楽だと思っているので基本的には全員なんですけど、どんな人に聴いてほしいか? と言われたら、まず不幸な人かな。大学に通ってるけど、上手くいってない人とか。不幸というより“不運”くらいかもしれないけど、そういう人にはわかってもらえる気がします。なんて言うか、そういう人は自然の状態に近いと思うんですよね。
ーー昨年リリースされたシングル曲「LOVE OIL」もそうですが、GRASAM ANIMALには“人間にとって自然な状態とは何か?”というテーマもあって。そこには死生観も含まれますが、それは木屋さんが歌いたいことでもあるんですか?
木屋:それをテーマにしようと思ったことはないんですけどね。「LOVE OIL」を作っていた時期は強い言葉を求めていたというか。制作に没頭すればするほど、サウンドも考え方もヘビーになって。それに伴って歌詞も重くなっていったので、命のことを歌ったのも必然だったのかなと。
ーー行きつくところは生や死しかなかった、と。
木屋:歌うことはいっぱいあるんですけど、そのときは重くならざるを得なかったとうことですね。制作の期間も長かったので……。適当に作れば適当な歌詞を乗せられたんだろうけど、「そうはいかねえな」という感じだったんですよ。
■なんでも平均化されているからこそ突出した存在でありたい
ーーなるほど。では、ここから2ndアルバム『GOLDEN BAD』について聞かせてください。1stアルバム以降、曲が書けなかった時期があったそうですね。
木屋:はい。前回のアルバムを作ってから、半年くらいは新しい曲ができなくて。サボっていたわけではないんですけどね。やり方を変えたほうがいいなと思って、DAWソフトを購入したり、機材を一新して。いままではギターで作ることが多かったんですけど、ピアノから作ってみたり、いろいろなやり方を試して。それでも曲ができなかったから、ちょっと思い詰めちゃって。
ーーその状態を脱出したきっかけは?
木屋:事務所の人に「CMのコンペに参加してみない?」と言ってもらったことですね。軽い気持ちでやってみたらワンコーラスできて。「やっぱり俺は曲を作らないとダメな人間だな」と思ったし、その後、「LOVE OIL」の制作に入ったんです。「もうダメだ」と思いながらも、ドラムを貼り付けたり、歌詞を書いたり……ちょっと記憶がないんですけどね、その頃のことは。
ーーそれくらいキツいスランプだったと。
木屋:そうかも。まあ、これからアルバムを聴く人に向けて「キツかったです」って言うのもイヤなので、「楽勝でした」と言っておきます(笑)。
ーー(笑)。「LOVE OIL」自体、すごくポップなロックンロールですからね。「HERO」はブルースのテイストを取り入れたトラックとラップを交えたボーカルを軸にしたナンバー。まさに初期のBeck的な雰囲気ですね。
木屋:「HERO」はギターの熊谷が持ってきた曲なんですよ。さっきもBeckの話をしましたけど、バンドのなかでそういったイメージは共有していたので。一緒に作っているなかで、そういう方向に流れていったのかなと。
ーー「Y字路より」はエキゾチックなムードの楽曲。この曲にもバックグラウンドがあるんですか?
木屋:まず、Y字路が好きなんですよ。横尾忠則さんのY字路の絵も好きだし、近所のY字路を眺めていることもあって。曲を書いたのは、夜、自転車に乗っていたのがきっかけですね。雨が降っていたんですけど、途中で職質を受けて、「なんだよ」と思って。Beirutの曲を聴きながら自転車をこいでたら、歌詞が浮かんできて……。だからちょっとBeirutっぽいんですよ、この曲は。
ーーアルバムのタイトル曲「Golden Bad」については?
木屋:まずタイトルを先に決めたんですよね。メンバーとふざけながら考えてたんですけど、手元にゴールデンバット(タバコ)があったから、「“GOLDEN BAD”がいいんじゃないか?」と思って。“文字る”のが好きだから思い付いたんですけど、“BAD”というテーマがピッタリだったんですよ。良くない感情、沈む感じ、別れみたいなものがテーマになってる気がしたし、「GOLDEN BAD」というタイトルに決めてから、「だったら、この曲も入れたい」とアルバム全体がまとまってきて。「Golden Bad」という楽曲自体は、熊谷が活動休止しているときに書いたんですよ。「今のおまえ、こんな感じじゃない?」という曲を作れば、(バンドに)戻ってくるかなと持って。まあ、実際はそんなに関係なかったみたいですけど(笑)。
ーー「Golden Bad」も独特の匂いがする曲ですよね。
木屋:エスニックな匂いがするような曲にしたかったんです。「なんだこの匂い?」みたいな、割り切れなくて理解不能な曲というか……。好きなアルバムでいうと『泰安洋行』(細野晴臣)のような。
ーーなるほど。アルバム『GOLDEN BAD』も全体を通して、解析できない魅力があると思います。
木屋:塊みたいになってますからね。全部を整理しているわけでないし、制作中も「こうしてほしい」とストイックに指示を出すタイプではないんですよ。メンバーのなかに正解がないときは「こうしたらいいんじゃないか」と言うけど、大体は好きにやってもらっているので。エンジニアの上條(雄次)さんとの作業も同じような感じなので、みんなのやりたいことが入っているぶん、情報量はすごく多いと思うんです。まあ、BGMにはならない音楽ですよね。映画でいえば、セリフのないシーンで爆音でかかる曲みたいな感じかなと。
ーー前作よりもやりたいことに近づけた、一段上がったという手ごたえはありますか?
木屋:ありますね。単純にレコーディングに慣れたというのもあるし、メンバーの演奏技術、俺の作曲能力の向上もあるだろうし。もう一つプラスするなら、俺の精神年齢が上がって、人付き合いが少しできるようになったことも関係してるかも。聴きやすいし、みんな好きだと思うんですよ、今回のアルバムは。俺らとしては純度が高くて良いものを提供しているつもりだし、あとは受け取り側次第かなと。これがわからないとすれば、「成長してください」と言うしかないですね。こっちから(リスナーに)寄ることはしてないので。
ーー『GOLDEN BAD』というアルバムを作ったことで、バンドとして次に進める実感もある?
木屋:ちゃんと毒のあるものを作りたいとは思ってますね。最近、勝新太郎が捕まって、裁判を受けたときの記者会見の映像を見たんですけど、ああいうオトナがいなかったんですよね、自分たちが子供の頃は。あんな感じの音楽を作れたら最高だなって。
ーー常識やモラルでは測れない存在というか。
木屋:いまってなんでも平均化されていると思うんですよ。だからこそ突出した存在でありたいし、もっともっと突き抜けたいなと。自分たちのフェチを集めてキメラみたいな状態にして出しているんですよね、GRASAMは。それをさらに研ぎ澄ませていきたいです。破壊する自分、整理する自分という二つの観点があるんですけど、これからは破壊する自分を際立たせていきたいので。
ーー期待してます。木屋さん自身、BADな状態は完全に抜けた?
木屋:そうですね。今日のインタビューも、一般的にはどうかわからないけど、自分はちゃんと話しているつもりだし(笑)。あと、ちゃんと笑えているというか、楽しいことは楽しくやろうという感じになっていて。超余裕です(笑)。(森朋之)