新シリーズ本来のコンセプトが明らかに 『ジュラシック・ワールド/炎の王国』の“いびつさ”を読む
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あの『ジュラシック・パーク』シリーズを14年ぶりに再始動させ、スケールアップした映画『ジュラシック・ワールド』は、2015年に公開され大ヒットを記録した。その成功から制作された、さらなる続編『ジュラシック・ワールド/炎の王国』の内容は、それを心待ちにしていた多くの観客の予想を、いろいろな意味で覆すものになっていた。
ここでは、そんな『ジュラシック・ワールド/炎の王国』の意外な中身に言及しながら、前作と併せて観ることでハッキリとした、この新しいシリーズ本来のコンセプトが何だったのかを考えていきたい。
スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』(1993年)は当時、記録的な大ヒットを達成しただけでなく、CG(コンピューター・グラフィックス)を本格的に導入することで、娯楽映画大作のスペクタクル表現を新しいステージへと進ませる、映画史に残る伝説的作品となった。
4作目となる続編でありながら、1作目を派手にリメイクしたような内容の『ジュラシック・ワールド』は、ついに完成した恐竜のテーマパークで、大勢の来場者を巻き込み阿鼻叫喚の騒動が起こるという物語を描いていた。それはまさに、シリーズのなかにあった、多くの観客が望んでいたような要素を拡大した、よりポップな「ジュラシック・パーク」だったといえよう。
本作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は、前作で前代未聞のトラブルを発生させ、パークが打ち捨てられたイスラ・ヌブラル島で火山が大噴火を起こし、火山弾や溶岩流によって、島にいる恐竜たちが全滅の危機に陥る。
前作のコリン・トレボロウから監督を引き継いだJ・A・バヨナ監督は、過去にスマトラ島沖地震をモチーフに、災害の恐怖と悲惨さを描いた『インポッシブル』を撮っているが、ここでもその演出力を活かし、恐竜と災害を組み合わせたスペクタクル映像で度肝を抜こうとする。その地獄のような光景は、ひと昔前の児童書などに描かれたような、6600万年前に巨大隕石によって恐竜が絶滅した光景を想起させる。そして、命が失われていく悲壮な場面では、胸を引き裂くような情動を引き起こそうとするのだ。
恐竜たちは島の崩壊から逃げきることができるのか。ここまでの展開は、予告編でも紹介されていたシーンによって、ある程度は予想できたことだが、それは物語の前半までで、後半はまるでジャンルが違った映画になってしまう。本作は、ヒッチコックの『サイコ』がそうであるように、前半と後半がツートン・カラーで分かれる、変則的な作品となっていた。
後半の展開をここで詳細に述べることはしないが、ダークなゴシックホラーの要素が用意されているということは言及しておきたい。なぜなら、ここで行われている、フランケンシュタインのような人造の化け物と少女との対比や、『吸血鬼ノスフェラトゥ』に代表されるような、吸血鬼映画における影の演出などの恐怖表現は、むしろスピルバーグ監督が好むような、映画史を参照する態度が示されているからだ。本シリーズを俯瞰して考える上で、このことは非常に重要である。
ここで、スティーヴン・スピルバーグ監督による1作目と2作目の関係に注目したい。第1作が大ヒットして4年、多くの観客が続編を望むなか、スピルバーグ監督が発表した『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)は、やはり王道展開からはなれたダークでいびつなバランスの作品だった。面白いのは、最も盛り上がるクライマックスの場面が前半部のラストに用意されているということだ。この作品は、そういったトリッキーな構成が裏目に出たのか、不名誉ながら「最低映画賞」と呼ばれる、ゴールデンラズベリー賞にノミネートされている。そのことからも分かるように、『ジュラシック・パーク』の興奮をもう一度味わうことを期待していた観客の思惑からは大きく外れていたことは確かだろう。
だが私は『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』公開当時、この娯楽作品としての何とも言えない奇態さに、むしろ1作目よりも強い衝撃を受けた。レコードでいえばB面であり、曲調でいえばマイナー・コードだが、エンターテインメントにも関わらず裏道を行く雰囲気が、とてつもなくかっこよく感じたのだ。これはスピルバーグ監督が幅広い作家性を持っていることの証拠であり、反逆的な感性を持っていることをも示しているように思える。
4作目からの本シリーズがやろうとしていることも、まさにその再現であろう。つまり本作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は、前作が『ジュラシック・パーク』を再びやり直したように、ダークで深い作家性を示した『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』を再びやり直しているのだ。それが、今回は製作と脚本にまわったコリン・トレボロウの構想したシリーズのねらいであったはずだ。
