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松岡茉優、川栄李奈、伊藤健太郎……若手俳優がアニメ声優に挑戦する意義とは?

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リアルサウンド

 この春から夏にかけて、日本を代表するアニメーション監督の新作が立て続けに公開される。そんな作品の数々に、松岡茉優や川栄李奈、片寄涼太といった活躍の目覚ましい若手俳優陣が声優業に挑戦することも大きな話題となっているが、やはり、優れた役者は声優としても十分に戦えることを証明しているように思える。

【写真】『バースデー・ワンダーランド』で声優初主演を務める松岡茉優

 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)や『河童のクゥと夏休み』(2007年)などの原恵一監督の最新作であり、注目を集めていた『バースデー・ワンダーランド』。本作で声優初主演を務めているのが、松岡茉優である。彼女が扮するのは、自分に自信がない内気な性格の女の子・アカネ。演じるのが小学生役とあって、少々不安はあったものの、松岡は年齢の開きを軽々とクリアしている。もちろん、小学生役として何も違和感がないわけではない。しかし彼女が演じるアカネとは、これから少しずつ大人へと近づいていこうという役どころであり、むしろ時おり松岡が発する大人びた声はリアリティがある。そのうえ、『勝手にふるえてろ』(2017)などの実写映画で見事な話芸を披露している彼女だ。声の表現だけでも問題なく、観客を“ワンダーランド”へと誘ってくれるのだ。

 2017年に公開された『夜は短し歩けよ乙女』と『夜明け告げるルーのうた』の湯浅政明監督の最新作『きみと、波にのれたら』にも魅力的なキャストが配されている。声優初主演の川栄李奈に、声優初挑戦にして堂々初主演を務めた片寄涼太だ。

 川栄が多彩な才能の持ち主であることは、言わずもがなだろう。彼女が一世を風靡するアイドルの一員として活躍していたことはいまだに記憶に新しいが、卒業以降、映画にドラマにと女優として急成長を見せ、早くも若手世代の中心的な存在となっている。そんな彼女が本作で演じるのは、サーフィン好きの活発な女子大生で、愛する人を突然失ってしまうという役どころ。設定からして、感情の陰と陽の落差の、繊細な按配が必要とされそうだが、川栄の張りのある声はまさに主役に相応しい力強さで、声優経験自体はまだ浅いものの、驚くほど巧みに喜怒哀楽を表現してみせている。さらに磨きをかければ、声優業も活発化できそうな印象すらあるほどだ。

 そんな川栄と主演を務める片寄は、本作で声優初挑戦なわけだが、そもそも彼は実写作品での演技経験もまだ豊富とは言えない。しかしながら、歌手やダンサーとしても活躍する存在とあって、そのポテンシャルの高さはアニメ作品にも適応。経験豊富な川栄とともに、絶妙なハーモニーを生み出し、見事に“波に乗っている”。とくに、片寄の少年的な声はインパクトが強く、どこか現実感を欠いた調子が印象的だ。これは彼が演じる人物が、海の事故で生命を落とすものの、“ヒロインがある歌を口ずさむと、水の中に現れる”という非現実的なキャラクター像にもフィットした。経験値の問題を、自身の生まれ持った素材で乗り越えたのである。

 この魅力的なコンビを支えるのが、伊藤健太郎と松本穂香の二人だ。話題作への参加が続々と発表される二人だが、本作への参加もまた、自身たちのキャリアの中で重要な一作と言えそうである。伊藤が扮するのは、片寄扮する消防士の後輩であり、松本はその消防士の妹役だ。この二人の役どころは、脇役として、ときに作品のスパイスとなることでもあるだろう。声のキャラクター性で世界観を構築する片寄と、巧みな話芸で物語の舵を切る川栄を、あくまで控えめに支えるかたちで、二人はその役割を担っている。実写の映画やドラマでのときと同じく、作品内での自身の立ち位置を上手くコントロール、自制している印象があった。それも、“声だけで”だというのだから、さすがである。

 今後はそのほか、芦田愛菜が主演声優を務め、『リメンバー・ミー』(2018年)で主人公の吹き替えを担当した石橋陽彩が参戦している『海獣の子供』が公開。さらに、『君の名は。』(2016)の新海誠監督による最新作『天気の子』が続き、こちらでは醍醐虎汰朗と森七菜が声だけの演技に初挑戦している。まだ若い二人とあって、これはかなり大きな一歩となりそうだ。

 身体を伴った表現を封じられた「声優」という仕事で、若手俳優陣が超えるべきハードルは決して低くはないはずである。しかし、そこで経験する声だけでの表現の鍛錬は、必ずや俳優活動にも反映されていくのだろう。

(折田侑駿)