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A.B.C-Z 橋本良亮、舞台『良い子はみんなご褒美がもらえる』で見せた“健康的な”狂気の演技

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 A.B.C-Z 橋本良亮が主演を務める舞台『良い子はみんなご褒美がもらえる』が上演を迎えた。同作は、イギリスの劇作家であるトム・ストッパードの作品。英語の原題は『Every Good Boy Deserves Favour』で、これは五線譜を覚えるための語呂合わせとして知られている言葉。五線譜は下からミ(E)・ソ(G)・シ(B)・レ(D)・ファ(F)。“Every Good Boy Deserves Favour”の頭文字を覚えれば、譜読みの際にすぐに思い出せるというわけだ。この語呂合わせのように、同作には「理屈は二の次でこう覚えれば大丈夫」と教え込まれ、何の疑問も持たずに生活をしている世の中に一石を投じるようなテーマが込められている。

参考:橋本が魅せた演技とは

 物語の舞台は、ソビエトと思われる独裁国家の精神病院の一室。誹謗罪で捕まった政治犯の男、アレクサンドル・イワノフ(堤真一)と、オーケストラを引き連れている妄想に囚われた男、アレクサンドル・イワノフ(橋本)という同姓同名の2人が同じ病室となる。言論の自由を主張するアレクサンドルと、想像の自由を主張するアレクサンドルという、社会からはみ出した2人を世の中はどう扱うのか。その様子が1時間15分というコンパクトな時間の中で描かれている。往々にして舞台とは明確な答えを示さないものだが、『良い子はみんなご褒美がもらえる』はとにかく幅広い解釈ができる。深く考えれば考えるほど様々な解釈ができるため、非常に難しい舞台と言えよう。筆者個人的には、「弱い人間・強い人間とは?」と考えるきっかけになったし、クライマックスでは2人は厄介払いされてしまった上に、アレクサンドル(堤)は気が狂ってしまったと解釈をしたが、これも人によって感じ方が違うだろう。

 とにもかくにも非常に引き付けられる内容だが、それ以外でも見どころがたっぷりある。例えば、出演者。橋本とW主演を務めたのは、どんな役でも演じこなしてしまう俳優・堤真一。演技の熱量が高く、発声も非常に聞き取りやすく、「さすが」と言わざるを得ない存在感を示していた。そして、緊張感のある作品の中に小気味よいスパイスとしてエッジを効かせていた小手伸也、舞台の世界の中ではどこまでも正しい人であり、2人のアレクサンドル・イワノフとの対比のような存在になっていた斉藤由貴……。さらに、35人のオーケストラも登場人物として舞台上に常駐しており、迫力は段違いだ。音響効果のタイミングもバッチリだったため、ダイナミックさも十分に感じることができた。

 そんな名優が揃う中でも、橋本ははっきりと存在感を示していたと思う。オーケストラが見えている時の嬉々とした表情は、ある種の狂気を感じることができた。特に、登場後すぐのオーケストラが見えているシーン。照明の関係も相まって目が“ギラギラ”と光っていたのが印象的だ。一方で、スポットライトが当たっていない時は階段に座り、じっと空を見つめている。

 この静と動の差が、よりアレクサンドル・イワノフという人間を危うい存在に見せていたのではないだろうか。筆者は、舞台『コインロッカー・ベイビーズ』で橋本が演じた精神錯乱したハシ役が非常に好きだった(参考:A.B.C-Z 橋本良亮の演技力に目を奪われる 音楽劇『コインロッカー・ベイビーズ』で見せた可能性)。その狂いっぷりが再び観られるかもしれないと期待して行ったのだが、良い意味で裏切られたように思う。『コインロッカー・ベイビーズ』のハシとは違い、今回の橋本の見た目はとても健康的。肌艶もよく、笑顔がよく似合っていた。だからこそ、単にゲッソリと病んでいるよりも恐ろしい。活き活きと狂っているイワノフの無邪気さが、より一層ゾクッとする狂気につながっているのである。

 同作は、橋本が着実に俳優として成長していることが分かる舞台であったことに間違いない。次はどんな演技を見せてくれるのか、期待が高まる。『良い子はみんなご褒美がもらえる』の公演数は残すところ関西公演のみとなっているが、まだ観劇していない方はぜひ橋本の健全な狂いっぷりを楽しみつつ、舞台内容についても考えてみて欲しい。

(文=高橋梓)