そして、そのために必要だったのが、『永遠のこどもたち』(2007年)や『怪物はささやく』(2016年)という、作家性を強く押し出すタイプの映画監督J・A・バヨナだったというわけだ。彼は早くからハリウッドで評価されながら、複数の大作映画を断って、自分に合った、意味のあると思われる企画に応じる映画作家だ。コリン・トレボロウは、彼の能力を活かすために、脚本をバヨナ監督の特性に合わせたものにしたと語っている。遺伝子に関わる人間のおそろしさと、企業のあくなき利益追求が引き起こす悲劇など、社会的なメッセージが前作よりもはるかに鮮烈になっているのも、このためではないだろうか。
その結果、本作は『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』同様、娯楽大作としていびつなものになった。しかしそれは目論見通りなのである。このおかげで、本作は一つの映画作品として、飛躍的に見るべきところの多いものになったのは事実であろう。ここまで思い切らなければ、こういうタイプの作品になるはずがない。
おそらく本シリーズは、少なくとももう1作は撮られることになるのではないかと思われる。シリーズ作品には、やはりリズムを崩す本作のような、異端的な役割を担う作品がなければ、単調でつまらないものになってしまう。その意味でも本作の存在価値は大きいといえる。
(小野寺系(k.onodera)ゴシックホラーの要素が用意されているということは言及しておきたい。なぜなら、ここで行われている、フランケンシュタインのような人造の化け物と少女との対比や、『吸血鬼ノスフェラトゥ』に代表されるような、吸血鬼映画における影の演出などの恐怖表現は、むしろスピルバーグ監督が好むような、映画史を参照する態度が示されているからだ。本シリーズを俯瞰して考える上で、このことは非常に重要である。
ここで、スティーヴン・スピルバーグ監督による1作目と2作目の関係に注目したい。第1作が大ヒットして4年、多くの観客が続編を望むなか、スピルバーグ監督が発表した『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)は、やはり王道展開からはなれたダークでいびつなバランスの作品だった。面白いのは、最も盛り上がるクライマックスの場面が前半部のラストに用意されているということだ。この作品は、そういったトリッキーな構成が裏目に出たのか、不名誉ながら「最低映画賞」と呼ばれる、ゴールデンラズベリー賞にノミネートされている。そのことからも分かるように、『ジュラシック・パーク』の興奮をもう一度味わうことを期待していた観客の思惑からは大きく外れていたことは確かだろう。
だが私は『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』公開当時、この娯楽作品としての何とも言えない奇態さに、むしろ1作目よりも強い衝撃を受けた。レコードでいえばB面であり、曲調でいえばマイナー・コードだが、エンターテインメントにも関わらず裏道を行く雰囲気が、とてつもなくかっこよく感じたのだ。これはスピルバーグ監督が幅広い作家性を持っていることの証拠であり、反逆的な感性を持っていることをも示しているように思える。
4作目からの本シリーズがやろうとしていることも、まさにその再現であろう。つまり本作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は、前作が『ジュラシック・パーク』を再びやり直したように、ダークで深い作家性を示した『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』を再びやり直しているのだ。それが、今回は製作と脚本にまわったコリン・トレボロウの構想したシリーズのねらいであったはずだ。
そして、そのために必要だったのが、『永遠のこどもたち』(2007年)や『怪物はささやく』(2016年)という、作家性を強く押し出すタイプの映画監督J・A・バヨナだったというわけだ。彼は早くからハリウッドで評価されながら、複数の大作映画を断って、自分に合った、意味のあると思われる企画に応じる映画作家だ。コリン・トレボロウは、彼の能力を活かすために、脚本をバヨナ監督の特性に合わせたものにしたと語っている。遺伝子に関わる人間のおそろしさと、企業のあくなき利益追求が引き起こす悲劇など、社会的なメッセージが前作よりもはるかに鮮烈になっているのも、このためではないだろうか。
その結果、本作は『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』同様、娯楽大作としていびつなものになった。しかしそれは目論見通りなのである。このおかげで、本作は一つの映画作品として、飛躍的に見るべきところの多いものになったのは事実であろう。ここまで思い切らなければ、こういうタイプの作品になるはずがない。
おそらく本シリーズは、少なくとももう1作は撮られることになるのではないかと思われる。シリーズ作品には、やはりリズムを崩す本作のような、異端的な役割を担う作品がなければ、単調でつまらないものになってしまう。その意味でも本作の存在価値は大きいといえる(小野寺系)公式サイト: