【Setlist】
01. 最近なんだか
02.ロングサマーバケーション
03.アクセルペダル
04.Wave
05.ebb:flow
06.スパンコール
en.アトモスフィア
音楽
ニュース
しろつめ備忘録pre.『bibouroku』 Photo:タカギタツヒト
続きを読むフォトギャラリー(8件)
すべて見るText:ニシムラマサシ Photo:タカギタツヒト
2026年7月25日、しろつめ備忘録の活動休止前ラストライブ『bibouroku』が下北沢ERAにて行われた。対バンにはバンドと親交の深いhardnuts、穂ノ佳を迎えたスリーマン。しろつめ備忘録が今まで歩んできた道、そしてその道中でのかけがえのない出会いの数々。挫折も喜びも、そのすべての瞬間を優しく肯定し、真っ直ぐに前を向くその眼差しはどこまでも純粋で、僕達には眩しく映る。彼女達が描き出すパステルカラーの感情がキャンバスの上で溌剌と鳴る、忘れられない夏の日となった。
その日、東京の最高気温は35度を超えていた。肌を灼く夏の日差しがじりじりと照りつける午後、下北沢ERAはしろつめ備忘録のひとつの区切りを見届けようとする多くの人々で溢れていた。フロアはこれから始まるライブへの期待感、そして活動休止の報を受けて集ったリスナーの惜別の情が混じり合った、独特の雰囲気に包まれていった。 トッパーは穂ノ佳。そしてhardnutsと続く。どちらも自分達の音楽を出し惜しみなく全身全霊で鳴らしながら、しろつめ備忘録への感謝と尊敬の念を口にする。しろつめ備忘録がファンからはもちろん、苦楽を共にし切磋琢磨するアーティスト達からも愛されていたことが心から伝わってくるようなパフォーマンスだった。

そして最後に、ステージにしろつめ備忘録のメンバーが姿を見せる。おはらはな(g&vo)が「しろつめ備忘録です、よろしくお願いします。」と声をかけると、オーディエンスから大きな歓声が沸いた。今回はサポートベースに元メンバーの安藤、サポートギターにhardnutsの上條(g&vo)、サポートドラムに山口薫を迎えたこの日限りの編成でスタート。「最近なんだか」から、活動休止前のラストライブが幕を開けた。自分達の活動のひとつの節目となるこの舞台でも、しろつめ備忘録はどこまでも自然体だった。おはらの少しの憂いとあどけなさを帯びた瑞々しい歌声が、ライブハウスの隅々まで伸びやかに響き渡る。彼女自身はもちろん、今回はサポートの立場でステージに立つ安藤(b)も、限られたこの時間を大切に慈しむように、しろつめ備忘録で鳴らす音楽を心から楽しんでいる姿が印象的だった。同じくサポートを務める上條(hardnuts/g&vo)のギターの音色は、先程のステージで鳴らしたような空間を切り裂く硬質なサウンドとは少しその表情を変えていた。渇望するようなシリアスさは胸の内にそっとしまい、大切な仲間を送り出すように、フレーズを一つひとつ丁寧に奏でていく。抑制を効かせながらも時折アレンジを加えたリフに、彼のしろつめ備忘録へのリスペクトが感じられる。

続いて、「ロングサマーバケーション」。うだるような暑さだった夏の日に、一瞬にして爽やかな風が吹き抜ける。彼女達は特別な事はしない。ただ積み重ねてきた「いつもの事」を等身大で歌い上げる。だからこそそこには信じられる確かな熱が宿るのだと思う。穏やかにたゆたうその光源は、いつの日も僕らの心に優しく陽を灯す。しかしその光は今まで受け取ってきたそれよりも、心なしか温度が高い気がした。 涼やかな風が吹き抜けた勢いそのままに、続いて「アクセルペダル」。アンサンブルは加速し、海辺のハイウェイをひとっ飛びに走り抜けていく。飛び跳ねながらギターをかき鳴らすおはら、身体を揺らして全身で喜びを表現する安藤の姿が眩しい。そこに上條のギター、全体を支えるサポートドラム・山口薫の力強いプレイが重なり、ギアは跳ね上がって瞬く間に最高速度に達した。

ここで上條がステージを後にし、しろつめ備忘録はスリーピース構成へと形を変える。そして演奏されたのは「Wave」。それまでの疾走感から一転、深く巨大な轟音の波が立ち上がる。大きな白波はフロアを飲み込んでひたひたと満たし、僕らをどこかへと連れ去っていく。歪んだテレキャスターの海鳴りが、私達は確かにここにいたという彼女の声を刻み付けるように遠く響いた。 「ebb:flow」ではさらにモードを変え、同期音源を用いたスペイシーで心地良い浮遊感が空間を満たす。波に攫われた僕らを、柔らかなアンビエンスでゆったりと包み込んだ。中盤にかけて多彩な表情を見せ、多くの展開が眼前で描き出されていく様を目の当たりにしながら、感じた物は予測不能性に振り回される快感ではなく、不思議な安心感と言えるような感情だった。それはきっと、どの楽曲からも彼女達の等身大の視点と平熱さ、しろつめ備忘録がしろつめ備忘録たるゆえんがはっきりと伝わってくるからだろう。彼女達が目の前の日常・目の前の音楽に向き合い、一歩ずつ歩いてきたその姿勢の真摯さを無条件に信じられるからこそ、しろつめ備忘録は皆に愛されるバンドになったのだと思う。

MCでは、「今までしろつめ備忘録に関わってきたすべての人にありがとうと言いたい」と話すおはら。その表情には一点の翳りもなく、どこまでも晴れやかだった。最後の曲です、とひとつ息を吸い、鳴らされたのは「スパンコール」。歌い、飛び跳ね、眩いばかりの輝きを放つおはら。メンバーと目を合わせて子供のように無邪気に笑う安藤。今までのすべての出会いへの感謝と愛情に溢れたその演奏は、真夏の波間に煌めく反射光のようにきらきらと輝いていた。「ありがとうございました、しろつめ備忘録でした」おはらの言葉に、オーディエンスからはこの日一番の歓声と拍手が贈られた。 拍手は鳴り止むことなく、次第にアンコールを求める手拍子へと収斂していく。少し間を置いた後、アンコールに応えて再びしろつめ備忘録がステージに現れた。今までのライブと同じように飄々と限定グッズの告知をするおはら。あまりにいつも通りのその様子に、会場には親しみを込めた笑い声とリラックスした空気が生まれた。そして最後に彼女は、アンコールに演奏する曲は、今月(2026年7月)リリースされたばかりの最新シングル「アトモスフィア」だと告げる。

演奏の前に、おはらはこの曲に込めた想いを語ってくれた。しろつめ備忘録とのしばしの別れを改めて実感したオーディエンスが、彼女の言葉にじっと耳を傾ける。 果たして鳴らされたその曲は、過去の挫折も苦しみも、大切な出会いも別れもすべて自分の人生を形作るものであること、そしてそれらを経て今立っているこの瞬間・この日々を認めて大切に噛み締めようとする強い意志の力に満ちていた。 <私が選ぶ道が不幸せだろうと このアトモスフィア忘れないように 一歩ずつあるいていこう あるいていこう> <あなたの解ききれない憎しみもいつかは消え去る 溶けてなくなる そう願ってる> 痛みを認め、許し、自分を形作るその全てを忘れないように大事に抱えて歩いていくこと。その道の先にある今、そして未来を慈しむこと。それは簡単なことではない。自分自身を認め、受け入れ、他者を尊重し、未来に期待する。その理想を眼差す事こそが強さであり、その強さを人は優しさと呼ぶのだと思う。

活動休止を迎え、彼女達の備忘録には一度栞が挟まれる。しかし、きっと彼女の、彼女達の物語はこれからも続いていくし、僕達一人ひとりの物語もまた同様に続いていくだろう。道が続くその先で、どこかで再び交わる事ができたら良い。しろつめ備忘録はその時も今と変わらずに、パステルカラーの感情を描き続けているだろう。そしてライブハウスでは、今と変わらずに誰かの音楽が鳴り続けているだろう。願わくば、再びその景色が見られますように。そして、彼女達のこれからの歩みが彩りに満ちた物になりますように。

<公演概要>
しろつめ備忘録pre.『bibouroku』
7月25日下北沢ERA
w/ hardnuts、穂ノ佳
01. 最近なんだか
02.ロングサマーバケーション
03.アクセルペダル
04.Wave
05.ebb:flow
06.スパンコール
en.アトモスフィア
フォトギャラリー(8件)
すべて見る